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2章:王都に降る雨
祝賀の鐘
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白い盾騎士団に加え、黒い槍騎士団も治安維持の任務に当たるようになって数日後、一目でそれとわかる派手な衣装に身を包んだ布告役人が、高らかなラッパの音とともに王太子リオネルの宣言を王都内に触れ回った。
「……王太子リオネル・アルトラディア殿下と聖女ミラ・セレスタ様とのご婚礼は、来たる建国祭の日に挙行されることと相成る──」
ざわめきが波のように王都中に広がる。
その一文をもって、聖女の名は正式に“王家”の一員となることが布告された。
「聖女様がお妃様に……!なんと神聖な結びつきだろう」
「王太子殿下は、きっと新しい光を見出されたのね」
「建国祭の日となると、まだずいぶん先になるな。」
多くの民衆の間には、祝福の声が上がっていたが、一方では眉をひそめる者もいた。
先日、婚礼の儀の当日に、王太子妃となるはずだった者が追放されるという異常な事件があったばかりである。何か裏があるのではないかと思うものも少なからずいたが、そういったことを公言したもののうちすでに何人かは、治安維持の名目で牢獄へと連れていかれていたため、やがて、表立っていうものは誰もいなくなっていった。
* * *
セラド・ヴァレンティスは、執務室にてその報を受けると、静かに目を閉じ、天を仰いだ。
窓の外には祝賀の鐘が、王都の空に高らかに鳴り響いていた。
リオネル殿下と聖女ミラ・セレスタの婚姻については、すでに、枢密会議にて決定されていたことでもあり、いずれこの日が来ることはわかっていたことである。とはいえ、実際に耳にすると、胸に響くのは喜びの音ではなく、どこか乾いた違和感だった。
「……ここまで早く進むものとは思ってもいませんでした」
セラドの元へ知らせを届けたカリオンが小さく呟く。
「私もだよ……」
しばらくの沈黙の後、セラドもまた小さく応じた。
鐘がまた一つ鳴る。
「殿下は、何か焦っていらっしゃるのでしょうか……」
聖女と王子の婚礼。政と信仰の象徴が、一つに重なる。
そうなることは、新たな政体として問題はないのかもしれない。むしろこれまで以上に、政を円滑に進めることが可能となることも考えられる。
だが、その“速さ”と、“誰も疑問を口にしない空気”が、セラドには恐ろしく思えた。
今まさに行われようとしている「王家と教会の融合」──それは理屈の上では理想的でも、現実には力の一極集中に他ならない。
これまで、王家の施政に歪みがあれば、教会が正す、教会が行き過ぎれば、王家がそれを抑える、両者の微妙なバランスの上に成り立っていたアルトラディア王国である。王太子殿下の決定に教会が異を唱えた、神託の間での事件がそうであったように。そうやって国の秩序は保たれてきたはずである。
それを知る者であればこそ、その祝賀の鐘は、手放しで喜べるものではなかった。
もし、神を“騙る”者が、王家、あるいは教会内に現れたとき、誰がそれを止めることができるのか。
──この国は、いま、誰が舵を握っているのだろう。
「……団長?」
カリオンの問いかけに、セラドはわずかに視線を上げた。
「いや。すまない。ちょっと、考えごとだ」
その言葉以上のことは、彼自身にも分からなかった。
ただ、一つ──
この日を境に、何かが、決定的に“変わった”ということだけは、はっきりと胸の奥で感じ取っていた。
「……王太子リオネル・アルトラディア殿下と聖女ミラ・セレスタ様とのご婚礼は、来たる建国祭の日に挙行されることと相成る──」
ざわめきが波のように王都中に広がる。
その一文をもって、聖女の名は正式に“王家”の一員となることが布告された。
「聖女様がお妃様に……!なんと神聖な結びつきだろう」
「王太子殿下は、きっと新しい光を見出されたのね」
「建国祭の日となると、まだずいぶん先になるな。」
多くの民衆の間には、祝福の声が上がっていたが、一方では眉をひそめる者もいた。
先日、婚礼の儀の当日に、王太子妃となるはずだった者が追放されるという異常な事件があったばかりである。何か裏があるのではないかと思うものも少なからずいたが、そういったことを公言したもののうちすでに何人かは、治安維持の名目で牢獄へと連れていかれていたため、やがて、表立っていうものは誰もいなくなっていった。
* * *
セラド・ヴァレンティスは、執務室にてその報を受けると、静かに目を閉じ、天を仰いだ。
窓の外には祝賀の鐘が、王都の空に高らかに鳴り響いていた。
リオネル殿下と聖女ミラ・セレスタの婚姻については、すでに、枢密会議にて決定されていたことでもあり、いずれこの日が来ることはわかっていたことである。とはいえ、実際に耳にすると、胸に響くのは喜びの音ではなく、どこか乾いた違和感だった。
「……ここまで早く進むものとは思ってもいませんでした」
セラドの元へ知らせを届けたカリオンが小さく呟く。
「私もだよ……」
しばらくの沈黙の後、セラドもまた小さく応じた。
鐘がまた一つ鳴る。
「殿下は、何か焦っていらっしゃるのでしょうか……」
聖女と王子の婚礼。政と信仰の象徴が、一つに重なる。
そうなることは、新たな政体として問題はないのかもしれない。むしろこれまで以上に、政を円滑に進めることが可能となることも考えられる。
だが、その“速さ”と、“誰も疑問を口にしない空気”が、セラドには恐ろしく思えた。
今まさに行われようとしている「王家と教会の融合」──それは理屈の上では理想的でも、現実には力の一極集中に他ならない。
これまで、王家の施政に歪みがあれば、教会が正す、教会が行き過ぎれば、王家がそれを抑える、両者の微妙なバランスの上に成り立っていたアルトラディア王国である。王太子殿下の決定に教会が異を唱えた、神託の間での事件がそうであったように。そうやって国の秩序は保たれてきたはずである。
それを知る者であればこそ、その祝賀の鐘は、手放しで喜べるものではなかった。
もし、神を“騙る”者が、王家、あるいは教会内に現れたとき、誰がそれを止めることができるのか。
──この国は、いま、誰が舵を握っているのだろう。
「……団長?」
カリオンの問いかけに、セラドはわずかに視線を上げた。
「いや。すまない。ちょっと、考えごとだ」
その言葉以上のことは、彼自身にも分からなかった。
ただ、一つ──
この日を境に、何かが、決定的に“変わった”ということだけは、はっきりと胸の奥で感じ取っていた。
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