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第九章

第十九話 眠れぬ夜②

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 サザンクロスが女の子だと認識した祝いの日、彼女は俺に部屋を明け渡してくれた。

 部屋に余裕がないので話し合いの結果、クリープと同じ部屋と過ごすことになったのだ。

「ふぅ、色々あったが、これで安心して眠れる」

 俺はベッドに潜り込み、独り言を呟く。

 今まではサザンクロスが横に寝ていたので、まともに眠れない日々を送っていた。だけど、これで心起きなく眠ることができる。睡眠こそがジャスティスだ。

 今までの睡眠不足と疲れが伴ってか、俺は気が付くと眠りに付いていた。

「なぁ、起きてくれない? 話がしたいケンから

 うん? この声はサザンクロスか? どうやら幻聴が聞こえるようだな。相当疲れていたようだ。

「中々起きないタイ。よし、こうなったら、最後の手段タイ」

 半覚醒の中、再びサザンクロスの声が聞こえてきたな。そう思った瞬間、生暖かい風が当たり、違和感を覚える。

「うわあああああああ!」

 咄嗟に飛び起き、状態を起こす。

「お、やっと起きてくれたタイ。やっぱり耳に息を吹きかけるのは効果的タイ」

 横に顔を向けると、なぜかサザンクロスが立っていた。彼女は寝巻き姿で、ハート型の枕を抱きしめている。

「サザンクロス、どうしてお前が俺の部屋にいる。クリープと相部屋になったじゃないか」

「シャカール、アタあなたの隣で寝たいとタイ

 俺と一緒に一夜を明かしたいと言う彼女の言葉に、耳を疑う。

「はぁ? 何を言っているんだよ。クリープの隣で寝れば良いだろう?」

「それはそうなんだけど、クリープのやつ、ウチを抱き枕と勘違いしているのか、抱きしめてくるタイ。そしたらあの無駄にでかい胸に顔を押し付けられて、窒息死しかけたとタイ。ダケンだから、隣で寝させてくれん? 他の人とはあまり関わりがないし、シャカールにしか頼めんタイ」

「俺にしか頼めないって、コールドシーフがいるだろう?」

ウチにもう一度窒息死し掛けろと? あのアンポンタンバカは寝相が悪いバイだよ

 サザンクロスの言葉を聞き、思い出す。そういえば、コールドシーフもそれなりにデカかったな。クリープのように抱き枕にされる危険性は低いかもしれないが、万が一寝相が悪くて押し潰されることになれば、同じことにもなる。

 でも、いくら何でも男女が同じベッドで寝るのは良くない。今までは男だと思い込んでいたからどうにかなった。

 でも、彼女が女だと知った今は、同じベッドで一夜を明かすのは良くない。

「だったら、俺がアイリンに頼んで同じベッドに寝させてもらえるように交渉しようか?」

 アイリンのあの控えめな胸なら、仮に寝相が悪かったとしても、胸に押し潰されることはないだろう。

「それは無理タイだよ! あんまり関わりのないやつと一緒に寝たら、緊張して眠れないタイ。ウチ寝不足になってしまう」

 お前が俺のベッドで寝ると、俺の方が寝不足になるんだよ!

 そう言いたかったが、喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 思ったことを口にすれば、誤解されてしまうのは目に見えている。最悪、いつものように変態扱いをされてしまうかもしれない。

アタあなたウチの裸を見たバイだよ

 まさか! やめろ! それ以上先の言葉を言うな!

「その責任を取って、一緒に寝ろ。これは命令タイ

 やっぱりこうなってしまったか! あんな言葉を言われたら、俺はどうすることもできない。考えろ、これ以上睡眠不足が続いたら、トレーニングに影響が出るのは目に見えている。

 思考を巡らしていると、あることを思い付く。

 そうだ。あれは事故だ。事故だから責任を取るのはおかしいじゃないか。

「何を言っている! あれはお前から見せてきたようなものじゃないか! 事故で責任を取るのはおかしいだろう」

「あ、あれは仕方がないタイ! ウチオナゴだったなんて知らなかったんバイだよ! オナゴと分かった以上、見られた羞恥心や重みが違うタイ

 何が何でも俺と一緒のベッドで寝たいサザンクロス、そしてそれを阻止したい俺の攻防は続いて行く。

 結局、結論が出ないまま話し合いは平行線となってしまった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 互い息つく間もない中、言葉の攻防が続き、互いに息を切らす。

「こ、こうなったら……最後の……手段タイ

「な……何をする……つもりだ?」

 サザンクロスが何をする気なのかは分からない。だか、俺に取っては良からぬことを仕出かすのは目に見えていた。

 様子を伺っていると、サザンクロスは何故か寝巻きを脱ぎ始める。

「お前、何をやっている!」

「同じベッドで寝させてくれないのなら、アタあなたに襲われたと大声で叫ぶタイ。裸にされているところを見れば、言い訳ができないタイ 。一度裸を見られているケンから、今更見られても変わらないタイ」

「やめろ! それだけは!」

「はあああああぁぁぁぁぁ!」

 下着まで脱ごうとするサザンクロスを阻止しようと、彼女の肩を掴む。すると彼女は俺の肩を掴みながら、尋常ではない力と速度で、ベッドにダイブした。

 結果、俺が彼女を押し倒しているかのような体勢になった。

 心臓の鼓動が早鐘を打つ中、サザンクロスの口角が上がる。

「チェックメイトタイ

 サザンクロスの足が俺の腰に回される。

 しまった! ここまでが彼女の作戦だったのか! 確かに、これなら俺は逃げることができないし、第三者がこの部屋に来れば、俺が襲っているように見えてしまう。

「さぁ、降参するタイとよ。10秒以内にウチの願いを聞き入れると言えば、許してやるケンから10、9、8、7」

 サザンクロスがカウントダウンを始める。だが、俺はまだ口を開くことはしなかった。

 もしかしたら、カウントダウンが終われば諦めてくれるかもしれない。極限状態の中では、人は正常な判断ができない。それを狙っているのかもしれないからだ。

「6、5、4、3、2、1、0」

 カウントダウンが終わり、しばらくの静寂が訪れる。すると、サザンクロスは大きく息を吸いやがった。

「みんな! うぐっ!」

 彼女が叫び声を上げた瞬間、咄嗟に彼女の口を手で押さえる。

「分かった! 降参だ! 俺の隣で寝て良いから、みんなを呼ぶな!」

 負けを認め、彼女の口から手を離す。

「最初からそう言えば良いのに、梃子摺らせるバイだよ

 腰を拘束していた足を退かされ、自由になった俺は彼女から退く。するとサザンクロスは寝巻きを着ると布団の中に入り込んだ。

「それじゃ、お休み! 何だか今日は良い夢が見られそうタイ

 寝る前の挨拶をした瞬間、サザンクロスは直様眠りに付いたようで、寝息を立てる。

 本当に疲れてしまった。俺も早く寝よう。

 俺もベッドに入り、布団を被る。しかし、何故か寝付けなかった。

 おかしい。体は疲れているのに、何故か目が冴えてしまう。

 なぜだ! なぜなんだ! さっきまで眠れていたのに、おかしいだろう!

 結局、寝不足となる日を、更新することになった。
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