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76話「怒りの矛先と新たな死霊術と」
しおりを挟むデオドラは不気味な笑いを浮かべた。と、同時に剣を抜いた。
ニケは、デオドラが剣を構えた瞬間に駆け出した。
現状が理解できずに、カラス達はニケの背中を眺めていた。
「さぁこいクソガキ!ナイルでの再戦だ!」
「言われなくとも行くさ!俺をこんなところまで連れてきやがって!」
「てめぇを殺して、後ろの3人も競売所で売ってやるッ!」
懐へと入り込んできたニケに対して、デオドラは剣を振るいながら距離を置く。
ニケは錬金術を使わずに素手での戦闘に持ち込んでいた。
加減をしているのか、対人だからか。
練成をしないことにデオドラは警戒をした。
ニケから繰り出される拳を避けていた。
湖付近のの足場は砂場で、砂により体勢を崩しそうだが、2人はそれを気にもせずにたたかっていた。
「なぜ剣を練成しない!」
「あんたを一発殴るまで気がすまないんだよッ!」
距離をおこうとするデオドラ目掛け、ニケが飛び上がりながら拳を振り下ろす。
剣で防ごうとするデオドラの脳天目掛けて振り下ろされた拳。
ニケは、そのままデオドラが踏ん張るのを無視して地面へとその身体を叩きつけた。
砂に顔を埋めながら、デオドラが怒りに身体を震わせた。
「あー、すっきりした」
「このクソガキがぁぁぁぁぁッッ!!」
「怒るなよ、俺だって同じ気持ちなんだからさ」
「調子に乗るんじゃねぇぞッ!」
デオドラが懐から小さな玉を取り出した。
禍々しい感じを放つその玉を、デオドラは飲み込んだ。
不穏な雰囲気が辺りに漂い始めた。
ニケは悪寒を感じ取る、競売所で感じた死霊術と同じ感じだ。
「てめぇだけは殺す、たとえこの身を死霊術により不死の体にしてもだ」
「死霊術?やっぱ競売所で死霊術を使ったのはあんたか」
それ以上デオドラは話さなかった。
いや……話す事ができなかった。
デオドラは剣を落とすと、首を押さえながらもがき始めた。
見たことのない魔方陣が展開され始めた。
「これが死霊術……ッ!!」
「ニケ!そこから離れるんだ!」
デオドラの背を向けるとニケはカラス達のもとへと駆け出す。
ニケが離れると同時に魔方陣から魔法が発動した。
デオドラの体を紫色の煙が包み込み始める。
その光景をニケとカラス、ハト、フクロウが警戒しながら見ていた。
しばらくして、デオドラを包んでいた煙が消えた。
そこにはアンデットと化したデオドラが膝をついていた。
デオドラは、アシュリーと同じ状態になったのかどうなのか。
「成功だ!俺達協会は、新たな死霊術に成功したんだ!」
力なく首を上げると、デオドラは突然叫びだした。
新たな死霊術、先ほどの禍々しい玉がそうなのだろう。
「それでアシュリーもアンデットにしたってのか……」
「アシュリー?そんな名前は知らん、それよりクソガキ……覚悟できているんだろうなッ!」
ニケを見ながらデオドラが立ち上がると同時に姿が消えた。
一瞬の出来事だ。
ニケの顔面にデオドラの手が添えられ、ニケは地に顔を埋められていた。
早すぎる動きに、ニケは反応が遅れた。
ニケの顔から手を離すと、デオドラはハト目掛けて引っかくように手を広げて襲い掛かった。
だが、デオドラの攻撃は空を切った。
ハトの肩をカラスが引き寄せたからである。
「大丈夫か、ハト」
カラスは、ハトを庇うように前に出ると剣を練成した。
首を傾げたままデオドラはカラスを睨む。
手をだすなとでも言いたいのだろうか、その目からは殺気より狂気に近いものを感じた。
ニケは、すぐに立ち上がると脳裏に意識を向けた。
脳裏の数字が『2』から『3』に上がる。身体に流れる魔力の爆発的な増幅、背中を押される感触にも似たその魔力の増幅量は、身体全体の身体能力などに影響を及ぼすほどだった。筋力、反射神経、動体視力の更なる増幅。
魔力は魔法使いの身体能力に影響するとミーチェはいった。
ニケはそれを今実感したのだった。
すぐに両手から双線を引き始める。
薄緑色の白き魔線は、赤色を帯びた魔線へと色を変えた。
「綴ろう!″雷電よ、我に力を、衝撃と共に敵を弾け″雷電の大咆哮!」
両手に大きな魔方陣が1つずる展開されると同時に、ニケはデオドラの背中に両手を添えると魔法を放ったのだった……。
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