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第三章

第五話 フェアリードラゴン戦②

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 水の魔法を炎魔法で掻き消すと言う、とんでもない現象を生み出した俺は、メリュジーナさんの意表を突くことに成功した。

 よし、これでどうにか隙を作ることができた。後はこのまま勢いよく攻め、彼女を倒すだけだ。

 数秒前に脳裏に映り出したマヤノの記憶を思い出す。

 確かあの記憶に更なるヒントがあった。それを参考にすれば、うまくメリュジーナさんを無力化させることができるかもしれない。

 マヤノの記憶の断片では、母親が弱体魔法や強化魔法の話しをしていた。強化魔法は、エンハンスドボディーやスピードスターと言った、肉体強化の魔法で恐らくあっている。

 後は弱体化の魔法だが、それに関して俺は無知だ。

 どうにか上手い具合に、マヤノの記憶を引き出せれば良いのだけど。

 今までは、一方的に彼女の記憶が俺の脳裏に映像として映り出されていた。だけどこれからは、俺の方からも記憶の断片を引き出せるようにしなければいけない。

 その方法はもちろんある。奴隷契約スレーブコントラクトが使える俺だからこそ可能だ。

 だけどこの方法は、もしかしたらマヤノの肉体に負担をかけることになるかもしれない。

 本当にやっても良いのか? もし使用すれば、メリュジーナさんの怒りのボルテージを上げることになる。

 チラリとマヤノの方を見ると、彼女と目が会った。マヤノは無言で頷くが、その目は俺に何かを訴えているように見えた。

 マヤノは自分の力に怯える必要はないことを教えてくれた。ここはメリュジーナさんを大人しくさせるために力を行使する。

「我が契約に基づき、命令に従え! マヤノ、君の弱体魔法に関する記憶を俺に共有するんだ!」

 契約に基づき、マヤノに記憶の共有を命じる。すると、脳裏に彼女の記憶が映り出す。





『サルコペニア!』

『うわー! 凄い! さっきまで筋肉マッチョのおじさんにお肉が付いた!』

『なんだこれは! 俺の自慢の筋肉が落ちて、肉が増えていやがる!』

 マヤノの父親のテオが魔法を発動したその瞬間、男の体に変化が起きた。彼の筋肉が減り、代わりに贅肉が付く。そしてその変化を見て、幼いマヤノが目を輝かせた。

 だが、興奮するマヤノに反して、突然体に変化が起きた男性は驚愕している。

『俺の大切な娘に手を出したからだ。命が奪われないだけありがたいと思え!』

『くそう! 覚えていやがれ!』

 男は涙目になりながら、走りづらそうにしてこの場を去って行く。

『ねぇ、パパ! あの魔法ってなんなの? いきなりあのおじさんの体に変化が起きたのだけど?』

『あれか? あの魔法は弱体化の魔法の一種だ。サルコペニアと言って、あの魔法を受けた人間は、筋肉の元となる筋タンパク質の分解が、筋タンパク質の合成を上回せる。それにより筋肉の量を減少させることができる』

『なるほど、だからあのおじさんの筋肉がお肉に変身したんだね』

『そうだな。しかもこの魔法を発動すると、恩恵が大きい。デバフの影響で全身の筋力低下が発生し、攻撃力、防御力、素早さが著しく低くなる。この魔法はひとつで3つの効果を与えることができるんだ。さらに、速度が落ちたことで回避率が下がり、攻撃側は必中に近い状態にすることも可能となる』

『かなり便利な魔法だね。その魔法さえ発動すれば、どんな相手でも簡単に勝ててしまうんじゃない?』

『まぁ、全てに効果があると言う訳ではないがな。巨大な相手には効果が薄いこともある』





 ここで記憶が途切れてしまった。だが、成果は大きい。なるほど、筋肉の現象で相手の様々なステータスを下げることができるのか。

 とにかく今は、この魔法を使うしかなさそうだ。頼む、上手く行ってくれ!

「サルコペニア! スピードスター! エンハンスドボディー!」

 魔法を発動して、メリュジーナさんに弱体化の魔法をかける。その後スピードスターを使い、足の筋肉の収縮速度を速くした走りで彼女に近付く。そして最後に肉体強化の魔法で己の限界に近い筋力を発揮すると、龍の巨体を持ち上げる。

『バカな! このわたしを持ち上げるなんて、ご主人様マスター以外にはいなかったのに!』

 思った通りだ。人が重い物を持ち上げることが可能な限界は500キログラムだ。

 サルコペニアとエンハンスドボディーの魔法を組み合わせたことで、ドラゴンを持ち上げることを可能にした。

「これで終わりだ!」

 声を荒げ、メリュジーナさんを吹き飛ばす。彼女の体は地下空間の壁にぶつかり、動きを止めた。

 さすがに殺してはいないと思うが心配だ。起き上がって反撃に出る可能性もある。そのことを考慮して、警戒を緩めることなくメリュジーナさんに近付く。

 するとドラゴンの体は発光して光に包まれる。

 なんだ? この光は?

 突然発光するドラゴンの体に驚き、その眩しさに直視をすることができずに瞼を閉じる。

 それから数秒が立ち、光が収まっていること祈りつつ閉じていた瞼を開ける。

「嘘だろう」

 目の前に広がる光景に驚き、思わず言葉が漏れてしまった。
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