転生勇者と黒龍少女~戦死エンドから逃れるために黒龍の少女と添い遂げようとしたら、いつの間にかゲームには無かったルートに進んでしまいました~

遠野紫

文字の大きさ
22 / 39
第一章 アルカとミラ

22 悪徳奴隷商のアジト①

しおりを挟む
 彼らの話曰く、『お頭』とはこの辺りの悪徳奴隷商を束ねる存在らしい。
 ちなみに悪徳奴隷商って言うのは本来の国を通した奴隷売買では無く、裏ルートで違法に手にした奴隷を同じく裏で売買しているとんでもない極悪人のこと。

 当然許す価値の無いゴミなので、この際にとっちめておこうという訳だ。
 で、この辺りにアジトがあるらしいので早速乗り込むことにした。
 勿論ミラと共に。

「何だてめえらは。ここが誰のアジトか分かって乗り込んできたんだろうなぁ」

「悪徳奴隷商のアジトだよね? 知ってるよ」

「んなっ!? そ、それをどこで……! いやいい、ここで口封じしちまえば変わらねえからよぉ!!」

 案の定、見張り的な人が攻撃をしてきた。
 ので、容赦なくぶち飛ばす。

「ぐげぇぇっ!!」

 圧倒的なまでの腕力の差により遠方へと吹き飛んで行く見張り。
 女の子に負けちゃうなんて情けないね。

 まあ片方は勇者の血筋だし、片方は黒龍の少女だけど。
 どこぞの覆面盗賊もびっくりな程に、厄介な相手に目をつけられちゃった訳だ。

「じゃ、入ろうか」

「そうね。でも警戒はしておきなさい。何をしてくるかわからないもの」

 ミラは表情を曇らせながらそう言う。
 やっぱり過去に何かあったんだ……でも、迂闊に聞いて良いものでもないよねきっと。

「な、なんだお前らは! クソッ、見張りは何をやってやがる!」

 中に入ると、またもや厳つい男たちが出てきた。

「全員吹っ飛ばしたよ」

「あ、ありえねぇ! 女二人に負ける訳がねえだろうがよぉ!」

「じゃあ、確かめてみる?」

「おいおい、正気か? 後悔することになるぞ」

 と、そんな感じで勇ましく襲い掛かって来た男たちを容赦なくぶち飛ばしていく。

「大したこと無かったね」

「そうね。まあ、ただの下っ端ならこの程度かしら」

「な、何者なんだお前らは……」

「ただの冒険者だよ」

「そんな訳……ぐふっ」

 限界を迎えたのか気絶してしまったようだ。
 他の男たちもバチボコにぶちのめされてしまったからか抵抗心は無いみたい。

「なんだ騒がしい。……って、何事だこれは!?」

 明らかに他とは違う、派手な格好をした男が奥から出てきた。
 あれだけ派手に暴れたからね。流石に出てくるか。

「まさか、お前らがやったと言うのか?」

 驚いてはいるものの、至って冷静に男はそう言う。
 流石は悪徳奴隷商のトップって感じ。肝が据わっていると言うか、丹力があると言うか。

「そう……って言ったら?」

「なに、簡単なことよ。死んだ方がマシな程度には痛い目にあってもらい、その後は調教して性奴隷にするまでだ。安心したまえ。見たところ、二人共かなりの上玉のようだからな。高値で売れるのは確実だろうよ」

 男はジロジロと私とミラの全身を舐めるように見ている。
 確かに私は……アルカ・ルーンは相当な美少女だからね。
 性奴隷としての商品価値と言う点では、横に並び立つ者はそれこそ他のヒロインくらいのものだと思う。

「残念だけど、それは無いわよ」

 けど、私もミラもそのつもりは無い。
 せっかくこうしてアルストの世界に来れたのに奴隷なんかになってたまるかっての。

「何だと? ははは、下っ端を倒したくらいで随分と強気なものだ。いや、待て。そうかお前は……」

 突然、男は動揺し始めた。
 それはもう先ほどまでの冷静さはどこにいったのかってくらいに。
 ミラの顔を確認した瞬間にそうなったってことは多分、原因は間違いなく彼女だよね。

「お前、どうしてその姿のままなのだ……!」

「あら? そう言えば、貴方には正体を明かしていなかったわね。ほら、これでわかるかしら」

 ミラは体の一部を黒龍としてのそれに変え、男に見せた。
 すると男は慌てた様子で私たちから距離を取ろうとする。
 その顔は混乱と恐怖で一杯になっていた。

「んなっ……!? その腕、その角! まさか、竜人なのか!? あ、ありえん……そんな存在が人の世にいるはずが……」

 かと思えば気絶してしまった。限界を超えた恐怖に耐えられなかったってことかな。
 
 けど、それならそれで私たち的には好都合。
 ……問題はむしろ、ミラの方だね。

「ミラ? ……この人と会った事あるの?」

 どう考えてもミラと悪徳奴隷商の間には何かがある。
 今後も一緒に暮らすなら、いっそここで聞いておいた方が良いのかも。

「……ええ、以前私を奴隷として売ろうとした奴隷商の中にこの男もいたのよ。あの時は下っ端だったみたいだけれどね。恐らく30年は前じゃないかしら」

 30年……かぁ。確かにそれだけ前なら見た目が変わらないのはおかしいもんね。
 と言うか、下っ端がお頭と呼ばれるまでになるって相当な成り上がりじゃん。

 何と言うか、それだけ頑張ってここまで来たのにとんでも無いのに目を付けられて大変だね。
 まあ同情はしないけど。

「ねえ、その時ミラは……大丈夫だったの?」

「結論から言えば、『私は』大丈夫だったわ。けど、あの時はまだ人間と完全に敵対していた訳では無いの。そのせいで私は、彼女たちを守れなかった」

 そう言うミラの顔は憎しみと悲しみに満ちている。
 これは、あまり深堀するべきじゃ無かったかもしれない。
 嫌なことを思い出させてしまっただけじゃんか。

「奴隷として売られそうになっていた子たちと仲良くなったのが間違っていたのかもしれないわね。どうせ寿命も違うのだから。すぐに会えなくなってしまうのに」

「……そんなことは無いよ」

「……?」

 ううん、やっぱり聞いて正解。
 ミラがやたら距離間が近い理由もきっとこれだから。

 彼女はきっと……寂しかったんだ。

「出会いに無駄なんてこと……絶対にないよ」

「そうね。……そうかもしれないわね。私もそう思いたかった。けれど……」

「なら私が、ずっとミラのそばにいる!」

「貴方が……? けれど貴方は人間で、すぐにまた離れ離れになってしまうわ」

「それなら、一つ方法があるよ」

 確かにアルカ・ルーンは勇者の血筋と言えどただの人間。
 ほぼ永久に等しい寿命を持つ黒龍と比べればその寿命はあっという間だよ。
 けど、それをどうにかする方法が一つだけある。

「聖剣を見つけるの」

 聖剣。それこそが二人の寿命差をどうにかする唯一の方法だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...