69 / 93
68話「昼下がりのナイル村と怒涛の君と」
しおりを挟む昼下がりの広場は、人が少なく感じた。
冒険者ギルドに行けば、ガオックの事を助けるヒントがあるとニケは考えていた。
広場を抜け、村の北側の通りを行くと冒険者ギルドが右手に見えた。
ユッケルとは違い、ナイル村の冒険者ギルドは大きかった。
入り口は両開きの大きな扉だった。ミーチェは、扉を開けて入って行った。
ニケとアシュリーも、ミーチェの後に続き中へと入っていく。
内装は木造の居酒屋のような感じの内装だった。
左奥にカウンターがあり、席がいくつかある。右奥には掲示板だろうか、張り紙がたくさん見える。
入ってすぐ左には、机がいくつかあり立ちながら飲食をする机のようだ。
そこで酒だろうか、ビールのようにも見えるものを飲んでいた二人組みの冒険者の片方の男が、ミーチェに声を掛けた。
「ここは、譲ちゃんがくるところじゃないぜぇ?」
酒臭い顔をミーチェに近づけながら、男はミーチェを子ども扱いした。
それに対して、ミーチェは怒りを我慢できなかったらいしく怒鳴り返していた。
「私は、子供じゃない!これでも160歳だ!」
ミーチェの言葉に、男は冗談だろっと真顔になりながら答えた。
ミーチェは、懐からユッケルの村長からもらった手紙を男に見せた。
「これはユッケルの村長からの手紙だ、ギルド長にこれを渡したい」
男は、まじまじと手紙を見ると掲示板の手前を指差した。
「あそこが受付だ、受付譲に言ってギルド長の面会許可をもらうんだな」
男はそういうと、机に戻りもう一人の男と酒を飲み始めた。
「私が、受付に行くからその間、掲示板でガオックの情報を探してくれ」
「わかった」
ニケが返事をすると、ミーチェは受付へと歩いていった。
アシュリーは、何をすればいいのかわからず周りを見渡していた。
「アシュリーいくよ」
ニケは、掲示板を見ながらアシュリーに声を掛けた。
アシュリーが返事をすると、ニケは歩き出した。
掲示板は思っていたより大きく、見上げれるほどだった。
ニケは、アシュリーと分かれて張り紙を探した。
いろんな張り紙があり、ニケの夢に見ていた冒険者への討伐依頼から、採集依頼、護衛依頼、配達依頼、さまざまな依頼があった。
その中で、討伐依頼に分類された張り紙の中にガオックについての張り紙を見つけた。
討伐依頼――ユッケル、ナイルの間に位置する森に生息するオーク、ガオックの討伐。
内容――村の子供の殺害、遺体の抹消。
報酬――35ゴールド。
期限――なし。
張り紙に書かれていることは、本当なのかとニケは目を疑った。
優しい印象のガオックが、村の子供の殺害、遺体の抹消をするのだろうかとニケは頭の中で考えた。
だが、ニケの頭の中にあるのは楽しく話をした記憶しかない。
ニケは、ガオックの討伐依頼の張り紙を剥がすと、入り口にいた先ほどの冒険者たちの下へと歩いていった。
アシュリーは、掲示板に目を向けたまま気がついていない様子だ。
楽しく雑談をしている机に近づくと、ニケは張り紙を机の上においた。
「この、ガオックってオークの話を聞きたいんだけど」
魔編みの鞄から、ニケは10シルバーを取り出すと二人組みの男の前に置いた。
「情報を買うのか、いいだろう」
先ほどの男とは別の、青年が10シルバーを受け取ると話しはじめた。
「ガオックはな――」
青年の話によると、ガオックは今から60年も前に近くの森に住み着いたオークだそうだ。
当時、冒険者ギルドがない村には自警団体による村周辺の魔物退治が行なわれていた。
ガオックが住み着いたことにより、魔物は村に近づくことが減ったそうだ。
そんなある日、ガオックが鹿を片手に村に現れた。村人は、自警団と共にガオックを森へ追い返そうとした。
だが、ガオックは何もせずその場に座り込んだと言う。村長が、ガオックの持ってきた鹿を受け取る代わりに野菜を差し出したのが、ガオックと村の関係の始まりだそうだ。
それからガオックは、人の言葉を覚え、人と共に生活をするようになった。ガオックから狩りの仕方、武器の手入れ、さまざまなことを村人は学んだ。
しばらくしてから、村に冒険者ギルドが設立された。帝国が協会の侵攻を阻止するため、村々に設立するようにしたからだ。
ガオックが、村と繋がりを持ってから50年ほど経った頃、冒険者達もガオックと共に森に入ることが多かった。それから数年、王都から一人の男が村にやってきた。
その男の名は、デオドラ。彼は、そう名乗ったそうだ。
デオドラは、言動が悪く村の子供に手を上げるなどして、村人から嫌われていた。
デオドラが、村に来てから少し経ってから村の子供が、行方不明になった。
村人とガオックは、村の周辺から森の奥まで探したそうだ。
だが、子供は見つからなかった。心配になったガオックは、遠くの森を探すとしばらく村に顔をださなかった。
ガオックが、村に戻ってくると村にはひとつの噂が流れていた。
子供を殺したのは、ガオックだ……っと言う噂が村中に駆け巡っていた。
村人は、まるで手のひらを返したかのようにガオックに冷たく当たった。
口も聞いてもらえず、村に顔を出さなくなったガオック。
そんななか、村の冒険者ギルドにひとつの討伐依頼が来た。
その依頼こそ、ガオックの討伐依頼だった。冒険者達は、ガオックの事を信じ依頼を無視したそうだ。
だた一人、デオドラを除いて。彼は、大金だと大声を張り上げ一目散に依頼を受付に持っていったそうだ。
「これが、ここ1年前の話さ」
青年は、10シルバーを懐にしまうと酒を仰いだ。
どうやら話は終わりらしい。ニケは、無言のまま張り紙を手に取ると掲示板へと戻っていった。
掲示板に張り紙を戻すと、冒険者ギルドの扉が勢いよく開いた。
大きな音に、ニケ、アシュリー、他の冒険者達が振り返った。
そこには、ガオックに襲い掛かった冒険者の男が足を上げて立っていた。
勢いよく扉が開いたのは、蹴り開けたからだろう。上げている足が、何よりの証拠だ。
冒険者の男は、冒険者ギルドの中に入ると辺りを見回した。
その男を見ていた冒険者たちは、一斉に目を背けた。
それほど関わりたくないのだろう。
男と、ニケの目が合った。男は睨み返すと、大きな足音と共にニケのもとへと歩いてきた。
「おいクソガキ、てめぇのせいでガオックを逃がしただろうがッ!」
ニケの胸ぐらを掴み、男は怒鳴りつけた。
「ガオックさん生きてるの!?」
ニケの声は、ギルド内に響き渡るほどの大声だった。
「そうだッ!なにもかも、てめぇのせいでなッ!」
胸ぐらを掴む腕が力を増し、同時にニケの身体が浮き始めた。
「どうしてくれるんだッ!あぁッ!?」
ニケを睨みつけながら、男は怒鳴る一方だった。
ニケも、男を睨みつけた。
「なんだぁクソガキのくせに、俺とやろうってかッ!?」
そういうと、男はニケを横に投げ飛ばした。
地面に叩きつけられ、ニケは反射的に転がりすぐに体勢を整える。
戦闘を幾度と繰り返した経験だろうか、ニケの身体は俊敏に対応できるようになっていた。
男が剣を抜き、ニケに外に出ろと言った。
アシュリーは、ミーチェのもとへと報告しに走っていった。
受付にいたはずのミーチェがいない、どうやら移動してしまったようだ。
受付譲に、ミーチェの居場所を聞くとアシュリーは、階段を上っていった。
ギルドの扉から、ニケと男が出てきた。
外に出ると、剣を持っている男を見て村人たちが逃げていった。
ニケが左に歩き、男が右に歩いていく。
一定の距離まで歩くと、両者は向かい睨み合った。
「あんた、名前なんて言うんだ?」
「俺は、デオドラ。黒髪のガキ、お前は?」
「俺は、ニケだ」
先ほど話を聞いた時に出てきたデオドラ。ガオックの討伐依頼を真っ先に受けた男だ。
「これは決闘だ、死んでも文句言うんじゃねぇぞッ!!!」
デオドラが、剣を構え直しニケに向かって駆け出した。
「死ねぇぇぇぇぇクソガキィィィィィィッッ!!!!」
デオドラが、大声と共に大振りに剣を振り下ろす。
ニケは、剣を見切り右足を引き半身の構えに入ながら交わす。
大振りの剣が地面に当たり、デオドラは振り返りながら剣を構え直した。
「避けてんじゃねぇぞッ!!!」
大声と共に、デオドラが剣を切りつける。
ニケは、後ろに身体を滑らせるようにして剣を回避する。
そんなニケに、血眼になって剣を振るうデオドラ。
魔物の攻撃などに比べたら殺気のみの剣は、遅く見えるようだ。
幾度と魔物の攻撃をかわし、懐に駆け込んだニケにとって視界を遅くする意味も感じていなかった。
「くっそ、舐めやがってッ!!」
更にデオドラの剣は、勢いを増す。
勢いが増しただけであって、ニケにとって避けるのは造作もなかった。
「なぜ攻撃をしないッ!」
剣を振り回しながら、デオドラが叫ぶ。
ニケは、後ろに跳ぶと距離を置いた。
「なら、遠慮なく行かせてもらうよ」
ニケの目は、殺気に満ち溢れていた。
左手に魔力を送り込む、左手が光出したと同時に刀を練成。
練成の速度が、前よりも早く感じた。
刀を練成するニケを見ながら、デオドラは異能者が……っと呟いていた。
「……行くぞ」
ニケは、深く深呼吸するとデオドラの懐目掛けて駆け出した……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる