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第七章
第一話 とある研究所での出来事
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~とある研究所の所長視点~
『シャカール走者が栄光のダービー制覇! 2冠達成! やりました! シャカール走者、人類史上初の2冠覇者となりました! 再び歴史が動いた! そして伝説は秋のキョウトタウンに行われる【KINNGU賞】へと引き継がれて行く!』
俺は、映像を映し出す水晶を使い、研究所からマキョウダービーのレースを観戦していた。
しかし水晶に映し出される黒髪の少年が目に焼き付き、視線を水晶から外すことができないでいる。
「この男……まさか。いや、やつは魔の森に捨てて来た。あの森に生息しているモンスターの餌食になっているはず。しかし、どこからどう見てもナンバー0721にそっくりだ」
シャカールと呼ばれているが、どこからどう見てもナンバー0721にしか見えない。世の中には自分と同じ顔のやつが3人はいると言われているが、他人の空似か?
額に手を置いて考える。いや、最後の最後で発揮された魔法禁止エリア内での尋常ではないあの加速。あれは我々が長年ナンバー0721に臨んだ能力そのものだ。
つまり、あのシャカールと呼ばれている男は、ナンバー0721で間違いないことになる。
「クハハ! クァハハハハ! どう言う敬意であの男が生きており、更に能力が開花しているのかは知らないが、これは僥倖だ! 早速あの男を連れ戻し、我々専属の走者にする。そうすれば、これまで我々をバカにしてきた他種族共を逆に見下すことができるぞ」
体が震え、興奮が止まない中、俺は扉に視線を向ける。
「おい! 誰かいないか!」
「はい、及びでしょうか?」
扉に向けて声を上げると、部屋の近くを通ったと思われる職員が扉を開けて中に入って来る。
「お前、今すぐにナンバー0721の所在を見つけ、俺に報告しろ」
「お言葉ですが、ナンバー0721は、魔の森に住むモンスターの餌にしたので、死んでいます。霊体の居場所を突き止めろと言われても?」
「お前はバカか! ナンバー0721は生きている! しかも走者として各レースに赴き、2冠を達成しやがった」
「所長、どうやらお疲れのようですね。夢でも見たのではないのですか? いくらなんでも、人類が2冠を達成する訳がないではないですか。そんなことが起きれば、歴史的快挙ですよ」
俺の言葉を信じようとしない職員に怒りが募り、拳を強く握る。
「ええい! 俺が嘘を言っているかどうかは、この水晶に映し出される映像を見てからにしろ!」
苛立ち、一気に機嫌の悪くなった俺は、職員の襟を掴み、引っ張る。そして机の上に置いてある映像を彼に見せた。
『シャカール走者! 人類史上初の2冠達成! 魔競走の歴史に新たな1ページを刻みました!』
水晶から映し出される映像と音声を職員に見せると、彼は困惑をしていると思われる表情をしながら、口角を引き攣らせる。
「ハハハ、そんなバカな。こんなことあり得ませんよ。だって、ナンバー0721は、魔法もユニークスキルも満足に発動できない出来損ないのクズですよ」
「信じたくない気持ちは分かるが事実だ。しかもやつはレース中に複数の魔法を組み合わせて、雷撃を作ると言う複合魔法まで使用しやがった」
『それでは、優勝しましたシャカール走者のハイライトをご覧ください』
説明をしていると、タイミング良くハイライトが始まった。水晶から映し出される映像を目の当たりにした彼は、更に表情を強張らせる。
「し、信じられないことですが、どうやら事実のようですね。そうですか。あのナンバー0721が生きており、しかも2冠を達成する快挙を達成するとは」
「2冠達成したと言うことは、貴族で言えば男爵になる権利を持っている。やつをこの研究所の専属走者にすれば、我々の悲願も達成できるだろう」
「なるほど、分かりました。では、早速ナンバー0721の居場所を探して来ます」
「頼んだ。俺はナンバー0773のところに行く。もしかしたら、あいつがナンバー0721を連れ戻す鍵となるやもしれない」
職員にナンバー0721の捜索を頼み、俺は部屋から出る。そして被験体たちがいる場所へと向かった。
さて、この時間帯なら、ナンバー0773は実験室にいるな。
俺は目的の被験体がいる部屋へと向かう。
扉を開けて中に入ると、部屋には1人の研究員の他に、もう1人の少女が椅子に座っている。
細長く黒い布で目隠しをして、口には猿轡を噛まされている少女だ。大人しく座っている彼女を見てホッとする。
良かった。今日は安定しているようだな。
「どうだ? ナンバー0773の様子は?」
「所長! ナンバー0773、通称ナナミですが、今日はバイタルが安定しているようです。今のところは暴れ出すようなところは見受けられません」
「そうか。それで、肉体改造の方はどうなっている?」
「ええ、これまで様々な薬物を投与していますが、その効果は発揮されています。見た目は華奢ですが、筋力はケモノ族や獣人と、魔力は魔族などに引けを取らないでしょう。今のところの成功例として、トップのステータスかと。これなら、来年辺りにはデビューさせることができそうです。来年こそは、我々の作り出した走者が世界に衝撃を……グヘッ!」
声音を強め、妄想話に花を咲かせる職員の言葉が癇に障り、思わず彼の顔面を殴ってしまった。
「し……しょじょう……どうふてなふるんです?」
「何が来年だ! もう俺たちは出遅れている! 既に人類の走者が2冠を達成してしまった! 来年では遅すぎるんだ」
感情を剥き出しにして声を荒げつつも、俺は少女へと近付く。
「気分はどうかい? ナナミ。今日は君に良い話しを持って来たよ。確かナナミはナンバー0721とよく連んでいたよな? 行方不明となっていたあいつが見つかった。だから、その手助けをしてほしい」
彼女の口に嵌めていた猿轡を外し、返答を待つ。
「ナンバー……0、7、2、1」
ナナミはゆっくりとシャカールの前の名前を呟く。
「ナンバー……0、7、2、1、ナンバー0721……0721……ゼロナナニイチ……ゼロナニー……ゼロナ兄……ゼロナお兄ちゃん……ゼロナお兄ちゃん!」
ナナミが声を上げた瞬間、周辺の研究機材が振動をし始める。
「おい! これはいったい何が起きている!」
「ど、どうやら……ナンバー0721の名前を出したことで、これまで閉じていた感情が一気に呼び起こされたみたいで、バイタルに変化が起きています。魔力の暴走も確認! このままではこの部屋が消し飛ばされてしまいます」
「くそう。どうやらまだこの話題を出すには早すぎたか」
研究所を吹き飛ばされる訳にはいかない。
ポケットから睡眠薬の入った注射器を取り出し、ナナミの腕に突き刺す。すると暴走が収まったのか部屋の振動はなくなり、彼女は意識を失ったのか、首を垂れていた。
「まったく、飛んだ爆弾女だ。だが、こいつがナンバー0721を取り戻す鍵となってくれるだろう。だが、この調子では制御できないのも事実。どうやら、出番はまだまだ先となりそうだな」
『シャカール走者が栄光のダービー制覇! 2冠達成! やりました! シャカール走者、人類史上初の2冠覇者となりました! 再び歴史が動いた! そして伝説は秋のキョウトタウンに行われる【KINNGU賞】へと引き継がれて行く!』
俺は、映像を映し出す水晶を使い、研究所からマキョウダービーのレースを観戦していた。
しかし水晶に映し出される黒髪の少年が目に焼き付き、視線を水晶から外すことができないでいる。
「この男……まさか。いや、やつは魔の森に捨てて来た。あの森に生息しているモンスターの餌食になっているはず。しかし、どこからどう見てもナンバー0721にそっくりだ」
シャカールと呼ばれているが、どこからどう見てもナンバー0721にしか見えない。世の中には自分と同じ顔のやつが3人はいると言われているが、他人の空似か?
額に手を置いて考える。いや、最後の最後で発揮された魔法禁止エリア内での尋常ではないあの加速。あれは我々が長年ナンバー0721に臨んだ能力そのものだ。
つまり、あのシャカールと呼ばれている男は、ナンバー0721で間違いないことになる。
「クハハ! クァハハハハ! どう言う敬意であの男が生きており、更に能力が開花しているのかは知らないが、これは僥倖だ! 早速あの男を連れ戻し、我々専属の走者にする。そうすれば、これまで我々をバカにしてきた他種族共を逆に見下すことができるぞ」
体が震え、興奮が止まない中、俺は扉に視線を向ける。
「おい! 誰かいないか!」
「はい、及びでしょうか?」
扉に向けて声を上げると、部屋の近くを通ったと思われる職員が扉を開けて中に入って来る。
「お前、今すぐにナンバー0721の所在を見つけ、俺に報告しろ」
「お言葉ですが、ナンバー0721は、魔の森に住むモンスターの餌にしたので、死んでいます。霊体の居場所を突き止めろと言われても?」
「お前はバカか! ナンバー0721は生きている! しかも走者として各レースに赴き、2冠を達成しやがった」
「所長、どうやらお疲れのようですね。夢でも見たのではないのですか? いくらなんでも、人類が2冠を達成する訳がないではないですか。そんなことが起きれば、歴史的快挙ですよ」
俺の言葉を信じようとしない職員に怒りが募り、拳を強く握る。
「ええい! 俺が嘘を言っているかどうかは、この水晶に映し出される映像を見てからにしろ!」
苛立ち、一気に機嫌の悪くなった俺は、職員の襟を掴み、引っ張る。そして机の上に置いてある映像を彼に見せた。
『シャカール走者! 人類史上初の2冠達成! 魔競走の歴史に新たな1ページを刻みました!』
水晶から映し出される映像と音声を職員に見せると、彼は困惑をしていると思われる表情をしながら、口角を引き攣らせる。
「ハハハ、そんなバカな。こんなことあり得ませんよ。だって、ナンバー0721は、魔法もユニークスキルも満足に発動できない出来損ないのクズですよ」
「信じたくない気持ちは分かるが事実だ。しかもやつはレース中に複数の魔法を組み合わせて、雷撃を作ると言う複合魔法まで使用しやがった」
『それでは、優勝しましたシャカール走者のハイライトをご覧ください』
説明をしていると、タイミング良くハイライトが始まった。水晶から映し出される映像を目の当たりにした彼は、更に表情を強張らせる。
「し、信じられないことですが、どうやら事実のようですね。そうですか。あのナンバー0721が生きており、しかも2冠を達成する快挙を達成するとは」
「2冠達成したと言うことは、貴族で言えば男爵になる権利を持っている。やつをこの研究所の専属走者にすれば、我々の悲願も達成できるだろう」
「なるほど、分かりました。では、早速ナンバー0721の居場所を探して来ます」
「頼んだ。俺はナンバー0773のところに行く。もしかしたら、あいつがナンバー0721を連れ戻す鍵となるやもしれない」
職員にナンバー0721の捜索を頼み、俺は部屋から出る。そして被験体たちがいる場所へと向かった。
さて、この時間帯なら、ナンバー0773は実験室にいるな。
俺は目的の被験体がいる部屋へと向かう。
扉を開けて中に入ると、部屋には1人の研究員の他に、もう1人の少女が椅子に座っている。
細長く黒い布で目隠しをして、口には猿轡を噛まされている少女だ。大人しく座っている彼女を見てホッとする。
良かった。今日は安定しているようだな。
「どうだ? ナンバー0773の様子は?」
「所長! ナンバー0773、通称ナナミですが、今日はバイタルが安定しているようです。今のところは暴れ出すようなところは見受けられません」
「そうか。それで、肉体改造の方はどうなっている?」
「ええ、これまで様々な薬物を投与していますが、その効果は発揮されています。見た目は華奢ですが、筋力はケモノ族や獣人と、魔力は魔族などに引けを取らないでしょう。今のところの成功例として、トップのステータスかと。これなら、来年辺りにはデビューさせることができそうです。来年こそは、我々の作り出した走者が世界に衝撃を……グヘッ!」
声音を強め、妄想話に花を咲かせる職員の言葉が癇に障り、思わず彼の顔面を殴ってしまった。
「し……しょじょう……どうふてなふるんです?」
「何が来年だ! もう俺たちは出遅れている! 既に人類の走者が2冠を達成してしまった! 来年では遅すぎるんだ」
感情を剥き出しにして声を荒げつつも、俺は少女へと近付く。
「気分はどうかい? ナナミ。今日は君に良い話しを持って来たよ。確かナナミはナンバー0721とよく連んでいたよな? 行方不明となっていたあいつが見つかった。だから、その手助けをしてほしい」
彼女の口に嵌めていた猿轡を外し、返答を待つ。
「ナンバー……0、7、2、1」
ナナミはゆっくりとシャカールの前の名前を呟く。
「ナンバー……0、7、2、1、ナンバー0721……0721……ゼロナナニイチ……ゼロナニー……ゼロナ兄……ゼロナお兄ちゃん……ゼロナお兄ちゃん!」
ナナミが声を上げた瞬間、周辺の研究機材が振動をし始める。
「おい! これはいったい何が起きている!」
「ど、どうやら……ナンバー0721の名前を出したことで、これまで閉じていた感情が一気に呼び起こされたみたいで、バイタルに変化が起きています。魔力の暴走も確認! このままではこの部屋が消し飛ばされてしまいます」
「くそう。どうやらまだこの話題を出すには早すぎたか」
研究所を吹き飛ばされる訳にはいかない。
ポケットから睡眠薬の入った注射器を取り出し、ナナミの腕に突き刺す。すると暴走が収まったのか部屋の振動はなくなり、彼女は意識を失ったのか、首を垂れていた。
「まったく、飛んだ爆弾女だ。だが、こいつがナンバー0721を取り戻す鍵となってくれるだろう。だが、この調子では制御できないのも事実。どうやら、出番はまだまだ先となりそうだな」
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