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3 勇者パーティの後始末

19 最下層

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 最下層へとやって来た俺たちは、その異常な雰囲気に圧倒されてしまった。

 魔力濃度がとてつもなく濃いためか、肌がピリピリする感覚に襲われる。魔法をメインとするメルとリア、そして戦士であるものの魔法に長けたエルフ族であるランもこの異常な魔力濃度を感じ取ったようだ。

「明らかに尋常でない魔力量だ。これが魔人の力と言うものなのか」

「ああ、ビリビリと伝わって来る……」

「こ、怖い……」

「でも、やらなきゃいけないのよね」

 皆この雰囲気に飲まれそうになっている。戦う前からこれなのだから、実際に戦えばこの程度では済まないのだろう。

「この際経験値がどうのなんて言っていられない。出来る限りのエンチャントを施しておこう」

 身体能力強化、攻撃力強化、防御力強化、状態異常耐性、詠唱短縮……その他様々な付与魔法をかけられるだけ多重でエンチャントしておく。
 今この一瞬、俺たちはSランク冒険者パーティを超える実力となっているだろう。

「行くぞ……」

 ゆっくり、空間の中心に向かう。中心に近づくほど、より魔力濃度が濃くなっていく。呼吸を忘れてしまうほどの緊張感。そして、中心部の黒い靄まであと数歩というところで、その靄は実体を持ち始めた。

 人型に変形していく中、目立つのは大きく発達した腕だ。あの腕からとてつもない一撃を放ってくるのだろう。

「また冒険者が来たのか。今回のは随分と期待できそうだ」

「お前が……魔人ファレルロなのか?」

「そうだ、我こそが魔人ファレルロ。以前やって来た勇者パーティとやらは期待外れであったが、お前らからは違うものを感じるな」

 魔人ファレルロは勇者パーティを期待外れと言った。それだけ実力があるということだろう。
 だがそれでも、ここで逃げ帰るわけには行かない。

「魔人ファレルロよ。外ではお前のせいで異常事態が起こっているんだ。だからここでお前を倒す!」

「そうか……久々に楽しめそうだ!!」

 魔人は俺に向かってその大きな腕を振り下ろした。咄嗟のことに避けることは叶わなかったが、レベルによる防御性能と多重でかけたエンチャントによりダメージを最小限に抑えることが出来た。

「ほう、今の一撃を直に受けて形を保てるとは……やはり期待した通りであった!」

 振り下ろした腕をそのまま横方向に振り回し、俺を薙ぎ払おうとする。だが一度その速さがわかれば後は対処可能だ。
 俺は腕の届かない範囲まで跳んで、魔人の攻撃範囲を確認するべく少しずつ近づいていく。

「サザン! 詠唱が終わった!」

 少しずつだが魔人の攻撃範囲が把握出来たとき、メルの詠唱終了の合図が聞こえたため魔法の範囲外に移動する。

「ロストブリザード!!」

「その程度の魔法か。勇者パーティの魔術師も使っていたが、たいした威力では……なに?」

 メルの放ったロストブリザードは冷気の嵐を発生させ、辺り一帯を凍らせる。それは魔人も例外では無かった。

「な、なんだと? 同じ魔法のはずなのにどういうことだ……以前の者よりもレベルも低いはず」

 魔人は足を凍らされその場から移動することが出来なくなる。
 魔人は勇者パーティの魔術師より低レベルのメルが同じ魔法を放ったのにも関わらず、それがなぜ自分に効いたのかがわからないようだった。

「俺の魔法強化のエンチャントによって、今のメルの魔法の威力は数倍に跳ね上がっている。お前にも通用するレベルになっているはずだ」

 魔法強化は付与された対象の使用する魔法の威力や規模を数倍にはね上げる。その代償として消費魔力も多くなってしまうため、使い方を誤れば逆にこちらが窮地に立たされてしまうだろう。

「おもしろい、我に通用する魔法か。実に数百年ぶりだな……」

 魔人はどこか遠い目をしていたが、すぐにこちらを見直し再び腕で攻撃をしようと振りかざす。
 だがその隙にランが腕目掛けて斬りかかっていたため、魔人は防御態勢を取ることが出来ずにそのまま腕を斬り落とされた。
 多重にかけられたエンチャントによりランは今、魔人に通用するほどの攻撃力を持っているのだ。

「グアアッァアアアア!! ハァ……我の腕を斬り落とすほどの力を持つ剣士には見えなかったが……どうやら我はお前らを見くびっていたようだな」

 その言葉を最後に、魔王は姿を消した。だが、気配が消えていない。
 魔人はまだそこにいる……姿を透明にしただけだ。

「サザン! 魔人はどこ!?」

「わからない、一旦集まろう!」

 俺たちは空間の中心に集まり、全方位に意識を集中させた。
 だが姿が見えない以上、どこから襲われるのかがわからない。その恐怖が俺たちをどんどん消耗させていく。

「ぐっ……!?」

 気付いた時には、俺は後方へ大きく吹き飛ばされていた。
 致命的なダメージこそ無いものの、メルたちと距離が空いてしまう。そしてそれは魔人にとって絶好の攻撃チャンスと言わざるを得ないだろう。

「姿が見えないのは怖かろう?」

「どこ!?」

「落ち着いてリア……!」

 メルとリアはパニックになりかけている。それでも取り乱すことなく魔人の場所を探ろうとしているのは、彼女たちが強い精神を持っている証拠だろう。

「うぐっ……!」

「メル!!」

 メルが魔人の一撃を受けてしまい、吹き飛ばされる。エンチャントによってダメージは抑えられているが、それでも無敵と言うわけでは無い。このまま攻撃を食らい続ければ命の危機に瀕する。

「駄目だリア、今そこを離れたら!」

「それでも、メルを助けないと!」

 不味い、メルたちと距離が遠すぎる。彼女たちの元へ急いだとしても、たどり着くより先に魔人の攻撃を食らってしまうだろう。
 俺がそう思った刹那、ランが動いた。

「そこか!!」

 ランは突如、上方向へ剣を振りかざす。すると見えない何かが確かにランの剣に衝突した。
 ランが、リアに攻撃を行おうとした魔人の腕に斬撃を当てたのだ。

「なぜわかった……?」

「魔力の流れを読み取っただけだ」

 魔力の流れ……そうか! この魔力濃度の中、魔人は動いている。であれば、魔人が何か行動を起こす度に魔力の揺らぎが発生する。ランは剣士としての才とエルフ族としての魔力感知を活用して、魔人の大体の場所を認識しているのだろう。

 ならばそれを利用しない手はない。俺は新しく『魔力視覚』を作り、皆にエンチャントした。
 この魔力視覚は、その名の通り魔力自体を視覚的に見ることの出来る魔法だ。これがあれば、ランのように魔人の大体の場所を確認することが出来る。

「見える! 何か大きいものが動いてるよ!」

「よし、そこに一斉攻撃だ!!」

 俺とランは魔人の懐に跳びこみ、攻撃を行う。確かな手ごたえを感じているため、魔人に当たっているのは確実だろう。
 リアとメルが魔人目掛けて放っている魔法が空中で突然炸裂していることから、あちらも魔人に命中しているのは確かなようだ。
 
 そのまま攻撃を続けて数秒。もはや透明化する体力も残っていないのか、魔人は透明化を解き再度姿を現した。

「クソッ、なぜ我の居場所が……」

 その姿は最初のような威圧感のあるものでは無く、斬り落とされた腕や多くの魔法を受けた痕が目立つ凄惨な姿であった。

「魔力の流れを使って、お前の居場所を把握していた。まあ、ランがいなければ思いつきもしなかったけどな」

「そうか、魔力の流れで我を……。この土壇場でそれに気付けるとは、流石だ。……だが、お前らはここで終わることになる」

 魔人は悲しそうな笑顔をしながらそう言い放った。
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