Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第十五章

第九話 魔大陸に到着しました。

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 俺は土下座をしている空賊たちを見て、どうしたものかと悩んでいた。

「なんでもします! 命令されれば、喜んで靴を舐めます!」

 空賊の頭の言葉に、苦笑いを浮かべる。

 仲間になろうと必死なのは伝わってくるが、そんなことを言うなよ。

「まぁ、いいんじゃないのかい? ソロモンたちと戦うには、手駒は多いほうがいいと思うよ。シロウが圧倒的な力であいつを倒すのは目に見えているけど、どんな小賢しい手を使ってくるか分からないからね」

 扉が開き、船の中からミラーカが出てきた。彼女は近づくと仲間にしてもいいと言ってくる。

 まぁ、そうかもしれないけれど、こいつら弱いからな。魔大陸に行ったところで、簡単に命を落としそうな気がするんだよな。

「まぁ、シロウの考えていることは分かるよ。なら、こいつを彼らに飲ませてみたらどうだい?」

 ミラーカが懐から液体の入った瓶を取り出す。

「こいつは服用した人物の身体能力を五倍に引き上げることができる霊薬だ」

「へぇー、そんな便利な薬を作っていたのか」

「しかしこれにはちょっとした副作用があってね。身体能力を五倍に引き上げる代わりに、残りの寿命が五分の一になる。運が悪ければ飲んで数秒後にはお亡くなりになるかもしれない」

「ダメじゃん!」

 思わず声を上げてツッコミを入れる。

「なら、この飛行船の護衛とかはどうですの? ワタクシたちが魔大陸で戦っている間に、この船を守ってもらうのは?」

「そっちの方がいいかも知れないね。私、キャプテンモネに訊いてみるよ」

 クロエが船内に入って行く。

 まぁ、そっちのほうがいいかもな。最悪、この飛行船が乗っ取られるケースも考えられる。だけど、俺には失神魔法に毛なしの魔法、骨化に即死と言った無敵貫通系の魔法が使えるからな。簡単に取り返すこともできる。

 どちらかと言うと、こいつらに飛行船を乗っ取られるよりも、キャプテンモネに怒られる方が怖い。

「訊いてきたよ。船の雑用係としてなら採用だって!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「やったああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「これで俺たちも英雄様の仲間の一人だあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 クロエの言葉を聞いた瞬間、空賊たちは歓声を上げる。中には嬉し涙を流している奴らまでいた。

 うーん。これはガチだな。俺たちを騙すための演技ではなさそうだ。

「やろう共! 今すぐ掃除道具を持って来い! この船をピカピカに磨き上げるぞ!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」

 空賊たちが飛行船の中に入ると、掃除道具を持って甲板に戻ってきた。そして各々掃除を始める。

 雑用係として満足できるのなら、これでいいか。





 元空賊の襲撃から数日が経った。

 俺たちを乗せたノーブラス号は、魔大陸が見える場所まで近づいていた。

「とうとう魔大陸が見えてきたな」

「どの辺で降りますの? 流石に敵本拠地近くではありませんわよね?」

 マリーが停まる場所について訊ねてくる。

「キャプテンモネの話だと、広いところで俺たちを降ろすらしい」

「この飛行船、大きいものね。森の中だと場所がほとんどないから、荒野あたりかな?」

「魔大陸は他の大陸とは違って過酷な環境下にあるからね。殆どが荒野で、自然は少ない。気温差も激しいから、魔族以外は生活するのが難しい場所だよ」

「それに魔物も、強い奴らばかりと言う話でしたわよね。わたし、しっかり皆さんのサポートができるのか、心配ですわ」

『ワン、ワン!』

「この大陸のどこかにスカーヤが。絶対に見つけ出して叱りませんと」

 大陸の真上を飛行していると、飛行船は降下し始める。

 どうやらこの辺りで停まるようだな。

 飛行船が荒野の上に着地をすると、しばらくしてキャプテンモネが甲板にやって来る。

「約束どおり、君たちを魔大陸まで送り届けたよ。君たちが戻って来るまで、ここで待機をしている。だけど万が一この船が襲撃されたときは、悪いが一旦引かせてもらう」

「ああ、それで構わない。ここまで送ってくれてありがとう」

 彼女に礼を言うと、俺たちは飛行船から降りる。

「シロウ様! 頑張ってください!」

「応援をしております!」

「ファイトっす!」

 魔大陸の大地を踏みしめると、甲板から元空賊たちの声援が聞こえてきた。

 応援されながら戦地に向かうのもいいものだな。





 荒野を歩いてしばらく経った。振り返っても飛行船はもう見えない。

「ミラーカ、ソロモンのいるアジトまでどのくらいかかる?」

「問題ごとが起きなければ、数日中には着くと思う。満月の日までは間に合うさ」

「そうか。それならよかった」

 歩いていると大地が盛り上がり、地面から魔物が姿を見せる。

 二本の鋏に鋼鉄のように固そうな皮膚、先端が尖った尻尾に無数の足を持つ魔物、デススコーピオンだ。

「早速魔物が出て来たか。ウォーターカッター!」

 切断力のある水の魔法を唱えて細さ一ミリの水を魔物に当てる。しかしデススコーピオンの皮膚が裂けることはなかった。

「見た目どおりの硬さか。なら、出力を上げるだけだ」

 それじゃあ、今度は出力を上げて攻撃するからな。少しだけ本気でいくぞ。

「ウォーターカッター!」

 もう一度先ほどと同じ魔法を使う。今度は魔法に使う魔力量を増やして威力を上げる。

 デススコーピオンは鋏を前に出して攻撃を弾こうとした。

 さて、いったい何秒耐えれるかな? 一、ニ、三。

『ギエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!』

 三秒か。まぁ、それなりに持ち堪えたんじゃないのか?

 魔法が魔物の肉体を貫通し、デススコーピオンは断末魔の声を上げる。

 心臓を狙って攻撃をしたから、もう動くことはないだろう。

「これでよし、みんな先を急ごう」

 デススコーピオンの死骸を通り過ぎてしばらく進む。

 あれは町か? きっと魔族たちが住んでいるよな。

「ミラーカ、あの町について何か知っているか?」

「…………」

 あれ? 反応がないな?

 振り返ってみると、なぜかミラーカは俺たちから離れ、立ち止まっていた。

「ミラーカ、どうかしたのか?」

「シロウ、もしかしてあの町を通るつもりかい?」

「そのつもりだけど? さすがにまずいか?」

「いや、そんなことはない。あの町は魔族にしては珍しく、人間に友好的に接する。だから町に入った途端に襲われるなんてことにはならないさ」

 へー、魔族にも人間に友好的に接してくれる人もいるんだ。

「そんなことよりも、私は周り道をして行くから、シロウたちはそのまま町に入るといいよ。後で合流しよう」

「そんな訳にはいかないだろう。人間に友好的なら、なおさらミラーカがいてくれたほうが助かる」

 ミラーカに近づき、彼女の手を握ると、強引に引っ張る。

「分かった。なら少し準備をするから待っていてくれ」

 準備って今更何を用意する気なんだ?

「キャッツ、しばらくの間だけ私に協力してくれ。そしたら大好物のキャロットをあげよう」

『ワウーン?』

 ミラーカは、キャッツを抱くと自分の顔に張り付かせる。

「これでよし。それじゃあ行こうか」

「全然ダメに決まっているだろう!」

 ミラーカらしくない行動に、驚いて思わず声を上げる。

「キャッツは覆面じゃないんだぞ。なぁ、ミラーカ。さっきから君らしくない行動に出ているけど、あの町に行きたくない理由でもあるのか?」

「まぁ、なくもないかな?」

「良ければ話してくれないか? ミラーカが嫌がる理由を教えてくれたのなら、俺もムリしてあの町に行こうとはしないからさ」

 ジーッと彼女を見つめる。

「はぁ、分かったよ」

 どうやら彼女は根負けしたようだ。小さく息を吐く。

「それじゃあ話そう。だけど、覚悟するんだ」

 前置きを言うと、ミラーカは町に行きたくない理由を話す。
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