夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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77話「生ける屍の群れと顕現せし文字の神と選ばれし魔法と」

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 イーディスを囲う湖の畔。
 ニケ、カラス、フクロウ、ハトが、死霊術によりアンデットと化したデオドラと対峙していた。
 ニケの放つ雷電の大咆哮により、デオドラは湖へとその身を吹き飛ばされていた。
 
「ニケ。あいつは一体何なんだ!」

「あんま喋ってる暇ないけど、あれは協会の人間だよ」

「協会……帝国に抵抗する組織か」

 言うが早く、カラスは剣を湖に構えた。
 カラスを先頭に、左側にフクロウ、右側にハト。
 長い付き合いからくる連携の良さだろうか。
 戦闘陣形とでも言うのだろうか、前衛、後衛の役割をしっかり理解しているようだ。
 湖からぶくぶくと泡が立ち始めた。
 しばらくすると泡は止み、湖が荒れ始める。

「カラス、湖から離れるんだ!」

「それはなぜだ?」

「嫌な予感がするんだよ……」

「カラス、ニケちゃんの言うとおりにしよ?」

 判断に悩んだカラスに、ハトが声を掛けた。
 湖とは思えない波と共に、大量のアンデットたちが姿を現した。
 どうやら新種の死霊術は、術者がいなくてもアンデットの召喚ができるようだ。
 その中心にはデオドラの姿があった。
 アンデットたちは生きた者に襲い掛かる習性がある。
 ニケの嫌な予感は的中した。
 湖から這い上がってくるアンデットの数に、カラス達は驚愕していた。
 
「あんな数見たことないぞ……」

「一旦引き返したほうがいいんじゃない?」

「それだと街に被害がでる。皇帝陛下はそんなこと望まないだろう」

「となるとだ、俺達がデオドラを倒さないといけないってことだな」

 大量のアンデットを目の前にして、この落ち着きはなんだろうか。っとカラスは思ったのだ。
 そうこう考えているうちに、アンデットが陸まで迫ってきていた。
 ハトが懐から丸められた紙を取り出す。
 先ほど見たものとは帯の色が違う。
 湖目掛けてハトが、丸められた紙を投げた。
 アンデットの群れの頭上、丸められた紙は光を帯び始めると魔方陣を展開する。
 種類の違う魔方陣だ。大きさだけでなく描かれている文字も違う。
 水を蹴りながらアンデットが走り出した。
 魔法が発動し、辺り一面を覆うほどの爆発が起きる。
 爆風に晒されながらも、カラス達は湖を見ていた。
 煙が流されていく。
 アンデットの半数以上は吹き飛んだだろうか。
 その中で、半身を失ったデオドラを見つけた。
 だが、少しすると血管のようなものが身体を再生し始めた。

「うそ……一番威力あるやつだよ今の……ッ!?」

「再生能力はアンデットの専売特許ってわけか」

 徐々にデオドラが近づいてくる。

「俺が引きつけるから、先に行っててくれ」

「一人でたたかうつもりか! 自殺行為だぞ!」

「負ける気なんてないさ」

 自信に満ちたニケの目に、カラスはなんもいえなくなってしまった。
 ニケの袖をフクロウが引っ張った。
 ニケの目の前で、拳から親指を立てるとフクロウは走っていった。

「フクロウのやつ……あーもう! ニケ、倒し終わったら北側まで来いよ!」

「ニケちゃん、約束だよ!」

「あぁ、すぐに向かうよ」

 ニケに声を掛けると、カラスとハトもフクロウの後に続いた。
 遠くなっていく3人の背中。
 アンデット特有のうめき声が聞こえる。
 振り向くとデオドラが目と鼻の先まで来ていた。

「デオドラ、まさか喋れなくなったのか?」

「う、うぅ……あ、あぁぁぁぁッ!!!」

 ニケを白く濁った目で睨むと、デオドラは両手を上げながら猛進し始めた。
 まるで人間の走る速度ではない、ニケの全力疾走といい勝負だろう。
 肉薄した距離でも、ニケは攻撃をかわして見せた。
 
「もう喋りかけても無駄なのか」

 新たな死霊術、その成れの果てが今のデオドラだ。
 アシュリーとはまた別の生ける屍。その身体能力は、かなりのものだった。
 振るう腕は風を切る如く。
 駆ける足は、突風の如く。
 跳び上がる脚力は竜巻の如く。
 身体能力だけではない、反射神経もかなりのものだ。
 ニケの振るう腕は全て空を切るのみだった。
 どこにも隙がない……。
 ニケは、近接戦に持ち込むのはこちらに利がないと考えた。
 考えると同時に距離を置くために走り出す。

「文字の神、リーディアの名のもと。我、ニケ・スワムポールが命ず!」

 ニケの背中。文字の神の刻印が光を放ち始める。
 刻印を撫でるかのように。
 一本の魔線が左手から引かれ始める。

「綴ろう!
″我、文字の神との契約を果たし者。
汝ら、文字の精霊に告げる。
集え! 我が下に。
集え! 綴るために。
集え! 文字の神に捧げる文字を成すために! 
綴り手は一人、我が名はニケ・スワムポール。
我が声に応え、その姿を顕現せよ″!」
 
 大規模な魔方陣の展開。辺り一面を覆うかのように光が駆け抜ける。
 天を覆う緑色のカーテン。
 地から浮き出る文字の数々。
 ニケの目の前に現れた人影。
 なびく長き緑色の髪。
 ニケを見据える、鋭き瞳。
 目が合うと微笑を浮かべる彼女。

「やぁ、ニケちゃん。やっと姿を取り戻せたよ」

「え、リーディア? 文字だけの存在じゃなかったのか」

「うん、そうだよ」

「っと、話をしている暇はないんだ」

 力なく歩くデオドラ。
 ニケは、デオドラに指を指した。
 
「あれ倒さなきゃいけないんだ」

「またやばそうなのとたたかってるね」

「やばそうじゃなくてやばい。んじゃ、綴りますかね」

「はーい。みんな、私の主に力を!」
 
 言うが早く、ニケの身体に無数の文字達が纏わり付き始めた。
 ふと、魔編みの鞄に文字達が寄っていく。
 
「魔編みの鞄に何かあるのか?」

「んー。ニケちゃんが雷属性魔法ばっかり使うから、みんな好きになったみたい」

「ってことは……」

 魔編みの鞄から雷属性の書をだすと、文字の精霊達が嬉しそうに纏わり付く。
 文字の精霊達は書物を持ち上げ始めた。
 ニケの周りをページをを開きながら漂う書物。
 そして、ニケの前で止まった。

「この呪文を読めって事か?」

「たぶんそうだと思うよ? この子達、使える呪文とかわかってるみたいだから」
 
 そこに記された呪文。
 雷属性第一位階魔法『ライトニング』――直線状に一本の稲妻を放つ。
 稲妻は貫通性に優れ、通電性のあるものなら撃ち抜くことが可能だ。
 直線状攻撃系魔法。
 雷属性第一位階魔法『サンダーチェーン』――稲妻と共に、敵を捕縛する鎖を任意の対象へと放つ。
 捕縛系魔法。
 雷属性第二位階魔法『ライトニングステップ』――前後左右4方向、上方下方への稲妻と化しての移動系魔法
 雷属性第二位階魔法『雷電の落砲』――雷電の咆哮の上位種。
 任意の場に魔方陣を展開でき、上空から雷電の咆哮を放つ。座標指定型範囲系魔法。
 4つの呪文と魔法を、文字の精霊たちは選んだのだ。
 
「共に綴ろう……」

 呪文を覚え、ニケは両手から双線を引き始めるのだった……
 
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