67 / 93
66話「降り始める雨と別れと悔しさと」
しおりを挟むガオックとの話が終わり、焚き火がパチパチと音を立てていた。
「今から森に入るのは危ないだな……」
立ち上がり、森を眺めながらガオックが呟いた。
ニケは、眠気に襲われうとうととしていた。
「眠いだか?ニケ」
「あぁ。先に寝させてもらうよ」
ニケは、焚き火の傍にいくと身を包めながら寝息をたて始めた。
ガオックは、薪を焚き火に投げ込むとあぐらのまま眠りについたようだ。
ミーチェが、目を覚ました。どうやら朝になったようだ。
馬車を降りると、ミーチェは空を見上げた。
「今日は、雨が降りそうだな」
空を覆う雲を見ながら、ミーチェは一人呟くのだった。
焚き火の近くにあった布袋に、スープ皿をしまうと鍋を持ち上げ残り汁を捨てた。
そのまま、馬車に片付けに行った時。ポツポツと雨が降り始めた。
「ニケ。雨が、降ってきただよ」
どうやらガオックが、目を覚ましニケを起こしてくれていたようだ。
「ん?もう朝……?」
半分寝ぼけている様子で、ニケが目を覚ました。
辺りを見渡しながら、空を見上げた。
「雨降ってきてるじゃんッ!?」
雨が降っていることに気がつくと、ニケは飛び上がるように立ち上がり魔編みの鞄からコートを取り出した。
コートを羽織り、フードを被った。
「オラは、森に戻るだよ。話せてよかっただ」
ガオックが、小さく手を上げ森へと戻ろうとした。
「ガオックゥゥゥゥッッ!!!」
ニケの声ではない、別の男性の声がした。
ニケと、馬車から顔をだしたミーチェが声の主の方向を見た。
そこには、フードを被った冒険者と思われる男が、3人の冒険者をつれて剣を構えていた。
後ろの冒険者は、杖や大剣を構えている。ガオックとたたかうのだろうか。
「今日こそ、お前を仕留めて報酬を受け取るんだッ!!!」
先頭にいた冒険者が、剣をガオックに向ける。
剣は刀身80cmほどの、一般的な剣だ。
それを合図に、後ろにいた杖を持った冒険者二人が詠唱を始めた。
すぐさま、ニケがガオックと冒険者との間に入った。
「やめろ!ガオックさんに何をするつもりだ!」
ガオックを庇うように、ニケが立ちはだかった。
「邪魔をするなガキ!そいつは賞金首だ、邪魔をするならお前も消し去るぞ!」
男は、そういうと後ろの魔法使いにやれと言った。
だが、魔法使いたちは困惑した表情を見せると、魔法の詠唱をやめてしまった。
「おい!なんでやめるんだッ!あいつも殺せ!」
男は、後ろを見ながら怒鳴っていた。
「ニケ。オラのことはいいだ。おめぇは、旅にもどれだよ」
ガオックは、ニケを横に払いのけようとした。
「ガオックさん!だめだよ!あんた殺されちゃうんだよ?」
その腕にしがみつくと、ニケは、声を張り上げながらガオックに訴えかけた。
だが、ガオックの耳にニケの声は届かなかった。
冒険者をただただ睨んでいるだけだった、
「ガ、ガオックさん……」
ニケは、言葉を失い名前を呼ぶことしかできなかった。
「ニケさん!早く!」
ミーチェは、馬車を出す準備を終えていた。
馬車の後ろからアシュリーが、声を張り上げてニケを呼んでいた。
どうすればいいかわからないニケは、悔しそうな顔をしながら馬車へと走っていった。
「お元気でだよ……」
ニケは馬車に乗ると、ガオックを寂しそうに見ていた。
ニケが乗ったことを確認すると、ミーチェは馬車の馬を走らせた。
馬車が遠くに行くのを見ながら、ガオックは両手を上げ冒険者たちに襲い掛かっていった。
馬車は、森の中にある道を進んでいく。
そんな馬車の中でニケは、膝を抱えて小さくなっていた。
「俺は、何もできないかったのかな……」
「そんなことないと思いますよ、ガオックさんは揉め事に巻き込みたくなかったんだと思います」
そんなニケの肩を撫でながら、アシュリーが声を掛けた。
「ニケ。あまり冒険者の揉め事に、首を突っ込むのだけはやめておけ。後が怖いからな」
ニケを横目に見ながら、ミーチェが御者席から声を掛ける。
「ガオックさんいいオークなのに……なんで、なんでなんだよッ!」
うつむいたまま、ニケは声を張り上げた。
無言のまま、アシュリーはニケの肩を撫でる事しかできなかった。
ミーチェも、それ以上は何も言わず馬を走らせるのみだった。
馬車は、雨の降る中道を進んでいくのだった。
しばらくして馬車は、森を抜けた。
森を抜け、再び草木の見える風景が流れ始める。
雨は上がり、光が雲と雲の間から差し込んでいた。
虹が架かるその空を見ながら、ミーチェは馬を走らせていた。
やがて村が見え始めた。
日がもうすぐ真上に来る頃、ニケたちはナイル村に着いたのだった……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる