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Act・7

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 その日をさかいに、ビデオ電話で話す日の方が多くなっていた。

 蒼子に学校での出来事や美術館から見えるF灘の様子を話していた。

 出会った頃は桜が満開だったが、季節はもう緑が生い茂る初夏へと片足を踏み込んでいた。そろそろ2人が出会ってから3か月目に入っていた。「3か月」。よく聞く余命の単位だ。

 次が「半年」。そのくらいのことは晴海も知っていたが、あえて目を逸らした。だが、蒼子の余命が「出会った時点で、後3か月」だったのではないかと、晴海は感じていた。感じていたけれど、決定ではないと自分に言い聞かせていた。

「3カ月経ちましたから、もう蒼子の寿命は尽きます」。そんなことは誰にも決められない。蒼子が生きている限り、その命は蒼子のものだ。まだ輝きを失っていない。蒼子はまだ大丈夫だ。晴海は、彼女の生命力を信じていた。

 そして少なからず、その生命力に晴海自身の命を注いでいるという、理由のない確信もあった。

「そいつ馬鹿なんだよ。今日は遅刻したんだ」

「どうして?」

 ベッドに横たわった蒼子が、目を輝かせて聞いた。

「なんでだと思う? 遮断機に自分の荷物をかけたのさ。電車が通りすぎるのをぼんやりと見てたら、遮断機が上がっちゃったんだよ。遮断機にかけた荷物は、するするっと遮断機の根本まで滑って行っちゃったのさ」

「うっそー!」

 蒼子にしては大きな声で叫んだ。

「だからそいつ、次の電車が来るまでそこで待ってて、遅刻したんだ」

 晴海も楽しそうに笑った。

「楽しい友人がいるのね。でも、ちょっと抜けてるかしら」

 蒼子は舌を出して笑ったが、静かに目を閉じ、大きく深呼吸をした。

「疲れた? ごめんよ」

「ううん。楽しかったわ。でも少し疲れたかな......」

 蒼子は目を閉じたまま呟いた。

「じゃあ、そろそろ切るね。ゆっくりとお休み」

「ありがとう。またね」

 晴海は優しく声をかけると、電話を切った。

「またね」

 呟いてみたものの、再び会える日が来るとは、もう確信できなくなっていた。
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