王太子妃(仮)でしたが、聞いたこともない予言のせいで追放されました。ですから、今さら呼び戻されても困ります。

實藤圭

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2章:王都に降る雨

揺らめく影

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 細かい雨が降る空は、どんよりとした雲に覆われ、ひとしきり雨が降った後のぬかるみに、馬車の車輪の轍が続いている。

 王都の門前に現れた一団の、異様な光景に、門番たちは目を見張った。黒一色の軍装を纏った騎士団と、その背後には馬車に乗せられた数名の男たち。男たちは身分の高さを示すような身なりをしていたが、手枷をかけられ、うつむいている。彼らは、いずれも王太子と聖女の婚姻に反対を表明していた領主たちであった。

 デスフォルトは、馬上からゆっくりと顎を上げた。

「……反逆の疑いにて拘束した。急ぎ、王宮の判断を仰ぎたい」

 門番たちは、無言で頷き、門を開けた。
 かくして、王宮の誰もが知らぬままに、デスフォルトの手によって、何人かの地方領主が王都に引き渡されることとなった。

 報告を受けたセラドは、デスフォルトの詰所を訪れた。無言で扉を押し開けると、そこにはいつもの気怠げな態度で、椅子に背を預ける黒衣の騎士がいた。

「ノックくらいしたらどうだ、ヴァレンティス?」
「貴様。何をしたかわかっているのか?これは明らかな越権行為だ」

 開口一番、セラドが言う。
 デスフォルトはしばらく黙っていたが、思い出すように話し出した。

「──言いたいことはわかる。だが、……向こうから、先に仕掛けてきたんだ。結果、部下が傷ついた。……俺は、自分がどうなろうと構わんが、奴らは守らねばならん」
「もし、そうであったとしても、王都に報告を入れる前に動いたのは軽率ではないか」
「じゃあ聞くがな。あんたは、王都に報告してからじゃあないと、目の前の部下を助けんのか? ああ?」

 二人の静かなにらみ合いは続いていたが、やがてデスフォルトが折れたように肩をすくめる。セラドはきっと振り返ると、扉を後にした。

 その日のうちに、両名は王太子に呼び出された。
 謁見の間には、二人を呼び出したリオネルが、既に座している。
 顔はわずかにうつむき、あまり目を合わせないようにしている様子が見て取れた。

「報告は受けた。今回の件──デスフォルトの行動は、私の命によるものである」

 セラドが目を見開く。

「……殿下、それは」
「ヴァレンティス。そなたに事前に伝えそびれた私の落ち度だ。混乱の収拾を優先したまでのこと」

 リオネルの言葉は、淡々しており、まるで用意されたものを読み上げているのかと、セラドには思えた。

「それと──黒い槍騎士団には、今後、治安維持のための限定的な逮捕権を一時付与する。白い盾騎士団と同等の立場となるが……二人とも、信頼している」
「ははっ」

 デスフォルトが答える。
 リオネルの発言は、言葉こそ選んでいるが、実質的にはデスフォルトはおとがめなし、むしろ権限を拡大する措置である。

「……かしこまりました」

  セラドは、剣を預けた主に深く頭を下げ、強く唇を噛んだ。


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