45 / 76
7 機動迷宮
45 恐るべき起動迷宮
しおりを挟む
翌日、俺たちは本格的に起動迷宮討伐のために動き始めた。
ローラ諸島よりもさらに南方に向かったところにその迷宮はたたずんでいる。恐らくは海の中を進んで生きたのだろう。海面から腿辺りが完全に出ているが、海底から立っていることを考えるとその全長は相当なものだろう。
「あれが起動迷宮?」
「そうだろうな。あの大きさではSランク冒険者パーティと言えど簡単に同行できる相手では無いだろう。だからサザンに依頼を頼んだのでは無いか? うちのパーティリーダー様はいくつもの実績を持っているからな」
「変な言い方はやめてくれよ。俺は報酬や故郷のために戦う、ただの一般冒険者なんだから」
「龍になれる冒険者が一般冒険者だと……?」
ファルは訝し気な目で俺を見てくる。そんな目で見るな……とも言い切れないのは自分自身が一番よくわかっている。限界突破の試練を通じて、俺はもう化け物の領域なのだという事を自覚した。自覚することを強いられたんだ。
「……ああそうだよ。俺は龍になれるレベル400超えのいかれた冒険者だよ」
「そして私たちはそんないかれた冒険者のパーティメンバーね」
「そうだな。私のレベルもいつの間にか70……Sランク冒険者パーティの平均を大きく超えている」
「だったら私たちに怖いものはないよね!」
「確かにリアの言う通りだな。もう必要以上に慎重になる必要もない。だからと言って油断は禁物だ。……よし、行くぞ!」
俺たちは自分たちならいけると己に信じ込ませ、起動迷宮へと向かっていった。いかに強大な相手だろうが、俺たちならきっと倒せるはずだ。
起動迷宮まではまず船で向かう。そして、ある程度の距離まで近づいたらそこからは俺の開発した水上歩行の付与魔法を使い進んでいく。泳いでいくと言う手も無くは無い。しかしラン以外の4人は水中では動きが鈍ってしまうため、出来るだけ危険を少なくするために水上を移動する手を取った。
ある程度まで近づくが、俺たちなど気にする必要も無いと言わんばかりに歩みを続けている。
起動迷宮はゆっくりではあるが確実に前へと進んでいく。このまま進めばローラ諸島は壊滅してしまうだろう。昨日の宿の様子から、あの島の者たちはこのまま島で暮らし続けることを望んでいる。あの島で生きている人々の生活が懸かっている。
……絶対に負けられない戦いだ。
「まずは足を破壊し移動を止める! ファル、ランは直接攻撃をしてくれ!」
「了解だ。ファルは右を頼んだぞ」
ファルは右足に、ランは左足に向かって行き、攻撃を始める。今回は他の者に見られる心配が無いためファルは最初から魔人の力を解放して攻撃を行っている。
二人が直接攻撃をしている内に、俺はメルとリアに付与魔法をエンチャントしていく。いつものように詠唱共有を行い強力な魔法を連発していく作戦だ。
攻撃を続けるファルとランの二人だが、その攻撃は一切の慈悲も無く弾かれてしまう。どうやら次元迷宮で出会った魔物と同じような素材なのか凄まじい強度をしているようだ。であれば物理的な攻撃が効かないのも仕方が無い。メルの爆発系魔法の出番だろう。
詠唱が終了し次第メルはファルとランを避けて、起動迷宮の腰の辺りに魔法攻撃を行う。数発でどうにか出来るとは思っていないため、俺はメルの魔力を維持するために魔力ポーションを生成していく。とは言え俺は錬金術師と違いポーションを作り出せるのではなく、あくまで既存のポーションに追加効果を付与することが出来るだけだ。所持している分が切れれば一度船に戻り積んであるポーションを回収しなければならない。
だが、どうやらその必要もないようだ。
メルの撃つ魔法はその全てが意味を持たなかった。大規模な爆発魔法による攻撃でも、一切の傷が付かなかったのだ。以前、次元迷宮の奥底でルカたちと共に戦った魔物よりもさらに硬いと言って良いだろう。
……やはり俺の龍転身、巨砲龍による全力の魔力砲しか無いようだ。
俺はメル達を下がらせ龍転身を使用する。
相変わらず恐ろしい痛みに襲われるが、それでも転身後の能力と比べれば安いものだろう。
今回は海のど真ん中での戦いであるため、巨砲龍としての力を制御する必要もない。全力で攻撃をしても、それによる被害を受ける物はこの辺りには無い。
全魔力を体の中心の砲塔に集め、起動迷宮に向かって撃ち込む。巨大な魔力の塊が起動迷宮を包み込み、その姿を隠す。これで終わる。そう考えていたのもつかの間、霧散した魔力から現れる起動迷宮の姿が俺たちの表情を曇らせたのだった。
「嘘……サザンの全力でも駄目なの……?」
「何という強度だ……」
ほんの少し傷は付いているが、動きは止まっていない。全くの無傷というわけでは無いが、俺の全力の一撃はそう何回も撃てるものでは無いためにあの巨体を破壊しきるのは無理だ。
「サザン! 避けて!」
「ッッ!!」
突然、起動迷宮は俺に向かって炎属性の魔法であるフレイムインパクトを放ってきた。それも普通の魔術師が放つそれとは段違いの威力だ。
リアの声を聞きすぐに体を動かしたため致命傷を受けることは無かった。しかし少し掠った部分が完全に蒸発してしまっている。これが直撃すれば俺の龍の体も瞬時に蒸発してしまうだろう。
この起動迷宮はその異常な硬さだけでは無く、恐ろしい程の火力も持っている。俺たちは窮地に立たされてしまった。自らの力の届かない存在を前にした時のこの絶望感はいつぶりだろうか。
……それでも俺は戦い続ける必要がある。
魔力ポーションを飲み魔力を回復させた俺はもう一度砲塔に魔力を集中させる。こうなれば体への負担なんか気にしていられない。何度でも魔力砲を撃ちこむ。それしか俺たちに勝ち目は無い。
「サザン……駄目……!」
「サザン! それ以上それを撃ったらサザンの体がもたないわ!」
「それでも! この方法しかアイツは倒せないんだ!!」
何度も、何度も、起動迷宮に魔力砲を撃ちこむ。それでも表面に少し穴を開けるだけだった。
「まだだ!! もう一度……あがッ!!」
再度魔力砲を撃とうとした時、体の中心に痛みが走る。そして俺の体から砲塔が千切れ落ちたのだった。
限界を超える魔力砲の使用に、俺の体は耐えられなかったのだ。
ローラ諸島よりもさらに南方に向かったところにその迷宮はたたずんでいる。恐らくは海の中を進んで生きたのだろう。海面から腿辺りが完全に出ているが、海底から立っていることを考えるとその全長は相当なものだろう。
「あれが起動迷宮?」
「そうだろうな。あの大きさではSランク冒険者パーティと言えど簡単に同行できる相手では無いだろう。だからサザンに依頼を頼んだのでは無いか? うちのパーティリーダー様はいくつもの実績を持っているからな」
「変な言い方はやめてくれよ。俺は報酬や故郷のために戦う、ただの一般冒険者なんだから」
「龍になれる冒険者が一般冒険者だと……?」
ファルは訝し気な目で俺を見てくる。そんな目で見るな……とも言い切れないのは自分自身が一番よくわかっている。限界突破の試練を通じて、俺はもう化け物の領域なのだという事を自覚した。自覚することを強いられたんだ。
「……ああそうだよ。俺は龍になれるレベル400超えのいかれた冒険者だよ」
「そして私たちはそんないかれた冒険者のパーティメンバーね」
「そうだな。私のレベルもいつの間にか70……Sランク冒険者パーティの平均を大きく超えている」
「だったら私たちに怖いものはないよね!」
「確かにリアの言う通りだな。もう必要以上に慎重になる必要もない。だからと言って油断は禁物だ。……よし、行くぞ!」
俺たちは自分たちならいけると己に信じ込ませ、起動迷宮へと向かっていった。いかに強大な相手だろうが、俺たちならきっと倒せるはずだ。
起動迷宮まではまず船で向かう。そして、ある程度の距離まで近づいたらそこからは俺の開発した水上歩行の付与魔法を使い進んでいく。泳いでいくと言う手も無くは無い。しかしラン以外の4人は水中では動きが鈍ってしまうため、出来るだけ危険を少なくするために水上を移動する手を取った。
ある程度まで近づくが、俺たちなど気にする必要も無いと言わんばかりに歩みを続けている。
起動迷宮はゆっくりではあるが確実に前へと進んでいく。このまま進めばローラ諸島は壊滅してしまうだろう。昨日の宿の様子から、あの島の者たちはこのまま島で暮らし続けることを望んでいる。あの島で生きている人々の生活が懸かっている。
……絶対に負けられない戦いだ。
「まずは足を破壊し移動を止める! ファル、ランは直接攻撃をしてくれ!」
「了解だ。ファルは右を頼んだぞ」
ファルは右足に、ランは左足に向かって行き、攻撃を始める。今回は他の者に見られる心配が無いためファルは最初から魔人の力を解放して攻撃を行っている。
二人が直接攻撃をしている内に、俺はメルとリアに付与魔法をエンチャントしていく。いつものように詠唱共有を行い強力な魔法を連発していく作戦だ。
攻撃を続けるファルとランの二人だが、その攻撃は一切の慈悲も無く弾かれてしまう。どうやら次元迷宮で出会った魔物と同じような素材なのか凄まじい強度をしているようだ。であれば物理的な攻撃が効かないのも仕方が無い。メルの爆発系魔法の出番だろう。
詠唱が終了し次第メルはファルとランを避けて、起動迷宮の腰の辺りに魔法攻撃を行う。数発でどうにか出来るとは思っていないため、俺はメルの魔力を維持するために魔力ポーションを生成していく。とは言え俺は錬金術師と違いポーションを作り出せるのではなく、あくまで既存のポーションに追加効果を付与することが出来るだけだ。所持している分が切れれば一度船に戻り積んであるポーションを回収しなければならない。
だが、どうやらその必要もないようだ。
メルの撃つ魔法はその全てが意味を持たなかった。大規模な爆発魔法による攻撃でも、一切の傷が付かなかったのだ。以前、次元迷宮の奥底でルカたちと共に戦った魔物よりもさらに硬いと言って良いだろう。
……やはり俺の龍転身、巨砲龍による全力の魔力砲しか無いようだ。
俺はメル達を下がらせ龍転身を使用する。
相変わらず恐ろしい痛みに襲われるが、それでも転身後の能力と比べれば安いものだろう。
今回は海のど真ん中での戦いであるため、巨砲龍としての力を制御する必要もない。全力で攻撃をしても、それによる被害を受ける物はこの辺りには無い。
全魔力を体の中心の砲塔に集め、起動迷宮に向かって撃ち込む。巨大な魔力の塊が起動迷宮を包み込み、その姿を隠す。これで終わる。そう考えていたのもつかの間、霧散した魔力から現れる起動迷宮の姿が俺たちの表情を曇らせたのだった。
「嘘……サザンの全力でも駄目なの……?」
「何という強度だ……」
ほんの少し傷は付いているが、動きは止まっていない。全くの無傷というわけでは無いが、俺の全力の一撃はそう何回も撃てるものでは無いためにあの巨体を破壊しきるのは無理だ。
「サザン! 避けて!」
「ッッ!!」
突然、起動迷宮は俺に向かって炎属性の魔法であるフレイムインパクトを放ってきた。それも普通の魔術師が放つそれとは段違いの威力だ。
リアの声を聞きすぐに体を動かしたため致命傷を受けることは無かった。しかし少し掠った部分が完全に蒸発してしまっている。これが直撃すれば俺の龍の体も瞬時に蒸発してしまうだろう。
この起動迷宮はその異常な硬さだけでは無く、恐ろしい程の火力も持っている。俺たちは窮地に立たされてしまった。自らの力の届かない存在を前にした時のこの絶望感はいつぶりだろうか。
……それでも俺は戦い続ける必要がある。
魔力ポーションを飲み魔力を回復させた俺はもう一度砲塔に魔力を集中させる。こうなれば体への負担なんか気にしていられない。何度でも魔力砲を撃ちこむ。それしか俺たちに勝ち目は無い。
「サザン……駄目……!」
「サザン! それ以上それを撃ったらサザンの体がもたないわ!」
「それでも! この方法しかアイツは倒せないんだ!!」
何度も、何度も、起動迷宮に魔力砲を撃ちこむ。それでも表面に少し穴を開けるだけだった。
「まだだ!! もう一度……あがッ!!」
再度魔力砲を撃とうとした時、体の中心に痛みが走る。そして俺の体から砲塔が千切れ落ちたのだった。
限界を超える魔力砲の使用に、俺の体は耐えられなかったのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,154
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる