王太子妃(仮)でしたが、聞いたこともない予言のせいで追放されました。ですから、今さら呼び戻されても困ります。

實藤圭

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序章:断罪の儀

断罪の鐘は鳴った -後編-

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 聖女の予期せぬ言葉に、神託の間が小さくざわついた。

「神託を読む……? 祈りの言葉ではないのか?」

 そこにいる皆が息を潜め、次の言葉を待っていた。

 壇上に立つのは、聖女ミラ・セレスタ。
 その手には、神託を記した石版の写本を開いている。

 白い祭衣を揺らし、ミラが、静かに口を開いた。




「『主の言葉をここに記す』──」





 その声は澄み渡り、広間に響き渡る。


「汝ら、聖の座を汚す者を見よ
 彼の者は光を戴きて生まれ、されど闇を孕みし者なり
 ただ歩を進めれば、大地は割れ、空は裂け、流れは枯れん──」


 神託の文が、一節ずつ詠まれていくたびに、広間の空気がわずかに冷たくなる。
 誰もが、心のどこかで知っていた。
 この言葉が、これから“誰か”を指し示すのだと。


 冷たさを増していく静寂の中で、クラリスは、この場に、自分一人だけになってしまうような感覚にとらわれていた。
 いつの間にかリオネルの手が、クラリスから離れていたことも、その思いをより一層強くした。

 それでも、なお、儀礼用のきらびやかな衣装を纏い、クラリスは立っていた。
 聴衆の視線を背中に受けながら、彼女はただ前を見ていた。
 何度か崩れ落ちそうになるのを必死にこらえ壇上を見つめていた。


 

 最後の一節を読み終えたミラが、ゆっくりと神託の書を閉じる。

 そして──静かに告げた。



「この神託は、今まさに現実となろうとしています」



 ミラの声が震えるように響く。



「この神託が示す“聖の座を汚す者”──
 それは、クラリス・アルデンティア、その人です」



 空気が弾けた。



「なんと……!」
「やはり、噂は真実だったのだ!」
「まさか、クラリス様が……?」
「いや、でも聖女様が……」


 騒然とする場内。だがクラリスは、まるで別世界のような静けさの中にいた。
 自分が、神の名のもとに告発されたという事実が、まだ現実と結びついていなかった。


 気づけば、いつの間にかリオネルはミラの横にいた。
 祭壇に静かに立ち、この場の空気を制するように片手を掲げていた。

 
 一度めいめいに散った視線が、再び壇上に集まる。 


 彼の表情は沈み、はじめクラリスをじっと見つめていた視線はやがて、どこにも焦点を合わせなくなっていた。


「クラリス……信じたかった……、けれど……これが、神の御言葉というのであれば……私は──」



 その口から発せられたのは──



「……私は──余は、王国と神の名において、クラリス・アルデンティアとの婚約を破棄する。
 そして、王都からの追放を、ここに命ずる」



 広間が静まり返った。


 クラリスは壇上に立つリオネルの姿をただ茫然と眺めていた。

 リオネルの目はクラリスの視線を避けるかのように、天窓から射す光の中を彷徨っていたが、やがてその目を硬く閉じ、唇を噛んだ。

 
 鐘の音だけが、遠くで鳴り響いていた。


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