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52話「悪寒」
しおりを挟むしばらくして、ミーチェが戻ってきた。
「さて、コルックには明日のお昼までの滞在だ」
そういうと、馬車から顔を出していたシロを撫でるミーチェ。
シロは、嬉しそうに目を閉じて撫でられていた。
「まずは、村長のところにいくとしよう」
「師匠。俺……腹減った」
お腹を押さえながら、ニケはミーチェに声をかけた。
「村長さんに報告を終えたら、ご飯にしましょう」
私は、食べませんがっと苦笑いしながらアシュリーが言った。
「そうだな、今晩は宿のご飯を堪能するとしよう」
「やったぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
立ち上がると、ガッツポーズをしながらニケは叫んだ。
その叫び声に、行き来する人々が振り返った。
ニケの姿を見るなり、噂話のように小声で話を始めた。
「……おい、黒髪だぞ」
「……やだねぇ、何も起こさなければいいのだけど」
チラチラとニケを見ながら、村人達は立ち去っていった。
「なんだか、雰囲気悪い感じですね」
「黒髪だとなにか問題でもあるのかな?」
自分の髪の毛をつまみながら、ニケはつぶやいた。
「そういえば、こちらに来る途中耳にした噂が」
アシュリーの聞いた噂話によると、ここ最近黒髪の血を飲むと魔力が上がるとか、黒髪の肉を食らえば身体能力が上がるなどの噂話がその辺を走り回っているらしい。
それを聞いたミーチェは、眉を寄せていた。
「なんだ。その根も葉もない噂は……」
すこしご機嫌斜めのご様子だった。
ニケは馬車を降りた。それに続いてアシュリーも大剣を背負うと馬車を降りた。
「さてと、村長のもとへいくとしようか」
ミーチェは、切り替えた様子で村長の家へと歩き出した。
それに続くニケ、シロ、アシュリー。
ニケは、噂話など気にしてない様子でシロと話をしていた。
「俺以外の黒髪ってそんなにいるのかな?」
その問いかけに、シロは首を傾げた。
そんな話をしていると、後ろにいたアシュリーが混ざってきた。
「王都で、時々見かけましたよ?」
「おぉ!王都で会ったら話をしてみたいなぁ」
頭の上で手を組むと、ニケは少しご機嫌な様子で空を見ていた。
もうすぐ日が沈むだろうその空には、不気味と赤い雲が浮いていた。
「やっぱ、あの雲おかしいでしょ?」
雲を指差しながら、ニケはミーチェに問いかけた。
雲を見ながら、ミーチェは何かを察した顔をしていた。
「あれは、死霊術によるものかもしれん。村長の家に急ごう、嫌な予感がする」
「また死霊術ぅ……?」
「アンデットうじゃうじゃいるのだけは、勘弁して欲しいですね……」
呑気に話をしながら、一同は村長の家へと向かった。
――一方、旧ユッケル村では……
「この日をどんだけ待ちわびたことか!」
フードをかぶった黒いコートの男が、広場の中央で両手を上げ嬉しそうに叫んでいた。
その周りには、同じくフードを被った人影が5つあった。
「今日こそ、この西の地方を我が協会のものに!」
男が、人影に呼びかけるように叫んだ。
それに続く叫び声が、広場にこだました。
「それでは儀式を続けよう、ここにある死体の数なら媒体となるだろう!」
「教祖様、生贄はいかがなさいますか」
前に出た一人の男が、教祖と呼ばれた男の指示を待った。
しばらくして、教祖と呼ばれた男が口を開いた。
「所詮は奴隷、媒体にしても問題ない。生贄をすべて使え!」
そういうと、前に出た男は後ろに控えていた4人に準備しろっと告げた。
旧ユッケルで何が起こるのだろうか……。
――村長の家へと到着した一同は、家の中へと招き入れられ居間の椅子に腰をかけていた。
机の上には、紅茶が置かれていた。
内装は、木材でできており、奥にはかまどや時計がつるされている。
家自体はそこまで大きくないようで、奥には寝室だろうか寝具の類が見える。
「すまないねぇ。わざわざ、ユッケルから来ていただけるとは」
村長は、ミーチェに一礼すると向かい側の椅子に腰を下ろした。
「単刀直入に聞くとしよう。ここ数日、ユッケルとの連絡が途絶えたのは何故なのかね?」
顔の前で手を組むと、村長は難しい顔つきに変わった。
それを見ると、ミーチェの顔つきもまじめな顔つきになっていた。
「協会の襲撃を受けた。村人は全滅、元凶は処理済だ」
ミーチェは、短くわかりやすく村長へと告げた。
それを聞いた村長は、悩ましそうに頭を掻きながら唸っていた。
「やはり協会かね……ここ数日、協会の人間と思われる者の出入りが確認されておる」
「ルトさんが言ってた事ですかね」
アシュリーが疑問に思い、ミーチェに聞いた。
「たぶんそうだろう」
アシュリーを横目に見ながら、ミーチェは応えた。
「そもそも、協会の規模ってどれぐらいなんだ?」
椅子にもたれながら、ニケが聞いた。
「協会の詳しい人数はわからぬ。じゃが、年々増えているのは確かなのだ」
人数が増えている、つまり被害に合う村が増える可能性が高い。
帝国は、協会による物流が途絶えることを恐れ、ひとつの村に必ず冒険者ギルドを建てることにしたそうだ。
「ユッケルが被害にあったとなると、果実などの物流が途絶えてしまう」
ユッケルの特産物は、果実が主だそうだ。
「それで森の幸っか」
納得したようにニケがつぶやいた。
「村長。ひとつ質問が」
ミーチェは、気になっていたことを村長に聞くことにした。
「村に出入りしていた協会の者で、でかい図体で大きな斧を持っていた人物はいたか?」
顎を撫でながら、村長は答えた。
「いや、村人からの報告でその特徴に一致する人物はおらんかったじゃろ」
「それって、レイン兄のこと……?」
ニケが、ミーチェに問いかけた。
「そうだ、だがここ数日となると別の協会の者だろう」
ミーチェの嫌な予感が、ますます大きくなっていった。
「出入りしていた協会の者はどこへ?」
「確か、数人を連れてユッケルの方へ行ったはずじゃが?」
ミーチェが、やられたかっと舌打ちをしながらつぶやいた。
それを見ながらアシュリーが、何かを思い出したかのように話始めた。
「私達が『殺された』のと関係があるんじゃ……」
「き、君はアンデットなのかね?」
村長は驚きながら、アシュリーを見ていた。
アシュリーは、小さくはいっと答えていた。
「殺された?それはどういうことだアシュリー」
初めて聞く情報に、ミーチェは少し焦りながら問いかける。
「確か、ニケさん達と会う前の事です」
少し間を空けてから、再度話始めたアシュリー。
「馬を休ませると御者の方が言ってから、いきなり襲われて……」
「それだとニケが、ガリィと契約しているときに橋を渡った可能性がある……」
ミーチェのその一言に、村長は額に汗を滲ませた。
「つまり、協会の者達は今……」
「そうだ、ユッケルを拠点に何かをしているだろう。さきほどから赤い雲が見える、あれは血によってできた雲だろう」
すべてのピースがつながった様子で、ミーチェは考え込んでいた。
「もし、協会がユッケルを拠点にアンデットたちを生産しているとすると……」
「次に狙われるのはここってことか?」
ミーチェのつぶやきに、ニケが反応した。
「そうだろうな……村長、すぐに村人に伝えてくれ」
ミーチェは、立ち上がりながら村長に告げた。
「私たちと、冒険者たちでアンデットを迎え撃つ」
そういうと、ミーチェは準備をするぞとニケ、アシュリーに言いながら家を出て行った。
「さてと、飯でも食ってから作戦会議かね」
「ニケさん!もうちょっと緊張感持ってください!」
立ち上がりながらつぶやくニケに、アシュリーが注意をしていた。
それを見ながら村長が口を開いた。
「君のような若い子にたたかわせるのは少し気が滅入るが、村の為に頑張って欲しい」
「俺達に任せてくれって!」
村長に笑顔を見せると、ニケも出て行った。
「あ、あの。失礼しました!」
アシュリーは、村長に一礼するとニケの後に続いた。
「黒髪に、喋るアンデット……っか、世界が変わりつつあるようじゃ」
ニケの背中を見ながら、村長は小さくつぶやくのだった。
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