37 / 45
13 だから君を(2)
しおりを挟むザァーッと強い風が吹き抜けた。
教会の中で。
......な、なに?
思わず目をぎゅっと閉じて、すぐに薄く開ける。
風に巻き上げられる自身の長い桃色の髪の毛で視界が遮られる。
ゆっくり風がやみ、髪の毛がストンと背中と肩に落ちるとーーーー。
目の前に、自分よりも大きな男性が片膝をつき屈んでいた。
モモネリアよりも少し高い位置から見下ろす視線は、妖艶で、危うさを含んでいる。
数十センチの距離の近さに、ゴクリと唾を飲み込む。
チラリと視線を滑らせると、先ほどまでふわふわ飛んでいたローネルが消えている。
「........え.......だれ?......ろー、ねる?」
その問いに、男性はニヤリと口の端をあげた。
「もちろん、僕だよ......カレン」
「.......その身体.......ど、うして」
「.......力で大きくしたんだ。ドワーフのままだと君に..カレンに口づけられないからね」
「...........」
「ドワーフの婚姻は、口付けをもって完了する。ドワーフたちは生涯寄り添うと決めた相手と婚姻を交わす。結婚式でキスを交わし、ただひとりの相手として自らの妖力のもと婚姻契約を行うんだ」
「.........う、そ」
「本当だよ。さぁ、カレン。僕と誓いの口付けを.....この、思い出の教会で。そして、帰ろう?......僕たちの家に」
「.......」
今まで、リードネストに大切にされてきた思い出が一気に蘇り、涙が溢れそうだ。
私が消えたら、きっとリードネストは悲しむ。
リードに悲しんでほしくない。
何より、私がリードと一緒にいたい.....。
リードに会いたいーーーーー。
「カレン、こっちを向いて?」
ローネルはそっとモモネリアの頬に手を添え、いつの間にか俯いていた彼女の顔をあげさせようとする。
瞬間、モモネリアは肩を跳ね上げ、必死に抵抗する。
「い、いや!....やめて!」
顔を勢いよく背け、ローネルの手を振り払う。
そして、逃げたい一心で、ズルズルと何とか身体を後退させた。
だが、そんな小さな距離など自分よりも大きな男性にとってはすぐさま縮まる距離だ。
呆気なく大股で距離を詰められ、圧倒的な力で肩をつかまれれば、もう逃げることは叶わなかった。
「.......どうして僕を拒否するの?.....約束、したでしょ?カレン。......来世でも会おうって。.....やっと.....やっと出会えたのに......どうして、どうして僕から逃げるの?」
それは、心からの問いかけだった。
ローネルは苦しげに眉間に皺を寄せ、悲しみに顔を歪めている。
モモネリアは、ローネルのその表情をみて確かに苦しくなった。
でも、それは懐かしさを覚えつつも約束の記憶はない申し訳なさと、現世の自分が彼と同じ熱量で、同じ気持ちで、彼を求めていないことに対しての苦しみだった。
モモネリアは、ローネルの気持ちに応えられない。
前世では、どうだったかなんてわからない。
だが、今のモモネリアが求める人はただひとり。
そう......もう、モモネリアの心には決めた人がいるのだ。
「......覚えて、いないの」
「......カレン?.....さっきも言っただろう?.....覚えていなくても、いい。僕がその分覚えているって」
「......そうじゃないわ、ローネル。.....私は覚えて、いないの。だから、私はカレンじゃ、ないわ」
「......いや、君はカレンだ!.....僕の愛しい人!」
「いいえ、違うわ。私はわたし。確かに、カレンの魂はこの身体にあるのかもしれない.....。でも私はモモネリア。彼女じゃないの。......あなたが愛しているのは彼女でしょう?私ではない。.....リードは私自身を、モモネリアを愛してくれているわ」
「......違う!僕は君を愛してる!」
「.....あなたは、私ではなく、“カレンの魂“を愛しているのでしょう。....そして、私もあなたを愛していない。....私は....私は、リードを愛しているの。......ごめんなさい、ローネル」
「.....っ!!......そんな....どうして.....カレン。......僕は.....僕は.....君を、こんなにも......っ」
スッと、ローネルの琥珀色の瞳から光が消える。
本来美しい宝石のような瞳は、今はただ真っ暗な感情をたたえ、涙の膜を張っていた。
「カレン.......」
ローネルが、今にも消えそうなか細い声で呟いた瞬間ーーー。
「.......きゃぁ!!」
突然、ローネルとモモネリアを中心に、周囲を突風が渦巻いた。
その風の凄まじさは、嵐の如き。
あまりの勢いに、目を開けていられない。
モモネリアは思わず瞼をきつく閉じ、両腕を顔の前に掲げ、身を守るようにすくめた。
そんな中で、顔にそっと触れた温かな体温。
うっすら目を開けると、何とも儚げな....何かを諦めた顔のローネルがいた。
モモネリアは、その表情に釘付けになる。
静かに開かれた口から言葉がこぼれた気がするが、周りを轟々と吹き荒れる風の音にかき消されて、聞き取れなかった。
そしてーーーー。
スローモーションの映像を見ているように、ローネルの寂しげな瞳が、力無く下げられた眉が、わずかに弧を描く唇が.......ゆっくりゆっくり近づいてくる。
.......逃げなきゃ。
そう思うのに、身体は固まったまま。
抵抗できない。
あっという間に、それはモモネリアの肌に触れた。
キスされたのだ。
唇ではなく.......額に。
「.......え?」
ふっと、ローネルは笑った。
今度は、目を細め満足げに微笑んだのだ。
じっと、モモネリアの淡いグリーンの瞳を見据えて。
先ほどまでの、胸を締め付ける悲しげな表情はどこにも見えない。
モモネリアは驚いて、目を瞠った。
彼女が未だ動けずにいるとーーー。
バン!!
衝撃音が鳴り響いたーーーー。
18
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~
百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。
放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!?
大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~
白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。
国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。
幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。
いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。
これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる