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第四章

第十話 ラブレターの中身

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 下校時刻となり、俺は下駄箱を開けた。すると、中から一枚の封筒が落ちてきた。白い封筒のフタの部分には、赤いハートのシールで止められている。

 これはなんだ?

 落ちた封筒を拾い上げるも、なぜこのようなものが俺の下駄箱の中に入っているのか、見当が付かなかった。

「どうしたの? 帝王?」

「いや、こんなものが下駄箱の中に入っていたんだ」

 白い封筒をクロに見せる。

「これが入っていたの? なんだろう?」

 クロなら分かるかもしれない。そう思って訊ねてみたが、どうやら彼女も知らないようだ。

「奇跡の名馬さん、どうしましたぁ?」

「早く帰ろうぜ! アタイは部屋に帰って寝たい」

 下駄箱の前から動こうとしない俺たちを見て、明日屯麻茶无アストンマーチャン魚華ウオッカが声をかけてきた。

「2人はこの封筒がなんなのか知っているか?」

「封筒ですかぁ?」

「封筒なんて珍しいな。大昔の特集の動画でしか見たことがない」

 明日屯麻茶无アストンマーチャン魚華ウオッカに封筒を見せるも、彼女たちにもこの封筒の意味が分からないようだ。

 なぜ、現代では殆ど使われていない封筒がここに存在しているのか。なぜ、それが俺の下駄箱に入っているのか。なぜ封筒のフタにハートのシールが貼ってあるのか、俺たちには理解できなかった。

『帝王たち知らないの? 私が生きていた時代では当たり前だったのに、これがジェネレーションギャップと言うやつか』

「ハルウララ、お前いつの間に!」

 封筒の意味について考えていると、ハルウララの声がしたので、そちらに顔を向ける。

 ヌイグルミ姿のハルウララが、玄関から入って来ると、こちらに向かって歩いてきた。

 どうやら彼女は知っているようだ。さすが1000年以上も前に生きていた馬だな。

「ハルウララ、この封筒のことについて何か知っているの?」

 俺の代わりにクロがハルウララに訊ねる。

『うん、それはラブレターだよ。自分の好きな気持ちを直接伝えられない奥ゆかしい女の子が、手紙に好きと言う気持ちを書いて相手に伝えるの。当時の学生はラブレターをもらったら大騒ぎしていたのに、現代の子は珍しい物がある程度にしか認識していないのか』

「ラブレター」

「好きな相手に思いを伝える」

「そんなものがぁ、奇跡の名馬さんのぉ、下駄箱に入っていたのですかぁ」

 クロ、大和鮮赤ダイワスカーレット、そして明日屯麻茶无アストンマーチャンが口々に言う。

「「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」

 そして同じタイミングで3人は声を上げた。

「帝王、それかして! いったいどこの馬の骨がそんなものを送ったのよ」

 持っていたラブレターをクロが俺の手から奪い取ると、ハートのシールを剥がして封を切る。そして中に入っていた便箋びんせんを取り出すと、彼女は紙を凝視する。

 そしてクロのところに大和鮮赤ダイワスカーレット明日屯麻茶无アストンマーチャンが集まると、彼女たちも覗き込む。

「これ、本当にラブレターなの?」

「悪戯じゃない?」

「いえ、もしかしたらぁ、これがぁ、大昔のラブレターの文体なのかもしれませんよぉ」

 一体何が書かれているのだろうか?

「なぁ、何て書いてあるんだ? 俺にも見せてくれないか?」

 手紙の内容が知りたい。そう思ってクロにお願いすると、彼女は便箋を手渡す。

 受け取って紙に目を通す。

 うん、確かにこれは困惑するな。ハルウララが言ったように、奥ゆかしい女の子が書いたものとは思えない。

 俺は困惑しつつも、もう一度文面に目を通す。

【ナゾナ~ゾ♡   騎手が求めた時、それに応えてくれる場所ってどこナゾ? 17時までに来て欲しいナゾ? 伝えたいことがあるナゾ? 待っているナゾ?】

 全然好きって気持ちが伝わらない。しかもなんだ? このナゾって語尾は? こんな独特な語尾を使うやつって、この学園に居たか?

『どんな内容が書かれてあるの? 私にも見せて!』

 自分も見たいと言い、ハルウララは俺の足を登ると、定位置に陣取る。そして俺の頭の上から、便箋を覗き込んだ。

『なるほど、そっちのパターンか。どうやら、このラブレターを出した女の子は、直接帝王に思いを伝えるつもりだね。場所を指定して、来た時に告白をするつもりなんだよ』

「「「告白!」」」

 再び3人の言葉が重なる。

「帝王、どうするの? 断るの? 断るよね! だって、こんなおかしな文章を渡すような頭のおかしい子だよ!」

「そうね、確かに東海帝王トウカイテイオウとラブレターの送り主を考えても、釣り合わないわ。周りから後ろ指刺されることになるでしょうし、その女の子が可哀想よ。未来のことを考えると、断った方が賢明な判断だわ」

「奇跡の名馬さん、お断りするなら私に任せてくださいねぇ。これでもぉ、告白してきた相手をぉ、傷付けずにフル方法はぁ、熟知していますぅ。場数を踏んでいる私に任せてください」

 クロたちが俺との距離を詰め、顔が近付く。

 彼女たちはどこか怒っているかのような雰囲気を醸し出しており、正直に言うと、この場から逃げ出したい思いだ。

 彼女たちが怖い。だけど、ここで逃げ出したら、後で酷い目に遭いそうな気がする。とにかく、ここは落ち着いてもらう必要があるな。

「お前たち、何をそんなに怒っているんだ」

「別に怒ってはいないわよ」

「そうよ、あなたの勘違いじゃない?」

「そうですよぉ。このスマイルのどこがぁ、怒っているのですぅ?」

 クロたちは怒っていないという。しかし、明日屯麻茶无アストンマーチャンの向ける笑顔は、目が笑っていなかった。

「言っておくが、本当に告白だったとしても、俺は断るつもりだ」

 本音を彼女たちに伝える。すると、クロたちから醸し出しているオーラのようなものが消えたような気がした。

「そうなの?」

「へぇー、断るんだ」

「ちょっと意外ですねぇ。年頃の男の子なのでぇ、恋人欲しさにOKすると思っていましたぁ」

 彼女たちはいったい俺をなんだと思っているんだよ。

「そもそも、今の俺は恋人を作るつもりはない」

『そうだよ! 帝王には私がいれば十分だもん!』

 恋人を作るつもりはないと言うと、なぜかハルウララが勝ち誇ったような態度で言葉を連ねる。

 別にハルウララがいるから、恋人を作らない訳ではないのだが。

「そもそも、俺が置かれている環境が特殊だ。親父のせいで、年末に行われる有馬記念まで勝ち続けなければならない。常に刺客に狙われている身で恋人を作れば、彼女の方に迷惑をかけるだろう? だから、今年いっぱいは彼女を作らない」

 恋人を作らない理由を答えると、クロたちはブツブツと何かを呟く。しかし声が小さすぎて、聞き取ることができなかった。

「そうか。そうよね。なら、早く断りに行こうよ!」

「そうね、そのおかしな文体を解読して、断りに行きましょう」

「そうですねぇ、まずはその暗号文の解読から行きましょう」

 どうやら彼女たちの口調からして、協力してくれるようだ。彼女たちの力があれば、あの便箋に書かれてあることも解読できるかもしれない。

 俺たちは解読のために、もう一度便箋を見る。
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