【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい

文字の大きさ
9 / 45

④穏やかな日々(4)


******



「モモネリア、ここにいたのか」



「リードさん」



 モモネリアが図書室で、大好きな小説を読んでいると、ドアが開かれリードネストが入ってきた。



「リード、と呼んでくれ。さん、はいらん」



 少し口を尖らせ、拗ねる素振りをみせるリードネスト。



「....リード」



「あぁ」



 ニコニコと本当に嬉しそうにするから、結局いつもリードネストのことを拒否できず、最近では可愛いとさえ感じてしまっている。



 私.....すっかり絆されない?




 内心そんなことを思っていると、読みかけの本をリードネストが覗き込んできた。




「何を読んでいたんだ?」



「あ.....好きな小説。リードが全巻揃えてくれたから、嬉しくて。......すごく面白いわ。ありがとう」



「....そうか。それは良かった」


 リードネストは一瞬目を見開いてから、それはもう蕩けるような笑みを浮かべる。



 愛おしむ目で見つめられて、落ち着かず目を伏せてしまった。



 ゆっくりリードネストの大きな手が伸びてきて、モモネリアのふわふわの髪を撫でた。



 .......あ。......気持ちいいな。



 リードネストのあたたかくて大きな手で撫でられると、モモネリアの目は心地よさでトロンとしてくる。




 うっとりしていると、しばらくして手が離れていこうとした。



 思わず、もっと撫でて欲しくて、モモネリアはリードネストの手首を掴んで引き留めていた。



 手首を掴まれたリードネストは、目をパチパチさせた。


 それから、椅子に腰掛るモモネリアに目線を合わせるように少し屈んで、ふんわり笑って優しい声音で問いかける。



「......ん?どうかしたか?」



 それだけでも、モモネリアは胸がふわふわして。
 体の中から溶けてしまいそうな変な心地だ。
 しかし、決して嫌ではない。
 むしろ、くすぐったくて、気持ちよくて。
 もっと、もっと、とリードネストに甘えたくなってしまう。



「.....あのね?....もっと、撫でて、ほしいの....すごく心地よくて。.....ダメ?」



 上目遣いに、遠慮がちに、されど甘えた口調でおねだりするモモネリアは、凶悪的に可愛かった。


 どうしようもなく、モモネリアが愛おしい。


 全身が、モモネリアを求める。



 ......抱きしめたい。キスしたい。モモネリアを....今すぐ俺のものにしてしまいたい。


 
 本能が暴れまわる胸の内をなんとか抑え込み、リードネストは自身の左胸をぎゅっと掴んだ。




「.....仰せのままに、俺の可愛い桃姫」




 そう言ってまた伸びてきたリードネストのあたたかな手は、モモネリアの頭を撫でる。



 心地よさに片目を瞑りながら、モモネリアは少し拗ねた声で言い返した。



「....ん。....もう。その呼び方、恥ずかしいんだけど」



「....ふ。いいだろう?俺にとったら、この世でたったひとりの愛しいお姫様なんだ」



 リードネストが以前モモネリアの昔の記憶を頼りに探してきてくれた果物は、「桃」というらしい。


 リードネストが暮らすトーリェンシア国は元々モモネリアが暮らしていたミネトーネ国とナターシェリア国に挟まれる形で位置している。
 
 「桃」は、ミネトーネ国とは反対側の隣国ナターシェリア国が原産地で、果肉は甘くてジューシーで女性に人気があるらしいが、とても柔らかく傷がつきやすい。


 そのため輸入にはあまり向かず、自国、トーリェンシア国内で栽培されたものが出回るくらいなのだ。


 ただ、気候が安定しないこのトーリェンシア国では、栽培数も伸びず、それ故に高価でとても希少だ。



 モモネリアがあの瞬間にそんな桃を食べられたのは、奇跡のような偶然が重なったからである。



 リードネストが昔仕事で行った場所に希少な桃の木が生えていたのを覚えていたこと。


 今年は気候に恵まれ、育ちにくいこの国でもあれだけたくさん実をつけたこと。


 モモネリアが食べたいと求めた時期がちょうど桃の旬の時期だったこと。


 そのおかげで、運良く手に入り、モモネリアは母との宝物の記憶に思いを馳せることができた。



 そんな奇跡を起こしてくれたリードネストには、感謝してもしきれない。



 あの出来事をきっかけに、母に愛されていたことを思い出し、生きる気力を得たのだから。



 リードネストは、「モモネリアの愛らしい名前にも同じ響きが入っているし、大切に守らないと壊してしまいそうなほど可憐で小さくて可愛い。髪の毛の色や瞳の色も、瑞々しい桃のように美しい。そして、モモネリアは俺の唯一無二の番で俺だけのお姫様だ」と溺愛ぷりを見事に発揮する理由をつけて、『桃姫』と時折呼ぶようになったのだ。


 身長が190センチを超えるリードネストにとったら、女性の平均身長であるはずのモモネリアでも小さく感じるらしい。
 

 ちなみに、桃をもいで戻ったリードネストが負っていた怪我は、翌日にはほぼ完治していた。


 リードネスト曰く、獣人は元々体が強く怪我を負っても治りやすい傾向にあるらしい。


 特にリードネストは、体質なのか、他の獣人よりもその傾向が強いと聞いた。



 まるで魔法みたいで、思わずペタペタ腕や顔を触って確かめてしまったら、リードネストが真っ赤になりながらなぜか喜んでいた。



 それでも、痛かったものは痛かっただろうと気遣うと、「大切なモモネリアが笑ってくれたんだ。痛さなんて吹っ飛んださ。それに、こうしてモモネリアが俺に触れてくれたのだ。むしろ役得だったと思うが?」と真面目な顔で言うものだから呆れた。



 そんな出来事を含め、モモネリアは今までのリードネストを思い返す。


 照れて顔を赤く染めながら、ぷいっとわざとむくれてみせた。



「......もう、本当にリードは私に甘すぎる....と思う」



「当たり前だ。モモネリアを甘やかすのは、俺の特権だ。誰にも譲らん」




 至極当然のように、リードネストはそう言った。



 獣人は、番という存在にどこまで尽くし、どれだけの愛を捧げるのだろう。


 その愛情がとてつもなく深く.....深く感じ、底が見えず困惑する。


 けれども、確かにその深い底なし沼のような愛情に喜びを感じている自分がいるのだ。



 リードネストは、モモネリアがお願いすれば何でも聞き入れるきらいがあるし、モモネリア自身、リードネストにかなり甘え始めている自覚があった。



 しかし、一方ばかりが頼り甘える関係は、いつか歪みがでたり、一方だけが苦しくなるのではないだろうか。

 リードネストはモモネリアに頼ってこないし、ただ純粋にモモネリアに愛情を注ぐに徹して、絶対にリードネストと同等の気持ちをモモネリアに強要したりしない。



 まだ、リードネストとの関係に迷っているモモネリアにとっては有り難いが、リードネストはそれでいいのだろうか、と心配になる。



 リードネストにとってモモネリアは番で、本能的に愛する唯一の存在だ。


 だからこそ、リードネストもモモネリアに愛されたいと思う気持ちがあるはずだ。


 一般的な恋愛関係でも、やはり好きな相手には好きになってもらいたいし、愛されたいと願う。


 番ともなれば、相当だろう。


 なのに、リードネストはモモネリアの気持ちを優先し、モモネリアが甘えたい時には甘えさせて、モモネリア自身が望まないことは重荷にならないよう我慢している気がする。



 ....私は、彼に何ができるだろう。


 
 最近、モモネリアはそんなことを思う。



 リードネストは、「引け目なんて感じることない」「素直に甘えてほしい」とつつみこんでくれる。



 でも、これは引け目でもなんでもなく。
 ただいつも愛してくれるリードネストにモモネリアも何かしてあげたい、と感じるようになったのだ。



 ......こんな気持ちは、初めてだわ。



 モモネリアは、両親と姉に尽くしてきた。


 けれど、それは両親と姉に家族として愛されたいと潜在的に願うが故に、尽くすことで愛を乞うていたに過ぎない。


 これだけ尽くしたのだからいつか愛してくれるはずだ、と。



 だが、リードネストに対するこの気持ちは、それとは違う。



 見返りを求める気持ちではなく、ただリードネストに喜んでほしい。リードネストの力になりたい。支えたい。



 そんな純粋な思いだった。



 モモネリアは、彼に何かしてあげたい気持ちが抑えられなくなっていた。



 そして考え、行動した。


 モモネリアを甘やかすときの蕩けるような笑顔とは違う、リードネストの驚きや歓喜に溢れた表情を想像して、ニマニマ頬を緩ませながらーーーーーー。




感想 2

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」 ⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎

愛されすぎて落ち着かないなんて初めてです

星乃和花
恋愛
恋をすると、私は少し面倒くさくなる。 好きと言いたいし、好きと言われたい。 会いたいし、一緒にいたい。 ずっと変わらないものを、つい求めてしまう。 そんな自分を持て余していた私が、 恋の相談をしていた相手は―― 「重くないですよ」 と、何でもない顔で受け止めてくれる人でした。 優しくて、穏やかで、包み込むみたいな同僚。 気がつけばその人が、いちばん話したい相手になっていて。 そして、いちばん好きな人になっていました。 付き合ってみた結果―― 想像以上に大事にされて、 想像以上に愛されて、 毎日ちょっと落ち着かない。 それでも。 こんなふうに愛されるのは、初めてで、 どうしようもなく、しあわせです。 やさしくて甘い、 “安心できるのに落ち着かない”恋のお話。 (完結済ー全12話+エピローグ+番外編2話)

試用期間の終わりに、伯爵様から永久雇用と指輪を渡されました

星乃和花
恋愛
植物が大好きな控えめ庭師見習いのリネットは、伯爵邸での試用期間を終える日、不安な気持ちで呼び出される。 けれど若き伯爵アルヴェインに告げられたのは、まさかの永久雇用。しかも“約束の証”として、美しい指輪まで渡されて――? 「君さえ望むなら、生涯ここにいていい」 控えめな自分が安心できるようにと考えられた、伯爵様の優しさの塊みたいな契約更新。 ……だと、リネットは本気で思っていた。 一方の伯爵様は、至って真面目に求婚のつもり。 求婚が通じたと思っている伯爵様と、 超手厚い福利厚生だと思って感激している庭師見習いの、 甘くて可愛いすれ違いラブコメディ。 (完結済ー全8話)

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ! ⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (完結済ー全8話)

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

政略結婚のはずが、旦那様の独占欲が想定外です

星乃和花
恋愛
公爵家の令嬢フローラは、花とレースが似合う無邪気な娘。 家族や使用人に大切にされ、気づけば結婚相手まで決まっていた。 お相手は、王都でも完璧と名高い青年伯爵レオネル。 実務的で理性的な彼は、この婚姻を“問題のない政略結婚”として受け入れた――はずだった。 けれど、隠し事がまったくできないフローラの真っ直ぐさに、女を信用できないレオネルの心は少しずつほどけていく。 一方のフローラもまた、初めて「自分で選びたい」と思う相手に出会ってしまい……。 「問題ない」から始まったはずの結婚は、 やがて「君でよかった」になり、最後には「君がよかった」へ変わっていく。 甘くて可愛い、政略結婚ラブコメディ。 ――政略結婚ですが、好きになってもよろしいですか? ♢こんな“好き“をお持ちの方へ 政略結婚から本物の恋になるお話が好きな方 理性的なヒーローの独占欲がじわじわ強くなる展開が好きな方 新婚後ますます甘くなる夫婦ものが好きな方 (完結済ー本編10話+番外編5話)