夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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66話「降り始める雨と別れと悔しさと」

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 ガオックとの話が終わり、焚き火がパチパチと音を立てていた。

「今から森に入るのは危ないだな……」

 立ち上がり、森を眺めながらガオックが呟いた。
 ニケは、眠気に襲われうとうととしていた。

「眠いだか?ニケ」

「あぁ。先に寝させてもらうよ」

 ニケは、焚き火の傍にいくと身を包めながら寝息をたて始めた。
 ガオックは、薪を焚き火に投げ込むとあぐらのまま眠りについたようだ。
 
 ミーチェが、目を覚ました。どうやら朝になったようだ。
 馬車を降りると、ミーチェは空を見上げた。
 
「今日は、雨が降りそうだな」

 空を覆う雲を見ながら、ミーチェは一人呟くのだった。
 焚き火の近くにあった布袋に、スープ皿をしまうと鍋を持ち上げ残り汁を捨てた。
 そのまま、馬車に片付けに行った時。ポツポツと雨が降り始めた。
 
「ニケ。雨が、降ってきただよ」

 どうやらガオックが、目を覚ましニケを起こしてくれていたようだ。
 
「ん?もう朝……?」

 半分寝ぼけている様子で、ニケが目を覚ました。
 辺りを見渡しながら、空を見上げた。

「雨降ってきてるじゃんッ!?」
 
 雨が降っていることに気がつくと、ニケは飛び上がるように立ち上がり魔編みの鞄からコートを取り出した。
 コートを羽織り、フードを被った。
 
「オラは、森に戻るだよ。話せてよかっただ」

 ガオックが、小さく手を上げ森へと戻ろうとした。

「ガオックゥゥゥゥッッ!!!」

 ニケの声ではない、別の男性の声がした。
 ニケと、馬車から顔をだしたミーチェが声の主の方向を見た。
 そこには、フードを被った冒険者と思われる男が、3人の冒険者をつれて剣を構えていた。
 後ろの冒険者は、杖や大剣を構えている。ガオックとたたかうのだろうか。
 
「今日こそ、お前を仕留めて報酬を受け取るんだッ!!!」

 先頭にいた冒険者が、剣をガオックに向ける。
 剣は刀身80cmほどの、一般的な剣だ。
 それを合図に、後ろにいた杖を持った冒険者二人が詠唱を始めた。
 すぐさま、ニケがガオックと冒険者との間に入った。
 
「やめろ!ガオックさんに何をするつもりだ!」

 ガオックを庇うように、ニケが立ちはだかった。

「邪魔をするなガキ!そいつは賞金首だ、邪魔をするならお前も消し去るぞ!」

 男は、そういうと後ろの魔法使いにやれと言った。
 だが、魔法使いたちは困惑した表情を見せると、魔法の詠唱をやめてしまった。
 
「おい!なんでやめるんだッ!あいつも殺せ!」

 男は、後ろを見ながら怒鳴っていた。

「ニケ。オラのことはいいだ。おめぇは、旅にもどれだよ」

 ガオックは、ニケを横に払いのけようとした。

「ガオックさん!だめだよ!あんた殺されちゃうんだよ?」

 その腕にしがみつくと、ニケは、声を張り上げながらガオックに訴えかけた。
 だが、ガオックの耳にニケの声は届かなかった。
 冒険者をただただ睨んでいるだけだった、

「ガ、ガオックさん……」
  
 ニケは、言葉を失い名前を呼ぶことしかできなかった。

「ニケさん!早く!」

 ミーチェは、馬車を出す準備を終えていた。
 馬車の後ろからアシュリーが、声を張り上げてニケを呼んでいた。
 どうすればいいかわからないニケは、悔しそうな顔をしながら馬車へと走っていった。

「お元気でだよ……」

 ニケは馬車に乗ると、ガオックを寂しそうに見ていた。
 ニケが乗ったことを確認すると、ミーチェは馬車の馬を走らせた。
 馬車が遠くに行くのを見ながら、ガオックは両手を上げ冒険者たちに襲い掛かっていった。
 
 馬車は、森の中にある道を進んでいく。
 そんな馬車の中でニケは、膝を抱えて小さくなっていた。

「俺は、何もできないかったのかな……」

「そんなことないと思いますよ、ガオックさんは揉め事に巻き込みたくなかったんだと思います」

 そんなニケの肩を撫でながら、アシュリーが声を掛けた。

「ニケ。あまり冒険者の揉め事に、首を突っ込むのだけはやめておけ。後が怖いからな」

 ニケを横目に見ながら、ミーチェが御者席から声を掛ける。
 
「ガオックさんいいオークなのに……なんで、なんでなんだよッ!」

 うつむいたまま、ニケは声を張り上げた。
 無言のまま、アシュリーはニケの肩を撫でる事しかできなかった。
 ミーチェも、それ以上は何も言わず馬を走らせるのみだった。
 馬車は、雨の降る中道を進んでいくのだった。
 
 しばらくして馬車は、森を抜けた。
 森を抜け、再び草木の見える風景が流れ始める。
 雨は上がり、光が雲と雲の間から差し込んでいた。
 虹が架かるその空を見ながら、ミーチェは馬を走らせていた。

 やがて村が見え始めた。
 日がもうすぐ真上に来る頃、ニケたちはナイル村に着いたのだった……。
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