夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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72話「競売に出品された彼と突然の来客たちと」

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 水の都、『イーディス』。
 レイバーン湖と言う大きな湖の中央にそびえる、大きな都だ。
 レイバーン湖は透き通った湖で観光地として知られている。人々が行き交う大きな交易の場所として有名で。貴族たちが湖を眺めながら休日を過ごしたりすることでも有名だった。そんな湖の離れに、小さな競売所があった。都の民からは、人身売買の場として避けられている。
 そんな競売所に関して、とある噂が都を駆け巡っていた。

「『黒髪の少年』が今夜出品されるらしい」

 そんな噂を耳にした、フードを被った青年がいた。
 彼はフードを被っていてわかりにくいが、フードの隙間から黒髪が見える。
 細々とした体つきに、低めの身長。冷めた感じのその目は、目と目が合った民が目をそらすものだった。彼は食事をしていたようで、机の上に硬貨を置くと席を立った。
 フードを深く被り、彼は路地裏へと消えていくのだった――

 ――灯篭の明かりが照らす地下室。檻から出されたニケは、水の中に押し込まれていた。身体が汚いと売り物にならないからだ。身体を洗うとすぐに縄を巻かれた。濡れたままの身体は、次第と寒気を帯び始めた。ニケは目隠しを外され、そのまま檻の中へと押し込まれた。

「時間になれば、お前は売られる」

 デオドラは、そういい残すと踵を返した。そんなデオドラに、ニケは一言言いたかったが言う気力もなくうつむいていた。
 しばらくして、覆面の男達がニケを檻から出し灯りが見えるところへと連れて行く。
 灯りが近づくにつれ声が聞こえる。

「さぁさぁ、45ゴールド以上の人はいませんか?」

 どうやら競売中のようだ。

「45ゴールドで落札です!」

 司会としている者が、木槌を叩く音が聞こえる。
 2、3回叩くと、司会は「次の商品です」といった。
 覆面の男に縄を引かれ、ニケは灯りの見える場所へと連れて行かれた。
 
「今夜の目玉、黒髪の少年でございます!」

 司会が声を張り上げると、会場全体から歓声があがった。
 ニケに浴びせられる好奇の目線や、嫌悪の目線を送る者すらいた。客席にいるメンツは覆面やお面をつけているため、顔がわからない。番号の書かれた札を手に持っており、人数でいれば50人前後だろうか。その後ろに剣を腰に収めている兵士のような人たちが、入り口を警備しているようだった。
 兵士というよりも、どちらかと言えば冒険者に近い感じだ。
 ナイル村の冒険者たちには護衛の依頼などがあったが、こちらには会場の警備の依頼でもあるのだろう。
 
「さぁ、始めていきましょう!30ゴールドからスタート!」

 司会が木槌を叩き、競売が始まった。
 皆が皆、札を上げて値段を言い合うのをニケは逃げる機会をただただ待つのみだった。
 
「34ゴールド!」

「38ゴールド!」

 値段が徐々に高くなっていく、ニケはただうつむき値段を聞いている事しかできなかった。
 首につけられている首輪が、ニケの身体になにかしらの影響を及ぼしていることに気がついた。首輪だけ外されずにいたからだ。縄や目隠しなどは外されても首輪は外されない。身体に力が入らないことや魔力が押し込まれた感覚、毒を盛られた時までは魔力を感じていた。だが、首輪をつけられてから魔力が押し殺された感じがずっと続いている。女神から授けられた力は、ニケの身体に流れる魔力と何かしら関係があるようだ。
 
「50ゴールド!」

 いきなり値段が上がった。札を上げたのはいかにも貴族とも言えよう、派手なドレスを着た女性だった。彼女が提示した値段は、流石に高いようだ。それ以降札を上げる者はいなかった。

「50ゴールドで落札!」

 司会が木槌を2、3回叩いたときだった。
 会場の正面に見える扉が爆音と共に、弾き飛ばされた。煙が会場内に入り始めると、客席からは悲鳴などが上がり始めた。会場は騒然とし始め、警備の者たちが剣を抜き入り口へと走っていった。
 司会が客席の全員に避難するように声を掛け始める。それを見たニケは、危険であろう入り口目指して走り出す。栄養が足りていないこともあり、ふらふらと入り口目指して会場を走り抜ける。
 途中、司会に捕まりそうになりながらも入り口までたどりついた。入り口には、先ほど出て行った警備の者たちが無残に転がっていた。白い敷物は赤く染まり、その先に剣を握るフードを被った者が三人いた。そのうち一人は杖を持っている。魔法は女性にしか使えない、となると杖を持っているのは女性。他、剣を握っているのは男性だろうか。
 ニケが立っていることに、三人は気づいたらしくニケのもとへと歩き出した。敵か味方かわからないまま、ニケは困惑の色を隠せなかった。
 縄で縛れていることもあり、ニケは何もできずにいた。ふらふらとする足が限界を越え膝をついた。
 それを見るや、ひとりが剣を捨てニケを支えた。

「大丈夫か?今助けてやるから、もう少し辛抱してくれ」

 その声に、ニケは助けに来てくれたんだっと涙を流した。
 ニケの縄を解くと、彼はフードをとった。そこには冷めた目をした黒髪の青年の顔があったのだった……
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