【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい

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①桃の少女は攫われる(1)

❶桃の少女は攫われる



 ここはどこ?



 目を覚ますと、モモネリアは柔らかなベッドの上にいた。



 ...どうして私はこんなところにいるんだっけ?



 むくっと身体を起こす。


 見慣れない部屋をキョロキョロ見回して、まだボーっとして働かない頭を必死に回転させる。



 そう、あれは家族に頼まれた買い物をしているときーーーー。




******



「おじさん、このりんごちょうだい」


「はいよ、二百リングだよ」

 チャリン。


「まいど」



 果物屋でりんごを買って、家路につこうとしていたら...。



「...やっと見つけた」


「...え?....っきゃぁ!!!」



 突然、背後から低く獰猛な声音でそんな呟きが聞こえて...振り返ろうとした瞬間、誰かに強く後ろに引き寄せられて...体が宙に浮いた.....。



 それから、すごく大きな誰かの肩に担がれて...暴れても下ろしてもらえなくて...そのままーーーー。




 モモネリアは、ゆっくり今の状況を分析して、自分の置かれている立場を嫌でも理解した。




 わかった途端に、身体はぶるぶる震え出した。



 モモネリアは、攫われたのだ。
 顔を見ることはできなかったが、ものすごく体の大きな誰かに。



 どうしようーーーー。



 モモネリアは、得体の知れない恐怖に襲われた。



 誰?
 どうして私を攫ったの?
 私は...これからどうなるの?



 頭は軽くパニックを起こして、呼吸が荒くなる。
 ぜいぜいと大きく息を吸うのに、ちっともうまく息が吸えない。




 どんどん苦しくなり、ついには「ヒュッ...ヒュッ...」と少しも酸素を取り込むことができなくなった。



 やだ...苦しい...っ!!
 だれか...たす...けて...っ!!




 そう思った瞬間、部屋のドアが「バン!」と勢いよく開いて、大きな影がぬっと入り込む。



 酸欠で視界が暗くなっていくなか、その正体を捉えることはできない。



 それはものすごい速さで、私の隣まで来ると慌てた様子で何か必死に話しかけてくる。



 大きくて温かな手が、背中をさすってくれる。



 その手つきは優しくて、先ほどまで感じていた恐怖を吹き飛ばしてくれる。



 袋を差し出され、口に添えてゆっくりと呼吸を促される。

 徐々に落ち着きを取り戻して、息が吸えるようになると、視界がクリアになった。



 背中に添えられた手は、包み込むように肩に回され力がこめられたかと思うと、そっとその手の主の胸に抱き寄せられる。
 



 手と同じ大きな胸に頭を預け、トクントクンと少し早いリズムを刻む音に耳を傾け目を閉じた。



 どのくらい時間が経っただろうか。

 しばらく気を失っていたのかもしれない。

 とろとろと意識が浮上すると、私はまたベッドの上で横たわっていた。



 しっかり掛け布団がかけられている。



 夢....?



 もう何がなにだかわからずに、ただ呆然とした。




******



 私は、モモネリア・クローネ。

 ふわふわ波打つ腰まで伸びた桃色の髪の毛、長いまつ毛に縁取られたエメラルドグリーンの瞳、ちょこんと可愛らしく主張する鼻、ふっくら柔らかそうなさくらんぼみたいな唇。

 折れそうなほど線の細いくびれと対比して、ふんわり膨らむ胸とお尻のラインは女性らしい曲線を描いている。

 容姿でいえばよく褒められる方だ。

 だが、容姿はよくても、それを彩る服や靴はもう何年も着古したボロ切れである。

 
 モモネリアは、自分の身なりを見て、こっそりとため息をついた。


 年頃の娘なのに、オシャレとは程遠い。

 
 
 モモネリアは先月十八を迎え、晴れて成人となった。
 飲み屋を経営する父ジャック、母アンネット、二つ上の姉ガーネット、そしてモモネリアの四人家族だ。


 お店は夕方に開店して夜中まで営業している。

 そのため、両親は明け方から昼頃まで寝ており、家事とお店の営業に必要な買い出しや仕込みは、ほぼモモネリアの仕事だ。



 姉は、家の仕事を手伝わない。

 昔から自由な人で、家事や買い出しなどに自分の時間を費やしたくないらしい。

 もう大人だというのに、結婚するでもなく。

 家族を手伝うでもなく。

 両親に好きにものを強請っては、色々買い与えられ、新しい服やアクセサリーで着飾り、フラフラ遊んでばかりいる。


 モモネリアは、そんな姉と、姉に甘い顔をする両親に挟まれて、あまりワガママも言えず、ずっと言われるままに両親を手伝ってきた。



 しかし、両親はいつも尽くしてくれるモモネリアではなく、自由奔放な姉を溺愛し、モモネリアのことなど全く構わない。


 強請れば、何でも思い通りになる姉と違って、新しい服を買ってもらったのはいつだったか思い出せないほどだ。


 それどころか、毎日の食事も、自分には家族の残り物ばかり。
 

 話しかけられることもなく、声をかけられるのは用事を言いつけられる時だけ。


 殴られることはなかったが、家族にとって自分は透明人間みたいな存在なのだと苦しかった。



 言い方は悪くなるが、ほとんど奴隷のようにこき使われてきた。



 それでも、モモネリアはいつかきっと自分を見てくれると淡い期待を抱いて、家族に尽くしてきたのだ。



 今日も、姉がどうしても食べたいと言って聞かず、姉に甘い両親は、都合よくつかえるモモネリアに命令して、姉が希望した果物をモモネリアに買いに行かせたところだった。



 姉が食べたいと言ったりんごは、このミネトーネ国では貴重な果物だ。

 気候が安定せず、日によって、暑くなったり寒くなったり、天気がコロコロ変わるミネトーネ国では、寒い地域で栽培するりんごは育ちにくい。


 そのため、輸入に頼る他なく、とても希少で高価なのだ。


 モモネリアの住む地域にはなく、一時間ほど歩いた街の小さな果物屋に時折りんごが入荷されることがあった。


 入荷の有無は、日によるため行ってみないとわからない。


 それでも姉のために探してこいと命じられて、モモネリアは六年履き続けているボロボロの靴で懸命に遠い道のりを歩いて果物屋にやってきた。


 店先で、なんとか一つだけ残っていたりんごを手にして、買ったまではいいがーーーー。

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