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番外編
Valentine side天音
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チョコレートケーキ、フォンダンショコラ、キャラメル……
子供の頃からお菓子作りは好きだった。レシピ本をめくりながら、私は大甘いものが好きな優しい彼のことを考える。彼が珈琲もブラックで飲めない甘党で、実はチョコレートやお菓子が結構好きだ、というのを知ったのはつい最近。最初に付き合っていた頃は無理していたらしく、私に合わせてブラック珈琲を頼むことが多かったので知らなかった。
彼と付き合うのは二度目。一回は自分の身勝手で彼を振り回して、傷つけるだけで終わってしまった。そして二度目、思いが通じ合った今、知らなかった彼の一面を知っていくことがうれしい。
「うん、我ながら、いい出来。」
私は机に並んだお菓子の山を見て口元を緩めた。
どれにするか迷って気になるものを一通り作ってみたが、なかなかうまくいった。
あとは彼に会って渡すだけ。そう思うと少し胸が高鳴った。
***
「あ、もしもし、大貴くん?渡したいものがあって…どこかで会えないかな…?」
自分から電話をするのは久しぶりで、少し緊張する。
バレンタインには少し早いけれど、当日バレンタイン企画のプロモーションに参加することになっていた私は、少し早めに渡そうと決めた。
大貴君は会社の研修、私は企画準備でばたばたと忙しく、ここ最近会えていない。彼のことを思ってお菓子を作っていたせいか、今、無性に顔が見たかった。
『あ、えっと…今家で』
「そうなの?そしたら、これからそっち行っても大丈夫?」
『それが…ちょっと…』
いつもなら、もちろんだよ、と返してくれる彼が微妙な反応で、急に不安になる。
「あ…その、迷惑だったら、また今度にする、けど…」
『いや!待ってすぐ片づけるから!ちょっとゆっくりめに来て。』
「え…でも、」
『大丈夫、なんとかする!』
そういうとぶちっと電話がきれる。
いつもと様子の違う大貴君に心配になった。先ほどの浮かれた気分がしぼんでいく。
どうしたのだろう。まさか、浮気?大貴君に限ってまさかね。でも……。
まさかと思いながら若干の疑惑も残しつつ、私はお菓子を詰めて家を出た。
***
「いらっしゃい。お茶飲む?」
出迎えてくれた大貴君はいつもどおりで、拍子抜けする。
「うん…」
けれど先ほどの態度が気になって、私は普段通りの反応ができない。なんとなくぎこちない空気が漂って、大貴君が首を傾げた。
「どうしたの?」
「ううん…あ、手伝うよ。」
キッチンに足を踏み入れて、あれ、と思う。心なしかなんだか甘い匂いがするような……
「あ!いいよ、大丈夫、座ってて」
慌てる大貴君に疑惑が向く。
「……大貴君、なんか隠してる?」
「え!?」
あからさまに声がひっくり帰った大貴くんに確信をもって、私は彼に詰め寄った。
「なんか、今日、大貴君様子おかしいよね…」
「そ、そうかなぁ…」
「そうだよ!」
「そんなこと……」
じりじりと後退していく大貴君を追いかけて、私ははた、と気が付く。流しに置かれたチョコがこびりついたボールと、泡だて器、それと普段彼が使わない生クリームのパック、これってもしかして————
「これって……」
ばれちゃった、と大貴君がため息をついた。
「………お菓子って難しいんだね。」
「もしかして作ってたの…?」
「バレンタインだから、僕も作ってみたくて。逆チョコっていうんだっけ?サプライズしようと思って。でも、全然うまくいかなくてさ。」
バツが悪そうにうつむく大貴君の後ろに、小さなカップケーキがおいてあることに気が付いて、私は手に取る。少し形の悪いそれは色々思考錯誤したのか、アイシングやらなにやらでゴテゴテにデコレーションされていた。
「うれしい…食べていい?」
「駄目だよ、美味しくないよ。」
全然膨らまないんだ、と少しすねたように言う大貴君が可愛くて笑ってしまう。
「いいの、大貴君が作ってくれたものなら、なんでも嬉しい。」
「天音さん……」
「実は私も作ってきたの。食べてくれる?」
「もちろんだよ…!」
嬉しそうに笑う大貴君に、私もつられて笑顔になる。
「じゃあ、向こうでお茶を入れて一緒に食べよう。」
大貴君がうきうきとお湯を沸かし始める。その背中が愛おしく思えて、私はぎゅっとしがみついた。
「あ、天音さん…ちょっと…あの、そんな、引っ付かれると僕……」
「……今度は、一緒に作ろ?多分、絶対美味しくなるよ。」
大貴君はおなかに回った私の手をぎゅっと握り返すと、くるりとこちらに向き直り、優しいついばむようなキスをした。
「うん…約束。」
子供の頃からお菓子作りは好きだった。レシピ本をめくりながら、私は大甘いものが好きな優しい彼のことを考える。彼が珈琲もブラックで飲めない甘党で、実はチョコレートやお菓子が結構好きだ、というのを知ったのはつい最近。最初に付き合っていた頃は無理していたらしく、私に合わせてブラック珈琲を頼むことが多かったので知らなかった。
彼と付き合うのは二度目。一回は自分の身勝手で彼を振り回して、傷つけるだけで終わってしまった。そして二度目、思いが通じ合った今、知らなかった彼の一面を知っていくことがうれしい。
「うん、我ながら、いい出来。」
私は机に並んだお菓子の山を見て口元を緩めた。
どれにするか迷って気になるものを一通り作ってみたが、なかなかうまくいった。
あとは彼に会って渡すだけ。そう思うと少し胸が高鳴った。
***
「あ、もしもし、大貴くん?渡したいものがあって…どこかで会えないかな…?」
自分から電話をするのは久しぶりで、少し緊張する。
バレンタインには少し早いけれど、当日バレンタイン企画のプロモーションに参加することになっていた私は、少し早めに渡そうと決めた。
大貴君は会社の研修、私は企画準備でばたばたと忙しく、ここ最近会えていない。彼のことを思ってお菓子を作っていたせいか、今、無性に顔が見たかった。
『あ、えっと…今家で』
「そうなの?そしたら、これからそっち行っても大丈夫?」
『それが…ちょっと…』
いつもなら、もちろんだよ、と返してくれる彼が微妙な反応で、急に不安になる。
「あ…その、迷惑だったら、また今度にする、けど…」
『いや!待ってすぐ片づけるから!ちょっとゆっくりめに来て。』
「え…でも、」
『大丈夫、なんとかする!』
そういうとぶちっと電話がきれる。
いつもと様子の違う大貴君に心配になった。先ほどの浮かれた気分がしぼんでいく。
どうしたのだろう。まさか、浮気?大貴君に限ってまさかね。でも……。
まさかと思いながら若干の疑惑も残しつつ、私はお菓子を詰めて家を出た。
***
「いらっしゃい。お茶飲む?」
出迎えてくれた大貴君はいつもどおりで、拍子抜けする。
「うん…」
けれど先ほどの態度が気になって、私は普段通りの反応ができない。なんとなくぎこちない空気が漂って、大貴君が首を傾げた。
「どうしたの?」
「ううん…あ、手伝うよ。」
キッチンに足を踏み入れて、あれ、と思う。心なしかなんだか甘い匂いがするような……
「あ!いいよ、大丈夫、座ってて」
慌てる大貴君に疑惑が向く。
「……大貴君、なんか隠してる?」
「え!?」
あからさまに声がひっくり帰った大貴くんに確信をもって、私は彼に詰め寄った。
「なんか、今日、大貴君様子おかしいよね…」
「そ、そうかなぁ…」
「そうだよ!」
「そんなこと……」
じりじりと後退していく大貴君を追いかけて、私ははた、と気が付く。流しに置かれたチョコがこびりついたボールと、泡だて器、それと普段彼が使わない生クリームのパック、これってもしかして————
「これって……」
ばれちゃった、と大貴君がため息をついた。
「………お菓子って難しいんだね。」
「もしかして作ってたの…?」
「バレンタインだから、僕も作ってみたくて。逆チョコっていうんだっけ?サプライズしようと思って。でも、全然うまくいかなくてさ。」
バツが悪そうにうつむく大貴君の後ろに、小さなカップケーキがおいてあることに気が付いて、私は手に取る。少し形の悪いそれは色々思考錯誤したのか、アイシングやらなにやらでゴテゴテにデコレーションされていた。
「うれしい…食べていい?」
「駄目だよ、美味しくないよ。」
全然膨らまないんだ、と少しすねたように言う大貴君が可愛くて笑ってしまう。
「いいの、大貴君が作ってくれたものなら、なんでも嬉しい。」
「天音さん……」
「実は私も作ってきたの。食べてくれる?」
「もちろんだよ…!」
嬉しそうに笑う大貴君に、私もつられて笑顔になる。
「じゃあ、向こうでお茶を入れて一緒に食べよう。」
大貴君がうきうきとお湯を沸かし始める。その背中が愛おしく思えて、私はぎゅっとしがみついた。
「あ、天音さん…ちょっと…あの、そんな、引っ付かれると僕……」
「……今度は、一緒に作ろ?多分、絶対美味しくなるよ。」
大貴君はおなかに回った私の手をぎゅっと握り返すと、くるりとこちらに向き直り、優しいついばむようなキスをした。
「うん…約束。」
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