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Valentine(バレンタイン)
天邪鬼 真幸×妙
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自分でも素直でないことは重々承知している。
可愛げがない、と何度も言われた。
未だかつて好きになった男にチョコレートを贈ったことなどない。それは男性に全く興味がなかった、というのも理由の一つだが、友人達にせっつかれることが、妙の天邪鬼に拍車をかけていたのも事実。
『―――君、妙ちゃんのこと好きなんだって。チョコあげなよ。』
「境君にチョコあげるんでしょ。」
「――持ってきてません。」
今日何度目か分からない冷やかしに、冷たく答える。
それでも今年は、買おうか本当に悩んだ。
『妙ちゃんはもちろん俺にチョコくれるよねー』
けれど、ちゃらちゃらした自分の彼氏の思惑通りチョコをくれてやるのも、なんとなく癪で。いつまでたっても自分の本心を見せてくれない彼に、自分の気持ちをさらけだすのが悔しくて。だから。
何度もチョコレートショップで買おうか、悩んで。今日も近くのコンビニで、間に合わせでも何もないよりは…とも考えてみたけれど、それでもどうしても妙はそれを手にできなかった。自分の素直じゃない性格もここまでくれば大概だ。
彼女がチョコを用意していないと知ったら、真幸はどんな顔をするのだろう。
そもそも彼女とはいうものの、自分たちは本当に付き合っているのだろうか。悶々と妙は考える。そうこうしているうちに、ゼミの時間になってしまう。真幸と顔を合わせたら、絶対に聞かれる。そう思ったら、急にゼミに行くのが億劫になる。
妙は、部屋に入ろうとドアノブに伸ばしていた手を下す。
―――今日は帰ろう。
そんなことで授業をさぼるのも馬鹿馬鹿しい気がしたが、今日は気分が重い。
くるりと背を向けた妙の手を、誰かがつかんだ。
「……!」
「敵前逃亡?」
そこにいたのは、妙が今一番会いたくない人物、境真幸その人だった。
「酷いなぁ…せっかくのバレンタインに彼氏の俺と会わずに帰っちゃうの?」
「別にそんなんじゃ……その、具合が悪くて。」
「そりゃあ、大変だ。じゃあ今すぐ帰ろう、一緒に。」
有無を言わさず、真幸が妙の手を取り、歩き出す。
「ちょ……」
「別に、バレンタインだからって無理をする必要はないんだからね。」
「っ…」
見透かされたような言葉に妙は息をとめた。
「だから。俺から逃げないでよ。」
「なん……」
「妙ちゃんが考えてることなんて、俺、簡単にわかるよ。」
余裕で笑顔さえ見せる真幸に思わず、カッとなる。
「なんなの、いっつもいっつも、余裕で。真幸なんて……」
ふと、真幸が立ち止り、その背に思いっきり鼻をぶつける。
「いた…」
「ね、俺、余裕にみえてる?」
真剣な真幸の瞳に、言葉を失う。
「……………参ったな。俺、結構、余裕ないんだけど。」
傷ついてるし、と真幸は切なく表情をゆがめた。
「今日、妙ちゃんずっと俺のこと避けてたし。分かってても、好きな子からチョコもらえないって、結構しんどいんだからね。」
「………………」
「手、出して。」
「え」
手渡されたのは可愛くラッピングされた、お菓子の手作りだった。
「作ってみました、俺の愛をこめて。妙ちゃんは絶対どうでもいいことで悶々してるって分かってたからさ。」
いたずらっぽく真幸が笑う。
「彼氏彼女どっちが渡すとか、どっちでもいいし。でも、俺、せっかくだから妙ちゃんと恋人のイベント、すごしたかったから。」
最近、帰るのが早かったのは、女の子達と話していたのは、まさか全部―――。
「食べて食べて」
口に含んだクッキーは甘くほろほろととけた。
「美味しい?俺にも食べさせてー、なんちゃって」
妙はクッキーを口に含んだまま、真幸の唇に己のものをかぶせた。
「美味しい?」
唇を離すと、真幸が頬を真っ赤にそめて狼狽えていた。
「不意打ちは、ずるい…」
いつも余裕綽々な彼の表情が崩れることに優越感を覚え、妙はたまにはこんな日もいいな、なんて思うのだった。
可愛げがない、と何度も言われた。
未だかつて好きになった男にチョコレートを贈ったことなどない。それは男性に全く興味がなかった、というのも理由の一つだが、友人達にせっつかれることが、妙の天邪鬼に拍車をかけていたのも事実。
『―――君、妙ちゃんのこと好きなんだって。チョコあげなよ。』
「境君にチョコあげるんでしょ。」
「――持ってきてません。」
今日何度目か分からない冷やかしに、冷たく答える。
それでも今年は、買おうか本当に悩んだ。
『妙ちゃんはもちろん俺にチョコくれるよねー』
けれど、ちゃらちゃらした自分の彼氏の思惑通りチョコをくれてやるのも、なんとなく癪で。いつまでたっても自分の本心を見せてくれない彼に、自分の気持ちをさらけだすのが悔しくて。だから。
何度もチョコレートショップで買おうか、悩んで。今日も近くのコンビニで、間に合わせでも何もないよりは…とも考えてみたけれど、それでもどうしても妙はそれを手にできなかった。自分の素直じゃない性格もここまでくれば大概だ。
彼女がチョコを用意していないと知ったら、真幸はどんな顔をするのだろう。
そもそも彼女とはいうものの、自分たちは本当に付き合っているのだろうか。悶々と妙は考える。そうこうしているうちに、ゼミの時間になってしまう。真幸と顔を合わせたら、絶対に聞かれる。そう思ったら、急にゼミに行くのが億劫になる。
妙は、部屋に入ろうとドアノブに伸ばしていた手を下す。
―――今日は帰ろう。
そんなことで授業をさぼるのも馬鹿馬鹿しい気がしたが、今日は気分が重い。
くるりと背を向けた妙の手を、誰かがつかんだ。
「……!」
「敵前逃亡?」
そこにいたのは、妙が今一番会いたくない人物、境真幸その人だった。
「酷いなぁ…せっかくのバレンタインに彼氏の俺と会わずに帰っちゃうの?」
「別にそんなんじゃ……その、具合が悪くて。」
「そりゃあ、大変だ。じゃあ今すぐ帰ろう、一緒に。」
有無を言わさず、真幸が妙の手を取り、歩き出す。
「ちょ……」
「別に、バレンタインだからって無理をする必要はないんだからね。」
「っ…」
見透かされたような言葉に妙は息をとめた。
「だから。俺から逃げないでよ。」
「なん……」
「妙ちゃんが考えてることなんて、俺、簡単にわかるよ。」
余裕で笑顔さえ見せる真幸に思わず、カッとなる。
「なんなの、いっつもいっつも、余裕で。真幸なんて……」
ふと、真幸が立ち止り、その背に思いっきり鼻をぶつける。
「いた…」
「ね、俺、余裕にみえてる?」
真剣な真幸の瞳に、言葉を失う。
「……………参ったな。俺、結構、余裕ないんだけど。」
傷ついてるし、と真幸は切なく表情をゆがめた。
「今日、妙ちゃんずっと俺のこと避けてたし。分かってても、好きな子からチョコもらえないって、結構しんどいんだからね。」
「………………」
「手、出して。」
「え」
手渡されたのは可愛くラッピングされた、お菓子の手作りだった。
「作ってみました、俺の愛をこめて。妙ちゃんは絶対どうでもいいことで悶々してるって分かってたからさ。」
いたずらっぽく真幸が笑う。
「彼氏彼女どっちが渡すとか、どっちでもいいし。でも、俺、せっかくだから妙ちゃんと恋人のイベント、すごしたかったから。」
最近、帰るのが早かったのは、女の子達と話していたのは、まさか全部―――。
「食べて食べて」
口に含んだクッキーは甘くほろほろととけた。
「美味しい?俺にも食べさせてー、なんちゃって」
妙はクッキーを口に含んだまま、真幸の唇に己のものをかぶせた。
「美味しい?」
唇を離すと、真幸が頬を真っ赤にそめて狼狽えていた。
「不意打ちは、ずるい…」
いつも余裕綽々な彼の表情が崩れることに優越感を覚え、妙はたまにはこんな日もいいな、なんて思うのだった。
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