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第三章

第四話 フェアリードラゴン戦

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 さて、ここからどうしようか。マヤノが魔法で攻撃をする度に、メリュジーナさんは俺が強制的に戦わせていると勘違いをして、怒りのボルテージを上げている。

 マヤノの手を借りることなく無力化させるには、どのようにするのがベストなのだろうか。

『こいつで骨も残さずに消し炭にしてくれる!』

 メリュジーナさんが、息を大きく吸い込んで口を開ける。

 このモーションは、恐らく火炎攻撃が来ると見ていい。

 彼女の攻撃を読み、その場から横に飛ぶようにして跳躍をする。すると、その1秒後にはメリュジーナさんの口から炎が吐かれ、先ほどまで俺が立っていた場所を焼き尽くす。

『何! わたしの攻撃が読まれた!』

 咄嗟に攻撃を躱したことが、彼女にとっては予想外だったみたいだ。一発で仕留められなかったことに対して驚いている様子だが、攻撃のモーションを見れば、ある程度の予測を立てることはできる。

 マヤノの母親だから、それなりに知力はあると思う。でも、今は怒りで冷静さを失っていることで、そのことにも気付けていないみたいだ。

 分かりやすいモーションなら、今のところは攻撃を避けることは容易だ。でも、いつフェイントを混ぜた攻撃が来るとも限らない。

 メリュジーナさんの攻撃を避けていれば、いずれ疲れて隙が生じるかもしれない。だけどそれは、俺にも言えることだ。

 早い段階で攻撃に転じる手段を見出さなければ、俺の方が先に体力が尽きる。

「フリードちゃん!」

 手段を模索している中、マヤノが声をかけてきた。

「どうした?」

「ママは予想外の攻撃に弱いよ! パパがママに勝ったときも、予想外の攻撃で倒したって言っていた」

 予想外の攻撃? それってどんな?

 マヤノからのヒントから、メリュジーナさんの無力化の方法を思案していると、脳裏にマヤノの過去の記憶が映り出す。





『ねぇ、ママ? ママはいつもパパの言うことに従うよね?』

 幼いマヤノが、薄い水色のロングヘアーの女性に声をかけた。

 あれ? でも、彼女は人間だ。それに見た目もなんだかマヤノに似ている。きっと彼女が本当の母親なのだろう。

『それはそうだよ。だってご主人様マスターの言うことは、ほとんどが正しいことばかりだからね』

『でも、間違っている時は止めるんだよね?』

『それはそうだよ。わたしはあの人には、間違った道を進んで欲しくない。まぁ、力尽くで止めるにしても、勝てるとは思えないけれどね』

 マヤノの問いに母親は苦笑いを浮かべながら答える。

『あの人は本当に凄いよ。この世界の常識を簡単に覆す。わたしが初めてご主人様マスターと戦った時なんか。わたしのウォーターポンプを、ファイヤーボールで相殺してしまったからね』

『あの中級魔法を、下級魔法で相殺したの! 凄い! しかも魔法の相性からしても、絶対に不可能なのに!』

『ああ、本当に凄い人だ「炎が水を打ち消すのは、炎の発熱量を冷却効果が上回ったときだけ。水は100度に達すると、水の水分子は活発に動いてバラバラになる。だから炎は残り続けると言う訳だ」と言って、魔法の水を水蒸気に変えてしまったからね』

 水の中級魔法が下級の炎魔法に打ち負けた? 彼女の言っていることの意味は分からないが、そんなことが可能なら、確かに相手の意表を突くことができそうだな。

『その後は散々だったよ。常識を覆されたことで、わたしは動揺してしまった。その隙を突かれて弱体化の魔法をかけられ、肉体強化で強くなったご主人様マスターに吹き飛ばされてしまったからね』

『そ、それは凄いね。だって、パパが初めて会ったときのママって――』

 我に返ると、俺の視界には再び息を吸い込むメリュジーナさんの姿が映り出す。

 ここで記憶が途切れてしまったか。でも、今の記憶はとても参考になった。これなら、メリュジーナさんの意表を付いて攻撃を行い、彼女を無力化させることができるかもしれない。

 でも、俺の魔力で同じことができるのか?

『大丈夫だ。君ならできる。ようはイメージだ。鍋をグツグツと煮込むと、上の方に湯気が出るだろう? あんなふうにイメージして魔法を発動すればできる』

「!」

 なんだ! 今の? どこからか、とても優しい声音の男性の声が聞こえてきた。

『今度こそ当てる!』

 再び俺に向けて火炎が放たれた。だが、吐かれる息吹は直線状に突き進む。左右のどちらかに飛べば、回避することも可能だ。

 右に跳躍して再び彼女の攻撃を避ける。

『やはり、火炎では避けられるか。なら、これならどうだ! ウォーターポンプ!』

 メリュジーナさんが魔法を発動すると水が出現する。その水は筒状となり、一気にこちらに向けて放たれた。

 来た! このチャンスを逃してたまるか!

「ファイヤーボール!」

 水の魔法に対抗してこちらは炎の魔法を発動する。

『アハハハハ! どうやら気でも狂ったようだな。水に対して炎で対抗するとは、魔学を知らないボンクラめ!』

 勝ちを確信したのか、メリュジーナさんは俺のことをバカにする。

「あれ? メリュジーナさん、もしかして忘れているの? 魔学を覆すことができる学問の存在を?」

『魔学を覆す学問……そんなばかな! あれはその辺の奴隷使いが知っているものでは!』

 メリュジーナさんが驚き、目が大きく見開かれた。

 よし、動揺している。ここから一気に決めさせてもらう!

「いっけー」

 右手を突き出した瞬間、火球が水の塊に触れる。すると火と水の境目に水蒸気が現れ、周囲に散らばる。

「魔学の常識は化学で覆すことができる!」

『どうしてお前なんかがそれを知っている!』

 メリュジーナさんが驚きの声を上げる。

 さて、これで第一段階は終了だ。第二段階に移行する。
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