薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第六章

第十四話 マキョウダービー⑦

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『現在先頭ハナを走るウイニングライブ、そして彼女を追いかけるシャワーライト、両者共々表情は苦しいぞ!』

『今走っている最後のギミック、心臓破りの坂ブレークユアハートは、坂を上る人数が多ければ多いいほど、傾斜がキツくなります。このギミックを最小限のリスクで突破するには、後続との差を引き離さなければならなかったのですが、そうは行きませんでしたね。いくら優れた逃げの脚質を持っていても、ダービーに出場する走者のレベルは、やはり高かったと言うことでしょう』

『後続も速度を上げて少しでも前との距離を縮めたいところですが、急勾配の坂は予想以上にきつい。ここからがパワーと根性勝負!』

 先頭から大きく離されて、俺は現在15位。普通の走者であれば、諦めるところだ。しかし、敢えてこの展開になるように選んでいた俺は、予定通りに事が進んでいることに安堵しつつ、口角を上げる。

 よし、よし、今のところは予定通りだ。後は爆発的な末脚で、後方から一気に牛蒡抜ごぼうぬきをするだけ。

 しかしタイミングを見誤れば、無駄なスタミナを消費してしまい、逆転して優勝するのは困難だ。

 実況を務めるアルティメットの言葉に耳を傾け、逆転できるタイミングを見逃さないようにしなければ。

心臓破りの坂ブレークユアハートを走者たちが一斉に走る中、順位が入れ替わる! 現在先頭ハナを走るのはウイニングライブ、そして2番手をシャワーライトが走ります。ここまでは不動の順位。そして3番手をパワームテキが走ります』

『名前にパワーが付いているだけあって、脚力は強いですね。坂道になって、一気に順位を上げました』

『4番手はカマカマ、そしてその内側をサンシャインが走り、アマソンが並んで来る。ミスターブラウン、ここで速度が落ちた! チャンスだとばかりにアストンが粘りながら前に出て、7番手に躍り出た! 彼らから3メートル差をサイリスが走り、おっと、ここでサザナミが水の魔法を使用したぞ! 前方を走っているピッキーハウスの足が滑って距離を縮められる! 追い越すか! いや、距離を縮めても追い抜くことはできない!』

『魔法で妨害するのは順位を上げる手段の一つですが、この場面では速度を上げる系の魔法が良かったでしょう。その証拠にピッキーハウスは妨害された直前に、速度アップの魔法を使用して、どうにか転倒することを避け、体勢を整えています』

『更に2メートル離れてアックスが走り、その外側をカゲノキシが走って追いかける。まだシャカールは最後のギミックに到達していないぞ! このまま間に合うのか! そして、絶望的な順位のサイレントキル、カルディア、ユキノタマはシャカールと10メートル以上差が付いている!』

『ここまでの順位を見た感じ、ウイニングライブとシャワーライトの一騎打ちと言ったようですね。私の期待株であるシャカール走者は、入賞も難しいでしょう。人族初の2冠達成はここで途切れる模様』

『ここで先頭集団に動きがあった! シャワーライトがウイニングライブに並びかけてきたぞ! そしてそのまま坂を登り切り、最後の直線コースに入った!』

『彼女たちが抜けたことで、坂の角度が変わりました。少しだけ後続が走りやすくなったでしょう』

『先頭を走るウイニングライブたちが抜けたことで、坂が少しだけ緩やかになった。勝負をかけるのはここからだ!』

「スピードスター!」

 速度アップの魔法を発動し、一気に加速して先頭との距離を縮める。

 足の筋肉の収縮速度が上がったことで、5秒の間時速56キロから64キロの速度で走ることができる。

 たった5秒間しか効果が持続しないが、それだけの時間があれば、坂を登って疲弊している奴らを追い抜いくことができる。

『ここでシャカール走者が加速を始めた! 次々と走者がギミックを抜けて傾斜が緩やかになる中、ものすごいスピードで最後のギミック、心臓破りの坂ブレークユアハートに突入だ!』

『しかしほとんどの走者がギミックを抜け、もはや心臓破りの坂の役割を成してはいません。これでは普通の緩やかな坂の直線と変わりありません』

『さぁ、坂が緩やかになって行く中、シャカール走者が距離を縮めて行く! 爆発的な末脚でカゲノキシ、そしてアックスを追い抜けた! まだまだその走りは衰えません! あっという間にサザナミ。そしてピッキーハウスも追い抜く!』

『一気に追い抜いて行きますね。私は彼を見誤っていました。どうやら彼は最後のギミックを考慮して、わざと最初から後方を走っていたようです。これまでの走りが全て演技であったとなると、凄まじい演技と言えましょう』

 よし、よし! これまで急な坂を走らされていた奴らは、かなりスタミナを減らしているみたいだ。だけど先に行けば行くほど、スタミナに余裕がある奴らばかりだ。簡単には追い抜かせてもらえないかもしれないが、俺はまだ諦めねぇ。

「スピードスター!」

 俊足魔法の効果が切れそうになる直前で、もう一度同じ魔法を使用し、再び加速を行う。

『まだまだシャカールの快進撃は終わらない! ミスターブラウン、そしてアストン、まだまだだと言いたげに4番手を走るカマカマに追い付く! しかしカマカマも負けては居られない! 粘りの走りで、前方を走るパワームテキに追い付いた! 3名が並んだ!』

『シャカール走者が見事な牛蒡抜ごぼうぬきを見せ、観客たちも熱が入ったもよう。大きな歓声がここまで聞こえて来ます』

「オラオラ! 道を開けろ! お前たちクソザコは、いくら頑張っても俺には勝てない! 諦めろ!」

「何が……諦めろ……だ」

「そう……だ……ダービーだけは……死んでも……優勝を諦められない」

 パワームテキとカマカマが俺の言葉に返答するも、息が絶え絶えのようで、言葉が途切れ途切れに口から放たれる。

 3位争いをしている連中の状態を確認するために、声をかけてみるも、予想通りにかなり疲弊している。

 これなら、こいつらが速度を上げて追いかけて来るようなことはしないだろう。なら、後は前を走るウイニングライブとシャワーライトを相手にするだけ。

「どうやらここまでのようだな。これ以上影の中で休んでいても、旨い汁を吸うことはできなさそうだ」

 ゴール板に向けて走っていると、突如どこからか声が聞こえた。

 声の出所を探っていると。カマカマの影から聞こえていることに気付く。

 そうだ。俺はすっかり忘れていた。途中から、アルティメットは17名の走者の名前しか出していない。そしてこのレースは18名のフルゲートで行われている。

「俺がダービー覇者になるための踏み台になってくれて感謝する。お陰でかなりスタミナを温存することができた」

 カマカマの影から黒い鎧を着た騎士が現れる。

 そうだ。こいつは序盤で影移動をしてカマカマの影の中に入りやがったんだった。

「さぁ、楽しい優勝争いをしょうではないかシャカール」

「本当に影が薄いやつだな。シャドーナイツが影に隠れて身を潜めていたせいで、存在をすっかり忘れていたぜ」
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