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第十三章
第五話 負けイベント
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「いくぜ! ここからが負けイベントの始まりだ! 覚悟しろ!」
俺は牛の頭部に近付く。
どんなに巨大なモンスターでも、弱点は存在する。頭部が牛である以上、あいつの鼻には鼻輪が付いている。牛と言うのは、あの鼻輪を引っ張ることで抵抗できなくなり、引っ張る者の指示に従ってしまうものなのだ。
あの鼻輪を掴むことはできれば、あのモンスターは大人しくなるはずだ。
「リストレイント!」
拘束魔法を発動すると、目の前に縄が出現した。その縄はモンスターに真っ直ぐ突っ込むと、狙い通りに鼻輪に絡むすびを始めた。
「よし、後はこの縄を引っ張るのみ」
試しに引っ張ってみると、俺の何百倍も体重があるであろうモンスターが、素直に引っ張られてくれた。
やっぱり、鼻輪が弱点だったか。
俺は海の上を飛翔しながら、頭部は牛、下半身はイカと言う合成獣を引っ張っていく。
こんなに巨大なモンスターを陸に上げる訳にはいかない。でも、海の真ん中で開放したところで、再び襲って来るのは明白だ。
思考を巡らせながら考えていると、風が吹いたようで、前髪が靡く。
「風が今も吹いているな。これなら、みんなは今日中に目的地に辿り着くことができるだろう。うん?風? そうか。その手があったか」
風は高い気圧が、低い気圧を押すことで発生する。その原理を海バージョンにすれば、こいつを倒すことはできなくとも、足止めをすることができる。
「上手くいくか一か八かだが、やってみるか。ワールプール」
最後の力を振り絞って、魔法を発動させる。すると、海の中の潮の動きに変化が生じ、渦巻きが発生した。
よし、狙い通りに渦潮が発生した。
渦潮は、早い流れと遅い流れとの速度の差で回転力が生まれたものだ。
渦潮に普通の人が呑み込まれたら、まず命は助からない。流石に海生生物であるこのモンスターが死ぬなんてことはないだろうが、渦に巻き込まれれば、抜け出すことは困難なはずだ。
渦を発生した後、俺は渦の真上を通過し、モンスターが渦潮に巻き込まれる寸前で縄を離す。
すると狙い通りにモンスターは渦に呑み込まれた。脱出しようと踠く姿が見受けられるが、やつは渦の中央へと吸い込まれ、その後海の中へと沈んでいく。
これで、やつはしばらくの間、海上には姿を見せられないはずだ。
「早く、みんなと合流……あれ?」
モンスターの足止めに成功し、俺の帰還を待っているみんなの居る船に戻ろうと思ったその時、視界が急に暗転した。
どうやら、魔力を使いすぎてしまったみたいだな。みんなすまない。どうやら俺は、ここまでのようだ。
薄れ行く意識の中、海面に落下する音が最後に聞こえてきた。
~ルーナ視点~
「嫌だ! マーヤはシャカールちゃんを助けに行くの! セイレーンのマーヤなら、こんな海くらいへっちゃらだもん!」
「ダメだと言っているだろうが! 良い加減に言うことを聞かないか! このわがまま娘!」
ワタシは今にも海に飛び込みそうなマーヤの腕を掴み、彼女の行動に静止を促している。
事情を説明するために、シェアハウスのメンバーたちにシャカールのことを話したのだが、ワタシの話を聞いた瞬間にマーヤが取り乱してしまった。
「お前が向かったところで、あのモンスターを倒すことができない。シャカールは、全滅するよりもみんなを助ける方を選んだんだ。あいつの気持ちを汲んでやれ。お前が向かえば、シャカールの思いを踏み躙ることになるぞ」
「う……でも……でも」
ワタシの言葉が響いた様で、マーヤは大人しくなる。しかし、表情には心配の色が消えない。
「ワタシだってシャカールを心配する気持ちは同じだ。だけど今は彼の無事を信じるしかない」
「マーヤさん大丈夫ですよ。シャカールトレーナーって、これまでなんやかんやでしぶとく生きているではないですか。ゴキブリ並みの生命力を持っていますので、きっと……きっと……大丈夫……ですよ」
マーヤを落ち着かせようと、冗談混じりで明るく振る舞おうとしていたアイリンだったが、彼女も言葉を詰まらせ、目尻に涙を溜めていた。
心配なのはみんな一緒だ。ワタシだって可能であれば飛び出したい。自分を犠牲にして、みんなを守るのは、本来教師であるワタシの役目だ。
それなのに、ワタシは彼の指示通りに動いてしまった。心の片隅には、やはり自分の命が惜しいと思ってしまったのかもしれない。
そんなことを考えていると、タマモが二度手を叩き始める。その音に反応して、思わず彼女の方に顔を向けた。
「みんな、心配するのは分かるけれど。今は無事に目的地に辿り着くことを考えましょう。シャカールが戻って来た時、顔色の悪い姿を見せたら、彼の心の方が痛めてしまうわ。あたしたちは、笑顔でいるべきよ。笑顔で彼を出迎えましょう」
彼女の心の強さに胸を打たれた。
教師であるワタシが言うべき言葉を、彼女が代わりに言ってくれた。
「そして笑顔のまま一発殴ってやるのよ。どれだけ心配させれば気が済むんだって」
「そうですね。ママたちを心配させたらどうなるのか、その体に覚えさせてあげましょう。ふふふ。シャカール君がどんな声で泣いてくれるのか、楽しみですね」
「クリープさん、目が怖いですよ。頼みますから、誰でも良い子になれると言うアレだけはやめてあげてくださいね」
「神様、マーヤのパパに天罰を与えて構いませんので、どうかシャカールちゃんを助けてあげてください」
タマモの一言で、彼女たちは落ち着きを取り戻してくれた。
学級委員長を務めているだけあって、リーダーシップが優れている。
今回は彼女に助けられた。けれど、これからはワタシが教師として、皆を導かなければ。
俺は牛の頭部に近付く。
どんなに巨大なモンスターでも、弱点は存在する。頭部が牛である以上、あいつの鼻には鼻輪が付いている。牛と言うのは、あの鼻輪を引っ張ることで抵抗できなくなり、引っ張る者の指示に従ってしまうものなのだ。
あの鼻輪を掴むことはできれば、あのモンスターは大人しくなるはずだ。
「リストレイント!」
拘束魔法を発動すると、目の前に縄が出現した。その縄はモンスターに真っ直ぐ突っ込むと、狙い通りに鼻輪に絡むすびを始めた。
「よし、後はこの縄を引っ張るのみ」
試しに引っ張ってみると、俺の何百倍も体重があるであろうモンスターが、素直に引っ張られてくれた。
やっぱり、鼻輪が弱点だったか。
俺は海の上を飛翔しながら、頭部は牛、下半身はイカと言う合成獣を引っ張っていく。
こんなに巨大なモンスターを陸に上げる訳にはいかない。でも、海の真ん中で開放したところで、再び襲って来るのは明白だ。
思考を巡らせながら考えていると、風が吹いたようで、前髪が靡く。
「風が今も吹いているな。これなら、みんなは今日中に目的地に辿り着くことができるだろう。うん?風? そうか。その手があったか」
風は高い気圧が、低い気圧を押すことで発生する。その原理を海バージョンにすれば、こいつを倒すことはできなくとも、足止めをすることができる。
「上手くいくか一か八かだが、やってみるか。ワールプール」
最後の力を振り絞って、魔法を発動させる。すると、海の中の潮の動きに変化が生じ、渦巻きが発生した。
よし、狙い通りに渦潮が発生した。
渦潮は、早い流れと遅い流れとの速度の差で回転力が生まれたものだ。
渦潮に普通の人が呑み込まれたら、まず命は助からない。流石に海生生物であるこのモンスターが死ぬなんてことはないだろうが、渦に巻き込まれれば、抜け出すことは困難なはずだ。
渦を発生した後、俺は渦の真上を通過し、モンスターが渦潮に巻き込まれる寸前で縄を離す。
すると狙い通りにモンスターは渦に呑み込まれた。脱出しようと踠く姿が見受けられるが、やつは渦の中央へと吸い込まれ、その後海の中へと沈んでいく。
これで、やつはしばらくの間、海上には姿を見せられないはずだ。
「早く、みんなと合流……あれ?」
モンスターの足止めに成功し、俺の帰還を待っているみんなの居る船に戻ろうと思ったその時、視界が急に暗転した。
どうやら、魔力を使いすぎてしまったみたいだな。みんなすまない。どうやら俺は、ここまでのようだ。
薄れ行く意識の中、海面に落下する音が最後に聞こえてきた。
~ルーナ視点~
「嫌だ! マーヤはシャカールちゃんを助けに行くの! セイレーンのマーヤなら、こんな海くらいへっちゃらだもん!」
「ダメだと言っているだろうが! 良い加減に言うことを聞かないか! このわがまま娘!」
ワタシは今にも海に飛び込みそうなマーヤの腕を掴み、彼女の行動に静止を促している。
事情を説明するために、シェアハウスのメンバーたちにシャカールのことを話したのだが、ワタシの話を聞いた瞬間にマーヤが取り乱してしまった。
「お前が向かったところで、あのモンスターを倒すことができない。シャカールは、全滅するよりもみんなを助ける方を選んだんだ。あいつの気持ちを汲んでやれ。お前が向かえば、シャカールの思いを踏み躙ることになるぞ」
「う……でも……でも」
ワタシの言葉が響いた様で、マーヤは大人しくなる。しかし、表情には心配の色が消えない。
「ワタシだってシャカールを心配する気持ちは同じだ。だけど今は彼の無事を信じるしかない」
「マーヤさん大丈夫ですよ。シャカールトレーナーって、これまでなんやかんやでしぶとく生きているではないですか。ゴキブリ並みの生命力を持っていますので、きっと……きっと……大丈夫……ですよ」
マーヤを落ち着かせようと、冗談混じりで明るく振る舞おうとしていたアイリンだったが、彼女も言葉を詰まらせ、目尻に涙を溜めていた。
心配なのはみんな一緒だ。ワタシだって可能であれば飛び出したい。自分を犠牲にして、みんなを守るのは、本来教師であるワタシの役目だ。
それなのに、ワタシは彼の指示通りに動いてしまった。心の片隅には、やはり自分の命が惜しいと思ってしまったのかもしれない。
そんなことを考えていると、タマモが二度手を叩き始める。その音に反応して、思わず彼女の方に顔を向けた。
「みんな、心配するのは分かるけれど。今は無事に目的地に辿り着くことを考えましょう。シャカールが戻って来た時、顔色の悪い姿を見せたら、彼の心の方が痛めてしまうわ。あたしたちは、笑顔でいるべきよ。笑顔で彼を出迎えましょう」
彼女の心の強さに胸を打たれた。
教師であるワタシが言うべき言葉を、彼女が代わりに言ってくれた。
「そして笑顔のまま一発殴ってやるのよ。どれだけ心配させれば気が済むんだって」
「そうですね。ママたちを心配させたらどうなるのか、その体に覚えさせてあげましょう。ふふふ。シャカール君がどんな声で泣いてくれるのか、楽しみですね」
「クリープさん、目が怖いですよ。頼みますから、誰でも良い子になれると言うアレだけはやめてあげてくださいね」
「神様、マーヤのパパに天罰を与えて構いませんので、どうかシャカールちゃんを助けてあげてください」
タマモの一言で、彼女たちは落ち着きを取り戻してくれた。
学級委員長を務めているだけあって、リーダーシップが優れている。
今回は彼女に助けられた。けれど、これからはワタシが教師として、皆を導かなければ。
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