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67話「落ち込むその背中に、一筋の光を」
しおりを挟むナイル村、3箇所の出入り口と農業が盛んな村。
ニケたちは、西側の入り口から入ると、すぐに誘導され入ってすぐの馬繋所に来た。
ミーチェが、御者席から降りると受付をしに小屋へと入っていく。
従業員だろうか、馬車と馬を離すと手綱を引いて馬小屋の中に消えていった。
「ニケさん、降りますよ」
アシュリーは、立ち上がるとニケの肩を揺らした。
ニケは、膝を抱えたまま顔を横にずらした。
「降りたくない……」
アシュリーの顔を見ないまま、ニケは呟いた。
「駄々をこねてないで降りるぞ」
ミーチェが、戻ってきたようでニケに声を掛けた。
半分拗ねた顔をしながら、ニケは渋々馬車を降りた。
来た道を戻っていく一同。
村の塀と住居の間の道を、無言のまま進む。
「ニケ、お腹は空いてないのか?」
ミーチェが、横目にニケを見ながら問いかけた。
うつむいたままのニケの顔を、アシュリーは心配そうに覗き込んだ。
ニケは、何かを失った喪失感からくるのだろうか、虚ろな目をしたまま歩いていた。
「ニケさん……」
心配そうに声を漏らすアシュリーと、心配してにふりをするミーチェ。
そんな一同は、西の入り口に着くと右側に見える村の中央を目指して歩き出した。中央に行くにつれ、活気が盛んになってきた。中央の噴水の周りに、露天を出す人々がいる。
行きかう人たちは、少し見て立ち去る者から、手に取り品定めをする者。
そんな人だかりを、縫う様にすり抜けていくニケ、アシュリー、ミーチェ。
だが、下を向いてばかりのニケが、肩をぶつけたりしてたまに怒鳴られていた。
心配したアシュリーが、ニケの手を引きながら先導しはじめた。
広場を南側に向けて歩き出す、南側は飲食店などが多くならぶ通りのようだ。
「昼食でも摂るか、ニケ。大丈夫か?」
アシュリーに手を引かれながら、死んだ魚のような目にまで悪化したいるニケの目をミーチェは、覗き込むと頬を優しく叩いた。
叩かれても、ニケの目に正気の色が見えない。
しばらくは、このままにしたほうがいいと判断したミーチェは、アシュリーを先導しながら店へと入って行った。
『グルッフの店』と書かれた店には、人の入りが少ないようで机の席が開いていた。
ミーチェが、先に座るとアシュリーが、ニケを椅子に座らせた。
机1つに対し、椅子4つずつの机が、広々とした店内に5つ。
カウンター席が、10席くらいある店だった。
店主のような人が、紙と羽筆を手にカウンターから出てきた。
献立表を眺めていたミーチェが、何かを注文している。
そんななか、ニケは机に突っ伏した。
心配した店主が、ミーチェに問いかけるがミーチェは、何もないと言った。
ニケの背中を撫でるアシュリー。しばらくすると、料理が運ばれていた。
ジャガイモの煮付けに、野菜炒め、きのこのスープ、切り分けられたパン。
食べ物のにおいに、ニケが顔を上げた。きのこのスープを受け取ると。
スプーンで少しずつ飲みはじめた。そんな姿を見ながら、ミーチェも食事を始めた。
ゆっくりと進む時計の音を聞きながら、食事をしているとニケが、喋り始めた。
「俺、ガオックさん助けに行く」
そんなこと言い出すニケ。
ミーチェは、何も言わずにパンを口に運んでいた。
ミーチェが、何も言わないことに戸惑いながらもアシュリーが、ニケを止めようとした。
「ニケさん、それはガオックさんの意思ではないと思いますよ……」
上手く言葉にできないのか、アシュリーはおどおどとしながらの物言いだった。
「ガオックさんは、あの森で一人なんだ。村の子供は近づかないって、悲しそうに言ってたんだ」
机におかれた拳を、力いっぱい握るニケにミーチェが口を開いた。
「助けに行ってどうする、あの冒険者たちを殺すのか?」
「そ、それは……」
ミーチェの回答に、ニケは再びうつむいてしまった。
「筋の通ってないことはやるな、これは師匠としてではなく私ひとりの意見だ。わかったな」
「で、でも……ガオックさん、悪いオークじゃないじゃないか」
顔を上げ、ミーチェの顔を見ながらニケが小さな声で呟いた。
「なんで……ガオックさん、賞金首なんかに」
「賞金首?それなら、冒険者ギルドに行けば情報が手に入るんじゃないか?」
スープをすすりながら、ミーチェはふと思い出したように呟いた。
「そういえば、ユッケルの村長からここの冒険者ギルドにって、手紙もらったんだった」
魔編みの鞄紙を取り出すと、ニケはミーチェに手紙を渡した。
「ふむ。たぶん冒険者の派遣依頼だろう。ユッケル防衛の為に、人手が欲しいのだろう」
手紙を分析すると、ミーチェは席を立った。
カウンターに行き、店主に会計を済ますと席に戻ってきた。
「食べ終わったら、冒険者ギルドに顔をだすぞ」
ミーチェは席に座ると、足を組みながらニケに声を掛けた。
「本当!?すぐ食べ終わらせるよ」
ニケは、目を輝かせながらご飯を口に詰め込み始めた。
急いで食べるニケを、ミーチェは肘を着きながら嬉しそうに眺めていた。
そんなやりとりを、アシュリーはただただ和ましそうに眺めるのだった……。
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