夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

文字の大きさ
93 / 93

92話「入学試験 その1」

しおりを挟む

 その日の夜、ベットに横になっていたニケは疲れていたのかすぐに寝息をたて始めた。そんな横顔を、ベットの端に座りながらミーチェが眺めていた。すっかり成長してしまった弟子に対し、思うところでもあるのだろう。

「とうとう私を追い抜いたのか……
思えばなんで弟子にしたのだろうか、今となってはわからないな。そして、お主と初めて出会ったあの日から全てが変わった、本当に感謝しているのだぞ?」

 返事が返ってくるはずもない横顔にささやくミーチェは、どこかしら寂しそうな顔をしていた。
 どこか寂しそうに、それでいてどこか楽しそうに。そんなミーチェが考えているのは父の顔だった。昔から一緒に生活をしていた父がいなくなってからと言うもの、孤独を突き通しながら森からあまり出ようとしなかった――ニケと出会うまでは。
 ニケと出会って、村を救い、そして旅にでた。やがて仲間が増えて、旅は楽しくなった。

 旅はこんなに楽しかっただろうか。

 ふと思い返す父との旅。あの旅に意味はあったのか、ただ協会を恐れて逃げ出したのではないだろうか。ユッケルで過ごし始めてから考えるのを止めていた辛い過去。母親が殺され、父親と王都へ逃げた記憶。

 今となってはどうでもいいことに感じる。

 大切なもの。
 ただその言葉に胸が熱くなるものを感じながら、寝息を立てる弟子の頭を撫でた。

「ほんと、お主といると世界が変わって見える。
なにかあれば、お主はすぐに飛び出していく。いずれ、私の下からも飛び出して行ってしまいそうで心配だぞ……」

 撫でられて幸せそうに微笑むニケ。
 
 優しく撫でる手。
 嬉しそうな笑顔。

 幸せ、ただその一言だった。

 顔を近づけーーその頬にキスをした。

「おやすみ、ニケ。
明日から入学試験が始まるから、頑張るのだぞ」

 そう言うとミーチェはベットから離れ、部屋を出て行った。

 誰もいない部屋の中、少し照れくさそうな顔をしながら少年は何もない虚空へ、

「ありがとう、師匠」

 と。呟いた。



 朝日が窓から差し込む。
 眩しさと共に、頬を舐める相棒に起こされたニケ。白いもふもふに顔を埋め、肌寒さを和らげようとしたがその毛皮は雪の如くひんやりとしていた。

「シロ……冷たい!」

 ぴょんっと飛び起きると、寝巻きから普段着へと着替える。そして、部屋の扉を開け、廊下へと足を踏み出す。

 今日から入学試験だ。

 まるで高校の受験をしたときと同じような緊張感に駆られながら、廊下を歩き玄関を目指した。

 外に出ると、そこは辺り一面雪で覆われていた。たった一晩で積もった雪とは思えないほどの光景。掻き分けられた屋敷の前のベンチで王とミーチェが話しをしていた。だが、邪魔をするのは悪いと思い、ニケは食堂へと足を向けることにした。

 食堂には先客がいた。
 赤い長髪のポニーテールに、茜色の瞳。美形の顔立ち、以前どこかで見たような気がする。
 そんなニケに気が付いたのか、彼女は勢いよく立ち上がると此方を指しながら、

「なんで君がここにいるのよ! 貴族でもなんでもないでしょ!」

 と。再会早々に声を張り上げられた。
 対するニケは、やれやれといった感じに肩を落とし無言のまま席に着いた。

「なんで無視するのよ……」

 心なしか寂しそうなオーラを醸し出し始める彼女。

「はぁ……なんでって、俺は西の魔女の弟子だからだよ」
「っは! そんな嘘に騙されるほど馬鹿ではないわ」

 これ以上何を説明すればいいのだろうか。
 ふとした事から顔見知りではあるが、身の上話をしたことがない上に相手の事も不明の状態。こんな状況下に置かれ、なおかつ嘘と決め付けられては説明のしようがない。そして、なによりなぜ彼女がここにいるのか。ただそのことだけが、ニケの中で引っかかっていた。
 しかし、彼女の最初に口にした言葉。「貴族」という単語が気がかりでもある。
 貴族以外ここに入れないのかな。
 そう考えると納得がいく話である。彼女は貴族で、どこからしらの名家の出なのだろうと。

「それで? 本当はなんでここにいるのよ」
「だから、西の魔女の弟子って言ってるじゃん……」
「まだそれ言うの?」
「まだって、事実だし。別に嘘なんてついてないし」

 その後も何度も説明を求められたが、「西の魔女」としか答えなくなったニケに対し興味をなくしたのだろう、彼女は話しかけてこなくなった。
 無言のまま気まずい雰囲気に呑まれ、朝食を済ませたニケは王とミーチェの下へと行くことにした。
 なぜかその後ろについてくる彼女のことは、もうこの際無視でいいだろう。
 そう考えながら玄関を出て、王とミーチェの座るベンチを目指した。

「起きたか、ニケ」
「朝からなにを強張った顔をしておる。もう少し肩の力を抜くがよい」

 2人に声を掛けられ、ニケは頭を掻きながらミーチェの隣に座った。すると、王は目の前に佇む彼女に目を向けると、

「ふむ。朝から入学試験の試験官とご対面をしておったとはのう」
「試験官? この人がそうなんですか?」
「うむ。彼女は魔法学校在籍の一年生主席の生徒だ」

 王の説明に、ニケは少し驚いた様子で彼女を窺った。目が合うと、彼女は胸を張りながらふんっと息を吐き出した。紹介されたのが嬉しいのか、その頬は若干の茜色を帯びていた。

「私の名前は、エレナ・テルフィオーレ。公爵家の三女であり、魔法学校一年生の主席です」

 胸に手を当てながら、エレナは高らかに自己紹介をして見せた。纏うオーラからお嬢様のような雰囲気は感じ取れるが、どことなく庶民のような口ぶりに違和感を感じるニケであった。
 流石に三女と言うこともあり、放任されて育ったのではないだろうか。しかし、家名を背負う身としてそれはないと思うが、王都の城下町を自由に歩き回るのはいささか自由過ぎなのではないだろうか。
 そんな事を考えていると、3人の目線がニケに集まった。
 どうやら自己紹介をしなければならないようだ。

「お、俺はニケ・スワムポール。西の魔女の弟子だ」
「……それって、本当なの?」
「うむ。ニケは私の弟子だぞ?」
「そ、そうなんですか」
 
 本人の言うことだ。流石に確信をもてたのか、エレナのニケを見る目が少し変わっていた。
 そして、今日の試験官であるエレナを前に、ニケは少し引き締まった表情を見せるのであった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

わこつ
2017.10.12 わこつ
ネタバレ含む
2017.10.13 ゆめびと

ありがとうございます。
間違えてネタバレっての押してしまったとか言えません( '-' )

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。