夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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53話「肉のにおいと作戦会議」

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 村長の家に続く石の階段を下りながら、ミーチェは言った。

「先に夕食を摂るとしよう、そのあとに宿屋だ」

 ミーチェの後に続きながら、ニケが頭の上で腕を組みながら反応した。

「協会の連中はどうするんだよ?」

 ニケが喋っているのを、横で聞きながらアシュリーはうなづいていた。

「ここからユッケルまでの距離は一日だ。私達が、森に入ったのは昨日の夕方だろう?」

 ミーチェは、立ち止まり振り返ると笑って見せた。
 ニケは、まだわかっていない様子だった。
 シロは、わかる以前の問題であくびをしている。
 アシュリーは、指を折りながら計算している様子だ。

「はぁ……今日中にこの村に来ることはない」

 そういうと、ミーチェは再度階段を下り始めた。
 まぁそういうことか!っとニケは言うと、ミーチェの後に続いた。
 先に進むミーチェたちをみて、急いで後を追うアシュリー。
 シロは、後ろ足で頭を掻いていた。

 一同が、まず向かったのは村の露天街だった。
 村長の家へと続く階段を下った先は、噴水がある広場だ。
 その広場を右に進むと露天街がある。
 広場を真っ直ぐ行った先は、一同が最初に通った民家が並ぶ住宅街。
 左に進んだほうには、看板がいっぱい見える。店などが並んでいるのだろうか。
 露天街に入ると、人の行き来が激しくなった。
 敷物の上には、ツボや家具などが見える。
 そのおくには、馬車が並んでおり出店のようにも見える。

「小さな祭りみたいだ……」

 ふと異世界にいることを忘れさせるような雰囲気に、周りを見渡しながらニケは呟いた。
 手前のほうで出店をだしているのは、商人ではなく村人たちのようだった。
 馬車の手前までくると、雰囲気が変わる。
 こちらは生きるために商売をしているんだと、そんな雰囲気だ。
 ミーチェは、呼び込みなどを無視して奥へと進んでいく。
 奥からは肉を焼いたにおいがしていた。

「師匠が一番腹減ってるんじゃ……?」

 ニケが、ミーチェを見ながら呟いた。

「ば、馬鹿者!こっちから、いいにおいがするからだ」

 胸を張るミーチェをニケは白い目で見ていた。
 俗に言う、においに釣られるっとはこのことだなっと。
 一同が止まった馬車の出店には、牛肉の串焼きを焼いている出店だった。
 ニケは、美味そうだと思いながら横を見た。
 そこには、今にでもよだれを垂らしそうな顔をしたミーチェがいた。

「し、師匠……」

 眉毛を微妙に動かしながら、ニケはミーチェを見ていた。
 ミーチェは、ニケに見られていることを知ると口元を拭い買うぞっと言い放った。
 値段は安いのだろうか、一本55カッパーだった。
 日本円で言う、55円相当だ。
 そう考えると安いのだろう。
 ミーチェは、5本買っていた。対してニケは4本。アシュリーは、苦笑いを浮かべていた。

「そ、そんなに食べるんですか……?」

 串と言っても、大きさで言えば30cmほどだろう。意外と大きいのだ。
 肉を頬張りながら、幸せそうな顔をするミーチェ。
 それを見ながら、ニケも肉を頬張っていた。
 シロが、興味深そうに肉を見ていた。

「召喚獣は基本、魔力さえあれば空腹にならないはずなのだが」

 そういいながら、ミーチェはシロに串を向けてみた。
 シロは、においを嗅ぐと串を奪ってニケの後ろへと逃げていった。

「わ、私の肉が……」

 その場にひざをつくミーチェ。
 両手に肉串といういかにもアホな格好だ。
 そんなミーチェのアホらしさに、アシュリーが吹き出していた。

「ミ、ミーチェさん……ははは、あははははは」

 肉を頬張りながら、ニケも笑っていた。
 ニケの後ろでは、シロが肉をかじっていた。

「これは私のだ!」

 一気に肉を頬張り、飲み込んだミーチェ。
 立ち上がると、満足そうな顔つきをしていた。

「さて、ニケが食べ終わったら宿へ行こうか」

 それを聞いてニケは、急いで食べ終えた。
 一同は広場へ戻ると、村長が村人たちに何かを話しているのが見えた。

「っというわけじゃ。皆の者、この村を守るために力を貸してはくれんか?」

 どうやら、先ほどの話を冒険者たちに話ているところらしい。
 村長の呼びかけに、冒険者たちは互いを見ながらうなづくと答えた。

「俺らは、この村の為にいるんだ!」

「俺達がやらなきゃ誰がやるんだ!」

「そうと決まればお前ら!支度を済ませろ!」

 どうやら冒険者たちは、やる気に満ちている様子。
 それを見ながら村長のもとへ、ミーチェが歩いていった。

「おぉ、西の魔女様」

 村長が一礼をすると、冒険者達の目線がミーチェに集まる。

「私は、西の魔女ミーチェ・クリスタだ」

 ミーチェが名乗りをあげると、ちらほらと声が聞こえた。

「……『協会狩り』の、あの西の魔女か?」

「……たぶんそうだろう。あんなに若いなんて」

 『協会狩り』っと言う言葉に、冒険者達の顔つきが変わる。
 実績こそなければ、肩書きなど持たないはず。それを知っているからこそ、冒険者達は真面目にミーチェの言葉に耳を傾けた。

「協会は、ユッケルを襲撃した。その際、村人は全滅した。だが、私達がこちらに来る間に別の協会の者たちがユッケルに向かったと推測される」

 冒険者達の前に立ち、話をするミーチェはどこか遠い存在に見えたニケだった。
 話は進み、ミーチェが後衛に入ることになった。
 ニケとアシュリーは最前線に配備された。
 冒険者の人数は30弱。
 冒険者は基本5、6人のパーティーで行動する。
 今回は前衛、中衛、後衛で2パーティーずつの配置分けとなった。
 前衛は、剣などを持っている者たちが割り振られ中衛は、弓などの飛び道具を持つ者たち。
 後衛は、魔法使いを中心に割り振られていた。
 どうやらこれで作戦会議は終わりのようだ。

「来るとすれば、明日の早朝だろう。皆、警鐘が鳴ったらすぐにユッケル方面の入り口へ集合だ」

 ミーチェは、時間を教えると解散っと一言言うと、その場を降りた。

「そういうことで、皆の者頼んだぞ!」

 村長の締めの言葉に、冒険者達は声を張り上げて叫んだのだった。
 ミーチェが、ニケたちのもとへ戻ってきた。

「師匠すごくかっこよかった!」

「ふふ、そうか?」

 少し嬉しそうにミーチェは胸を張っていた。

「さて、宿へ行くとしようか」

 ミーチェは、看板の並ぶ通りへと歩いていった。
 それに続く、ニケ、アシュリー、シロだった……。
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