俺はこんな銀髪美少女と婚約した覚えはない。

黒鐘 蒼

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第14話 男の家でシャワー浴びるのって普通、することなのか、非リアの作者は書き上がってから悩んだ

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 服·····女の子に貸す服って、何ならいいんだ? 俺は、服を収納しているタンスを漁っている。他人に貸すほど服を持ってないんだよな。今貸せるものって言ったら·····
「お。これならいいかな」
 タンスから、めぼしいものを取り出した。それは、二年前ぐらいにコミケで買った、ごちう〇のパーカー。一世を風靡したアニメ第二期のエンディングで踊っていた、チマメ隊の一人、チノが着ていたものを再現したものだった。

 見た目を客観的に説明すると、白色のウサギの頭部がフードになっていて、耳が付いているパーカー。

   も、もちろん自分で着ようと思って買ったものじゃないぞ! コミケで金が余って、コレクションとして、つい買ってしまったやつだ。

 買ってから、パーカーはあっても、これを切るチノちゃんが居ないじゃないか·····! と後悔したけど、この時のためだったのかもしれない。

 サイズも零はチビだし、大丈夫だろう。汚れてしまったのは、上に着ていた服と、その中のシャツや、ブラだろうから、このパーカーと、白いシャツだけでなんとかなるか。

「零。着替えを置いとくぞ。廊下に出る扉の前に置いとくから」
 風呂場前の廊下で大きい声で伝えた。零のシャワーを浴びる音が聞こえてくる。

「あ、ありがとうございます。うー、失敗してしまいました。ぼくとしたことが」
 風呂場特有の、くぐもった声がした。

「気にするな。泡だて器を変にいじったお前が全部悪い」

「フォローになってませんよ」

「フォローしてませんよ」

「はあ·····今日日和ちゃんと仲良くなって·····て·····たのに」
 声のトーンが急に落ちたので、最後の方は何と言ったのか聞こえなかった。

「じゃ、俺は日和の方に戻っとくから。俺が普段使ってる風呂場だからって、いたずらしちゃだめだぞっ」

「だ、誰が·····そんな事! ふひ」
 最後のふひってなんだ。

「オーブンで、もう蒸し始めてるか?」

「はい。ちゃんとオーブンの中を温めてから、入れておいたのです!」
 日和はエプロンを脱いでいた。日和が着ているコンバースの長袖シャツは、胸あたりがゆるゆるで、おおきく開いている。
 俺の服だから、当たり前か。
「日和。その服は日和にやるよ」

「ふぇ? どうしてなのですか?」

「だって、日和が着ちゃったし。袖は噛まれてよだれが付いてるし」

「む。日和が噛み噛みした服が着れないというのですかっ?」
 ほっぺたをぷくりと膨らませた日和が怒りながらも、また袖を噛む。

「あー。また噛んでるっ」

「日和の唾液に含まれたDNAを袖につけておけば、それを着たお兄ちゃんの体にも日和のDNAが付きます。それによって、このひとは、日和のものですっていう印になるのですよ!」
 日和が、サイコパス発言してる! 

「どういう思考回路してんのっ。DNAが付着していても、誰も気が付かないぞっ。それ以前にさ、仮に今、日和にその服を返してもらって、俺が着ることになったとする」

「はい」

「着る度に、『あー。この服の袖、日和の唾液含んでんだよなあ』って思っちゃうじゃないかっ」

「それは·····むしろ好都合なのです。お兄ちゃんが、日和のことを考えてくれる時間も増えますし」
 日和は唇に右手の人差し指を当てた。
 日和のこういう発言って、本気なのか、どうなのか、よくわからないんだよなあ。

 まあ、俺のことを男として好きになる人なんて、居ないだろうから、日和は、家族並みに付き合いが深い幼馴染として、俺を好きでいてくれてるはずだ。

 だからこその、こういう発言なのだろう。我ながら、名推理! こう見えて、ちゃんと恋愛もののアニメもちゃんと見てるのよ。俺。ヲ〇恋とか。

「蒸しあがるまで、あと二十分ぐらいか。そろそろ零もシャワーを浴び終わるだろうし、ゲームでもするか?」

「そうですね。久しぶりにやりたいのです!」

「おうおう。じゃあ、用意すっか」
 リビングには、一台の液晶テレビがある。そのわきに置いてある段ボール箱を開けた。

「動かすのは久しぶりだな。動くかな?」
 ニンテンドーのWiiだからなあ·····もう、買ってから十年ぐらい経ってるな。
 幸い、コンセントを刺して、電源ボタンを押すと、ちゃんと起動してくれた。
 なじみが深い、ホーム画面が、テレビに映る。

「ホーム画面のBGMが懐かしいな」
 日和とは、たまに一緒にやっていた。小学校、中学校と、名門私立で勉強漬けの毎日を送っていた俺だが、親は、日和とゲームをすることぐらいなら、許してくれた。

「そうなのです。昔は、寝転がって、肩が触れるぐらいの距離に近づいて一緒にマリオとかしてたのです」

「ああ。そうだったな」
 懐かしい。懐かしいのだが、ゲームの内容よりも、俺の隣で楽しそうな日和の笑顔の方が鮮明に覚えているのはなぜだろう·····?

「大乱闘スマッシュ〇ラザーズでもするか。三人でもできるし」

「そうですね。久しぶりのアイクです」
 アイクは日和の持ちキャラ。日和は、どんくさそうに見えて、実は俺よりもゲームが上手い。悔しいことに、俺はポケモン図鑑のコンプぐらいでしか勝ったことがない。

「ふへー。シャワー気持ちいい」
 ひたひたと足音をたてながら、零が戻ってきた。手には、脱いだ黒いパーカー。

「その服、プリンの原液がかかったんだから、放っておくと落ちにくいぞ。洗濯しといてやろうか? 嫌ならいいけど」

「あ、じゃあ、お願いしときます。この服はそこそこ気に入っているので」

「じゃ、洗っとくな。学校で返すよ」

「君に借りた服も、学校で返せばいい?」

「おう」
 零から、服を受け取って、洗濯機を回した。零から、自分と同じ香りがするので、なんだか、おかしな気分だ。

「お! これは大乱じゃないですか!」

「ん? やったことあるのか?」

「ふふふ。もちろんですよ。ぼくは、大乱は得意です。お姉ちゃんとめちゃくちゃやってましたから」
 へー。あの人ゲームするのか。でも、弱そうだな。真代ちゃんとめっちゃしてると言っても、零はそこまで強くないはず。俺は日和には確実に負けるから、零に勝たないと、最下位になってしまうっ! 
 男としては、女の子にゲームで負けたくはない。

「コントローラーお借りしますね」
 零はコントローラーを手に取り、使用キャラを選んだ。ヨッシーだ。
 うーん·····これは、どっちだ? 一般になじみの深いキャラだから、『これ可愛い~』みたいな感じで使ってる場合もあるし、そうでないとしたら、やり込んだ上でヨッシーを選んだ強者という事になる。

 零の場合は·····まあ、前者だろ。知ってるキャラを使ってるだけの。

「おし。俺の持ちキャラは勿論この人(?)っ! メタナイトだ。零。命乞いするなら今のうちだぞ」

 十分後。

「ま、ぼくにかかればこんなものですね」

「あ~。久しぶりで、操作の仕方が良くわからなかったのです。二位になってしまったのですっ」

「あれ? さっきまでの威勢はどうしたのかな? 貴一く~ん?」
 体育すわりで、床を見つめる俺の後頭部を零がコントローラーで軽く叩く。
 こんなはずが·····ヨッシーに、一撃も与えられなかった。
 勝って、アホ毛をつまんでやるつもりだったのに·····。

「お、お兄ちゃんも、頑張ってましたよ? 防御に徹していたというか·····」

「日和ちゃん。それ、とどめ刺しに行ってますよ。貴一のメンタルはゼロに近いです」

「うるせえ。もうゲームなんて、しない! ポケモンgoしか、しない!」

「もう、ぼくに惨敗したからって、みじめなものですね。拗ねるとか」

「あ! チョコプリンそろそろ出来上がったんじゃないかなあ?!」
 俺はオーブンの方に走り逃げた。

「ふふ。お兄ちゃん。子供みたいなのです」

「そうですねえ。貴一から学校で聞いた話では、日和ちゃんは内気な子というイメージがありましたが、会ってみると、貴一よりも日和ちゃんの方がしっかり者ですね」

「そうなのですか? えへへ。照れます」

「日和は可愛いですね」

「えっ? ますます照れるのですっ」

「ふふっ。照れてる時が、女の子は一番可愛いんですよ」

「もうっ。そう言ってますます照れさせようとしているのですっ」
 あー。なんか楽しそうな会話してんなあ。勝者たちが。
 蒸しあがった、チョコプリンを日和たちのいる、テーブルまで持っていく。

「うん。綺麗にできてるな。さすがは日和だ」

「美味しそうなのですっ」

「美味しそうですね」

「ほんとは一人二個づつあったんだけどな。どこぞのアホ毛が、ダメにしちゃったから、一人一個づつだ」

「アホ毛? 誰のことでしょうか?」
 そっぽを向いて、零は口笛を吹く。音出てねえぞー。

「もう食べてもいいのですか?」

「おう」

「「「いただきます」」」

 スプーンで茶色いプリンをすくって、三人が一斉に口に入れる。
「お、なかなか美味くできてるじゃないか。売ってるやつより美味しいぞ。日和」

「本当ですよ。日和は料理上手だったんですね」

「へへへ」
 立て続けに二人に褒められて、日和は照れている。

「ごちそうさまでした」

「こっちもごちそうさまです。日和ちゃん」

「あ。二人とも、食べるのが速すぎるのです。もっと味わってください!」

「いやー。味わう間もなく、終わっちゃったんだよなあ。美味しすぎて」

「はい。まさにその通りです。ぼくが作ったものがないのが残念です」

「零が作ったら、こんなに美味しくないとは思うけどな」

「そんな訳ないでしょ。ぼくは天才ですから。次の機会に、作ってあげますよ」
 作ってあげるというか、作られるって感じだけどな。

「日和も食べたいでしょう? ぼくの料理」

「はい。食べてみたいのです。零さんの料理」
 日和はまだ、ゆっくりとプリンを食べている。

「じゃあ、ライン交換しときませんか? 連絡取れて便利ですし。だめ·····かな?」
 零は少し心配するような声で言った。

 日和はすぐに手を止めて、ポケットから、スマホを慌てて取り出した。

「え。いや、そんな。だめなわけないのです! 交換するのです!」
 二人は、連絡先を交換した。

 ********************************

「では、今日は、お邪魔しました」
 帰り際。零は、玄関先で見送る俺と日和にお辞儀して、挨拶した。
 零に貸したパーカーの耳が揺れる。
 可愛い(パーカーが)。

「また、学校でな」

「はい」
 零は手を振る。
 日和はそれに応えて、微笑みながら、手を振り返す。

「またね。日和ちゃん」

「はい。またなのですっ!」
 零は駅に向けて歩き始めた。

「よし。洗いものとか、済ますか」
 俺が家に戻ろうとすると、日和は、駆け出した。零の方に向かって。

「あの。零さん!」
 日和の普段より二倍は大きい声に、零は振り返った。

「どうしましたか? 忘れ物でもしてましたか? ぼくが」

「違うのです」
 ぶんぶんと日和が首を横に振った。
 そして、顔を上げた。

「お友達になってくれませんか? 零さんとなら、学校にも行ってみたいのです!」
 それは、日和が勇気を振り絞って出した言葉だった。
 場に、静寂が走り、少しの間をおいて、零は笑い始めた。

「は、ははは。ふふっ」
 それを見て、日和は不安げに、瞬きをいくつかした。

「ダメなのですか?」

「ふふっ。そんな訳ないですよ」

「え? でも、零さんは笑っているのです!」

「いや、これは、日和ちゃんが、今更、友達になってとか言うからですよ。もう友達ですよ。一緒に一つ屋根の下でお話しして、ゲームして、お菓子作りをして。これが友達じゃないなら、何なんですか?」

「零さん·····」

「よろしくお願いします」
 零が差し出した手を、日和は右手で、強く握った。

 俺は遠目に、この様子を見ていた。
 日和に友達ができた。
 頬に、熱い流体を感じた。


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