夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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78話「綴り手と不死者と」

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 文字の精霊と共に、呪文を綴る。
 手に纏わりつく文字の精霊たちは、どこか楽しそうだ。
 唸り声が近づく。
 振り向く先にはアンデットと化したデオドラ。
 その後ろに続くアンデットの群れ。
 
「綴ろう。
″我、稲妻を司る物。
撃ち抜け、汝が誇る稲妻で!″」
 
 呪文を綴り終えると共に、文字の精霊達が重なり始める。
 6層に重なった呪文。
 全ての呪文に魔力が帯びた。
 
「貫け、ライトニング!」

 魔法名を叫ぶ。
 呪文が光を放ち、魔方陣と化す。
 ニケを背に、24の魔方陣が展開された。
 それぞれが重なることなく展開される魔方陣。
 ニケは、手で銃の形を作った。
 そのままデオドラ目掛けて銃を構える。
 魔方陣がデオドラを捉えた。
 
「一発ずつなんて勿体無い……」

 銃の形を成した手。
 その手を、バンっと言う声と共に少し上に動かしてみせる。
 魔法の発動。
 24発の稲妻が、デオドラ目掛け放たれた。
 その身体を貫通する。と、同時に焦げ臭さが漂う。
 膝をつくデオドラ。
 だが、デオドラの回復力は凄まじく、すぐに立ち上がる。
 ただ魔法を放つだけでは倒せない。

 だが綴れる魔法は雷属性のものばかりだ。
 このままでは、長期戦になり魔力が尽きる。
 それだけは勘弁だぜ。
 徐々に近づくアンデットの群れ。
 攻撃を仕掛けてくる様子がないデオドラ。
 両手から双線を引き始める。
 
「綴ろう。
″我、雷を操りし物。
汝、我が声に応え天から駆ける稲妻を。
敵を弾き、叩き伏せよ!″」

 文字の精霊達が、呪文に重なり始める。
 5層に重なる呪文。
 先ほどより1層少ない。
 制限でもあるのだろうか。もしくは位階序列と関係が。
 呪文が魔力を帯び始める。

「雷電の落砲!」

 呪文が形を成し、デオドラを中心に魔方陣が頭上に展開。
 他のアンデットの頭上にも幾つか展開される。
 ニケは、魔法を発動させようとした。
 だが、目の前にいるデオドラの姿がない。
 一体どこに。
 気づくが遅く、デオドラはニケの背後へと移動。
 急いでデオドラに意識を向け、魔方陣の座標指定をする。
 ニケの腹部へと、デオドラの腕が猛威を振るった。
 かわそうとするが、ニケの反射神経の上を行くデオドラの動体視力。
 反応できずに、腹部へと幾度となく攻撃を食らった。
 腹部への痛みは並外れた激痛だ。
 腹部を押さえるニケに、デオドラの蹴りが襲い掛かる。
 顔を目掛けて足が迫る。間に合わない……。
 ニケは歯を食いしばった。
 顔に伝わる足の感覚。
 痛みより先に、身体が吹き飛ぶ。
 水辺に身体を転がされた。
 濡れる服。
 次第に感じる痛み。
 いや、痛みを通り越して熱と錯覚しているようだ。
 起き上がるが遅く、デオドラがニケの頭を掴む。
 持ち上げられる身体。
 腹部の痛み、頬の熱。力なくうな垂れる腕。
 トドメを刺すかのように、デオドラは腕を振り上げる。

「まだ終わらせる気はないぜ」

 終わらせる気がない、その言葉に、デオドラは動きを止めた。
 まだ言葉が通じるのか。いや、危険を察知したのだ。
 頭上に展開された魔方陣。
 瞬時に魔法が発動した。
 降り注ぐ衝撃波。
 首の骨を折り、背骨、股関節、膝、足首を粉砕していく。
 横目に見えるアンデットの群れも、同じ状態でミンチになっていた。
 ニケは、すぐさま水辺を避けた。
 魔法による、稲妻の感電を回避するためだ。
 すぐさま双線を引く。

「綴ろう。
″我、捕縛を望むもの。
汝、その流れる稲妻を鎖と化し、捕縛を成せ!」

 ニケの意識内での文字の精霊の制御。
 数はいらない、動きさえ止めれればそれだけで充分だ。
 呪文に魔力が帯びた。

「サンダーチェーン!」

 魔法の名を叫ぶ。
 呪文が形を成し、4つの魔方陣を展開する。
 すぐさま、デオドラに意識を向け、魔法を発動させた。
 魔方陣から放たれる、紫色の光を帯びた鎖。
 手首、足首を掴み、その身体を宙へと晒した。
 錬金術を発動させる。
 左手の練成の籠手に魔力が宿る。
 そのまま刀を練成。
 右手で双線を引く。

「さぁ、これで終わりにしようじゃないか。
綴ろう。
″我、稲妻、雷と共にある者。
汝の力を我の物とし。
我を稲妻と化し、共に駆けよ」

 文字の精霊達が、呪文に重なり始めた。
 位階序列があがるにつれ、文字数が増える。
 呪文が魔力を帯びる。
 ニケはデオドラを見据える。

「……ライトニングステップ」
 
 姿勢を屈め、小さく呟く。
 呪文が形を成し、20の魔方陣がニケの足元に展開された。
 発動させると同時に駆ける。
 その身体が、稲妻と化した。
 一瞬で移動する視界。
 気づくと、デオドラを通り過ぎていた。
 目に意識を集中させる。
 徐々に遅くなる世界。
 ニケの能力。反射神経、動体視力を人の領域からかけ離れた領域へと踏み入れる。
 見える世界は0、1秒の10分の1秒。
 その状態から魔法を発動させた。
 刀を振るい、なんとかデオドラの身体を斬る。
 往復による剣劇。
 切り刻まれる身体は、無残にも両断されていく。
 視界が速度を取り戻し始めると同時に、魔方陣を使い切った。
 名の通りのミンチになったデオドラの身体。
 この状態からでも再生ができるのか、ミンチとなった身体が動き始める。
 間に合うか。
 最後の魔力を使い切り、最後の魔法を綴り始めた。

「綴ろう。
 ″我、火を志す者。
汝、その火の力を敵にぶつけよ″」

「ニケちゃん、私も力を貸すよ」

 いつの間に傍にいたのか。
 リーディアが呪文に手を添える。
 綴られた呪文が複成される。
 その数、8。
 それぞれの呪文に文字の精霊達が重なった。
 かなりの数だ、発動したら魔力不足は回避できないだろう。
 だが、この攻撃に賭けるしかない。

「ファイヤーボール!」

 成された魔方陣の数々。
 72の魔方陣が、デオドラを中心にドーム状に並ぶ。
 
「これで終わりだッ!」

 一斉に発動された魔法。
 中央にミンチとなったデオドラ目掛けて。
 着弾する火の玉が、デオドラを燃やし始める。
 赤く燃え上がる炎。
 その中に見える黒き陰。
 人影になるが早く、形を失う。
 炎の柱が高らかとそびえたった。
 ニケのもとへと歩いてくるアンデットが崩れ落ちていく。
 炎が消え、その場には白き灰のみがあった。
 
「じゃぁな、デオドラ」

 ニケの言葉に応えるかのように、白き灰は北風と共に遥か彼方へと消えていった……。
 
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