夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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65話「野営の準備と、ひとつの失敗と」

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 馬車の中で、シロを枕にして昼寝をするニケ。
 その傍で背をもたれながら、目を瞑って動かないアシュリー。
 そんなまったりとした空間のなか、ミーチェだけが起きていた。

「私が、馬を走らせていると言うのに……私も寝たい……」

 横目で後ろを確認すると、ミーチェははぁっとため息をついた。
 馬車は、道なりに進んで行くのであった。
 日が傾き始めて、どれくらいの時間が経っただろうか。
 もうすぐ山の向こうに日が、沈み始めようとしている。
 あくびをしながら、ミーチェは野営ができる場所を探し馬を走らせていた。
 森の中へと入る入り口の手前に、開けた場所を見つけた。
 馬車を止めると、杭と木槌を御者席においてあった布袋から取り出す。
 杭を打ちつけ、馬を馬車から離す。杭に手綱を巻きつかせ、焚き火の準備を始めた。
 焚き火に火を焚く為、火打石を叩くがなかなか火がつかない。
 ミーチェは、背後に人の気配を感じ振り返った。
 ニケが、目を擦りながら馬車から降りてきた。

「お主達は、寝てばっかだな」

 ミーチェは、少しご機嫌斜めに鼻で笑うと火打石を叩き始めた。
 湿気ているのか、なかなか火がつかない。

「火打石つかないの?」

「どうやら、お昼に濡れてしまったのかもしれん」

「そうなの?んー、魔法で火熾そうか?」
 
 ニケは、あくびをしながら右手を構えた。
 魔線を引きながらニケは、詠唱を始めた。

「綴ろう、 ″我、火を志すもの、汝、その火の力を敵にぶつけよ″ファイヤーボール」

 右手に魔方陣が展開された。
 ミーチェは、焚き火の薪から離れた。
 魔方陣から魔法が展開され、火の玉が出現する。
 ニケは、火の玉を飛ばさないように魔法で制止しながら、焚き火の薪に当てる。
 パチパチと薪が燃える音を確認すると、ニケは空に向けて火の玉を放った。
 空高く昇ると、火の玉は少しずつ小さくなりやがて消えた。
 焚き火により、周囲が少し明るく見えた。
 太陽が沈んだら辺り一面が、闇に覆われるだろう。

「野営の準備ですか?」

 アシュリーが、馬車から降りてきた。 
 その後ろを、シロが眠そうに半目を開けてついてきている。

「アシュリー、夜目は利くのか?」

「あ、はい。昼間と、ほとんど同じに見えてます」

 アンデットの身体は夜行向きなため、夜目が利くとミーチェはわかっていたようだ。
 
「ニケを連れて、薪を集めてきてくれないか?」

「わかりました。ニケさんいきましょ」

 そういうと、アシュリーは先に歩いて行ってしまった。
 
「また森か……夜の森はいい思い出がないぜ」

 文句を言いながら、ニケはその後に続いた。
 シロも、ニケの傍へと走っていった。
 夕方の森は、昼間と違い薄暗く不気味な雰囲気を醸しだしていた。
 
「綴ろう、″光よ我に灯りを″ライト」

 双線を引き、二つの魔方陣を展開。
 魔法を発動すると、辺りを照らす光の球体が浮遊し始めた。
 
「結構、明るいんだなこれ」

「光魔法ですからね、あまり私に近づけないでくださいね……」

 やはり、光魔法はアンデットになにかしら影響があるようだ。
 ニケは、無言で頷くとアシュリーと少し距離を置いて歩いた。
 しばらくして、少し開けた場所に出た。
 森に囲まれた、静かな場所。その中央には、木の実がなっている大きな木があった。

「アシュリー、あの木の実って食べれるの?」

 ニケは、空腹を感じ食べれるのかとアシュリーに問いかけた。

「えーっと、木の実とかはわからないんです。すいません……」

 アシュリーは、振り向くと申し訳なさそうに頭を下げた。

「そうだったのか……2、3個採って、師匠に聞いてみるか」

 そう言うと、ニケは中央にそびえ立つ木へと足を進めた。
 木の根元に行き、上を見上げた。
 一番下に実っている実まで、そこそこの高さだ。
 どうしようかと、悩んでいるときだった。
 木の後ろから物音がし、こちらを覗き込む顔があった。

「……ッ!?」

 反射的に、後ろへと跳び距離を置く。
 左手に魔力を送り込み、戦闘態勢にはいった。

「ここに、人の子がくるとはな」

「どういうことだ?」

「この森には、化け物が出ると近辺の村の子供は入らないのだよ」

 木の陰から、声の主が姿を現した。
 緑色の皮膚、でかい図体。オークだ。

「しゃ、喋るオークなんているんですね」

「関心してる場合じゃないだろ」

 少し後ろから、アシュリーが呟いていた。
 その背中には、大剣を背負っていなかった。
 ニケが、武器を練成すれば戦闘に参加できるだろうが、相手との間合い的に危険が伴う。

「まてまて、オラにたたかう気はねぇだよ」

 オークは、両手を前にだすとクロスするように左右に振った。
 どうやら、たたかう意思がないのは本当のようだ。
 ニケが、錬金術の発動を止めるとオークは木を背に座り込んだ。

「あんた、なんで人の言葉が喋れるんだ?」

「んー?オークだって、人と交流しれりゃぁ言葉くり覚えるだよ」

「あ、あの。ここから近くに村があるんですか?」

 ニケから離れながら、アシュリーがオークの近くへとやってきた。
 そろそろ避けられているようで嫌になったニケは、ライトの魔法を払いのけた。
 光が消え、夕焼けが影を伸ばした。
 
「オラは、ガオックって言うんだよ」

「ガオック……どこかで見た気が……」

 ガオックが名乗ると、アシュリーはどこか悩んだ様子で考え込んでしまった。

「俺は、ニケ。こっちはアシュリー」

「聞き覚えがない名前だよ。ここら辺も人間でねぇだな」

「俺達、旅の途中なんだ。それで、焚き火の薪を集めにこの森に」

 アシュリーが、黙り込んでいるので。ニケが、変わりに説明をした。

「薪なら、入り口付近で探せば早いだよ」

 そういうとガオックは、高らかに笑った。
 
「んで、ガオックさん。その木に実ってる実は、食べれるのか?」

「んー、オラの身長じゃ届かねぇから食べたことないだよ」

 どうやら、ガオックの身長でも届かないらしい。
 考え事をしていたアシュリーは、思い出せないらしく諦めたようだ。

「届かないのか……あ、ガリィなら届くかな」

 そういうと、ニケは木の根元へと歩み寄った。
 なにをするのかわからないガオックは、首を傾げながらニケを見ていた。

「おいで、ガリィ」

 ネックレスから魔方陣が展開され、地面に広がる。
 広がった魔方陣から、ガリィが姿を現した。

「オ、オーガ・リックだぁ」

 慌てた様子で、ガオックはアシュリーがいる所まで逃げていった。

「そんな怖がらなくていいのに」

 ニケは、笑いながらガオックに言った。
 ガリィは、触手を震わせるとニケを突いていた。

「あははははは、ちょっと、ガリィ。ふふふふ、やめて、くすぐったい……あははは」
 
 突かれた横腹がくすぐったいのか、ニケは身をよじらせながら笑っていた。
 その光景を不思議をうに、ガオックは見ていた。

「あ、あいつは、敵でねぇだか?」

「はい。ニケさんの召喚獣の、ガリィさんですよ」

「召喚術が使えるだか、こいつはたまげただ」

 頭を掻きながら、ガオックは驚いていた。
 ニケへの愛情表現を終えたガリィは、触手をおろすと花弁を開いていた。

「ガリィ。触手で、俺を持ち上げてくれないか?」

 ガリィの触手は、ガリィの花弁よりも高い位置まで届く。
 ニケは、それを思いついたらしくガリィを召喚したようだ。
 ガリィは、ニケを持ち上げ始めると、木の実の実る幹までニケを持ち上げて見せた。
 ニケは、幹に飛び移ると木の実を探した。
 幹と幹を昇りながらニケは、木の実を見つけた。
 思っていたより大きく、ニケの拳を二つ並べて直径とし、それを球体にしたほどの大きさだ。
 バレーボールよりは小さく、重さはあまりなかった。
 ニケは、木の実を2、3個魔編みの鞄の中に入れると、昇ってきた幹を降り始めた。
 ゆっくりと、慎重に降りていく。
 ピキっと嫌な音がした。音がしただけならまだ良かった。次の瞬間、幹が折れニケは高さ5m以上の場所から落ちた。
 
「ニ、ニケさんッ!?」

 落ちてくるニケを、アシュリーは目を大きく見開きながら見た。
 ニケは、頭から落ちたようで気を失ってしまったようだ。
 そんなニケを、寂しそうに触手で撫でるガリィ。
 ニケが、気を失ったことにより魔力の配給が途切れ、ガリィは光と共に消え始めた。
 
「お、おいおい。ニケ、大丈夫だか?」

 ガオックが、ニケの肩を抱き上げるが気を失っているので何の反応もなかった。

「と、とりあえず、馬車に運ばないと」

 慌てながら、アシュリーは状況を整理するが、ニケを担いで森を歩くのは危険だ。
 いくらアンデットだからと言っても、ニケは生身。魔物たちに襲われたら、ニケの安全は保障できない。

「オラが運ぶだよ。道案内頼むだ」

 ガオックが、運ぶのを手伝ってくれるようだ。

「は、はい、お願いします。あの、こっちです」
 
 アシュリーは、来た道を戻り始めた。
 夜目が利くアシュリーを先頭に、ガオックと担がれているニケは森を抜けた。

「遅かったな。シロが、消えたから何かあったのかと……――ッ!?」

 アシュリーに、声を掛けたミーチェが固まった。
 それもそうだろう、薪ではなくオークを拾ってきたのだから。

「ア、アシュリー?そちら様はどちら様だ?」

「森の奥でいろいろとありまして……こちら、オークのガオックさんです」

 アシュリーは、森の中での出来事をミーチェに話した。
 ガオックは、焚き火の傍にニケを寝かせると、怪我がないか確かめていた。

「なるほど、また馬鹿弟子がやらかした訳か……」

 ため息をつきながら、焚き火の傍にミーチェが歩いてきた。

「私の弟子が、世話になったな」

 ミーチェは、ガオックの顔を見上げながら謝罪をしていた。

「いや、オラはただ運んできただけだよ」

 ガオックは、がっはっはと笑うと腰を降ろした。

「礼とは程遠いが。どうだ、一緒に食べていかないか?」

 昼間に作ったスープを鍋に移し、暖めたものを指差しながらミーチェは、ガオックを食事に誘った。

「おぉ、美味そうなスープだな。お言葉に甘えさせて貰うだよ」

 ガオックは、ご機嫌の様子だった。
 ニケは、少し唸ると目を覚ました。

「あれ、俺木から落ちて……いったぁ、頭打ったのか?」

「やっと目を覚ましたか、この馬鹿者」

「ひどい言われよう、この声は師匠……となると、馬車に戻ってきたのか?」

 ニケは、重たい身体を起き上がらせると辺りを見渡した。
 日は沈み、辺りは暗闇に覆われていた。
 馬車の付近の焚き火を囲うようにミーチェ、アシュリー、ガオックと並んで座っていた。

「ガオックさんが、運んでくれたんですよ」

 アシュリーが、振り向きながらニケに言った。
 そうなのかっとニケは、立ち上がると焚き火にの傍へと移動した。

「ありがとう、ガオックさん」

 ニケは、小さく頭を下げると腰を降ろした。

「いやぁ、何事もなくて良かっただよ」

 ガオックは、目を瞑り頷いた。
 ミーチェが、木のスープ皿にスープを注ぐとニケに渡した。
 パンは無いようで、スープだけの晩御飯となった。
 晩御飯を終えると、ガオックが興味深そうにニケたちの旅路の話を聞いていた。
 ニケは、ミーチェと出合った西の森の話から、ユッケルでの戦闘などを楽しそうに語った。
 楽しそうに語るニケの話に、ミーチェは耳を傾けながら寝てしまったようだ。
 ミーチェを抱き上げるとアシュリーは、馬車の中へと消えていった。
 ガオックと共に、星を眺めながら話をし夜は更けていくのだった……。
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