【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい

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13 だから君を(2)

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 ザァーッと強い風が吹き抜けた。



 教会の中で。




 ......な、なに?





 思わず目をぎゅっと閉じて、すぐに薄く開ける。



 風に巻き上げられる自身の長い桃色の髪の毛で視界が遮られる。




 ゆっくり風がやみ、髪の毛がストンと背中と肩に落ちるとーーーー。





 目の前に、自分よりも大きな男性が片膝をつき屈んでいた。




 モモネリアよりも少し高い位置から見下ろす視線は、妖艶で、危うさを含んでいる。




 数十センチの距離の近さに、ゴクリと唾を飲み込む。



 チラリと視線を滑らせると、先ほどまでふわふわ飛んでいたローネルが消えている。





「........え.......だれ?......ろー、ねる?」




 その問いに、男性はニヤリと口の端をあげた。




「もちろん、僕だよ......カレン」




「.......その身体.......ど、うして」




「.......力で大きくしたんだ。ドワーフのままだと君に..カレンに口づけられないからね」




「...........」




「ドワーフの婚姻は、口付けをもって完了する。ドワーフたちは生涯寄り添うと決めた相手と婚姻を交わす。結婚式でキスを交わし、ただひとりの相手として自らの妖力のもと婚姻契約を行うんだ」



「.........う、そ」




「本当だよ。さぁ、カレン。僕と誓いの口付けを.....この、思い出の教会で。そして、帰ろう?......僕たちの家に」




「.......」



 今まで、リードネストに大切にされてきた思い出が一気に蘇り、涙が溢れそうだ。



 私が消えたら、きっとリードネストは悲しむ。



 リードに悲しんでほしくない。


 何より、私がリードと一緒にいたい.....。



 リードに会いたいーーーーー。




「カレン、こっちを向いて?」




 ローネルはそっとモモネリアの頬に手を添え、いつの間にか俯いていた彼女の顔をあげさせようとする。




 瞬間、モモネリアは肩を跳ね上げ、必死に抵抗する。




「い、いや!....やめて!」




 顔を勢いよく背け、ローネルの手を振り払う。



 そして、逃げたい一心で、ズルズルと何とか身体を後退させた。



 だが、そんな小さな距離など自分よりも大きな男性にとってはすぐさま縮まる距離だ。



 呆気なく大股で距離を詰められ、圧倒的な力で肩をつかまれれば、もう逃げることは叶わなかった。





「.......どうして僕を拒否するの?.....約束、したでしょ?カレン。......来世でも会おうって。.....やっと.....やっと出会えたのに......どうして、どうして僕から逃げるの?」





 それは、心からの問いかけだった。



 ローネルは苦しげに眉間に皺を寄せ、悲しみに顔を歪めている。




 モモネリアは、ローネルのその表情をみて確かに苦しくなった。





 でも、それは懐かしさを覚えつつも約束の記憶はない申し訳なさと、現世の自分が彼と同じ熱量で、同じ気持ちで、彼を求めていないことに対しての苦しみだった。





 モモネリアは、ローネルの気持ちに応えられない。





 前世では、どうだったかなんてわからない。




 だが、今のモモネリアが求める人はただひとり。




 そう......もう、モモネリアの心には決めた人がいるのだ。







「......覚えて、いないの」




「......カレン?.....さっきも言っただろう?.....覚えていなくても、いい。僕がその分覚えているって」





「......そうじゃないわ、ローネル。.....私は覚えて、いないの。だから、私はカレンじゃ、ないわ」





「......いや、君はカレンだ!.....僕の愛しい人!」





「いいえ、違うわ。私はわたし。確かに、カレンの魂はこの身体にあるのかもしれない.....。でも私はモモネリア。彼女じゃないの。......あなたが愛しているのは彼女でしょう?私ではない。.....リードは私自身を、モモネリアを愛してくれているわ」





「......違う!僕は君を愛してる!」





「.....あなたは、私ではなく、“カレンの魂“を愛しているのでしょう。....そして、私もあなたを愛していない。....私は....私は、リードを愛しているの。......ごめんなさい、ローネル」





「.....っ!!......そんな....どうして.....カレン。......僕は.....僕は.....君を、こんなにも......っ」





 スッと、ローネルの琥珀色の瞳から光が消える。



 本来美しい宝石のような瞳は、今はただ真っ暗な感情をたたえ、涙の膜を張っていた。





「カレン.......」





 ローネルが、今にも消えそうなか細い声で呟いた瞬間ーーー。





「.......きゃぁ!!」





 突然、ローネルとモモネリアを中心に、周囲を突風が渦巻いた。




 その風の凄まじさは、嵐の如き。

 あまりの勢いに、目を開けていられない。




 モモネリアは思わず瞼をきつく閉じ、両腕を顔の前に掲げ、身を守るようにすくめた。



 そんな中で、顔にそっと触れた温かな体温。




 うっすら目を開けると、何とも儚げな....何かを諦めた顔のローネルがいた。




 モモネリアは、その表情に釘付けになる。




 静かに開かれた口から言葉がこぼれた気がするが、周りを轟々と吹き荒れる風の音にかき消されて、聞き取れなかった。




 そしてーーーー。





 スローモーションの映像を見ているように、ローネルの寂しげな瞳が、力無く下げられた眉が、わずかに弧を描く唇が.......ゆっくりゆっくり近づいてくる。





 .......逃げなきゃ。






 そう思うのに、身体は固まったまま。




 抵抗できない。





 あっという間に、それはモモネリアの肌に触れた。





 キスされたのだ。


 唇ではなく.......額に。






「.......え?」




 ふっと、ローネルは笑った。


 今度は、目を細め満足げに微笑んだのだ。


 じっと、モモネリアの淡いグリーンの瞳を見据えて。




 先ほどまでの、胸を締め付ける悲しげな表情はどこにも見えない。




 モモネリアは驚いて、目を瞠った。



 彼女が未だ動けずにいるとーーー。




 バン!!




 衝撃音が鳴り響いたーーーー。











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