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第一章 回想
花乃(かの)
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ガラッ。ヒタヒタヒタ....。
病室のドアが開いた。静かな足音が近づいてくる。
「花乃。調子はどう?」
「千春?ええ、今日はとっても気分がいいわ」
「そう。...うん、顔色も良さそうだ。触れるね?」
「ええ、お願いね。私の主治医様?」
「それ、やめてくれよ。恥ずかしい」
「あら?どうして?あなたは、私の主治医でしょ。本当のことじゃない」
「そうだけど...なんだかくすぐったくなる」
「ふふ、照れ屋さんだね。千春が、すごく頑張ってお医者様になったことは私が一番よく知ってるよ。恥ずかしがらなくても、胸を張るべきよ」
「はいはい、わかったよ。花乃様。だから、そろそろ診察させてくれる?」
「えへへ、そうでした。ごめんね。はい、お願いします」
そう言って花乃は腕を差し出した。
真っ白な肌に青い血管が透けている。
見るからに細く、握れば折れてしまいそうなほど華奢だ。
「はい、オッケーだ。2時間ほど安静にしていて。針が抜けてしまうから」
点滴のハリを刺して、テープで固定した千春が言った。
看護師がすることでも、千春がいる時は彼が全てしてくれる。幼馴染の特権だ。
「点滴が終わったら、後で屋上に行こう。今日は天気がいいから気持ちいい」
「嬉しい。でも大丈夫なの?お医者様って忙しいんでしょ?」
「花乃と屋上に行く時間くらいあるさ。医者も気分転換しないとな」
「ふふ、本当ね。じゃあ、楽しみにしてるね」
そう会話して、千春は病室から出て行った。
花乃は身体をベッドに横たえたままま、開いた窓を見遣る。
瞼の裏で、うっすら明るさを感じて。
(...千春の言うとおり、きっとよく晴れているのね。あれ...?鳥の鳴き声?)
花乃の頭の中で、鳥の姿が浮かび上がる。
真っ青に晴れ渡る空は、どんな色なのか。
今鳴いた鳥は、どんな姿で...一羽だけ?....それとも、群れで飛んでいたのか。
日本が秋からに冬になると、渡り鳥が暖かい南へ渡っていくと聞いたことがある。
(きっと、小さな鳥だよ。それから何羽も一緒に飛んでいるの。...その中の一羽が群れを離れて。気持ちよさそうに旋回してからまた仲間のもとに戻って....仲良く南へ渡っていく....)
花乃は、晴れた空を飛ぶ鳥たちの姿を想像して微笑んだ。
*******
「風が冷たいから、これを羽織って。風邪をひくから」
「もう、千春は過保護ね。少しくらい平気だよ?」
「だめだ。この間そう言って、見事に風邪をひいていたじゃないか。用心は大事だ」
「むぅ。わかった。上着をちょうだい?」
2時間の点滴が終わり、千春が花乃の病室に戻ってきた。約束の屋上に行く準備をする。
「あぁ。...うん、これでいいな。さ、花乃。手を」
「うん。ありがとう。...あ」
「大丈夫かい?...足が震えてるね。今日はやめとく?」
「いいえ、大丈夫よ。少しは歩かないと、もっと悪くなるわ。身体の筋力も使ってあげないと衰えるもの」
「...そうだな。じゃぁ、ゆっくり進むから。辛かったら言って?」
「わかった」
花乃は、千春の腕に手を添えた。
きゅっと指先に力を入れてつかまる。
震える足をゆっくり交互に出して、千春について行った。
******
「うわぁ、風、気持ちいい。少し冷たいけれど、それも今はちょうどよく感じる」
「良かった。そこに座ろう。ブランケットも持ってきたから膝にかけて」
屋上にやってきた二人は、ステンレスでできたベンチに腰掛けた。
「ありがとう。...よく晴れているのね。すごく明るいもの」
「あぁ。雲ひとつなくて、真っ青だよ。花乃が今見てる方向。ずっと向こうに飛行機雲が出てる」
千春が、空の向こうを見遣って花乃に説明した。
「そう。綺麗でしょうね。...私ね、見ることはできないけど、頭の中でたくさん想像するの。さっきも、青い空の色や渡り鳥の姿を想像して...とっても可愛い鳥さんだった」
「そうか...。花乃は想像力豊かだもんな。きっと可愛い鳥だったに違いない」
「えぇ、もちろんよ。それにね、想像するのってとても楽しいの。点滴の時間なんてあっという間に過ぎるわ」
ふふ、と笑った花乃。
彼女は目が見えない。うっすらと瞼の裏で明るさを感じる程度の視力しか残っていない。
身体も病気の影響で、力が入りにくく麻痺している箇所もある。
*******
花乃がこうなったのは、赤ちゃんの頃。
健康体で生まれ、特に問題なく大きくなっていた花乃は、もうすぐ一歳を迎えるという時、高熱を出した。
心配した両親はすぐに、病院に連れて行った。
診断名は、夢熱病(むねつびょう)。
比較的小さな子供に多く、完治するまで定期的に薬の投与が必要になる病気だった。薬の投与さえ怠らなければ、重症化することなく数ヶ月で治癒する。
花乃はそのまま入院し、病気を治すために小児病棟で決まった時間に点滴を受ける生活が始まった。
数ヶ月。数ヶ月頑張れば、家に帰れる。またお外に遊びに行ける。だから頑張ろう。
両親はそう思って、花乃を看病していた。
花乃の父は忙しく、仕事の帰宅も遅い。そのため、父は主に仕事の休みの日に花乃の病院に泊まり込み、他の日はずっと母が花乃につきっきりで病室に泊まり込んだ。
「少し良くなってきたのかしら。花乃、起き上がっていられる時間が伸びたのよ?元気な日はもっと遊びたいって泣くほどに」
「あぁ、本当だよね。いつもありがとう。君がつきっきりで花乃をみていてくれるから僕は安心して仕事にも行ける」
「あなたこそ。お仕事忙しいのに、休みの日は交代してくれてありがとう」
そうやって、両親は言葉や気遣いでお互いを支え合っていた。
そんな時、快方に向かっていた花乃の容態が突然変化した。
「奥さん!下がって下さい!先生の処置の妨げになります」
「で、でも...どうして。突然、こんな...花乃?花乃?...お願い、目を開けて、花乃ー!」
取り乱し、子供のそばを離れようとしない母親を、数名がかりで引き剥がし、花乃の処置にあたる。
医師は難しい顔をする。
「何故だ。突然、こんなに熱が上がるわけがない。治療はうまくいっていた。違う菌に感染したか?...とにかく、できることをしよう。まず、高過ぎる熱を下げなければ。薬だ!薬をもってこい!」
考えられる処置を全て施す。
担当医は、すぐに病院全体に呼びかけ、科に関わらず医師が集まった。
花乃の症状、処置、全てを全体の医師で議論したが、原因は不明。新しい病気かもしれないという結論に至る。
花乃は何とか一命をとりとめ、目を覚ました。
「花乃?...花乃!あなた、花乃が目を覚ましたわ」
「すぐに先生を呼んでくる!」
花乃が無事目を覚ましたことを喜んだ両親。
だがすぐに、絶望する。
「高熱の後遺症でしょう。...花乃ちゃんは目がほとんど見えていません。神経は傷ついていないはずですが、何故か身体も...一部麻痺しているようです」
「...そ、そんな」
「嘘ですよね?...しばらくしたら花乃はまた目が見えるようになるんですよね?」
医師に呼び出された両親は、顔を青ざめさせながら、震える手で医師に縋り付いた。
「...何とも申し上げられません。誠に不甲斐ないのですが...原因がわからないので、完治するか見通しが立たないのです。...病院全体の医師の結論です。花乃ちゃんは...新種の病でしょう。今後は、詳しく検査をしつつ、花乃ちゃんの病気についてデータを集めます。何か病気を治す手がかりになるかもしれません。...体調に変化があった場合、状態に合わせて対症療法をしていくしかありません」
「...それじゃあ、花乃は...家に戻れないのですか?」
「...今のところ、いつ容体が変化するか全く読めません。そんな状態ですぐ処置できない家に帰すことは...難しいでしょう。夢熱病の治療を続け、そちらが完治したとしても、退院はできないと思っていて下さい」
そして、医師は静かに退室した。
母は、言葉なく、ただ嗚咽を漏らして泣いていた。
父は、母の肩を抱き寄せ力を込めた。
「...大丈夫だ。花乃はきっと良くなる。あの子は強い子だから」
「......」
父の励ましか、自分にあてた喝なのか。
きっとどちらの意味もあるその言葉に、母は涙を流しながら頷いた。
*******
そして、花乃は24歳になった今も入院している。
ずっと原因不明とされていた病名は、5年前、判明。
命に関わる高熱が出るイアロフスキー病だ。
麻痺は発症当時に罹患していた夢熱病が、イアロフスキー病と複雑に絡み合った結果引き起こされたのではと診断された。
難病指定されており、完治は難しいらしい。
花乃の目は、見えるようになることはなかった。
身体の麻痺も、急には悪くならないが、良くもならない。むしろ少しずつ少しずつ広がっていっている。
花乃は、人生のほとんどをこの病院内で過ごし、生きてきた。学校に通うことなどできず、院内の子供の入院患者向けの学級へ通った。
ワークブックや本を利用して、色んな大人に教えてもらいながら花乃は勉強に励んだ。
義務教育を終え、高校に入学する時期が来ても花乃は入院生活。独学で勉強し続けて、18歳の頃、高卒試験を受けて合格している。
「...あ、おば様はお元気?体調はその後、どうかしら?」
「....あぁ、元気だよ。まだ兄さんのことをうわ言で言っているけどな。ご飯も少しずつ食べるようになってきたよ」
「そう...お辛いわよね」
「......」
千春には、兄が居た。だが、5年前、突然不慮の事故にあい、命を落とした。
千春の母は、大切な息子がこの世を去った悲しみから精神的に参ってしまい、今は療養している。
花乃が入院している病院は、千春の祖父が医院長をつとめている。この辺では一番大きな病院で、色々な設備が揃っていた。兄が亡くなった今、弟の千春が将来の跡取りだ。
病室のドアが開いた。静かな足音が近づいてくる。
「花乃。調子はどう?」
「千春?ええ、今日はとっても気分がいいわ」
「そう。...うん、顔色も良さそうだ。触れるね?」
「ええ、お願いね。私の主治医様?」
「それ、やめてくれよ。恥ずかしい」
「あら?どうして?あなたは、私の主治医でしょ。本当のことじゃない」
「そうだけど...なんだかくすぐったくなる」
「ふふ、照れ屋さんだね。千春が、すごく頑張ってお医者様になったことは私が一番よく知ってるよ。恥ずかしがらなくても、胸を張るべきよ」
「はいはい、わかったよ。花乃様。だから、そろそろ診察させてくれる?」
「えへへ、そうでした。ごめんね。はい、お願いします」
そう言って花乃は腕を差し出した。
真っ白な肌に青い血管が透けている。
見るからに細く、握れば折れてしまいそうなほど華奢だ。
「はい、オッケーだ。2時間ほど安静にしていて。針が抜けてしまうから」
点滴のハリを刺して、テープで固定した千春が言った。
看護師がすることでも、千春がいる時は彼が全てしてくれる。幼馴染の特権だ。
「点滴が終わったら、後で屋上に行こう。今日は天気がいいから気持ちいい」
「嬉しい。でも大丈夫なの?お医者様って忙しいんでしょ?」
「花乃と屋上に行く時間くらいあるさ。医者も気分転換しないとな」
「ふふ、本当ね。じゃあ、楽しみにしてるね」
そう会話して、千春は病室から出て行った。
花乃は身体をベッドに横たえたままま、開いた窓を見遣る。
瞼の裏で、うっすら明るさを感じて。
(...千春の言うとおり、きっとよく晴れているのね。あれ...?鳥の鳴き声?)
花乃の頭の中で、鳥の姿が浮かび上がる。
真っ青に晴れ渡る空は、どんな色なのか。
今鳴いた鳥は、どんな姿で...一羽だけ?....それとも、群れで飛んでいたのか。
日本が秋からに冬になると、渡り鳥が暖かい南へ渡っていくと聞いたことがある。
(きっと、小さな鳥だよ。それから何羽も一緒に飛んでいるの。...その中の一羽が群れを離れて。気持ちよさそうに旋回してからまた仲間のもとに戻って....仲良く南へ渡っていく....)
花乃は、晴れた空を飛ぶ鳥たちの姿を想像して微笑んだ。
*******
「風が冷たいから、これを羽織って。風邪をひくから」
「もう、千春は過保護ね。少しくらい平気だよ?」
「だめだ。この間そう言って、見事に風邪をひいていたじゃないか。用心は大事だ」
「むぅ。わかった。上着をちょうだい?」
2時間の点滴が終わり、千春が花乃の病室に戻ってきた。約束の屋上に行く準備をする。
「あぁ。...うん、これでいいな。さ、花乃。手を」
「うん。ありがとう。...あ」
「大丈夫かい?...足が震えてるね。今日はやめとく?」
「いいえ、大丈夫よ。少しは歩かないと、もっと悪くなるわ。身体の筋力も使ってあげないと衰えるもの」
「...そうだな。じゃぁ、ゆっくり進むから。辛かったら言って?」
「わかった」
花乃は、千春の腕に手を添えた。
きゅっと指先に力を入れてつかまる。
震える足をゆっくり交互に出して、千春について行った。
******
「うわぁ、風、気持ちいい。少し冷たいけれど、それも今はちょうどよく感じる」
「良かった。そこに座ろう。ブランケットも持ってきたから膝にかけて」
屋上にやってきた二人は、ステンレスでできたベンチに腰掛けた。
「ありがとう。...よく晴れているのね。すごく明るいもの」
「あぁ。雲ひとつなくて、真っ青だよ。花乃が今見てる方向。ずっと向こうに飛行機雲が出てる」
千春が、空の向こうを見遣って花乃に説明した。
「そう。綺麗でしょうね。...私ね、見ることはできないけど、頭の中でたくさん想像するの。さっきも、青い空の色や渡り鳥の姿を想像して...とっても可愛い鳥さんだった」
「そうか...。花乃は想像力豊かだもんな。きっと可愛い鳥だったに違いない」
「えぇ、もちろんよ。それにね、想像するのってとても楽しいの。点滴の時間なんてあっという間に過ぎるわ」
ふふ、と笑った花乃。
彼女は目が見えない。うっすらと瞼の裏で明るさを感じる程度の視力しか残っていない。
身体も病気の影響で、力が入りにくく麻痺している箇所もある。
*******
花乃がこうなったのは、赤ちゃんの頃。
健康体で生まれ、特に問題なく大きくなっていた花乃は、もうすぐ一歳を迎えるという時、高熱を出した。
心配した両親はすぐに、病院に連れて行った。
診断名は、夢熱病(むねつびょう)。
比較的小さな子供に多く、完治するまで定期的に薬の投与が必要になる病気だった。薬の投与さえ怠らなければ、重症化することなく数ヶ月で治癒する。
花乃はそのまま入院し、病気を治すために小児病棟で決まった時間に点滴を受ける生活が始まった。
数ヶ月。数ヶ月頑張れば、家に帰れる。またお外に遊びに行ける。だから頑張ろう。
両親はそう思って、花乃を看病していた。
花乃の父は忙しく、仕事の帰宅も遅い。そのため、父は主に仕事の休みの日に花乃の病院に泊まり込み、他の日はずっと母が花乃につきっきりで病室に泊まり込んだ。
「少し良くなってきたのかしら。花乃、起き上がっていられる時間が伸びたのよ?元気な日はもっと遊びたいって泣くほどに」
「あぁ、本当だよね。いつもありがとう。君がつきっきりで花乃をみていてくれるから僕は安心して仕事にも行ける」
「あなたこそ。お仕事忙しいのに、休みの日は交代してくれてありがとう」
そうやって、両親は言葉や気遣いでお互いを支え合っていた。
そんな時、快方に向かっていた花乃の容態が突然変化した。
「奥さん!下がって下さい!先生の処置の妨げになります」
「で、でも...どうして。突然、こんな...花乃?花乃?...お願い、目を開けて、花乃ー!」
取り乱し、子供のそばを離れようとしない母親を、数名がかりで引き剥がし、花乃の処置にあたる。
医師は難しい顔をする。
「何故だ。突然、こんなに熱が上がるわけがない。治療はうまくいっていた。違う菌に感染したか?...とにかく、できることをしよう。まず、高過ぎる熱を下げなければ。薬だ!薬をもってこい!」
考えられる処置を全て施す。
担当医は、すぐに病院全体に呼びかけ、科に関わらず医師が集まった。
花乃の症状、処置、全てを全体の医師で議論したが、原因は不明。新しい病気かもしれないという結論に至る。
花乃は何とか一命をとりとめ、目を覚ました。
「花乃?...花乃!あなた、花乃が目を覚ましたわ」
「すぐに先生を呼んでくる!」
花乃が無事目を覚ましたことを喜んだ両親。
だがすぐに、絶望する。
「高熱の後遺症でしょう。...花乃ちゃんは目がほとんど見えていません。神経は傷ついていないはずですが、何故か身体も...一部麻痺しているようです」
「...そ、そんな」
「嘘ですよね?...しばらくしたら花乃はまた目が見えるようになるんですよね?」
医師に呼び出された両親は、顔を青ざめさせながら、震える手で医師に縋り付いた。
「...何とも申し上げられません。誠に不甲斐ないのですが...原因がわからないので、完治するか見通しが立たないのです。...病院全体の医師の結論です。花乃ちゃんは...新種の病でしょう。今後は、詳しく検査をしつつ、花乃ちゃんの病気についてデータを集めます。何か病気を治す手がかりになるかもしれません。...体調に変化があった場合、状態に合わせて対症療法をしていくしかありません」
「...それじゃあ、花乃は...家に戻れないのですか?」
「...今のところ、いつ容体が変化するか全く読めません。そんな状態ですぐ処置できない家に帰すことは...難しいでしょう。夢熱病の治療を続け、そちらが完治したとしても、退院はできないと思っていて下さい」
そして、医師は静かに退室した。
母は、言葉なく、ただ嗚咽を漏らして泣いていた。
父は、母の肩を抱き寄せ力を込めた。
「...大丈夫だ。花乃はきっと良くなる。あの子は強い子だから」
「......」
父の励ましか、自分にあてた喝なのか。
きっとどちらの意味もあるその言葉に、母は涙を流しながら頷いた。
*******
そして、花乃は24歳になった今も入院している。
ずっと原因不明とされていた病名は、5年前、判明。
命に関わる高熱が出るイアロフスキー病だ。
麻痺は発症当時に罹患していた夢熱病が、イアロフスキー病と複雑に絡み合った結果引き起こされたのではと診断された。
難病指定されており、完治は難しいらしい。
花乃の目は、見えるようになることはなかった。
身体の麻痺も、急には悪くならないが、良くもならない。むしろ少しずつ少しずつ広がっていっている。
花乃は、人生のほとんどをこの病院内で過ごし、生きてきた。学校に通うことなどできず、院内の子供の入院患者向けの学級へ通った。
ワークブックや本を利用して、色んな大人に教えてもらいながら花乃は勉強に励んだ。
義務教育を終え、高校に入学する時期が来ても花乃は入院生活。独学で勉強し続けて、18歳の頃、高卒試験を受けて合格している。
「...あ、おば様はお元気?体調はその後、どうかしら?」
「....あぁ、元気だよ。まだ兄さんのことをうわ言で言っているけどな。ご飯も少しずつ食べるようになってきたよ」
「そう...お辛いわよね」
「......」
千春には、兄が居た。だが、5年前、突然不慮の事故にあい、命を落とした。
千春の母は、大切な息子がこの世を去った悲しみから精神的に参ってしまい、今は療養している。
花乃が入院している病院は、千春の祖父が医院長をつとめている。この辺では一番大きな病院で、色々な設備が揃っていた。兄が亡くなった今、弟の千春が将来の跡取りだ。
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