魔術師狩りのエルアリア ~魔術が使えない少女は剣で憧れを目指す~

雪柳ケイ

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1章

31.相談と答え

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 そんなこんなで、殿下の提案を聞いてウキウキで家に帰宅した私は、日課である師匠との稽古に励んでいた。



「——どうしたのエル、今日はやけにご機嫌だね」

 木剣を正面に構え、そう声をかけてくる師匠。

「はい、今日は学院で色々とありまして。 聞きたいですか?」

「あぁ、是非ッ......!」

 なんて言いつつも、お得意の微風ゼフィを使ったとんでもない速さの踏み込みをしてくる師匠。

 そして、直後に大上段に振りあげられた木剣の素早い袈裟斬り。
 私はそれを後ろへ跳び退って回避すると、空ぶった隙を狙って木剣を下段に構えて踏み込む。

「せぁっ!」

 が、それを許すほど師匠も甘くない。
 すかさず返す太刀で逆袈裟斬りを繰り出し、私の肉薄を阻止しつつ、踏み込みの足を止めたところで間髪入れずに突きで牽制をしてくる。

 ここまでならば私にも想定内。
 こちらを近づかせない意図の突きに対して下がってたら師匠の思う壷だ。
 
 私は姿勢を低くして突きに対して前へ踏み込んだ。
 そして当たらないギリギリで身を翻し、師匠の右脇まで肉薄すると、下段に構え直した木剣を振り上げた。

 しかし、これも読まれていたらしく、師匠は半身になってこれを回避し、そのままくるりと身体を回すと、私の背中に蹴りをお見舞いしてきた。


「あうっ!」

 と、私は情けない声を漏らしながら顔から地面に倒れ込む。

 師匠はそんな私を見下しながら一息つくと、地面に突き立てた木剣に寄りかかって話しかけてきた。

「それで? 色々って、どんなことがあったの?」

 私は蹴られた背中を擦りながら立ち上ると、背後の師匠に向き直る。

 そして今日あったこと、アスク殿下の誘いからジーク殿下の提案まで全てを話した......。


「——ってことがありまして、師匠はどう思います? 特に委員会に入ることについて!」

 今日あった事の中で師匠に意見を求めたいのはやはり、学院秩序維持委員会についてだろう。

 師匠に言われた魔術師を相手に経験を積むという面ではこれ以上無い環境だと私は思う。

 しかし、アスク殿下が期待するほど私は強くない。
 お母様以外の魔術師を相手に戦ったのなんてアメリアが初めてだったし。

 そんなのでやっていけるのか、師匠に意見を貰いたかったのだ。

「そうだな......。 一応賛成かな。今のエルの実力なら程度の相手は倒せるはず。 だけど、心配なのは慣れてる魔術師を相手にした時かな。 確か、この前戦ってる時に魔力の揺らぎを感じ取れた、とか言ってたよね? あれって毎回そうなの?」

「いえ、たまにですかね.....」

 以前アメリアと戦って以来、師匠との稽古でもたまに魔力の揺らぎのようなものを感じ取れるようになっていた。

 しかし、極度に集中している時にしか感じ取れないし、そもそも感じ取れたところでどんな魔術が飛んでくるかまでは判断がつかない。
  かなり曖昧で、殆ど勘のようなものだ。

「ふむ、魔力感知はもう少しゆっくり鍛えて行こうと思ってたけど、少し早めてもいいかもな......」
 
 師匠はそう独り言のように呟いた。

「あれって鍛えれるものなんですか?」

「多分ね。エルは魔障のせいで魔力が操作できない分、感知の方は他の人より敏感なんだと思うよ。 目が見えない人は聴覚が鋭くなるって言うだろう? 」

 どうやら師匠の中ではあの感覚を研ぎ澄ませる方針で固まっていたらしい。

 確かに、魔力の揺らぎを毎回感じ取れれば魔術師相手に戦う際に有利に動ける。

 なにせ魔術の発動タイミングや位置、飛んでくる軌道まで事前に予測できるのだ。

「英雄大祭の方に関しても、俺は賛成かな。 いい経験になるだろうし」

「なら早速、始めましょう!」

「そうだね、それなら——」



 ——そうして、魔術主体の特訓が始まった。

 と言ってもやる事はあまり変わらない。
 師匠が遠距離から魔術を飛ばしてくるだけ。 それを避けるか防ぎつつ、近づいて師匠に一太刀浴びせるまでがワンセット。


 これまでの立会いで何度も魔術は使ってきてたけど、今の師匠は自ら踏み込むことをしないため、剣技に意識をさく必要がなく魔術の使用間隔や威力などが上がっている。

 ゆえに近づけば近づくほどに対処するのが難しくなり、必然的に魔力の揺らぎを感じ取って先手を取る必要が出てくるのだ。

 
「——石礫グロウム!」

 師匠が剣先を前に突き出してそう唱えると、魔力で圧縮された土の塊が飛んでくる。

 牽制はこれが主体だ。

 私が魔力の揺らぎを完璧に感じとれるようになるまでは初級魔術だけしか使わないらしく、そうなると他の属性に比べて石礫グロウムが丁度良いらしい。

 まぁ、確かに微風ゼフィ水玉アウルはいくら性質変化を加えても決め手にはならないし、灯火ヒエラに関してはちょっと間違えれば大惨事に繋がるし......。

 そうなるとやはり石礫グロウムが一番使いやすいのだろう。
 なんて、頭の片隅で考えられる余裕があるのもどうやらここまで。


 飛んできた六つの石を全て弾き落とし、地面を蹴って走り出すも、踏み込んだ先の地面を水玉アウル泥濘ぬかるみにされる。

 私がそれに驚いて足を止めと、師匠はすかさず石礫グロウムを唱えた。
 それらを弾き落とそうと剣を構えると、今度は地面の土を微風ゼフィで巻き上げ、土煙で煙幕を張る。

「なっ?!」


 ——やっぱり魔力の揺らぎを感じ取れないと全て後手に回るッ......!


 そう心の中で嘆いたのも束の間、土煙を抜けて来た石が右耳を掠め、続けて飛んできた何発もの小石が私の全身に当たって砕けた。

「ぁくっ!」

 右腿、左脇腹、左肩、右手首、右胸。
 間髪入れずに連続で命中する小石に、私は悲鳴を漏らして蹲った。

 当たった時の痛みは尋常じゃない。
 命中箇所にはどす黒い青痣が出来るほどだ。
 
「大丈夫? 今日はこのくらいにしておこうか?」

 私の悲鳴に、師匠は土煙をぬけて駆け寄って来た。

「い、いえ! 平気です!」

 私は若干、表情を歪めつつそう返事をして、地面に突き立てた木剣を頼りに立ち上がろうとする。

「本当にキツくなったら素直に言うんだぞ?」

 そう言いつつ、手を差し伸べてくれる師匠。
 私はそれに笑顔で答え、師匠の手を握って立ち上がった。

 そうして、それから日が落ちて暗くなるまでの数時間、ひたすらに師匠の石礫グロウムに打ちのめされたのだった......。



 ——次の日、学院の食堂。

「あの、エル様。 今日一日気になってたんですけど、その傷どうしたんですか?」

 昼休みの食堂で昼食を摂っているとアル兄様が心配そうに私の頬を指さして尋ねてきた。
 
「あぁこれ? 昨日、稽古でちょっと......」

 結局、昨日は一度も師匠に近づくことができずに終わった。
 魔力の揺らぎも十回に一回感じ取れるか取れないかという精度なので、ずっと後手後手で勝負にすらならない。
 去年、師匠と出会った頃の私を思い出す。


「——傷跡が残ったら大変だし、アスクにでも診てもらったら?」

 そう言って、お盆を手に話に割り込んできたのは、一週間ぶりにまともに姿を見たアル兄様だった。
 
「アル兄様! もう調べ物はいいの?」

「まぁね」

「よかった。 久しぶりにちゃんと兄様を見た気がするよ」

 屋敷でも姿をみかけることがほぼなかったから......。

 なにやら数週間前から学院の図書館に通いつめているらしく、屋敷でも書庫にこもる時間が増えたのに加えて、私も私で放課後は師匠との稽古、朝も登校時間まで剣の素振りをしているので、顔を合わせるタイミングが中々ないのだ。


「それより、エル。 アスクから聞いたよ、腕章持ちに誘われたんだって?」

 と、相変わらず眠そうな目を私に向ける兄様。

「うん、昨日ね。 丁度その件をセラと兄様に相談したいと思ってたの」

 丁度私の話したがってた話題を兄様の方から出してくれので、スムーズに説明へと移ることができた......。


「一応師匠は賛成してくれてるけど、二人はどう思う?」

「昨日のシャンティさんみたいに喧嘩を仲裁するって事ですよね? 少し不安ですけど、エル様がやりたいなら私は賛成です!」

 私の問に速攻でそう答えてくれるセラ。

「僕は反対かな、普通に危ないし。 けど止めはしないから、好きにするといいよ」

 対する兄様は私を心配しつつも尊重してくれるらしい。 実にアル兄様らしい意見だ。

「なるほど、ありがとう二人とも」

 二人の意見で、ある程度私の気持ちも固まった。
 
 今回のアスク殿下の誘いを受ける。
 それまでに、師匠との稽古で魔力の揺らぎを感じ取れるようになっておかないと......。




 ——そうして、魔力の揺らぎを感じ取る特訓を始めて二週間が経ったとある日の昼休み......。


 食堂へ向かう途中、中庭沿いの廊下でアスク殿下に声を掛けられた。

「や、エルアリア嬢! そしてセリシア嬢!」

 いきなり角から出てきた殿下に、セラと私は驚きつつも挨拶を返す。
 
「こんにちはアスク殿下!」

「こんにちは、殿下」

 このタイミングで声を掛けてくるなら秩序維持委員会の件で間違いないだろう。

「もしかして、あの話ですか?」

「話が早くて助かるね! けど、君たちもこれから昼食だろう? 立ち話もなんだし、食べながら話そうか」

 と言うことで、私達はまた殿下と食事を共にする事になった......。



「——やぁ、アル!」

 食堂前の廊下。
 壁によりかかって私達を待っていたアル兄様にいち早く気づいた殿下は、満面の笑みを浮かべ声をかけた。

 しかし、兄様はアスク殿下の顔を見るなりため息をつく。

「昼食くらい落ち着いて摂りたかった.....」

「おいおい、酷いなぁ。 なんだいその僕が騒がしいみたいな物言いは?」

「当たり前だ。 お前、僕の前だと遠慮なくはっちゃけるだろ」

 相変わらず、仲のいい様子。
 ほんとに、この二人の出会いが気になって仕方ない。

 同じクラスで二人とも魔術が得意と言うだけで、ここまでアスク殿下に気に入られるものなんだろうか。

「ま、安心してくれよ。 今日はあまりはっちゃけてられる余裕もないんだ。 エルアリア嬢の返答次第じゃ、この後かなり忙しくなるからね」

 そう言って、アスク殿下はそれまで浮かべていた笑顔を消して、真面目な表情を浮かべる。

「あっそ、ならさっさと食堂に入るか」

 と、そんなこんなでいつも通り列に並んで食事を受け取り、四人揃って席へ着く。

 それから、「大事な話は食事の後だ」と言うアスク殿下の言葉で、私達は軽い雑談をしつつ、二十分ちょっとで食事を終えた。


「さてと、それじゃ本題だ」

 いつもと変わらない穏やかな表情で話すアスク殿下。
 しかし、第一王子らしい風格と圧をどことなく感じる。

「エルアリア嬢、二週間前に尋ねた件。 答えは出たかな?」

「はい」

「それじゃあ聞かせてくれ。 学院秩序維持委員会に、入ってくれるかな?」


 ......この返事次第で、私の学院生活は変わる。
 
 ハイと答えれば、巻き込まれたくもないトラブルに自ら首を突っ込まなければ行けなくなるし、全く関わりたくもない派閥闘争とやらに巻き込まれるのは避けられないだろう。

 だけど、それを差し置いても得られる物が大きい。
 
 ——英雄になる。

 その夢を叶えるためには、今のままだと経験というものが圧倒的に足りない。
 魔術の使えないこの身体で、相手との差を埋めるには、倍以上の経験と知識、実力が必要になる。
 
 学院秩序維持委員会に入れば、その経験を少しでも積める。
 知識も実力も磨ける。

 だったら、答えは一つ。


「——入ります」

 
 私は、テーブルを挟んだ向かいに座るアスク殿下の眼を真っ直ぐ見て、力強くそう答える。

 こうして、私は腕章持ちになった。





——————
◇あとがき◇
1章はここで終わりです。
ここまで読んでくれ方ありがとうございます!
なんか中途半端ですね......。
まぁ2章はちょっと、気が向いたらにしようかな。
あんま読まれてないので、自信というかそういうのが無くなっちゃって。

アイディアはあるんですけどね。
自分の表現力のなさとか、計画性のなさがわかりました。

続きが読みたいという意見がありましたら、本腰入れて書きます。
暫くは他の作品を書くので、もし公開されたらそちらもよろしくお願いします。
もしかしたらこの作品自体一から書き直したりするかもです。
では、雪柳でした。
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