夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

文字の大きさ
52 / 93

51話「コルック村」

しおりを挟む

 日が傾き始めてから少しして、馬車は森を抜けた。

「もうすぐ、コルックが見えるはずだ」

 ミーチェは、前を向いたまま後ろの二人に声をかけた。
 シロを枕にして、召喚術の書を読むニケと、大剣の手入れをしているアシュリー。
 アシュリーの大剣は、刀身の部分が赤黒いちょっと不気味な大剣だった。
 持ち手の装飾に宝石でも使われてるのだろうか、赤い透き通った石が使われていた。
 長さは、持ち手含め180cmほどだろうか。
 ニケよりも少し大きいくらいだ。
 大剣を鞘に戻すと、アシュリーはミーチェの横へ移動した。
 召喚術の書を読むニケ。
 開いているページは、召喚獣の身体能力向上につながることから召喚獣と主人の友好関係についてだった。

「シロはいるも傍にいるから大丈夫かな」

 そういいながら、シロの尻尾を撫でるニケ。
 シロは、顔を上げるとニケの頬を舐めた。

「こらシロ、くすぐったいって」

 ニケは、笑いながら顔を逸らした。
 するとシロは、いつもの通り馬車の後ろを眺め始めた。
 召喚術の書をしまうと、ニケは火属性魔法の書を出した。

「そろそろ、こっちもつかいたいからな」

 火属性魔法の書を開いたときに、違和感を覚えた。
 本に呼ばれるような感触。まるで導かれるような感触に、ニケは首を傾げた。
 勝手にページをめくる手。しばらくしてから、とあるページを開くと手は止まった。
 文字が浮かび上がるようにして見えるそのページに、ニケは目を疑った。
 そこには日本語で記された1行があったのだ。

 ――″これを読んだ者。遠い東の火山、炎竜に告げよ。『ミズキ』は死んだと″――

 ニケは、疑問に思った。自分よりも前に、この世界に転生した人がいたのかっと。

「師匠。この書に、こっちとは違う文字あるんだけど」

 そういってニケは、炎魔法の書をミーチェに見せた。

「ん?違う文字?」

 ミーチェは、見せられたページを見た。

「どこにもないじゃないか」

 ミーチェがそういうと、ニケは驚きながらもう一度そのページを見返した。
 確かにそこには、日本語で文字が記されている。
 だが、ミーチェには見えなかったようだ。

「どういうことだ……」

 シロの傍に戻ると、ニケは悩ましげに眉を寄せた。
 何度見返しても、日本語以外なにものでもない。

「考えても仕方ないか、このはるか東の火山ってところに行けばわかるのか?」

 ニケは、シロに声をかけるがシロはあくびをしていて聞いていないようだった。
 ため息をつくと、シロを枕にするニケ。
 悩んだ末今はまだ解決しないだろうと、再度ページをめくり始めた。

 『ファイヤーボール』――第一位階火属性魔法。小さな火の玉を敵に飛ばす。

「えーっと、呪文はっと″我、火を志すもの、汝、その火の力を敵にぶつけよ″で合ってるのかな?」

 更にページをめくるが、第2位階魔法が多くなかなか見つけれないので諦めたニケだった。
 馬車に揺られながら、眠気に襲われたニケは眠りへと墜ちていった。

「ミーチェさん、ニケさん寝ちゃってますね」

「寝顔だけは可愛いのだがな」

 ミーチェとアシュリーは、呑気そうに寝るニケを見ながら話をしていた。

「あと、どれくらいですかね」

「もうすぐだろう、村に着いたら宿屋で寝たいものだ」

 ミーチェは、あくびをしながら呟いた。
 あくびをするミーチェを見ながら、釣られたかのようにアシュリーもあくびをしていた。
 一同を乗せた馬車が、草原の中を行く。
 途中、橋であった青年達に会った。
 ミーチェは、乗っていくか?と聞くが彼らはそれを断った。

「では、先に村長のもとへ行くとしよう」

「はい。また村で会いましょう」

 銀髪の青年は一礼した。
 それを見ながらミーチェは、馬を走らせた。

「まぁ。そこまで大きくない馬車だからな、気を使ったのだろう」

 前を見ながら、ミーチェはアシュリーへ話しかけた。

「そうですね、たぶんいい人です」

「たぶんって、あははは」

 どうやら、ミーチェのツボに入ったらしくしばらくミーチェは笑っていた。
 しばらくして、村の入り口が見え始めた。
 丸太でできた壁に覆われた、砦のような村が。
 入り口に近づくと、鎧を着た二人組みに声をかけられた。

「そこで止まれ。ユッケルから来たのか?」

 馬車に近づくと、槍を持った男に問いかけられた。

「そうだ、村でいろいろあってな。それを報告しに、村長のもとへ行きたい」

 それを聞くと、もう一人の男に何かを告げる男。

「わかった、村長には私から伝えておこう。私の名は、ルト・レベス」

「私は、ミーチェ・クリスタ。こちらはアシュリーだ」

 ミーチェは、自分の名を名乗るとアシュリーの名も言った。

「ミーチェ・クリスタ……あの西の魔女さんか?」

 やはりその肩書きは有名なのだろうか、ルトは少し珍しそうにミーチェを見ていた。

「うむ、そうだが何か問題でも?」

「ここ最近、協会の連中が村に出入りしてるんだ。気をつけることだ」

「ご忠告に感謝するよ」

 そういうと、ミーチェは馬を走らせた。
 村の中は、住宅が多くその奥に馬車がたくさん止められていた。
 開いているところに、馬車を停めるとミーチェはアシュリーに残るように告げおくの小屋へと向かっていった。
 馬車が、止まったことに気が付いて目が覚めたニケ。
 シロも起きた様子で、あくびをしていた。

「あれ、師匠は?」

 身体を起こしながら、アシュリーに問いかけた。

「ミーチェさんなら、たぶん受付に」

「受付?」

 寝起きで、頭が回っていない様子のニケ。

「はい、村に着いたので馬車と馬を預ける受付かと」

「あれ、もう着いたの」

 外を見ると、人が行き来しているのが見えた。

「村だ……シロ、村だぞ!」

 大はしゃぎするニケと、興味がなさそうにあくびをするシロ。
 それみながら、微笑むアシュリーだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...