79 / 93
78話「綴り手と不死者と」
しおりを挟む文字の精霊と共に、呪文を綴る。
手に纏わりつく文字の精霊たちは、どこか楽しそうだ。
唸り声が近づく。
振り向く先にはアンデットと化したデオドラ。
その後ろに続くアンデットの群れ。
「綴ろう。
″我、稲妻を司る物。
撃ち抜け、汝が誇る稲妻で!″」
呪文を綴り終えると共に、文字の精霊達が重なり始める。
6層に重なった呪文。
全ての呪文に魔力が帯びた。
「貫け、ライトニング!」
魔法名を叫ぶ。
呪文が光を放ち、魔方陣と化す。
ニケを背に、24の魔方陣が展開された。
それぞれが重なることなく展開される魔方陣。
ニケは、手で銃の形を作った。
そのままデオドラ目掛けて銃を構える。
魔方陣がデオドラを捉えた。
「一発ずつなんて勿体無い……」
銃の形を成した手。
その手を、バンっと言う声と共に少し上に動かしてみせる。
魔法の発動。
24発の稲妻が、デオドラ目掛け放たれた。
その身体を貫通する。と、同時に焦げ臭さが漂う。
膝をつくデオドラ。
だが、デオドラの回復力は凄まじく、すぐに立ち上がる。
ただ魔法を放つだけでは倒せない。
だが綴れる魔法は雷属性のものばかりだ。
このままでは、長期戦になり魔力が尽きる。
それだけは勘弁だぜ。
徐々に近づくアンデットの群れ。
攻撃を仕掛けてくる様子がないデオドラ。
両手から双線を引き始める。
「綴ろう。
″我、雷を操りし物。
汝、我が声に応え天から駆ける稲妻を。
敵を弾き、叩き伏せよ!″」
文字の精霊達が、呪文に重なり始める。
5層に重なる呪文。
先ほどより1層少ない。
制限でもあるのだろうか。もしくは位階序列と関係が。
呪文が魔力を帯び始める。
「雷電の落砲!」
呪文が形を成し、デオドラを中心に魔方陣が頭上に展開。
他のアンデットの頭上にも幾つか展開される。
ニケは、魔法を発動させようとした。
だが、目の前にいるデオドラの姿がない。
一体どこに。
気づくが遅く、デオドラはニケの背後へと移動。
急いでデオドラに意識を向け、魔方陣の座標指定をする。
ニケの腹部へと、デオドラの腕が猛威を振るった。
かわそうとするが、ニケの反射神経の上を行くデオドラの動体視力。
反応できずに、腹部へと幾度となく攻撃を食らった。
腹部への痛みは並外れた激痛だ。
腹部を押さえるニケに、デオドラの蹴りが襲い掛かる。
顔を目掛けて足が迫る。間に合わない……。
ニケは歯を食いしばった。
顔に伝わる足の感覚。
痛みより先に、身体が吹き飛ぶ。
水辺に身体を転がされた。
濡れる服。
次第に感じる痛み。
いや、痛みを通り越して熱と錯覚しているようだ。
起き上がるが遅く、デオドラがニケの頭を掴む。
持ち上げられる身体。
腹部の痛み、頬の熱。力なくうな垂れる腕。
トドメを刺すかのように、デオドラは腕を振り上げる。
「まだ終わらせる気はないぜ」
終わらせる気がない、その言葉に、デオドラは動きを止めた。
まだ言葉が通じるのか。いや、危険を察知したのだ。
頭上に展開された魔方陣。
瞬時に魔法が発動した。
降り注ぐ衝撃波。
首の骨を折り、背骨、股関節、膝、足首を粉砕していく。
横目に見えるアンデットの群れも、同じ状態でミンチになっていた。
ニケは、すぐさま水辺を避けた。
魔法による、稲妻の感電を回避するためだ。
すぐさま双線を引く。
「綴ろう。
″我、捕縛を望むもの。
汝、その流れる稲妻を鎖と化し、捕縛を成せ!」
ニケの意識内での文字の精霊の制御。
数はいらない、動きさえ止めれればそれだけで充分だ。
呪文に魔力が帯びた。
「サンダーチェーン!」
魔法の名を叫ぶ。
呪文が形を成し、4つの魔方陣を展開する。
すぐさま、デオドラに意識を向け、魔法を発動させた。
魔方陣から放たれる、紫色の光を帯びた鎖。
手首、足首を掴み、その身体を宙へと晒した。
錬金術を発動させる。
左手の練成の籠手に魔力が宿る。
そのまま刀を練成。
右手で双線を引く。
「さぁ、これで終わりにしようじゃないか。
綴ろう。
″我、稲妻、雷と共にある者。
汝の力を我の物とし。
我を稲妻と化し、共に駆けよ」
文字の精霊達が、呪文に重なり始めた。
位階序列があがるにつれ、文字数が増える。
呪文が魔力を帯びる。
ニケはデオドラを見据える。
「……ライトニングステップ」
姿勢を屈め、小さく呟く。
呪文が形を成し、20の魔方陣がニケの足元に展開された。
発動させると同時に駆ける。
その身体が、稲妻と化した。
一瞬で移動する視界。
気づくと、デオドラを通り過ぎていた。
目に意識を集中させる。
徐々に遅くなる世界。
ニケの能力。反射神経、動体視力を人の領域からかけ離れた領域へと踏み入れる。
見える世界は0、1秒の10分の1秒。
その状態から魔法を発動させた。
刀を振るい、なんとかデオドラの身体を斬る。
往復による剣劇。
切り刻まれる身体は、無残にも両断されていく。
視界が速度を取り戻し始めると同時に、魔方陣を使い切った。
名の通りのミンチになったデオドラの身体。
この状態からでも再生ができるのか、ミンチとなった身体が動き始める。
間に合うか。
最後の魔力を使い切り、最後の魔法を綴り始めた。
「綴ろう。
″我、火を志す者。
汝、その火の力を敵にぶつけよ″」
「ニケちゃん、私も力を貸すよ」
いつの間に傍にいたのか。
リーディアが呪文に手を添える。
綴られた呪文が複成される。
その数、8。
それぞれの呪文に文字の精霊達が重なった。
かなりの数だ、発動したら魔力不足は回避できないだろう。
だが、この攻撃に賭けるしかない。
「ファイヤーボール!」
成された魔方陣の数々。
72の魔方陣が、デオドラを中心にドーム状に並ぶ。
「これで終わりだッ!」
一斉に発動された魔法。
中央にミンチとなったデオドラ目掛けて。
着弾する火の玉が、デオドラを燃やし始める。
赤く燃え上がる炎。
その中に見える黒き陰。
人影になるが早く、形を失う。
炎の柱が高らかとそびえたった。
ニケのもとへと歩いてくるアンデットが崩れ落ちていく。
炎が消え、その場には白き灰のみがあった。
「じゃぁな、デオドラ」
ニケの言葉に応えるかのように、白き灰は北風と共に遥か彼方へと消えていった……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる