夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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70話「広場での一戦とひとつの油断と」

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 広場は先ほどとは違い、人の行き来が減っていた。
 正確には、減ったというより何かを避けて通っているようだ。
 広場の中央、噴水の周りにデオドラと数人の柄の悪い連中が居座っている。
 村人は目を合わせないように中央を避けて歩いている。露天を出していた人たちは、そそくさと片付けを始めていた。
 デオドラを無視して、ニケは先ほどの店に戻ろうと広場を横切った。

「おい、待てよクソガキ」

 案の定デオドラに声を掛けられた。
 ニケはそのまま無視して進もうとした、だがデオドラの周りにいた柄の悪い男が道を塞いだ。
 それを合図に、他の連中もニケを囲うように移動した。
 デオドラを含め人数は6人。5人がニケを囲みながら不気味な笑みを浮かべている。

「ガオックの討伐依頼、それを取り消す方法を教えてやる」

 噴水の端に座っていたデオドラが、立ち上がりながら呟いた。
 ニケはデオドラを見た。デオドラは、呑気そうにあくびをするとニケの前にやってきた。

「黒髪の血は高く売れるんだってな」

 デオドラは剣を抜き、ニケの首もとに剣と突きたてた。

「てめぇは裏で売らせてもらうぜ」

 ニケの近くにいた男が縄を取り出した。
 横目で縄を確認すると、ニケは剣を手の甲でどけた。

「状況がわかってないようだなッ!!」

 デオドラは剣を振り上げた。
 身構えるニケを、後ろにいた男が押さえ込む。
 押さえ込まれたままニケは、後ろへと飛び跳ねた。

「な、なんだこいつッ!?」

 押さえ込んでいた男が、ニケを放した。
 広場全体にざわめきが走る。見物しようとする者、逃げていく者、止めようとするが睨まれて戻っていく者。
 そんな中、ニケが左手に魔力を送り込み練成を始める。左手が光を帯びると刀を練成した。
 刀を握り締め、デオドラに向けた。

「さっきの続きか?おい、お前ら!」

 デオドラの言葉に、周りにいた男達が一斉に武器を構える。
 飛び道具の類なとはなく剣と短剣だ。
 ニケの後ろにいた男が、短剣を突き出しニケの背中目掛けて走ってくる。
 男の動きを察知したニケは、右足を下げ左足を軸に少し倒れながら男とその手に握る短剣を避けた。
 他の4人の男達が、ニケを囲うように移動を始めた。
 短剣を持った男が振り向き様に、ニケの喉目掛けて短剣を振るう。
 少し後ろに下がりながら避けると、ニケは刀を右腰に沿わせると同時に左上へと切り上げる。
 短剣を振るった男の左腰から、右肩へと刃が抜けていく。
 
「っぐふ……」

 短剣を落とすと男は切られた胸を押さえながら、血を吐き出し前のめりに倒れた。
 それを見るや右側から男が剣を振り下ろしてきた。
 身体を捻りながらかわすと、左側から別の男が剣を衝いてきた。
 衝かれた剣をニケは刀で受け流す。
 すぐさま後ろから剣が迫りくる、振り向き様に刀で剣を弾く。
 剣を弾かれた男がよろめく、ニケは男の胸部へと刀を衝いた。
 刀身が胸部へと刺さり、男は膝を付く。
 足で男を押しながら刀を抜く。男達はニケの反射神経に驚きながら距離を置いた。

「おまえらじゃ無理だ、俺がやる」

 デオドラがニケの前に立つと剣をニケに向けた。

「クソガキが、今度こそ殺してやるッ!」

 言葉を吐き出すと同時に、デオドラが剣を振り上げる。
 ニケは振り下ろされるだろう位置に刀を流すように振り上げる。
 カンッ!甲高い金属音と共に、刀の刀身を滑るようにデオドラの剣が流される。
 デオドラはニケの横をすり抜け、振り返ると剣を横に薙ぎ払う。
 ニケは後ろに飛び跳ねるように避けると、刀を両手で握り駆け出す。
 カンッ!剣と刀が交わる、互いに睨みあうと両者は得物を押し合った。
 キリキリと音が鳴りあう。ニケは押し離すように力を加えた。
 押されたデオドラは、後ろに2、3歩下がる。
 デオドラが何かに対して合図を送るかのように頷いた。
 ニケは、その合図を送ったであろう方向に振り向いた。
 だが、何もなく村人さえもいない。急いで視線をデオドラに向ける。
 デオドラより先に、小さな針のようなものが見えた。
 急いで目に意識を集中させるが、視線から見える世界がゆっくりになるにつれて針が腹部へと刺さっていく。
 一度刺さった針はどうすることもできず、刺さり終わってから抜くことしかできなかった。
 ドクン。体内で何かが起きたのだろうか。視線がぐらりと揺れ世界が速度を瞬時に戻した。
 足がふらつき始める、膝の力が抜けニケは地を舐めた。

「こんな子供騙しに引っかかるなんてなぁ!」

 ニケの頭の上で、デオドラがニケを見下しながら高らかに笑い始めた。
 身体に力が入らず、小刻みに震えるニケ。

「毒は気持ちいいだろ?」
 
 周りにさっきの男達とは別の連中が集まってきている。
 フードを被りいかにも怪しい感満載の雰囲気だ。

「よし、運べ」

 デオドラは周りの連中に声を掛けると、その場を立ち去っていった。
 ニケは縄で縛り上げられると首に何かを着けられた。
 そのまま引きづられながら、ニケは南の入り口へと連れて行かれてしまった……。
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