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第一章

第九話 カレンの手は万能薬!

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「ギルドマスター、助けてくれ! グロスの町が大変なことになった!」

 突然ギルド内に入ってきた女性が、ギルドマスターに助けを求める。

「落ち着け、いったい何が起きたと言うんだ!」

「突然魔物たちが町の中に侵入して大騒ぎなんだよ!」

「何だと!」

「頼む! この町から一流の冒険者を派遣してくれ!」

「分かった。人選するから少し待っておれ」

 ギルドマスターがチラリとこちらを見てくる。しかし俺は目を合わせないように視線を下に向けた。

 だってグロスの町に行くと、カレンの死亡フラグが成立してしまう。

 カレンは物語の中盤で行われるゼウス戦以外でも、プレイヤーの選択次第でカレンが殺されてしまうルートも存在している。その一つがグロスの町で起きる魔物騒動だ。

 倒しても無限に現れてしまうモンスターに、カレンが殺されてしまう。カレンが町に行かなかった場合は生存するが、グロスの町が魔物たちに滅ぼされてしまう。

 一人の女の子を犠牲にして町を救うか、女の子を犠牲にしないで町を滅ぼすのか、究極の選択肢をプレイヤーに求められる。だが、初見以外のプレイヤーは全員が町を犠牲にする。

 だって、カレンが中盤まで生き残っていないと、強制ゲームオーバーになってしまうから。

「ユウリ、ちょっといいか?」

 ギルドマスターが声をかけてくるが、俺は聞こえない振りをする。

 だってカレンには生き残ってもらいたいもん。

「ユウリ、ちょっといいか?」

 もう一度ギルドマスターが声をかけるが、再び聞こえない振りをする。

「頼む! Aランク冒険者を瞬殺してうえに、神の駒を倒したお前にしか頼めないことなんだ!」

「それは本当ですか!」

 ギルドマスターが俺の功績を口走ると、女の人が反応して声を上げた。

「是非お願いします! あなたのような神の駒、、、なら、きっと町を救えるはずです」

 女性は俺の手を握って見つめてくる。

 この女の人、少し体臭がきつくないか? ここまで全力で走って汗でも掻いたのか?

 まぁ、この際そんな細かいことはどうでもいい。俺は何を言われようとカレンのために断り続けるぞ。

「ユウリ行こうよ! こうしている間にも、モンスターに襲われている人たちが苦しんでいる」

 カレンが赤い瞳で俺のことを見てくる。

 ああ、なんてカレンは優しいんだ。困っている人がいたら手を差し伸べるその優しさ、まるで女神だ。本物の神であるカーマとは大違い。

「カレンがそう言うのなら良いよ」

 頬が緩み、推しの大空のように広い慈悲深さに決心が揺らいでしまった俺は、つい了承してしまった。

 って、何をやっているんだよ、俺! さっき何を言われようとカレンのために断り続けるって決めたばかりじゃん!

 でも、これは仕方がない。推しのお願い事を聞かないファンなんてこの世にいるか! いないだろう!

 とにかく、こうなった以上は何が起きても俺が彼女を守ってみせる。

「カレン、例え何万体の魔物が来ようと、君は俺が必ず守り通してみせるから」

 思ったことを口にすると、彼女の頬が若干朱色になったような気がした。

「と、とにかく。来てくださるのなら急ぎましょう。ギルドの前に馬車を停めていますので」

「あ、ああ」

 俺とカレンはギルドを出ると、前に止まっていた馬車に乗り込む。

 最後に女性が座ると、馬車はグロスの町に向けて走り出す。

 とにかく、こうなってしまった以上は、ストーリーブレイクしないといけないな。

 グロスの町でのストーリーを思い出そうとした瞬間、急に頭が締め付けられるかのような痛みを覚える。

 何だ? この痛みは? 思い出そうとすると頭がズキズキする。

「どうしたの! 顔色悪いよ」

 頭痛に耐えていると、カレンが俺の額に手を当てる。

 カ、カレンが俺の額を触ってくれた!

 彼女が俺の額に触れた瞬間、頭痛がみるみる引いていく。

 別にカレンが、特別な回復スキルを使ってくれたとかではない。

 確か前に読んだ本に、脳は意外と単純で、複数の感覚が一緒に来ると、優先順位をつける機能があるって書いてあったな。

 感覚の優先順位は確か一番に運動、二番触覚、三番痛み、四番冷覚、五番かゆみだったはず。

 そしてこれらの感覚が同時に感じると、上位のものを優先的に感じようとするのだと読んだ記憶がある。

 つまり、カレンに触れられた事実が一番に優先され、頭の痛みを感じなくなっているってことだ。

 カレンはまさに俺の救世主だ! 彼女の手はもはや俺にとっては万能薬にも等しい!

「ありがとう。もう大丈夫だ。カレンが触れてくれたから元気を取り戻した」

「そ、そう。ならよかった」

 カレンがそっと俺の額から手を離す。

 額から離れる彼女の手を名残惜しく感じてしまうな。

 こうなるのなら、嘘を言ってもう少しよしよししてもらえばよかった。

 まぁ、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。頭痛も引いたし、もう一度思い出してみよう。

「町に現れた魔物は確か、ゴブリンやオーガだったです。そしてそれを操っているのが【魔物使いモンスターマスター】を名乗る人物でした」

 記憶を思い出そうとすると、女性は町に現れたモンスターや、それを操る人物について語る。

 あれ? そうだったけ? なんか俺の知っている知識と微妙に違うような?

 いや、俺のほうがきっと間違っているはず。彼女が言うと、そんな気がしてきた。

 なら、モンスターと戦いつつ、そいつを倒すことができれば、カレンを救うことができるな。

 これで希望を持つことができた。

「そう言えば、二人組って珍しいですね」

「え? そんなに珍しくはないだろう?」

 彼女は急に何を言っているんだ? 別にパーティーを組む冒険者くらい普通だろうに?

「あ、そうなのですね。すみません。私の知人はいつも複数人でパーティーを組んでいたものでして」

「ああ、そういう意味でしたか。確かに二人パーティーは珍しいかもしれないですね」

 女の人と雑談していると、グロスの町が見えてきた。

 あれ? 妙に静かすぎないか? モンスターに襲われているのなら、もっと大騒ぎになっていてもおかしくないのに。

 疑問に思いながらも、馬車が町の中に入る。

 馬車が停止し、俺たちは急いで外に出る。しかし、俺の視界に入った町の光景は予想を遥かに超えていた。











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