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1章:辺境の村、風の道
ノクテスペラ
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その夜、村はひどく静かだった。
風も止み、虫の音すら遠く、星だけが冷たく輝いていた。
クラリスは村外れの小高い丘に立っていた。
手には籠。中には村の子どもたちと摘んだ、薬草や果実の皮が収められている。
効き目をあげるためにも、よく風にさらして乾かすのが習わしだと教えられたが、確かにここには干し台が数多く並べられていた。
しかし、彼女の目を惹いたのは別のものだった。
丘の斜面──月明かりの中で、淡く揺れて咲いているそれ。
ノクテスペラ。
夜にしか花を開かないという、不思議な草。
夜露を受けて薄紫に染まるその花は、まるで静かに光っているようだった。
「きれい……」
思わず声が、月のもとでこぼれた。
村では普通に生けられたり、薬草としての利用価値もある普通の植物だが、学者や、一儲けしようとした商人らが、何度か試みてはみたものの、どういうわけかこの地域でしか生育しないらしい。
そのため、王都や他の地域では非常に高値で取引されるのだと、バルバラが言っていた。
「まあ、この村の特産品だね」
特に群生地には花を盗賊たちから守るための自警団もいると、誇らしげに語っていたことを思い出す。
「クラリスさん!」
背後から声がかかる。振り返ると、朝の少女がまたひとりで駆けて来る。
小さな手には、花を一輪、大事そうに握っていた。
それは目の前で咲く花だった。
「この花、闇待ち草っていうの。クラリスさんにあげる」
少女は、恥ずかしそうにクラリスの顔を見上げる。
「闇待ち草……?」
「夜になってから咲くからそう呼ぶんだって。よく眠るためのお薬にもなるんだよ」
「それもセラヴィアさんが?」
視線を合わせるように、クラリスは膝をつく。
「ううん。村のみんな知ってるよ。みんな頭の下に敷いて寝るの」
「へえ、そうなのね。ありがとう」
クラリスは、そっと少女の頭に手を置いた。
「えへへ。あとね……」
少女は少し周りの人を気にするようなそぶりをしながら言った。
「──この花はね、この村にしか咲かないのよ。すごいでしょ」
村の子供までもが、この花を大切に思っているのだろうなと、クラリスは思う。
「きっと、ここにしか咲きたくないって思ってるんだろうね」
少女はそう言うと、ぽんと彼女の手にノクテスペラを渡した。
「……ありがとう」
クラリスは受け取り、胸元に抱く。
──「ここにしか咲きたくない」、この花のように、自分も選べるように。
そのまま、少女と並んで丘に座り、夜空を仰いだ。
風が、また少しだけ動き始めていた。
その流れの中で、クラリスはぽつりと独りごとのように呟く。
「わたしは……まだ、誰かの光にはなれないかもしれない。
けれど、こうして、ここで咲くことはできる」
少女はいつの間にか眠っていた。
クラリスは、その肩にまとっていた毛布を少女にもかけると、もう一度目の前に咲く花を見た。
ノクテスペラが月に照らされて揺れている。
闇待ち草。それはひっそりと、けれど、とても美しく咲いていた。
まるで「ここがいい」と言っているように、静かに咲いていた。
風も止み、虫の音すら遠く、星だけが冷たく輝いていた。
クラリスは村外れの小高い丘に立っていた。
手には籠。中には村の子どもたちと摘んだ、薬草や果実の皮が収められている。
効き目をあげるためにも、よく風にさらして乾かすのが習わしだと教えられたが、確かにここには干し台が数多く並べられていた。
しかし、彼女の目を惹いたのは別のものだった。
丘の斜面──月明かりの中で、淡く揺れて咲いているそれ。
ノクテスペラ。
夜にしか花を開かないという、不思議な草。
夜露を受けて薄紫に染まるその花は、まるで静かに光っているようだった。
「きれい……」
思わず声が、月のもとでこぼれた。
村では普通に生けられたり、薬草としての利用価値もある普通の植物だが、学者や、一儲けしようとした商人らが、何度か試みてはみたものの、どういうわけかこの地域でしか生育しないらしい。
そのため、王都や他の地域では非常に高値で取引されるのだと、バルバラが言っていた。
「まあ、この村の特産品だね」
特に群生地には花を盗賊たちから守るための自警団もいると、誇らしげに語っていたことを思い出す。
「クラリスさん!」
背後から声がかかる。振り返ると、朝の少女がまたひとりで駆けて来る。
小さな手には、花を一輪、大事そうに握っていた。
それは目の前で咲く花だった。
「この花、闇待ち草っていうの。クラリスさんにあげる」
少女は、恥ずかしそうにクラリスの顔を見上げる。
「闇待ち草……?」
「夜になってから咲くからそう呼ぶんだって。よく眠るためのお薬にもなるんだよ」
「それもセラヴィアさんが?」
視線を合わせるように、クラリスは膝をつく。
「ううん。村のみんな知ってるよ。みんな頭の下に敷いて寝るの」
「へえ、そうなのね。ありがとう」
クラリスは、そっと少女の頭に手を置いた。
「えへへ。あとね……」
少女は少し周りの人を気にするようなそぶりをしながら言った。
「──この花はね、この村にしか咲かないのよ。すごいでしょ」
村の子供までもが、この花を大切に思っているのだろうなと、クラリスは思う。
「きっと、ここにしか咲きたくないって思ってるんだろうね」
少女はそう言うと、ぽんと彼女の手にノクテスペラを渡した。
「……ありがとう」
クラリスは受け取り、胸元に抱く。
──「ここにしか咲きたくない」、この花のように、自分も選べるように。
そのまま、少女と並んで丘に座り、夜空を仰いだ。
風が、また少しだけ動き始めていた。
その流れの中で、クラリスはぽつりと独りごとのように呟く。
「わたしは……まだ、誰かの光にはなれないかもしれない。
けれど、こうして、ここで咲くことはできる」
少女はいつの間にか眠っていた。
クラリスは、その肩にまとっていた毛布を少女にもかけると、もう一度目の前に咲く花を見た。
ノクテスペラが月に照らされて揺れている。
闇待ち草。それはひっそりと、けれど、とても美しく咲いていた。
まるで「ここがいい」と言っているように、静かに咲いていた。
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