78 / 93
77話「生ける屍の群れと顕現せし文字の神と選ばれし魔法と」
しおりを挟むイーディスを囲う湖の畔。
ニケ、カラス、フクロウ、ハトが、死霊術によりアンデットと化したデオドラと対峙していた。
ニケの放つ雷電の大咆哮により、デオドラは湖へとその身を吹き飛ばされていた。
「ニケ。あいつは一体何なんだ!」
「あんま喋ってる暇ないけど、あれは協会の人間だよ」
「協会……帝国に抵抗する組織か」
言うが早く、カラスは剣を湖に構えた。
カラスを先頭に、左側にフクロウ、右側にハト。
長い付き合いからくる連携の良さだろうか。
戦闘陣形とでも言うのだろうか、前衛、後衛の役割をしっかり理解しているようだ。
湖からぶくぶくと泡が立ち始めた。
しばらくすると泡は止み、湖が荒れ始める。
「カラス、湖から離れるんだ!」
「それはなぜだ?」
「嫌な予感がするんだよ……」
「カラス、ニケちゃんの言うとおりにしよ?」
判断に悩んだカラスに、ハトが声を掛けた。
湖とは思えない波と共に、大量のアンデットたちが姿を現した。
どうやら新種の死霊術は、術者がいなくてもアンデットの召喚ができるようだ。
その中心にはデオドラの姿があった。
アンデットたちは生きた者に襲い掛かる習性がある。
ニケの嫌な予感は的中した。
湖から這い上がってくるアンデットの数に、カラス達は驚愕していた。
「あんな数見たことないぞ……」
「一旦引き返したほうがいいんじゃない?」
「それだと街に被害がでる。皇帝陛下はそんなこと望まないだろう」
「となるとだ、俺達がデオドラを倒さないといけないってことだな」
大量のアンデットを目の前にして、この落ち着きはなんだろうか。っとカラスは思ったのだ。
そうこう考えているうちに、アンデットが陸まで迫ってきていた。
ハトが懐から丸められた紙を取り出す。
先ほど見たものとは帯の色が違う。
湖目掛けてハトが、丸められた紙を投げた。
アンデットの群れの頭上、丸められた紙は光を帯び始めると魔方陣を展開する。
種類の違う魔方陣だ。大きさだけでなく描かれている文字も違う。
水を蹴りながらアンデットが走り出した。
魔法が発動し、辺り一面を覆うほどの爆発が起きる。
爆風に晒されながらも、カラス達は湖を見ていた。
煙が流されていく。
アンデットの半数以上は吹き飛んだだろうか。
その中で、半身を失ったデオドラを見つけた。
だが、少しすると血管のようなものが身体を再生し始めた。
「うそ……一番威力あるやつだよ今の……ッ!?」
「再生能力はアンデットの専売特許ってわけか」
徐々にデオドラが近づいてくる。
「俺が引きつけるから、先に行っててくれ」
「一人でたたかうつもりか! 自殺行為だぞ!」
「負ける気なんてないさ」
自信に満ちたニケの目に、カラスはなんもいえなくなってしまった。
ニケの袖をフクロウが引っ張った。
ニケの目の前で、拳から親指を立てるとフクロウは走っていった。
「フクロウのやつ……あーもう! ニケ、倒し終わったら北側まで来いよ!」
「ニケちゃん、約束だよ!」
「あぁ、すぐに向かうよ」
ニケに声を掛けると、カラスとハトもフクロウの後に続いた。
遠くなっていく3人の背中。
アンデット特有のうめき声が聞こえる。
振り向くとデオドラが目と鼻の先まで来ていた。
「デオドラ、まさか喋れなくなったのか?」
「う、うぅ……あ、あぁぁぁぁッ!!!」
ニケを白く濁った目で睨むと、デオドラは両手を上げながら猛進し始めた。
まるで人間の走る速度ではない、ニケの全力疾走といい勝負だろう。
肉薄した距離でも、ニケは攻撃をかわして見せた。
「もう喋りかけても無駄なのか」
新たな死霊術、その成れの果てが今のデオドラだ。
アシュリーとはまた別の生ける屍。その身体能力は、かなりのものだった。
振るう腕は風を切る如く。
駆ける足は、突風の如く。
跳び上がる脚力は竜巻の如く。
身体能力だけではない、反射神経もかなりのものだ。
ニケの振るう腕は全て空を切るのみだった。
どこにも隙がない……。
ニケは、近接戦に持ち込むのはこちらに利がないと考えた。
考えると同時に距離を置くために走り出す。
「文字の神、リーディアの名のもと。我、ニケ・スワムポールが命ず!」
ニケの背中。文字の神の刻印が光を放ち始める。
刻印を撫でるかのように。
一本の魔線が左手から引かれ始める。
「綴ろう!
″我、文字の神との契約を果たし者。
汝ら、文字の精霊に告げる。
集え! 我が下に。
集え! 綴るために。
集え! 文字の神に捧げる文字を成すために!
綴り手は一人、我が名はニケ・スワムポール。
我が声に応え、その姿を顕現せよ″!」
大規模な魔方陣の展開。辺り一面を覆うかのように光が駆け抜ける。
天を覆う緑色のカーテン。
地から浮き出る文字の数々。
ニケの目の前に現れた人影。
なびく長き緑色の髪。
ニケを見据える、鋭き瞳。
目が合うと微笑を浮かべる彼女。
「やぁ、ニケちゃん。やっと姿を取り戻せたよ」
「え、リーディア? 文字だけの存在じゃなかったのか」
「うん、そうだよ」
「っと、話をしている暇はないんだ」
力なく歩くデオドラ。
ニケは、デオドラに指を指した。
「あれ倒さなきゃいけないんだ」
「またやばそうなのとたたかってるね」
「やばそうじゃなくてやばい。んじゃ、綴りますかね」
「はーい。みんな、私の主に力を!」
言うが早く、ニケの身体に無数の文字達が纏わり付き始めた。
ふと、魔編みの鞄に文字達が寄っていく。
「魔編みの鞄に何かあるのか?」
「んー。ニケちゃんが雷属性魔法ばっかり使うから、みんな好きになったみたい」
「ってことは……」
魔編みの鞄から雷属性の書をだすと、文字の精霊達が嬉しそうに纏わり付く。
文字の精霊達は書物を持ち上げ始めた。
ニケの周りをページをを開きながら漂う書物。
そして、ニケの前で止まった。
「この呪文を読めって事か?」
「たぶんそうだと思うよ? この子達、使える呪文とかわかってるみたいだから」
そこに記された呪文。
雷属性第一位階魔法『ライトニング』――直線状に一本の稲妻を放つ。
稲妻は貫通性に優れ、通電性のあるものなら撃ち抜くことが可能だ。
直線状攻撃系魔法。
雷属性第一位階魔法『サンダーチェーン』――稲妻と共に、敵を捕縛する鎖を任意の対象へと放つ。
捕縛系魔法。
雷属性第二位階魔法『ライトニングステップ』――前後左右4方向、上方下方への稲妻と化しての移動系魔法
雷属性第二位階魔法『雷電の落砲』――雷電の咆哮の上位種。
任意の場に魔方陣を展開でき、上空から雷電の咆哮を放つ。座標指定型範囲系魔法。
4つの呪文と魔法を、文字の精霊たちは選んだのだ。
「共に綴ろう……」
呪文を覚え、ニケは両手から双線を引き始めるのだった……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる