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第一章

第七話 こんなイベント、サブストーリーにはなかったじゃないか

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「ハハハ、俺はついているぜ。まさか神の駒を二人同時に葬ることができるのだからな」

 この声は!

 ゲーム内で聞き覚えのある声が聞こえ、そちらに顔を向ける。そこには赤い髪をツーブロックにしている男が立っていた。

 筋肉隆々であることが分かるインナーを着ており、口調からして誰が俺たちを攻撃したのかが一目瞭然だった。

 だけど、そんなことなどどうでもいい。大事なのは誰が攻撃してきたのではなく、どうしてここにいるかだ。

「タイガ・ケンモチ、どうしてお前がここにいる?」

「どうして俺の名を知っているのか分からないが、自己紹介をする手間が省けたな。どうしても何も、この洞窟を俺のねぐらにしているからだ。たまに冒険者たちが出入りするからな。神の駒が紛れこむのを待っていたのだ」

 なるほど、どうしてこいつがこの場にいるのかは理解した。まさかサブストーリーにまで、本編キャラが介入してくるとは思わなかったな。アップデートで変わったのか?

「カレン、悪いけど一旦下ろす。こいつと話がしたい」

「話がしたいってバカなの。私の時とは状況が違うのよ」

「大丈夫だ。もし、戦闘になったときはちゃんと戦うさ」

 腕に抱えていた推しを地面に立たせると男に近付く。

「タイガ、俺たちはできることならお前とは戦いたくない。大人しく道を譲ってくれないか?」

 この男とはできることなら戦いたくない。だってこいつ、見た目はヤンキーなのにめちゃくちゃ良いやつだもん。

 タイガが優勝したときに叶えたい願いってのが、過去に戻って事故死した両親の死をなかったことにすることなんだぜ。不良になったのも、親戚の間をたらい回しにされて、自分の居場所がなくなったことで、心がすさんでしまったのが原因なんだもん。

 こいつ本当は良いやつで、男キャラの中でもわりと好きな方なんだぞ。そんなやつと戦えるかよ。

「お前バカだろう。何が話し合いだ。聖神戦争は最後まで生き残ったやつの願いが叶うシステム。自分以外は敵なんだぞ。今は手を取り合っていたとしても、いずれは敵同士なんだ。馴れ合うことなんかできるか」

「いやー、お前本当に良いやつだな。男のツンデレは俺的にはナシだけど、絆ができた後のことを心配してくれているんだよな」

「は、はぁ? だ、誰が心配しているかよ! 俺はただ単に敵とは馴れ合わないって言っているだけじゃないか。勘違いするなよ! しかも俺はツンデレじゃないし」

 いや、言動自体がツンデレになっているじゃないか。自分では気付いていないのかもしれないけど、俺の中ではツンデレキャラ認定しているからな。

「いや、ムリして一匹狼を気取らなくって良いって。俺たち、良い関係を築けると思うんだよね」

「ムリなんかしてねーし! もう起こった! 俺をバカにした罪は重いぞ! 二人纏めてリタイアさせてやる! 【武器の祭典ウエポンカーニバル】」

 タイガが声を上げると、彼の上空に剣や槍、斧といった武器が数多く展開される。

「ユウリ、交渉決裂になった以上、あいつを倒すしかないわ」

 カレンが俺の横に立ち、魔法を放つことができる銃を構える。

「二対一だからって勝てるとは思うなよ。俺の攻撃は広範囲を狙える。二人同時に狙うことも可能だ」

 やっぱり良いやつじゃないか。自分から手の内を晒してくれるなんて。まぁ、ゲームで効果を知っているから、わざわざ教えてもらう必要はないのだけどな。

「俺様をバカにしたことを後悔させてやる! 放て! 【武器の矢ウエポンアロー】オーラオラオラ!」

 タイガが左右の腕を前に突き出す。彼の腕の動きに合わせて、上空に展開させた武器が矢のように降り注いだ。

 まだ【俊足スピードスター】の効果は持続している。【肉体強化エンハンスドボディー】で動体視力を強化すれば避けられるはず。

「【肉体強化エンハンスドボディー】! カレン、しばらくの間また我慢して」

 カレンに謝り、彼女をお姫様抱っこする。そして顔を上げ、降り注ぐ武器を見た。

 動体視力が強化されたお陰で武器の起動が見える。これなら躱すことが容易だ。

 雨のように襲い掛かる得物の数々を、小さな動きで避ける。

「何だと! 俺の攻撃が躱された!」

「悪いな。単純な攻撃なら、肉体さえ強化すれば避けることは容易い」

「くそう! くそう! くそう! 当たりやがれ!」

 諦め悪く、タイガは俺たちに向けて武器を放つ。

 ムダ撃ちにしかならないことが分からないのかな?

「カレン、タイガを足止めすることはできそうか?」

「やってみる」

 俺の腕に抱かれる中、カレンは銃をタイガの真上に向ける。

「発射!」

 彼女が打ち出した弾は天井に当たると崩れ、タイガに降り注ぐ。

「チッ、そんな攻撃当たるかよ! オーラオラオラ!」

 崩れた天井の岩に向けて数多くの武器が放たれる。剣や槍は岩を砕き、粉々になると地面に落ちた。

 脳筋であったとしても、戦闘に関しては頭がキレるか。

「ごめん。失敗した」

「謝ることはない。タイガの気を逸らしてもらえただけで十分だ」

 一瞬の隙を突き、俺はカレンを抱えたまま男の背後に回る。

 今なら【ロック】のスキルを使ってやつにダメージを与えることができる。

「ロ……」

「背後に回ったか。トラップ発動!」

「何!」

 地面から鎖が飛び出し、俺たちを捕らえようする。

 そういえば、こいつの攻撃パターンは武器を飛ばすだけではなかったな。

 このままではカレンまで捕まってしまう。

「カレン、このままでは二人とも捕まってしまう。痛くないと保証するから投げ飛ばすよ」

「え、えええ! きゃああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 推しを投げ飛ばすなんて、ファンとして最低の行為だ。だけどこうするしか彼女が助かる道はない。

「【肉体強化エンハンスドボディー】」

 カレンに向けて肉体強化のスキルを発動させる。その後、彼女は地面に叩きつけられるも、何事もなかったかのように直ぐに起き上がった。

 良かった。これで彼女は傷付かない。

 ホッと安心したその瞬間、鎖は俺を逃さないように絡み付く。

「ハハハ! ざまぁねぇな! もうお前はサンドバック状態だ! 俺がツンデレではないところを証明するために、今からなぶり殺してやる!」

 高笑いをしながら、俺の顔面に向けてタイガが拳を放った。











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