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50話「思い入れの品」
しおりを挟む「忘れ物はないな?」
ミーチェが、馬車の周りを見回しながら言った。
アシュリーは、馬車の中の荷物を確認して大丈夫ですと言った。
ニケは、シロを撫でながらもともと荷物なんて……っと呟いていた。
「では、コルックへと出発だ」
そう言うと馬を走らせるミーチェ。
向かう先はコルック。
ユッケルの先にある、村だそうだ。
「なぁアシュリー。コルックってどんな村なんだ?」
「コルックですか?」
顎に手を当て、アシュリーは上を向いた。
「私自身、こっちの出身ではないので一回通ったくらいですけど」
「そういえば、東から来たんだっけ」
「あ、はい。コルックは通った感想としては、物流が盛んな感じでしたね」
ニケが、アシュリーの話を聞いているとミーチェが割り込んできた。
「コルックは、ユッケルからくる森の幸を売買して国中に流すところだ」
そう言うと、ミーチェは前を向いた。
「森の幸?」
ニケは、疑問に思った。
「ユッケルで森の幸……ゴブリンの干し肉とか?」
笑いながら冗談を言うニケに、アシュリーはまじめな回答をした。
「ゴブリンって食べれるんですか!?」
「いや、冗談だよ」
本気にしたアシュリーをなだめるニケ。
それを聞いていたミーチェは、肩を震わせていた。
「じょ、冗談だったんですか!?」
少し恥ずかしそうに声を張り上げたアシュリー。
それを笑いながら、ニケはシロを撫でていた。
シロは、ニケに撫でられるのが好きなようで尻尾を振っていた。
相変わらず馬車の一番後ろに顔を乗せて、暇そうにあくびをしているシロ。
ガリィは、ネックレスの色が黒っぽくなっていたので呼び出せなかったようだ。
一同の旅は始まったばっかりだ、ニケは高ぶる気持ちと共に馬車の後ろに見える景色を眺めていた。
そんな中、怪しげな雲を見つけたニケ。
「師匠。俺達が来た方向に変な雲があるんだけど」
「雨雲ではないのか?」
「いや、それにしてはなんか色が違う」
ニケが、見る方向をアシュリーも一緒に覗き込むようにして見た。
「確かに、はじめてみる雲ですね。なんか嫌な感じです」
「ん?色は何色だ?」
「んー。赤っぽい感じ」
ニケの回答に、ミーチェは眉を寄せた。
「嫌な予感がするな、コルックへと急ごう」
手綱を強く打ちつけ、馬の足を急がせた。
「コルックはあとどれくらいなんだ?」
「徒歩で1日ですね」
「馬車だと半日くらいの距離だ。まぁ、昨日今日だからあんまりかからないだろう」
ニケの問いかけに、アシュリーとミーチェが答えた。
行く先に、壊れた馬車を見かけた。
「ん?山賊かなにかに襲われたのか?」
「あ、私達の乗ってきた馬車です!」
ミーチェの横に、アシュリーが顔をだした。
アシュリーを横目に見ながら、ミーチェは馬車を寄せた。
「荷物などもあっただろう、取ってくるがよい」
「あ、ありがとうございます」
小さく頭を下げると、アシュリーは壊れた馬車に走っていった。
それを見ながらニケは、壊れた馬車を眺めていた。
「師匠。あの壊れ方って『人』によるものだよな」
「ん?その根拠は?」
「だって、壊れ方が物による壊れ方だろ?車輪なんて、ハンマーで叩かれた感じだ」
ニケが身を乗り出し、馬車を見ていた。
「ふむ、少し見てみるか」
そう言うとミーチェは、馬を撫でてから壊れた馬車へと向かった。
ニケも立ち上がると、シロに馬車を見ているよう告げミーチェの後に続いた。
ニケの言うとおり、馬車には矢が刺さっていたり何かで焦がされた形跡があった。
「魔法使いと弓使いの仕業か……山賊の類か?」
「この辺にいるのか?」
ミーチェの呟きに、ニケが反応した。
「あぁ。さっき言ったとおり、ユッケルの物資をコルックへと運ぶ道だからな。狙うなら絶好の場所だ」
ニケは、確かにっとうなづくとアシュリーのもとへと向かった。
「私は、周りを警戒しているから」
ミーチェは、ニケにそう告げると馬車へを戻っていった。
ニケは、うなづくと壊れた馬車の中にいるアシュリーのもとへ向かった。
「ない……」
馬車の中を見ながら、アシュリーが呟いた。
馬車の中には、武器などが転がっていた。
他には、踏み潰されたパンやら血まみれの布などがある。
「アシュリー、何がないんだ?」
ニケの問いかけに、アシュリーは残念そうな顔をしながら振り向いた。
「私の、荷物がないんです……武器はあったんですけど」
そういいながらアシュリーは、自分より大きな大剣を『持ち上げた』。
流石にでかすぎるだろうと思いながら、ニケは苦笑いを浮かべていた。
「まぁ、食料とお金しか入ってなかったので大丈夫なんですけどね」
そういうと、アシュリーは馬車を出た。
無言のままアシュリーの後に続いたニケ。
なんと声をかければいいのかわからないようだ。
ただただ申し訳なさそうな顔をするニケに、アシュリーは気を使ったかのように振舞った。
「そんな顔しないでください。私は、大丈夫ですから」
少し寂しそうに微笑むアシュリー。
「わかったよ」
ニケは、そういうと馬車へと足を進めた。
きっと思い入れのある物でもあったのだろう。
馬車に戻る間に、アシュリーは何度も馬車に振り返っていた。
ニケは、それを横目に見ながら馬車に乗った。
アシュリーが、大剣を馬車に載せるとミーチェは口をあけて止まっていた。
「し、ししょー?」
慌てて声をかけるニケ。だが、ミーチェはその大剣の大きさに目が釘付けだった。
「な、なんだそれは……」
震える指で、大剣を指差しながらミーチェは呟いた。
「私の、剣ですっ」
少し声を張りながら、どこか誇らしげに言うアシュリー。
ニケは、そのやりとりを見ながら笑っていた。
「これが普通の反応だな」
ミーチェを見ながら、ニケは呟いた。
ミーチェは、正気を取り戻すと咳払いをして前を向いた。
「でかすぎる……」
小さく呟くと、馬を走らせるのであった。
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