【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい

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11忍び寄る影(3)



 彼女の左横に立っていた護衛の女性騎士、数メートル後ろに並んで待機していた数名の護衛たちが一斉に倒れた。




 糸が切れたマリオネットのようにふっと力が抜け、バタバタと。



 一瞬の出来事で理解ができず、護衛たちを見回す。




「........な、なに?.......大丈夫!?」




 ハッと我に返り、駆け寄るモモネリア。


 呼吸と心音を確認すると、生きていることがわかった。



「........いき、てるわ。良かった。........これは、一体、どうして?......まさか.....あなたなの?」



 得体の知れない恐怖が襲ってきた。


 人間のモモネリアですら感じる、ローネルから発せられている圧。



 .....魔法だろうか。いや、ドワーフが操るのは不思議な力。


 ローネルのもつ能力。



 そう言えば、モモネリアはローネルとそんな話をしたことがない。



 ローネルは、一体どんな力を持っているのか。



 こんな状況になり、もっと気にかけるべきだったと後悔しても、今更遅い。




「.......そう。僕、のちから。僕、生まれつき他のドワーフたちより力が強いんだ。だから、いろんなことができるんだ」



 まつ毛を伏せ、口元に怪しげな笑みを浮かべる。



「.......ぼく?あ、なた......男の子、だったの?」



 ゆるゆると目を見開き、震える声で聞くモモネリア。




「.......そうだよ。騙して、ごめんね。でも、確かに君のそばにいるのに都合がいいから黙っていたけど。僕の口からは一度も女だとは言ってないよ。偶然だけど、モモネリアが、僕のことを女の子だと思ってくれて助かったよ」



 彼は伏せていた視線を、モモネリアに合わせる。



「もちろん、リードは気づいていたみたいだけどね」


「.......え」


「君が僕のことを男だと認識した状態で、僕にそばに居られるよりも、女の子だと思っててくれたほうがまだそばにいることを許せたんじゃない?」


「.........」


 そう言われれば、初めからリードネストの反応は、なんだかおかしなものだった。



 あれは、ローネルを男の子だとわかっていたからだったのか。



 わかっていたのに、黙っていた理由も何となく納得がいく。





「あ、リードのことを考えるのはなしだよ。これからは、僕のことだけ考えて」



 スッと音もなくモモネリアの顔の目の前まで近づき、綺麗な顔が覗き込む。


 今は、怪しげな危うい空気を連れて。




「........ローネル、どうして?......どうしてこんなことをするの?.......私を、どうするの?」





 危険を感じ、声が上ずる。






「どうして、って.......君がそれを言うんだね。......じゃぁ、教えてあげる。.......モモネリア。君はね、僕の唯一。世界でたったひとりの、大切な番なんだ」



 ローネルは頬を紅潮させ、恍惚とした表情で告げた。




「........つ、がい?」



 その言葉で、恐怖に襲われていたはずのモモネリアの表情は一転、訝しげに変わる。




「どういうこと?.....私は、リードの.....リードネストの番よ。番は唯一無二、でしょ?......二人の番がいるなんてありえないわ」




 ゆっくりと、でもはっきりと、矛盾を指摘したモモネリアを、ローネルは肯定した。




「.......そう。本来なら、ね。番は唯一無二で、一人に二人の番だなんて、ありえない。一夫多妻の種族でさえ、番として一緒にいるのは一人で、他の妻は番ではないただ相性がいい者たち。それがこの世界の常識。君は、正しい」





「..........じゃぁ」




「だが。何事にも例外はつきものだ」



 そう言ったローネルは、憤りと苛立ち、悲しみと寂しさ。



 様々な感情を含んだ、とても複雑な顔をしていた。




「......例外?」



「うん。あのね、モモネリア。君の身体には、二つの魂が宿っているんだ」




「..........」


 モモネリアは、言われた意味が掴めず、呆然とする。

 一つの身体に、二つの魂?


 そんなことがありえるの?




「........信じられないという顔だね。まぁ、そりゃそうだろうね。僕も、君と“再会“できたときは信じられなかったよ。君の身体に、二つの魂のオーラを感じることも。すでに、僕以外の番と出会い、心を許していたことも......」



「.............」



「でも、確かだ。僕たちドワーフは、不思議な力を持つからね。有する能力はそれぞれ違うけど、僕は見ようと思えば、魂の色やオーラを見ることもできる。モモネリア、君の身体には確かに異なる二つの魂が宿っている」



「...........」




 モモネリアは、自身の両手をゆっくりあげ、掌をまじまじと見つめる。



「......普通は、一人の身体に一つの魂と決まっている。だが、稀にあるんだ。神のイタズラか、はたまた偶然か。一つの身体に二つの魂を宿すことが。.....これは、僕が聞いた話だから、実際に会うのは初めてなんだけどね。本来、身体に一つの魂が宿った瞬間壁ができて、他の魂は入り込めないようになる。でも.......限りなく低い確率で、寸分違わず同時に二つの魂が一つの身体に入り込むことがあるらしい。壁ができる前だから、入り込めてしまうんだよね」



 .........それが、私、ということ?




「.......身体に宿る魂は、輪廻転生して次の身体に宿っている。つまり、前世がある魂、ということだ。そして、それが新しい身体に宿るとき、前世の記憶は消える。全てが生まれ変わるんだ。リセットされる、と言えばわかりやすいかな。.....でも、番だけは違う。一つの魂には、唯一無二の番う魂が存在する。それは、何度生まれ変わろうと、永遠に番同士だ」


「..........」



「ちなみに、番は必ず同じ時代や同じ国に生まれるわけではない。出会えることは珍しく、奇跡みたいなものだ」



「........じゃぁ、私は、その.....とてつもなく低い確率で、同時に二つの魂が身体に入り込んで.......さらに、出会えることも奇跡のはずの番に.......リードとローネル、どちらともに出会ってしまった、ということ?」



「......うん、その通り」



「まさか.......そんなことってありえるの?......都合よく全てが重なるなんて.....」



 ますます信じられなくて、パニックだ。


 モモネリアは頭を、抱えた。




「........そうだよね。でも本当なんだ。ただ......魂が二つ宿ったのは予想外だけど......番としてまた会えたのは......もしかしたら僕たちの“約束“があったから、かな」




「..........?」




「........本当に覚えてない、んだね。.......仕方ないよね。生まれ変わる時に記憶も消えるから......」




 俯き、ブツブツとローネルが呟くが、声が小さすぎて聞き取れない。




「.........ローネル?」



 ローネルは、顔をあげ、苦しげに顔を歪めた。



 そして、小さく息を吐くと、ゆっくりと話し始めたーーーー。







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