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第六章

第十六話 マキョウダービー⑨決着

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 雲が太陽を遮ってくれたお陰で、コース内全体が影で覆われた。

 これなら俺の影の中に入って移動を楽にすることはできない。

 ここで勝負をつけさせてもらう!

「スピードスター!」

 本日3度目となる加速の魔法を発動し、足の筋肉の収縮速度を速くして速度を上げる。

『シャドーナイツの攻撃を潜り抜け、ここでシャカール走者が更に加速する! 瞬く間にシャドーナイツとの距離を開け、先頭ハナを走るウイニングライブとシャワーライトに一気に近付く!』

 実況担当のアルティメットの言葉を聞きながら、チラリと後方を見る。

 シャドーナイツは急いで追いかけようとしているが、走りに乱れが感じられる。

 これなら、そのうちスタミナ切れでぶっ倒れるだろう。やつが脅威ではなくなった以上、俺が次に争い合うのはウイニングライブとシャワーライトだ。

『先頭はウイニングライブとシャワーライトの一騎打ち! そして5メートル差でシャカールが追いかける!』

『シャカール走者は、これまで見事な追い込みを見せて来ました。ですが、およそ5メートル差は差し切るのは難しい開きです。彼が勝つには最後の直線、残り200メートルに入ってからの魔法禁止エリアに入ってから、どれだけ距離を縮められるかに掛かっています』

『ここでウイニングライブとシャワーライトが横一列に並んだまま、最終コーナーを曲がって最後の直線に入った! このレース場の直線は短いぞ! 後の走者は間に合うのか!』

 ウイニングライブとシャワーライトが最後の直線に入ったか。俺の残った魔力量を考えるに、使用できる回数は後たったの1回だけ。

 使用するタイミングが鍵となる。

『シャカール走者が最終コーナーを曲がって最後の直線に入った! しかしここで先頭を走る2人も加速する! ラストスパートに入ったぞ! さぁ、残り200メートル! ここからは魔法禁止エリアに突入だ!』

『このエリア内に入ると、魔法を発動しても効果が発揮されません。ここからは己の足との勝負となります』

 ウイニングライブたち、やりやがるな。魔法禁止エリアに入る前に加速の魔法で速度を上げやがった。

 魔法禁止エリアまであと50メートルと言ったところ。なら、俺もここで魔法による最後の加速だ。

「スピードスター!」

 練り上げた魔力を魔力回路全体に行き渡らせて魔法を発動! 足を強化して速度を上げる。

『ここでシャカール走者が魔法で最後の加速を見せる!』

『しかし、加速の魔法を使用するタイミングが遅かったようです。5メートルだった開きが8メートルまで広がっています』

 5メートルが8メートルになった? だけどそんなこと俺にはどうでも良いことだ。何せ、俺には切り札であるユニークスキルが残されている。

 これは魔法とは違い、俺の肉体に直接影響を与える。魔力が関係ない以上、魔法禁止エリアに入っても使用することは可能だ。

 ユニークスキル発動! メディカルピックル!

 ユニークスキルの効果により、過去に投与されたドーピング薬が投与されたと脳が錯覚し、魔法を使用した時と同じように足を強化することができる。

『ここで一気にシャカールが追い上げて来た! 8メートル差だった距離が5メートル……3メートル……2、1。並んだ! ウイニングライブとシャワーライト、そしてシャカールの3名が、残り100メートルのところで激しいデットヒートを見せる!』

『忘れていましたが、シャカール走者には、魔法禁止エリア内で発揮することができる謎の加速力がありましたね。3名が並んだ以上、優勝は誰がするのか分からなくなりました』

「うそ! 最後尾だったあなたが追い付いて来るなんて!」

「これが噂に聞いたシャカール君の謎の加速。でも、優勝するのは私だから」

 俺が横に並んだことで、シャワーライトとウイニングライブが驚きの表情を見せながら言葉を漏らす。

「悪いが優勝するのは俺だ。始まる前から言っていただろう」

『シャカール走者が1歩分前に出た! いや、シャワーライトが追い抜く、しかし負けじとウイニングライブも食らいついて行く! 3名ともここまで来たら意地だ! 果たしてダービーを勝ち取るのは誰か!』

 ウイニングライブもシャワーライトもやるな。まさかここまで食らい付いて来るとは。

 限界に近い走りをしているからか、次第に息が苦しくなって来る。脇腹も痛い。体全体が悲鳴を上げている。

 体の異変に気付いていると、俺の視界には俺を追い抜いて先を走る2人のケモノ族の女の子の姿が映り出す。

 さすがトリプルクイーン路線の2冠覇者と、3冠目を阻止した実力者だ。これまでの走者たちとは一味違う。

 でも負けられない。負ける訳にはいかない。ここで負ければ、俺は土下座をして謝らなければならなくなる。

『先に先頭に出たのはウイニングライブ、頭の差でシャワーライトと言ったところでしょうか? 3位のシャカールは1メートル差まで開いてしまった。ここで残り50メートル!』

 残り50メートルを切ってしまった。

 このままでは俺が負けてしまう。負けるのか? 俺が負けるのか?

 負ける訳にはいかない。俺は負ける訳にはいかないんだ。

 土下座してたまるか!

 土下座で謝りたくない。その気持ちが高まり、俺の心の中で闘志が燃えた。

 うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 口に出して吼える余裕がない俺は、心の中で叫び声を上げる。

『最後の力を振り絞り、再びシャカールがウイニングライブたちに並ぶ! 再び激しいデットヒートだ! ゴールまで残り30メートル……20……10……ゴールイン! 3名とも縺れるようにゴール板を駆け抜けた! 肉眼での判定が難しいために、ウォータービジョンによる映像判定となります』

 視界の端にはチラリとだけ2人の姿が見えた。視界に入ると言うことは、前に出ている可能性が非常に高い。つまり、俺は彼女たちに負けたと言う訳だ。

「どっちが……勝ったの……」

「ウイニングライブ……さん…では……ないのですか?」

「え? 私には……シャワーライト……ちゃん……とシャカール君……のどっちかが……勝ったように見えたけど?」

 全力で走り、呼吸を整えている中、彼女たちの話し声が耳に入る。

 ウイニングライブたちも互いに相手が勝ったように見えたみたいだな。つまり、本当に映像だよりとなってしまう。

『それでは、残りの順位が確定するまでの間、しばらくお待ちください』

 リタイアした走者を除き、全員が走り切るのを待つ。

 数分後、3位以降の順位が確定して映像判定が始まろうとしていた。因みにシャドーナイツは、あの後に意識を取り戻したカマカマとパワームテキにボコボコにされ、8位でのゴールとなり、入賞を逃した。

『それでは準備が整いましたので、これより映像判定を始めます。皆様、中央にある湖にご注目ください』

 中央にある湖を見るように言われ、そちらに注目すると、湖が一気に噴き出す。するとゴール直前の映像が始まり、ゆっくりと動いた。そして優勝者がゴールしたタイミングで映像は動きを止める。

『ハナの差! シャカール走者の鼻がウイニングライブの鼻よりも前に出ている! そしてシャワーライトの鼻の位置はウイニングライブと同じ! 同着だ! シャカール走者が栄光のダービー制覇! 2冠達成! やりました! シャカール走者、人類史上初の2冠覇者となりました! 再び歴史が動いた! そして伝説は秋のキョウトタウンに行われる【KINNGU賞】へと引き継がれて行く!』

 アルティメットが優勝者は俺だと告げると、観客が一斉に歓声を上げる。

「シャカール君2冠達成おめでとう」

「負けて悔しいけれど、クラウン路線とトリプルクイーン路線は違う。これでもうあなたと勝負をすることはないから認めて上げるわ。あなたは強かった。優勝おめでとう」

 ウイニングライブが笑みを浮かべながら俺の優勝を讃える中、シャワーライトは素直に俺の優勝を認められないのか、ぶっきらぼうに賞賛の言葉を言う。

 まぁ、ハナの差だったんだ。それは誰だって悔しいに決まっている。

「ウイニングライブ! 良くやった! 感動したぞ!」

「シャワーライトちゃんもお疲れ様! 今度あなたのレースを応援に行くわね!」

 彼女たちから賞賛の言葉を受けていると、一部の観客たちがウイニングライブたちに労いの言葉を送る。

 すると次第にその人数は増え、俺の優勝を賞賛する声よりも、彼女たちへの労いの言葉が多くなって行った。

 これではまるで、彼女たちが優勝したかのような雰囲気だな。

「みんなありがとう! 次のレースでも、ライブでも全力を出すから、応援に来てね!」

「そんな……どうして優勝できなかったのに、こんなに暖かい言葉を送ってくれるの……今になってこんな言葉を送ってもらっても、どう反応して良いのか分からないじゃない」

 多くの言葉を送られ、ウイニングライブは観客たちに手を振り、シャワーライトは両手で口を隠すも、目尻からは大量の涙を流していた。
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