今日、愛する両親が死にました。

こころ ゆい

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1. 桜の開花(4月

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 ようやく春が来た。

 田舎ならではの透き通る雪解け水がさらさらと流れる川沿いの土手。長閑な風にちらちら踊る淡い桜色を、横目に見ながら進んでいく。

「咲いた咲いた。かたい蕾は柔らかく羽を広げて、風に舞って旅にでる、か。.....素敵」

 図書館で借りた本の一節を口にすると、一気に春らしさに拍車がかかった。

 私が生まれた時住み始めたらしい木造の古い一軒家から学校までの長い一本道には、沢山の桜が植っている。

 毎年、新しい桜が幾つも植えられているこの道は、年季の入った大きな木や、まだ若く細い木が混在していた。

「~~♪」

 私、谷口 紅子は、高校三年生になった。
 目にも優しいこの季節が、私は大好きだ。

 るんるんと無意識に身体が跳ねて、鼻歌がこぼれ出る。

 新しいクラスには、赤ん坊の頃から知っている家までご近所の友人達も居て、毎日が楽しい。

 特に仲良しの、涼宮はるの と 殿村 ゆき。

 ここは都会から離れた田舎町だが、空気は綺麗で、畑でとれる野菜は瑞々しく美味しい。

 自然豊かで、かつ、医療機関や教育機関は一応整っていて、子育てにはそこそこいい環境だ。そのため子供が比較的多く、過疎とは無縁の町だった。

 私はこの町が気に入っていて、はるのやゆきも同じ気持ちだった。

 彼女達からは「地元を離れない」と言質をとっており、今後、大学生になり社会人になり、ライフステージがステップアップしていっても、きっとずっと関係は変わらない。

 受験は嫌だが、今の学力でも合格範囲の大学はいくつかある。何とか試験を乗り切って、来年からは華の大学生活を謳歌しよう。

 そう心に決めていた。


「谷口 紅子」

「....はーい」

 既に登校していた生徒のお喋りでざわつく教室に着き、1時間目の授業の準備に取り掛かる。間もなく、ガラガラと引き戸が開いた。

 入ってきた担任・津田 昌信 は教卓に立っててきぱきと出欠確認をとり始めた。
 日に焼けた色黒の肌に、筋肉の浮く腕。
 見るからに健康そうなこの担任教師は、見た目と声の大きさだけ見れば熱血教師だ。

 基本的に冗談を生徒と言い合うような、いい先生ではあるものの.....私は何となく苦手だった。

「出席っと。おい谷口、はい!だ。伸ばすな」

「....はい」

「やる気ねぇなぁ....。先生まで腑抜けるぞ」

 ノリのいい津田先生が、ガクリとわざと肩を下げると教室内で笑いが起こった。

「まぁいい。次、島村このみ」

「はーーーーい」

「長いな!」

 また、大きな笑い声が響いて、このクラスは今日も平和だ。

「えー、今日は皆さんに大事なお知らせがあります」

「なになに?もしかして、今日は授業が全部自習になるとか?」

「島村~、残念だったな。先生は今日も君たちのためにたぁっぷりと時間を空けてある。みっちり授業だから。なんなら補習もオッケーだぞ」

「「「 ええーーー! 」」」

 ブーブーと不満気な皆を手で制して、姿勢をあらためた先生は言った。

「涼宮はるのさんが、家庭の事情で引っ越すことになった。突然だが、もう学校には来られない」

 ガタリ。

「え、はるのが?」

 二つの場所で同時に鳴った椅子の音。
 先生の言葉に思わず立ち上がった私と、殿村 ゆきの椅子だった。

「ああ」

「そんな...」

「ど、どうしてですか?」

「家庭の事情だ。先生達も詳しくは知らない。....残念だったな。お前達三人は特に仲良しだったもんな」

 同情の眼差しで私とゆきを見た先生は、次の瞬間には切り替えるように手を打ち鳴らした。

「さて、話は以上だ。1時間目の授業の準備はできてるな?始めるぞー」

 何が起きたのか理解が進まず、ただ呆然となる私とゆきは、一日授業に身が入らなかった。


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