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⑧秘密の花畑と巡り合い(2)
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回想していると、徐々に馬車のスピードが落ちてきた。
リードネストは、変わらず膝の上に座るモモネリアの桃色の美しい髪を撫で梳いている。
動きがゆるやかになった馬車は、自然豊かな砂利道を抜け大きく開けた場所に出た。
馬がブルルと唸りながら、ゆっくり止まる。
目的地までの道のりが長く、やっとトーリェンシア国とナターシェリア国の国境を超えたあたりにきた。
馬車移動なので、馬を休ませるためにも適度に休憩をはさむ。
無理のない工程を組み、ちょうど休憩するのにぴったりの場所に着いたようだった。
「モモネリア、少し休憩だ。外の空気を吸おう。おいで」
馬車の扉が開き、モモネリアを膝から下ろしたリードネストが先に馬車をおりる。
スッと差し出されたすっかり馴染んだ大きな手に自身の手を重ね、モモネリアも地面へ降り立った。
「.........わぁ!!」
モモネリアの目の前に、辺り一面鮮やかな花畑が広がっていた。
思わずリードネストの手を握る手に力が入る。
澄んだ空、萌ゆる青い葉、しっとり咲き乱れる花。
白、黄色、きみどり、薄桃色、水色、紫、橙色......。
隙間なく染められた大地では、そこで芽吹いた命が全身で生きる喜びを表現していた。
鼻をくすぐる甘い香りが漂い、頬を撫でる風が生温かい。
モモネリアの目は、初めて見る花畑に釘付けだ。
「綺麗!リード、すごく綺麗ね!」
頬を桃色に染めて、両手を合わせ興奮ぎみに飛び跳ね、前のめりになるモモネリア。
リードネストは、モモネリアと繋ぐ手とは反対の手を口にあて、くすくす笑う。
「気に入ったみたいで良かった。可愛いモモネリアに見せてあげたかったんだ」
モモネリアは少し冷静になり、自分が興奮しすぎたと気づいて恥ずかしくなってきたのだろう。
カァっと更に頬を染め、リードネストから視線を外した。
「.......ありがとう。私、お花畑なんて見たの初めてよ」
祖国にいた頃は、家事とお店のための買い出しや手伝いばかりで、自分のために使う時間もなかった。
家族は、モモネリアを愛しているわけではなかったから、家族で出かけることもない。
時折楽しげに出かけるのは、両親と姉のガーネットの三人だけで、モモネリアは留守番を言いつけられていた。
当然、モモネリアにとって花畑なんてお話の世界の話で、こんなに幻想的な素晴らしい景色だと初めて知ったのである。
それを聞いたリードネストは、一瞬眉間に皺を寄せ怒りを堪えるような、苦しげで切なげな顔をして、すぐに元の微笑みをたたえた。
モモネリアは、リードネストにまだ家族の話はしていない。
いつか話さなくてはならないと思いながら、家族にも家族と思われない自分を知られるのが恥ずかしくて、情けなくて、自分の孤独を思い知りそうで、決心がつかずにいる。
ただ、モモネリアの発言や態度から何か察しているらしく、リードネストはモモネリアが少し何かを漏らすとそんな顔を見せるようになった。
詳しくはわかっていないはずなのに、まるで過去に寄り添ってくれているみたいで、モモネリアはそれが嬉しかった。
「そうか。モモネリアが望むなら、もっと色々なものを見に行こう。お前と一緒にたくさんの場所に行くのが俺の夢だ。仕事柄、こういう外国にもよく来る。これからは、モモネリアも一緒に行こう。モモネリアと離れるのは俺が寂しくて耐えられないからな」
そう言って頭を優しく撫でる。
「いいの?......お仕事の邪魔にならない?」
「なるものか。むしろ、モモネリアが居てくれたら俺は元気になれる。仕事にも精が出る」
「.....嬉しい!私、もっとたくさんの景色が見たいわ!.....とても楽しみよ。リード、いつもありがとう」
「......ふふ。お礼はここにしてくれ」
満面の笑みで、お礼を言うモモネリアを目を細めて見るリードネスト。
そう言って人差し指で唇を指し示し、少し屈んでみせた。
ぼっと、真っ赤になったモモネリアは、視線を泳がせる。
意を決して、躊躇いながらゆっくりとつま先立ちになり、リードネストの胸に両手を添えた。
顔が近づき、柔らかな唇がリードネストのそれに重なる。
ちゅ、と控えめなリップ音が響いた。
リードネストは、ニィッと口の端を挙げて笑うとモモネリアの細い腰をかき抱いた。
「足りないな」
そう言ってまた重なる唇。
モモネリアは、瞼を閉じた。
「.......ん」
何度かキスを交わし、はぁ、と吐息を漏らしたモモネリアはゆっくり目を開けた。
すぐ近くに、リードネストの綺麗な顔があって、ドキドキ胸が鳴る。
と、同時に、モモネリアはハタと固まる。
.......しまった。ここは......。
周りに、連れてきた数人の使用人たちが控えていたことをすっかり忘れていた。
ハルカもカーヴィンも、少し離れた位置で凛と立っている。
さすが、皆、特に気にした様子を見せず、何なら風景と同化するほど気配を消していた。
使用人の鑑である。
恥ずかしすぎて顔を覆うが、あとの祭りだ。
リードネストは、全く気にしておらず、突然顔を覆ったモモネリアを首を傾げてみていた。
........そういえば、リードのお仕事もまだ詳しく知らないのよね。聞いてもあまり話してくれないし。
........まぁ、いつか話してくれるわよね。
秘密にされるのは少し寂しく思いながら、リードネストの愛は日々溢れるほど感じていたので、のんびり構えなければと自分に言い聞かせる。
「ここでお昼を食べて、少し休んだらまた出発しよう」
「うん!わかった」
使用人に、ピクニックの準備を指示するリードネストの側に、カーヴィンがやってきた。
「......ご歓談中に失礼致します、旦那様。少々、宜しいでしょうか?」
美しい礼をとり、目で「こちらへ」と促すカーヴィンに、何か仕事の話だろうと察したリードネストは、頷いた。
モモネリアに断りを入れてからカーヴィンのあとをついていく。
「......モモネリア、すまない。少し離れる」
「えぇ。大丈夫よ。........その間、お花畑を見て回っていてもいいかしら?」
「あぁ、もちろんだ。でも、あまり離れすぎないように。目の届く範囲でな」
念を押されて、苦笑いする。
リードネストはモモネリアに激甘だが、過保護な面がある。
基本的にモモネリアがお願いすれば聞いてくれるが、危険な目に合わないように細心の注意を払い、護衛も多めにつけられる。
リードネストと別行動の場合は、特に念入りに言い聞かせられることばかりで、「大丈夫だ」と言っても譲らないのだ。
モモネリアに何かあったら生きていけない、と大袈裟に言われ、半ば諦めている。
リードネストを見送り、自身もゆっくり花畑の方へ足を向けた。
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