王太子妃(仮)でしたが、聞いたこともない予言のせいで追放されました。ですから、今さら呼び戻されても困ります。

實藤圭

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序章:断罪の儀

祝福の終焉

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 セラド達の頑張りはあったものの、結局、噂の広がりを止めることはできなかった。 

 儀式を目前に控え、町のあちこちでは祝いの準備が進められていたが、とうとう、王宮内だけでなく、町のいたるところでも予言についての話が聞かれるようになっていた。


「神託が読み解かれたらしいな」
「クラリス様に関係あるって……」


 また、城の奥深く、王宮執政官たちの間でも、その名は憶測とともに囁かれていた。

「まさか……クラリス様が“聖の座を汚す者”などと……」
「ありえぬ。あの方は、民からも敬われている」
「だが神託にある“光と闇を併せ持つ者”──あの一文に、彼女の加護を重ねる者もいるらしい」
「そういえば、聖女様も、何やら思い詰めたご様子だった。まさかとは思うが……」


 誰も明言はしなかった。けれど、疑念というものは静かに染み込んでいく。
 それはゆっくりと、しかし確実に王宮という器を蝕んでいった。

 

 ある時、いつもの侍女の顔が見えないことにクラリスは気づいた。

「あれ……そういえば、前に仕えていた者は?ほら、髪結いの……あの子……?」

 クラリスはリュシアに尋ねたが、

「……先日おやめになられました。何でも、故郷のご両親の具合が悪くなったのだとか」

 と、リュシアは返すばかりだった。
 クラリスはその表情にひっかかるものを感じたが、それ以上は追求せず、静かにうなずくだけだった。



 そうやって、噂の影は、クラリスの目に見える形をなし始める。



 髪結いの得意だった侍女が、急にやめる。
 これまで毎朝、丁寧に挨拶をしていた騎士が、目を逸らし、足早に立ち去る。
 部屋に運ばれるお茶や菓子が、妙に冷たいまま放置される──
 そういった一つ一つの出来事がクラリスの心を惑わせる。

 
 夜。自室の窓から見える王都の灯りを見つめながら、クラリスは小さくため息をついた。

「わたしは……何か、間違っていたのかしら」

 答える者はいない。風の音すら、今夜は静かだった。







 ──その、静かな夜も、ミラは"儀式"に向けての準備を進めていた。

 ミラの傍で、ひざを折って頭を垂れていた黒い影が、いずこかへと立ち去る。

「婚礼の儀まであと少しね、クラリス。そちらの準備はどうかしら?滞りなく進んでいるといいのだけれど……」

 ミラはくすくすと笑うと、満足そうに、目の前に飾られた神託の石板の複写を見つめ、口の端を歪ませた。



「安心なさい。あなたは“歴史”に刻まれるのよ。──おめでとう、クラリス・アルデンティア」

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