1 / 31
1章
00.プロローグ
しおりを挟む
——小さい頃から、私は英雄になりたかった。
ヴァーミリオン聖王国のアドニス家に生まれたこの私エルアリア・アドニスは、三歳の頃、専属侍女のコゼットに読み聞かせてもらった英雄譚の英雄に初めて恋をした。
その英雄譚の主人公は、このヴァーミリオン聖王国に生まれたなら誰でも知っている人物。
大昔に魔王ラグナスを倒した英雄王レイド・ヴァーミリオン。
本の中の英雄への憧れ。
それが私の原点。
どうすれば、私もレイド・ヴァーミリオンのように沢山の人を救えるのか、何をすればいいのか。
そんな漠然とした憧れへの道は、お母様が指し示してくれた。
「其はしるべの光、宵闇照らす無数の宝石。光りて導け——」
天象儀。
それが人生で初めて目にした、魔術。
母が見せてくれたその魔術は天井いっぱいに星空が広がり、キラキラと輝いて、私の目にはとても綺麗に映った。
——もし、私にもこんな魔術を使えたなら。
私も多くの人を笑顔に出来るかもしれない。 沢山の人を悲しいことから救えるかもしれない。
このとき私はそう思った。
それから、私もその魔術が使いたくて一生懸命勉強をした。
母に教えを乞い、文字を覚えて、沢山の本を読んだ。
——けれど、その憧れは儚く散った。
私には、魔術の才能が無かったらしい。
下手だとか、頭が悪いからとか、そんな理由じゃない。
そもそも魔術はきちんと唱えれれば子供にも使うことは出来る。
ではなぜ私は使えないのか。
理由は簡単、血筋だ。
母方の一族、賢王ニクス・ヘカーティアの血は呪われており、私がその呪いを受け継いだから......。
この呪いはかつて、全てを滅ぼさんとした魔王が、その死に際に相対した十三人の英雄に刻んだもの。
既に何百年と経過した今では呪いも薄まって、受け継ぐ子供はかなり珍しくなっていると言うのに、私は運悪く呪いを受け継いでしまったと言う訳だ。
おかげで私は、英雄と言う憧れへの道を一度失った......。
なんの力もない、なんの知識もない、ただの女の子が英雄になるなんて無理なんじゃないかと、そう諦めて、自分の憧れが凄く遠い存在だと思い知って落胆した。
それからは、何をするでもなく書庫で大好きな英雄譚を読む毎日。
しかし、とある日。
私は、庭でお父様が剣の稽古をしている姿を、書庫の窓から目にした。
今までも何度かやってるのを見かけた事はあったけど、ちゃんと目にしたのは今日が初めてかもな......。
気分転換に少し見てみよう。
ふと気まぐれにそう思って、私は本を閉じて窓辺に寄りかかった。
軽い準備運度から始まり、腕立て伏せ、腹筋、スクワット、最後に素振り。
そして、それらが終わると、どこから丸太を担いできて地面に突き刺した。
そっから何をするのか検討も付かず、私は静かに父の様子を見守る。
お父様は丸太の前に立つと、稽古用の木剣を構えてゆっくりと目を瞑り、深呼吸をする。
そして次の瞬間......。
——カァン!
と言う音とともに、丸太は五つに分割され地面を転がっていた。
私は雷に打たれたかのような、目が覚めたかのような感覚で、大きく目を見開いた。
お父様が動いたようには見えなかったのだ。
しかし、一瞬で丸太を五回も切り刻んだ。
そんな光景に、私はいてもたっても居られなくなり、窓辺を離れて書庫を飛び出した。
「——おとうさま!私にけんじゅつを教えてください!」
さっき私は、お父様が木剣で丸太を切った瞬間にビビっと閃いた。
魔術が使えなくても、剣で誰かを助けれるではないか、と。
体を動かすのは得意だし、剣も持てる。
それになんなら、レイド・ヴァーミリオンも剣で世界を救ったのだ。
だったら私も剣で誰かを助ければいい。
寡黙な性格のお父様は、私の唐突な申し出に珍しく目を丸くして驚いていた。
「ど、どうしたんだエル」
そりゃあ、三歳の女の子が剣を学びたいと言ったら普通は驚く。
それに、この年頃の女の子が剣に興味を持つなんてほとんど有り得ない話だ。
「エルにはまだ早いと思うぞ」
そう言って、案の定取り合ってくれなかった......。
それでも私は、それから毎日稽古の時間を狙って頼みに行くようになり。
その結果、お父様は二週間くらいで折れて、私に剣術を教えてくれると約束してくれた。
こうして私は剣術で、憧れの英雄への道を歩き出したのだった。
ヴァーミリオン聖王国のアドニス家に生まれたこの私エルアリア・アドニスは、三歳の頃、専属侍女のコゼットに読み聞かせてもらった英雄譚の英雄に初めて恋をした。
その英雄譚の主人公は、このヴァーミリオン聖王国に生まれたなら誰でも知っている人物。
大昔に魔王ラグナスを倒した英雄王レイド・ヴァーミリオン。
本の中の英雄への憧れ。
それが私の原点。
どうすれば、私もレイド・ヴァーミリオンのように沢山の人を救えるのか、何をすればいいのか。
そんな漠然とした憧れへの道は、お母様が指し示してくれた。
「其はしるべの光、宵闇照らす無数の宝石。光りて導け——」
天象儀。
それが人生で初めて目にした、魔術。
母が見せてくれたその魔術は天井いっぱいに星空が広がり、キラキラと輝いて、私の目にはとても綺麗に映った。
——もし、私にもこんな魔術を使えたなら。
私も多くの人を笑顔に出来るかもしれない。 沢山の人を悲しいことから救えるかもしれない。
このとき私はそう思った。
それから、私もその魔術が使いたくて一生懸命勉強をした。
母に教えを乞い、文字を覚えて、沢山の本を読んだ。
——けれど、その憧れは儚く散った。
私には、魔術の才能が無かったらしい。
下手だとか、頭が悪いからとか、そんな理由じゃない。
そもそも魔術はきちんと唱えれれば子供にも使うことは出来る。
ではなぜ私は使えないのか。
理由は簡単、血筋だ。
母方の一族、賢王ニクス・ヘカーティアの血は呪われており、私がその呪いを受け継いだから......。
この呪いはかつて、全てを滅ぼさんとした魔王が、その死に際に相対した十三人の英雄に刻んだもの。
既に何百年と経過した今では呪いも薄まって、受け継ぐ子供はかなり珍しくなっていると言うのに、私は運悪く呪いを受け継いでしまったと言う訳だ。
おかげで私は、英雄と言う憧れへの道を一度失った......。
なんの力もない、なんの知識もない、ただの女の子が英雄になるなんて無理なんじゃないかと、そう諦めて、自分の憧れが凄く遠い存在だと思い知って落胆した。
それからは、何をするでもなく書庫で大好きな英雄譚を読む毎日。
しかし、とある日。
私は、庭でお父様が剣の稽古をしている姿を、書庫の窓から目にした。
今までも何度かやってるのを見かけた事はあったけど、ちゃんと目にしたのは今日が初めてかもな......。
気分転換に少し見てみよう。
ふと気まぐれにそう思って、私は本を閉じて窓辺に寄りかかった。
軽い準備運度から始まり、腕立て伏せ、腹筋、スクワット、最後に素振り。
そして、それらが終わると、どこから丸太を担いできて地面に突き刺した。
そっから何をするのか検討も付かず、私は静かに父の様子を見守る。
お父様は丸太の前に立つと、稽古用の木剣を構えてゆっくりと目を瞑り、深呼吸をする。
そして次の瞬間......。
——カァン!
と言う音とともに、丸太は五つに分割され地面を転がっていた。
私は雷に打たれたかのような、目が覚めたかのような感覚で、大きく目を見開いた。
お父様が動いたようには見えなかったのだ。
しかし、一瞬で丸太を五回も切り刻んだ。
そんな光景に、私はいてもたっても居られなくなり、窓辺を離れて書庫を飛び出した。
「——おとうさま!私にけんじゅつを教えてください!」
さっき私は、お父様が木剣で丸太を切った瞬間にビビっと閃いた。
魔術が使えなくても、剣で誰かを助けれるではないか、と。
体を動かすのは得意だし、剣も持てる。
それになんなら、レイド・ヴァーミリオンも剣で世界を救ったのだ。
だったら私も剣で誰かを助ければいい。
寡黙な性格のお父様は、私の唐突な申し出に珍しく目を丸くして驚いていた。
「ど、どうしたんだエル」
そりゃあ、三歳の女の子が剣を学びたいと言ったら普通は驚く。
それに、この年頃の女の子が剣に興味を持つなんてほとんど有り得ない話だ。
「エルにはまだ早いと思うぞ」
そう言って、案の定取り合ってくれなかった......。
それでも私は、それから毎日稽古の時間を狙って頼みに行くようになり。
その結果、お父様は二週間くらいで折れて、私に剣術を教えてくれると約束してくれた。
こうして私は剣術で、憧れの英雄への道を歩き出したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜
☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。
しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。
「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。
書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。
だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。
高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。
本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。
その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる