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第一章

第十九話 ゼッペルの力

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「ゼッペル! 出て来い!」

 森で出会った男の名を呼び、姿を見せるように言う。すると、いきなり天井が崩壊し、赤髪の短髪の男が姿を現す。

「今回は素直に姿を見せてくれるんだな?」

「ああ、俺は臆病者でも、決してお前たちにビビっている訳でもないからな?」

 珍しく姿を見せたことに少々驚いていると、彼は姿を見せた理由を語り出した。

 余程マヤノが言った言葉が心に残っていたのだろうな。

「ゼッペル! 何を呑気に話している。早くこいつらを殺せ! あの男が死ねば、私に掛けられた奴隷契約も解除されるはずだ」

 ゼッペルが現れたことで安心したのか、大臣の表情は和らぐ。

 確かに奴隷契約と言うのは、契約者が居て初めて効果を発揮する。俺が死ねば、大臣は再び自由を取り戻すことができる。

「ワハハハハ! ゼッペルが来た以上、お前たちは終わりだ。お前たちはこいつに殺されるのだ!」

 仲間が現れたことで、形成逆転をしたと思い込んでいるようだ。大臣は勝ち誇ったような顔をしている。

「仮にゼッペルが強いとしよう。でも、それで大臣のお前が100パーセント助かると、誰が言った?」

「何!」

 俺の一言で、大臣の表情が変わった。先ほどまで勝ち誇ったような顔であったが、今は訝しむような顔つきをしている。

 まぁ、敵の言葉だ。半信半疑になっても仕方がない。

「だって、俺とお前は奴隷契約を結んで主従関係になっているんだぞ。俺の温情で生かしてやっているが、俺が肉壁になれと命じれば、お前はゼッペルの攻撃を受ける盾となる」

 どうして大臣が助からないのかを説明すると、彼は頬を引き攣った。

 ようやく状況を理解したようで、彼は顔色を悪くする。

 その瞬間、ゼッペルは鞘から剣を抜き、刀身の刃先を大臣に向けた。

「確かにそうだな。なら、面倒臭いことになる前に、このブタを処理しておくか」

「な、何を言っている! 冗談は辞めないか! お前は私に雇われているのだぞ! 雇用主を殺して何になる。報酬を支払えなくなるじゃないか!」

 どうにかしてでも生き残りたいのか、大臣は言葉を連ねてゼッペルを説得しようとする。

「悪いな。元々俺は、別の思惑で動いてお前を逆に利用していただけだ。俺が求めているものは金ではない。だから利用価値のないブタを飼い続ける訳にはいかない。ここでさよならだ」

「やめろおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 大臣の雄叫びとも言える叫び声が部屋に響く中、ゼッペルは剣を振り下ろす。

 刃は大臣の首に触れると綺麗に切断され、恐怖で歪んだ顔が床に転がった。

「大臣、やっぱり先ほどの言葉は訂正しよう。君は最後の最後に役に立ってくれたよ。この魔剣であるティルヴィングが、君の血を欲していたからね」

 床に飛び散っている血溜まりに剣先を突き刺す。するとまるで吸引しているかのように、大臣の血がティルヴィングと呼ばれた剣に吸収されていく。

「さぁ、準備は整った。こいつで君たちをあの世に送って上げるよ」

 彼が宣戦布告をすると、剣の十字鍔であるキヨンから、触手のようなものが現れる。そしてそれはゼッペルの腕に突き刺さった。

 予想の付かない展開に驚いてしまい、一瞬体が硬直してしまう。

 なんだ? あの剣は? 使用者の腕に何かを突き刺している。

 魔剣と言うのは、強力な力を与える代わりに、使用者を滅びへと導く呪われた武器。剣の性能がどれほどのものなのかが分からない以上、迂闊には行動できない。

「どうした? 来ないのか? なら、こっちから行かせてもらう!」

 ゼッペルが床を蹴って距離を詰めて来た瞬間、目を大きく見開く。

 早い! 今から回避行動に移ったとしても、間に合う可能性は低い。身体能力を上げる力を持っているのか。

「させるか!」

 身を斬られる覚悟で致命傷を避けるために回避に移ろうとした瞬間、トウカイ騎士団長が間に入って剣で受け止め、バインドと呼ばれる状態になった。

「トウカイ騎士団長!」

「油断大敵だ。俺が押さえている間に体制を整えてくれ」

「分かりました」

 危なかった。もし、トウカイ騎士団長が直ぐに反応してくれなければ、俺は斬られていただろう。

 トウカイ騎士団長がゼッペルを押さえ付けてくれている間に、攻撃に転じる。

「ガーラース! 行け!」

『カァー!』

 命令を下すと、黒鳥はゼッペルに向かって飛翔する。そして嘴を使って彼を攻撃しようとした。

「ばかめ! そんな鳥程度に俺がやられるか!」

「誰がガーラースでお前を倒すと言った?」

「何!」

「気が逸れるとは、余裕だな。隙あり!」

 ゼッペルの気がガーラースに向けられている間に、トウカイ騎士団長はゼッペルに蹴りを入れた。

 不意を突かれて一瞬動きが止まった瞬間を、トウカイ騎士団長は見逃さない。直ぐに上段に構えて剣を振り下ろし、ゼッペルの手首を切った。

 動脈を斬られて重傷を負っている。やつが回復魔法を使えない限り、助からないはずだ。

 しばらく待って見るも、彼は回復魔法を使う素振りを見せない。どうやらゼッペルは魔法が使えないようだ。

「さぁ、これでお前も終わりだ。大人しく捕縛されれば命だけは助けてやろう」

 トウカイ騎士団上がゼッペルに近付き、温情をかける。

「何を言っている? まだ致命傷を負ったに過ぎない。俺が死ぬまで、俺の敗北でない!」

 目を大きく見開き、ゼッペルが声を上げる。すると彼の持っていたティルヴィングから、別の触手が出現すると、次々と彼の肉体に突き刺す。

 自滅とも言える光景に、思わず絶句してしまう。

「さぁ、今からが本番だ。俺の命を引き換えに、お前たち全員を皆殺しにしてやる」
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