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白の脅威
第61話 ひろし、技の切れ味に驚く
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社長とご高齢者たちはピンデチふれあい苑に入ると、ご高齢者たちは驚いた。
ピンデチふれあい苑の一階には食堂を兼ねた大広間があり、奥には音楽室、そして「大浴場 地下1階」の看板もあった。
「「おお~」」
社長はご高齢者たちを案内しながら笑顔で言った。
「まだこの全ての場所には行けませんが、体を動かす練習がてら、この施設内を自由に動き回ってみてください」
「「はい」」
ご高齢者たちは一斉に返事をすると施設の中の物を触ったり、音楽室へ行ってみたりした。
音楽室へ入った4人のおばあさんたちは、室内の機材を見て驚いた。
「あら、ラディックのドラムセットよ! アクリルドラムじゃないの」
「ねぇ見て、1959 Super Leadにレスポールよ! あたしの趣味には合うけど、選んだ人は普通じゃないわね」
「こっちのベースアンプなんてアコースティック360なのよ。相当な変わり者ねぇ」
「ちょっと! マイクはAKGよ。もう選んだ人変態ね」
「「あっはっはっは」」
おばあさんたちは今日も元気だった。
ちなみに、この機材を選んだ変態は社長だった。
その頃、食堂に座っていた元自衛官たちは自己紹介をしていた。
「はじめまして。わたくしは元陸上自衛隊陸曹長、山口と申します」
「「おおー!」」
「私は元陸上自衛隊2等陸曹、大槻です」
「同じく元陸上自衛隊2等陸曹、木下です」
「大槻さん、木下さん、宜しくお願いします」
「「はいっ!」」
大槻と木下は立ち上がると敬礼をした。
大槻と木下にとって、元陸曹長の山口は上官にあたる人物だった。
一方、元柔道のコーチだった大熊笹は、1人で施設内をウロウロしていたが、話し相手も居なかったので、なんとなく施設の外へ出てみた。
◆
大熊笹は少し歩いて時計台の前までやって来ると、ちょうどフルーツパラライズから戻ってきたおじいさんたちが前からやってきた。
大熊笹はその中に柔術衣を着たアカネを見つけると、嬉しくなってアカネに話しかけた。
「こんにちは。突然すみません。格好いい柔道着を着ていますね」
「え、ありがとう! カッコいいでしょ。じいちゃん、柔道知ってるの?」
「あ、ああ。ははは。昔、柔道をやっておりました」
「え、そうなの?」
すると黒ちゃんが慌てて間に入った。
「お、おおお、大熊笹先生ではありませんか!!」
「え、あ、はい。ははは」
「なぜ、このようなところへ!?」
「ええと、私の住んでいるマンションにこのゲームの社長さんがいらして、試験的に私たち高齢者をこの世界に連れてきてくれたんです」
「そ、そうでありましたか!」
「はい。わたしの他にも元自衛官の方や音楽をやられる女性の方も来ているんですよ」
「なるほど、知りませんでした。……しかし、大熊笹先生に会えるなんて夢のようです!」
アカネは「?」な感じで黒ちゃんに聞いた。
「え、だれ?」
「この方は、オリンピック金メダリストの大熊笹先生だ!」
「「「ええー!!」」」
しかしアカネには、優しい笑顔の、柔道とは無縁そうな老人にしか見えなかった。
「ねぇ黒ちゃん。こんな優しい感じの人が金メダリストなの?」
「ああ、わたしも動画でしか見たこの無いのだが、大熊笹先生が決勝で決めた一本背負いに感動して、わたしは柔道を始めたのだ」
「ま、まじで!?」
大熊笹は笑顔で答えた。
「そう言ってもらえると、私も生きてきた甲斐があります」
それを聞いた黒ちゃんは大慌てで頭を下げて言った。
「いえいえいえ! そんなそんな!」
するとアカネが笑顔で大熊笹に言った。
「そんなに強いなら、あたしと勝負しようよ! いいでしょ?」
それを聞いた黒ちゃんはアゴを落として驚いたが、大熊笹は嬉しそうに答えた。
「ああ、いいですね。若い方たちの技を受けてみたいです」
「じゃあさ、ここにいるイリューシュさんの家に道場があるから、一緒に行こうよ」
「おお、道場ですか! ぜひご一緒させて頂きたい!」
「イリューシュさん、いいよね」
「ええ、もちろんです。ふふふ」
黒ちゃんはアワアワしていたが、イリューシュが嬉しそうにしていたので、黙ってG区画の家へついて行った。
イリューシュは楽しそうにしているアカネと大熊笹を見て笑顔になると、念の為、社長に大熊笹のことをメッセージしておいた。
アカネは家へと続く道を歩きながら大熊笹に尋ねた。
「じいちゃん、柔道何年くらいやってたの?」
「何年? さぁ、どれくらいだろうか。ははは。たくさんやっていたよ」
「へぇぇ、でもすごいね。金メダルとったんでしょ?」
「ああ、そうだな。あの時は最高だったよ」
「あたしも、そんな瞬間を感じてみたいなぁ」
「努力と練習。それだけですな」
そんなことを話している間にG区画の家に到着した。
大熊笹とアカネと黒ちゃんは柔道の話をしながら道場へ向かうと、みんなも見学をしに一緒に向かった。
3人は一礼して道場に入ると道場の横にある部屋で柔道着に着替えて、道場に戻ってきた。
そして3人は道場の真ん中に向かい合うように座ると、正座をして深く礼をした。
「「よろしくお願いします!」」
大熊笹は立ち上がると、右手を出してアカネに言った。
「どれ、組んで投げてみなさい」
「え、まじで?」
アカネは大熊笹と組むと思わず尋ねた。
「え、じいちゃん大丈夫? この世界だと体重とかそこまで影響しないから、投げちゃうよ?」
「ああ、本気でやりなさい。そうしないと実力がわかりませんからな」
「うん、じゃあいくよ……、いやぁ!!!」
アカネは大熊笹に技を仕掛けたが、その瞬間、
「はい、よいしょ」
バッ! バタン!!
大熊笹はいとも簡単にアカネを仰向けに倒した。
大熊笹は優しくアカネの手を引っ張り上げると、アカネは起き上がりながら満面の笑顔で大熊笹に言った。
「じいちゃん、すごいな! いつ投げられたのか分からなかったよ!」
それを見ていたおじいさんたちは、あまりの技の切れ味に感動して拍手をした。
パチパチパチパチパチ!
すると黒ちゃんが大熊笹の前に出て頭を下げた。
「大熊笹先生! お手合わせ頂いても宜しいでしょうか!」
「もちろんです。かかってきなさい」
大熊笹はそう言うと、また右手を出して組ませようとした。
「恐れながら大熊笹先生! わたしも大学時代100kg超級のエースでした! ぜひ真剣にお手合わせをお願いいたします!」
「ああ、これは失礼しました。では本気で行かせていただきましょうか」
大熊笹は柔和な笑顔を浮かべると、両手を前に出して構えた。
それを見た黒ちゃんは緊張した面持ちで大熊笹の前へ出た。
そして意を決したように大熊笹に掴みかかると、力ずくで下へと押し下げた。
「おっと」
すると大熊笹は体勢を崩して一歩前へ出た。
その瞬間、黒ちゃんが素早くステップして背負い投げに入った。
「でやぁああ!」
「はい、よいしょ」
しかし大熊笹は素早く黒ちゃんの後ろ帯を掴むと、右足を大きく踏み込んで体を低く回転させ、裏投げで黒ちゃんを投げ飛ばした。
「しまっ……!」
バン!
「「おおーーー!」」
パチパチパチパチパチパチ!
大熊笹の鮮やかな技にみんなが大きな拍手を贈ると、大熊笹は少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「いやぁ、ありがとうございます。まさか、体が動かなくなった私が柔道ができるなんて」
それを聞いたアカネが大熊笹に尋ねた。
「じいちゃん、体動かないの?」
「ああ、脳の病気をしてな。今はあまり体を動かせないんだ。はっはっは」
するとアカネが大熊笹に言った。
「じいちゃん、あたし今膝を怪我してて練習できないんだ。でも、じいちゃんのお陰で柔道のヤバい世界を知ったよ!」
「それは良かった。この世界では、こんなにピンピン動ける。若い時と同じとは言えないけども柔道はできるみたいだ」
大熊笹はアカネのほうを向いて続けた。
「柔道のもっと凄い世界を見てみたいかい?」
アカネは満面の笑みで答えた。
「いいの、じいちゃん!?」
「ああ、もちろんだ。私も嬉しいよ」
「おっしゃー! 最強の先生見つけた!」
アカネは大声をあげると大熊笹に抱き着いた。
ピンデチふれあい苑の一階には食堂を兼ねた大広間があり、奥には音楽室、そして「大浴場 地下1階」の看板もあった。
「「おお~」」
社長はご高齢者たちを案内しながら笑顔で言った。
「まだこの全ての場所には行けませんが、体を動かす練習がてら、この施設内を自由に動き回ってみてください」
「「はい」」
ご高齢者たちは一斉に返事をすると施設の中の物を触ったり、音楽室へ行ってみたりした。
音楽室へ入った4人のおばあさんたちは、室内の機材を見て驚いた。
「あら、ラディックのドラムセットよ! アクリルドラムじゃないの」
「ねぇ見て、1959 Super Leadにレスポールよ! あたしの趣味には合うけど、選んだ人は普通じゃないわね」
「こっちのベースアンプなんてアコースティック360なのよ。相当な変わり者ねぇ」
「ちょっと! マイクはAKGよ。もう選んだ人変態ね」
「「あっはっはっは」」
おばあさんたちは今日も元気だった。
ちなみに、この機材を選んだ変態は社長だった。
その頃、食堂に座っていた元自衛官たちは自己紹介をしていた。
「はじめまして。わたくしは元陸上自衛隊陸曹長、山口と申します」
「「おおー!」」
「私は元陸上自衛隊2等陸曹、大槻です」
「同じく元陸上自衛隊2等陸曹、木下です」
「大槻さん、木下さん、宜しくお願いします」
「「はいっ!」」
大槻と木下は立ち上がると敬礼をした。
大槻と木下にとって、元陸曹長の山口は上官にあたる人物だった。
一方、元柔道のコーチだった大熊笹は、1人で施設内をウロウロしていたが、話し相手も居なかったので、なんとなく施設の外へ出てみた。
◆
大熊笹は少し歩いて時計台の前までやって来ると、ちょうどフルーツパラライズから戻ってきたおじいさんたちが前からやってきた。
大熊笹はその中に柔術衣を着たアカネを見つけると、嬉しくなってアカネに話しかけた。
「こんにちは。突然すみません。格好いい柔道着を着ていますね」
「え、ありがとう! カッコいいでしょ。じいちゃん、柔道知ってるの?」
「あ、ああ。ははは。昔、柔道をやっておりました」
「え、そうなの?」
すると黒ちゃんが慌てて間に入った。
「お、おおお、大熊笹先生ではありませんか!!」
「え、あ、はい。ははは」
「なぜ、このようなところへ!?」
「ええと、私の住んでいるマンションにこのゲームの社長さんがいらして、試験的に私たち高齢者をこの世界に連れてきてくれたんです」
「そ、そうでありましたか!」
「はい。わたしの他にも元自衛官の方や音楽をやられる女性の方も来ているんですよ」
「なるほど、知りませんでした。……しかし、大熊笹先生に会えるなんて夢のようです!」
アカネは「?」な感じで黒ちゃんに聞いた。
「え、だれ?」
「この方は、オリンピック金メダリストの大熊笹先生だ!」
「「「ええー!!」」」
しかしアカネには、優しい笑顔の、柔道とは無縁そうな老人にしか見えなかった。
「ねぇ黒ちゃん。こんな優しい感じの人が金メダリストなの?」
「ああ、わたしも動画でしか見たこの無いのだが、大熊笹先生が決勝で決めた一本背負いに感動して、わたしは柔道を始めたのだ」
「ま、まじで!?」
大熊笹は笑顔で答えた。
「そう言ってもらえると、私も生きてきた甲斐があります」
それを聞いた黒ちゃんは大慌てで頭を下げて言った。
「いえいえいえ! そんなそんな!」
するとアカネが笑顔で大熊笹に言った。
「そんなに強いなら、あたしと勝負しようよ! いいでしょ?」
それを聞いた黒ちゃんはアゴを落として驚いたが、大熊笹は嬉しそうに答えた。
「ああ、いいですね。若い方たちの技を受けてみたいです」
「じゃあさ、ここにいるイリューシュさんの家に道場があるから、一緒に行こうよ」
「おお、道場ですか! ぜひご一緒させて頂きたい!」
「イリューシュさん、いいよね」
「ええ、もちろんです。ふふふ」
黒ちゃんはアワアワしていたが、イリューシュが嬉しそうにしていたので、黙ってG区画の家へついて行った。
イリューシュは楽しそうにしているアカネと大熊笹を見て笑顔になると、念の為、社長に大熊笹のことをメッセージしておいた。
アカネは家へと続く道を歩きながら大熊笹に尋ねた。
「じいちゃん、柔道何年くらいやってたの?」
「何年? さぁ、どれくらいだろうか。ははは。たくさんやっていたよ」
「へぇぇ、でもすごいね。金メダルとったんでしょ?」
「ああ、そうだな。あの時は最高だったよ」
「あたしも、そんな瞬間を感じてみたいなぁ」
「努力と練習。それだけですな」
そんなことを話している間にG区画の家に到着した。
大熊笹とアカネと黒ちゃんは柔道の話をしながら道場へ向かうと、みんなも見学をしに一緒に向かった。
3人は一礼して道場に入ると道場の横にある部屋で柔道着に着替えて、道場に戻ってきた。
そして3人は道場の真ん中に向かい合うように座ると、正座をして深く礼をした。
「「よろしくお願いします!」」
大熊笹は立ち上がると、右手を出してアカネに言った。
「どれ、組んで投げてみなさい」
「え、まじで?」
アカネは大熊笹と組むと思わず尋ねた。
「え、じいちゃん大丈夫? この世界だと体重とかそこまで影響しないから、投げちゃうよ?」
「ああ、本気でやりなさい。そうしないと実力がわかりませんからな」
「うん、じゃあいくよ……、いやぁ!!!」
アカネは大熊笹に技を仕掛けたが、その瞬間、
「はい、よいしょ」
バッ! バタン!!
大熊笹はいとも簡単にアカネを仰向けに倒した。
大熊笹は優しくアカネの手を引っ張り上げると、アカネは起き上がりながら満面の笑顔で大熊笹に言った。
「じいちゃん、すごいな! いつ投げられたのか分からなかったよ!」
それを見ていたおじいさんたちは、あまりの技の切れ味に感動して拍手をした。
パチパチパチパチパチ!
すると黒ちゃんが大熊笹の前に出て頭を下げた。
「大熊笹先生! お手合わせ頂いても宜しいでしょうか!」
「もちろんです。かかってきなさい」
大熊笹はそう言うと、また右手を出して組ませようとした。
「恐れながら大熊笹先生! わたしも大学時代100kg超級のエースでした! ぜひ真剣にお手合わせをお願いいたします!」
「ああ、これは失礼しました。では本気で行かせていただきましょうか」
大熊笹は柔和な笑顔を浮かべると、両手を前に出して構えた。
それを見た黒ちゃんは緊張した面持ちで大熊笹の前へ出た。
そして意を決したように大熊笹に掴みかかると、力ずくで下へと押し下げた。
「おっと」
すると大熊笹は体勢を崩して一歩前へ出た。
その瞬間、黒ちゃんが素早くステップして背負い投げに入った。
「でやぁああ!」
「はい、よいしょ」
しかし大熊笹は素早く黒ちゃんの後ろ帯を掴むと、右足を大きく踏み込んで体を低く回転させ、裏投げで黒ちゃんを投げ飛ばした。
「しまっ……!」
バン!
「「おおーーー!」」
パチパチパチパチパチパチ!
大熊笹の鮮やかな技にみんなが大きな拍手を贈ると、大熊笹は少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「いやぁ、ありがとうございます。まさか、体が動かなくなった私が柔道ができるなんて」
それを聞いたアカネが大熊笹に尋ねた。
「じいちゃん、体動かないの?」
「ああ、脳の病気をしてな。今はあまり体を動かせないんだ。はっはっは」
するとアカネが大熊笹に言った。
「じいちゃん、あたし今膝を怪我してて練習できないんだ。でも、じいちゃんのお陰で柔道のヤバい世界を知ったよ!」
「それは良かった。この世界では、こんなにピンピン動ける。若い時と同じとは言えないけども柔道はできるみたいだ」
大熊笹はアカネのほうを向いて続けた。
「柔道のもっと凄い世界を見てみたいかい?」
アカネは満面の笑みで答えた。
「いいの、じいちゃん!?」
「ああ、もちろんだ。私も嬉しいよ」
「おっしゃー! 最強の先生見つけた!」
アカネは大声をあげると大熊笹に抱き着いた。
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