【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい

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⑦溺愛は加速して(3)

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「カーヴィン、もういいだろう」



 話しすぎだ、とリードネストはカーヴィンを強めの口調で嗜めた。




 カーヴィンは、「失礼致しました」と礼をとり、またいつものピシッとした佇まいに戻った。




「......リード、本当?」



 リードに事実なのか問うと、たっぷり間があり、漸く消え入りそうな声で、答える。



「..........本当、だ。.....モモネリアは、愛らしすぎる。姿かたちはもちろん、中身まで清らかだ。俺や使用人たちに対しての気遣いには、毎日癒されている。花や植物を愛でて、菓子作りも得意で女性らしく、性格も素直だ。読書や刺繍といった自分の好きなことに対してどこまでもまっすぐで一生懸命なのも好ましい。まぁ、例え男らしくても、凛々しくても、悪巧みをしていても。どんなモモネリアも、大変魅力的で、素晴らしいのは間違いないが。辛い時でも、他人を気にかけ、己の刃を決して他者に向けない。そんな強さを持っている。俺に甘える時なんて可愛すぎて。出会ったきっかけは番だからだが、お前を知れば知るほど、心臓が高鳴ってこれ以上ないほど早鐘をうつ。いつか心臓が止まってしまうのではと怖いくらいだ。お前が気を許せば、全てを魅了してしまう。モモネリアは、甘い香りを漂わせる美しい花だ。お前がそこにいるだけで煩わしい羽虫たちが、お前の美しさと香りに誘われて寄ってきてしまうだろう。その砂糖菓子のような声で話す言葉はどれもふわふわ優しくずっと聞いていたくなるし、お前の仕草がどれだけ男を虜にするかわかっていない。少し微笑むだけで、周りの男どもがその可愛らしさに勘違いしてしまう。俺からお前を奪おうとするかもしれない。もちろん、必ず俺が守るが。.....お前がそんな輩の目に映るだけでも、不愉快でたまらない。お前は、俺のものだろう?.....絶対誰にも渡さない」



 途中想像したのか、消え入りそうだった声が段々低く凄みのある声に変わる。



 じわじわと全身でリードネストの独占欲と嫉妬心を感じて、自分がどれほど愛されているのかを実感させられた。




 この邸に来てからリードネストの言動や態度に、モモネリアへの愛を感じなかったことなどなかったが、これは予想外にモモネリアを昂らせた。




「.........嫌に、なったか?」




 膝の上で黙り込んで俯いてしまったモモネリアを見て、リードネストはうかがうように顔を覗き込む。


 三角耳はぺったりと寝て、尻尾は下の方でゆっくり揺れている。



 すぐ近くに見えるその顔には、不安の色が浮かんでいた。



 この大きな体躯の男性が、モモネリアただ一人に深い愛をそそぎ、他の男性に奪われまいと必死で囲い込み、一方でモモネリアに嫌われることを恐れている。



 ........何だか、可愛い。



 モモネリアは、思わずリードネストの大きな胸にぎゅっとしがみついた。


 そのまま胸に顔をぐりぐりと押し付ける。


 
 嬉しいのと、恥ずかしいのと、愛おしいのと、可愛いのと..........それから、ありがたいのと。



 色んな気持ちが波のように押し寄せて、ぐしゃぐしゃで。



 リードネストに思いっきりくっついて、甘えたくなった。




 使用人たちは主人たちの空気を読んで、皆邸に戻っていく。


 残されたのは、リードネストとモモネリアの二人。


 できる使用人たちである。




「.......モモネリア?」



 リードネストがモモネリアの腕にそっと手を添えた。



 モモネリアは、押し付けていた顔をゆっくりあげ、膝の上に座っていても自分よりも高い位置にあるリードネストの顔を上目遣いで見た。


 その目に嫌悪や苛立ちの色はない。


 ただ恋人に甘え、強請るような潤んだ目。


 リードネストはまた唸った。



「うっ。......か、可愛い。......どうした?ん?」



 モモネリアが、甘えているとわかったのだろう。


 リードネストはモモネリアの背を支える腕とは別の腕を腰に回し今度は嬉々として、溶けそうなほど甘ったるい声音で、自分の愛しい恋人に尋ねた。



「....なんでもないの」



 モモネリアはゆっくり目を伏せ、自身の背に回し、抱き込んでいるリードネストの大きな右手をとった。


 両手で、それを弄って遊ぶ。



 ツンツンしてみたり、手のひらを合わせて大きさを比べてみたり、自身の左手をそれに重ね指を絡めてぎゅっと握ってみたり。



「......ん。........モモネリア、愛してる。大切に、大切にするから、ずっと一緒にいて?」



 手で遊ぶモモネリアを、目を細め眺めていたリードネストは、聞いているだけでトロンとするほど優しい声でそう言った。



 モモネリアは、コクンと頷いてから答えた。



「.....私も。リード、大好き」


 

「.......はぁ。可愛いすぎ。誰にも見せたくない。俺のことだけ見ていてほしい」



 リードネストの口から、悩ましげな吐息が漏れる。



 突然、ちゅっ、と音をたててモモネリアの額にキスが降ってきた。



 続いて、頬やこめかみにも。


 何度も、何度も。



「.....ん....」



 モモネリアはリードネストの温かな唇が触れる初めての感覚に、ピクっと肩を揺らす。



 けれど、すぐにその心地よさに思考がふわふわしてきて、目を閉じてうっとりとそれを受け止めた。



 .......初めて、キスしてくれたわ。




 何度も顔中にキスを降らせたあと、心地よさそうなモモネリアの表情をみて、リードネストは切なげに唸りボソリと呟く。



「........これ以上は、ダメだな。我慢できなくなる」



 モモネリアにはリードネストの小さな呟きは届いておらず、急に止んだキスに物足りなさを感じた。



「......やめないで。もっと.......キス、して?」



 目を開けて、すっかり蕩けた顔で強請るモモネリアは、男の事情など考えていない。



 その顔と言葉に、リードネストはますます苦悶の表情を浮かべ、小さく「ガルル」と喉を鳴らした。



「......お前は、無意識か?.....煽りすぎだ。今は理性を保つのに必死なんだから、可愛すぎるのもほどほどに頼む」




 困った顔で、目元を赤く染めながら言うリードネストは、何とも言えない色気を漂わせている。



「.......だって、気持ちいいの」



 モモネリアはリードネストの言っている意味もわからず、ただ素直な気持ちを吐露する。




 クッ、と呻いてから「はぁ~」と長い息を吐き出しながら、リードネストはモモネリアをぎゅうっと抱きしめた。



 モモネリアは、されるがまま身を委ねる。



 しばらくモモネリアを抱いたあと、リードネストはゆっくり離れた。



 モモネリアの腰に回していた左手を、彼女のふっくら柔らかそうな艶めく唇に持っていき、指でそっとなぞる。



「.........キス、しても?」



 リードネストに与えられる心地よさに浸っていたモモネリアは、遅れて反応した。



 徐々に意味を理解して、頬に朱がさしていく。


 恥ずかしい、が嫌ではない。


 素直にそう思った。



 そのまま口にするのは憚られて、何と返事をすべきか悩み、モモネリアは静かにひとつ頷くだけにとどめた。




「.....ふ。......あぁ、ほんとに可愛いな」



 リードネストは、すっかり真っ赤に染め上がった顔を俯けている最愛の恋人の頬を、指で優しく撫で、額、こめかみ、頬と順に小さくリップ音を鳴らし口付ける。



 最後に、もう一度愛おしげに唇を指でなぞると、ゆっくり顔を近づけ、ふわふわの愛らしいそれに自身の唇を合わせた。



「..........んっ」



 モモネリアの口から、小さな声が漏れる。



 初めてのキスは、お互いの体温と柔らかな感触を伝え合う控えめなもので、だが、それでも心は喜びと切なさと甘酸っぱさでいっぱいで。



 身体はふわりと浮き上がる心地だった。



 一度触れ合い離れた唇は、再び重ねられた。
 緩やかに、何度も角度を変えながら唇が触れ、やがて啄むようにキスされる。



「.......はぁ」



 悩ましげな吐息とともに長い長いキスが終わり、名残惜しげに唇が離れていった。







 
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