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第三章 芽吹き
訪問者の提案
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パタン。
「よし。用意完了っ。...行くか」
着替えや身支度を終えて、如月の意識が過去から現在へと引き戻される。家を出て、再び自分の病院のドアを開けた。
「...念の為、電話かけとくか」
思い至って、電話をかける。
無事用件を済ませてから、ちょうど通りかかった看護師に声をかけた。
「...あ、くるみちゃん。今からちょっと出てくるから、留守頼める?午後は診察ないから待っててもらうの申し訳ないけど...俺が戻るまで居てもらってもいいかな?...さっき言った通りになると思うんだ」
「了解で~す。行ってらっしゃいませ~」
「うん、行ってくるね」
パタン。
如月は心置きなく病院を出て....車を走らせた。
千春の手紙の気になる一文を思い出して、ご機嫌に鼻歌なんて歌いながら。
****
「かーのーちゃん!」
「瑠璃ちゃん?」
「うん!今日も来たよ。...調子どう?」
「うん。大丈夫。ごはんもちゃんと食べてるし、夜も眠れてるよ。遠いのにいつもありがとう」
「良かった!ううん、私が花乃ちゃんに会いたいだけだし」
手紙と薔薇を受け取ったクリスマスから、ちょうど一年が経った。
その間、千春から連絡はない。探すと決意したけれど、どう探せばいいのか、花乃はまだ動けずにいた。
千春の祖父や父に会って話を聞けないかと、何度も看護師や担当医にかけあってみたが、何故か頑として受け入れてもらえず。院内で会うことも、一度たりとなかった。
ならば、まずは体からと、千春のことがあってあまり喉を通っていなかったご飯をしっかり食べるようにしたし、夜は無理やりにでも早く眠った。
孤独感が押し寄せてどうしようもない時は、千春が誕生日にくれたクマの大きなぬいぐるみをギュッと抱きしめていると少し気が紛れた。何だか千春のにおいまでしてくるような気がして、落ち着いた。
それから...千春に紹介された如月にアポをとって、何度か病院まで来てもらったこともある。初めは何か知っているのではと、淡い期待を抱いていたが如月のもとにも連絡は来ていないらしい。
「今日すっごく寒かった。私寒がりだから、上着2枚重ねにしていこうか迷っちゃったよ」
「え~、もこもこになっちゃうね。でもあったかそう。ふふふ」
「でしょ?でもね。結局やめたの。家出る前に鏡見たらね、上半身だけこう...もりっとしてて」
そんな会話をしていた時。
ノックの音がして、ガラリと病室のドアが開いた。
「あら、瑠璃ちゃん。今日も来てくれたの?ありがとうね」
「おばさま。おじさま。お邪魔してます」
「...ええ、瑠璃ちゃんか?大きくなったなぁ」
母と...仕事に行ったはずの父が病室に入ってきた。
父はタイミングが合わず、瑠璃と顔を合わせるのは子供の時以来だった。
久しぶりに見る瑠璃の姿に、驚いた声をあげている。
「ふふ、ありがとうございます。おじさまは、相変わらずダンディで。おばさまとおじさまは、とっても素敵なご夫婦ですね」
「あら、やだわ。お世辞が上手になっちゃって」
「はは、本当だなぁ」
そう言いながら、まんざらでもない様子が弾んだ声にのって伝わってくる。
「本当のことです。花乃ちゃんのご両親、いつも仲良しだったなぁって、私、子供の頃の記憶にずっと残ってますよ?」
「ふふふ、そう?ありがとうね」
「そう言われると嬉しいなぁ」
「...もう、二人とも。ちょっと」
両親のデレデレした声を聞いて、花乃は少し恥ずかしくなってきた。二人を止めようとした時、ふと思った。
「...そういえば、お父さんは今日どうしたの?仕事、お休み?」
「あー...ちょっとな。急遽、休ませてもらったんだ」
歯切れ悪く答える父を疑問に思っていると、再びドアがノックされる。...今日は訪問者が多い。
「...こんにちは」
「...あ。如月、さん?」
それは、聞いたことのある声。
千春と誕生日に出かけた日に紹介され...千春が姿を消してから何度かここまで来てもらったことがある人物。
「うん。あたりだよ。すごいね、本当に耳がいいな。...花乃ちゃん、元気にしてたかい?」
少しずつ近づいてくる足音は、ベッドのすぐそばで止まった。
「はい。元気ですよ」
「そう。...うん、顔色もいいね。これなら、今日で大丈夫そうだ」
「...はい...?」
何が大丈夫なのかわからず、首を傾げながら答える。
「...花乃ちゃんのご両親ですか?初めまして、如月慎也と申します。離れたところで医師をしておりまして...先ほどお話しさせてもらった通りです」
「はい、今日はお世話になります。花乃の父の啓治と...こちらが母の照乃です。遠いところをわざわざお越し頂いて」
そんな会話が聞こえて、花乃はさらに首を傾げた。
“先ほど“とは...“今日はお世話になる“とは...一体なんだろう。
両親は、如月が来ることを知っていたのだろうか。
花乃は、黙って会話に耳を澄ませた。
「いえ、僕こそ突然ご連絡してしまって。ご了承頂けて、本当に良かったです。...久しぶり、瑠璃ちゃん。やっぱり来てたんだね」
相変わらず話が見えてこなかったが、如月は間を置いて、今度は瑠璃に話しかけた。耳のいい花乃でなくても...誰にでもわかるほど、ガラリと変わった声のトーンで。
「...お久しぶりです、如月さん。...“やっぱり“って、なんですか?」
瑠璃は、普段通り。いつもと変わらない調子で答える。
「あ...ううん!何でもないんだ」
「......?」
千春からの手紙の最後。
ーーもしかしたら、瑠璃ちゃんも来てるかもしれないぞ。
頭をその一文が占めていて、思わず漏らした言葉。それにツッコまれ...如月は慌ててコホンと仕切り直した。
「...さて。花乃ちゃん...突然だけど。良ければ僕の病院に来ないかい?」
「...如月さんの病院?」
「うん。...転院して、治療しないかなって思って」
「.......」
「僕の病院は、ここほど設備が揃っているわけではないけど、街に近い自然豊かな場所にあるし...瑠璃ちゃんの住む場所とも近い。それに...試したい薬があるんだ」
「...試したい...薬?」
「ああ。...もちろん、試してみないと効果はわからないけれど。...ご両親には許可は頂いている。花乃ちゃん本人の了承があれば、すぐにでも転院できる用意は整えてあるよ」
さっきまでの会話の意味を、その瞬間、理解した。
(試したい薬...。試してみないとわからない)
花乃がそう聞いて思い出したのは、千春の言葉だった。
ーー如月は、まぁ...ちょっと軽いところがあるけど信用できるから。多分...頼りになる。
千春が、人を信用するのは珍しい。
短い期間だが、花乃自身も、いつも真摯に対応してくれる如月の優しい人柄を感じていた。
そもそも治療法がないのだから、試せるものがあるのなら試してみたい。
「...はい。お願いします」
決意を込めた声で...花乃はハッキリと告げた。
「よし。用意完了っ。...行くか」
着替えや身支度を終えて、如月の意識が過去から現在へと引き戻される。家を出て、再び自分の病院のドアを開けた。
「...念の為、電話かけとくか」
思い至って、電話をかける。
無事用件を済ませてから、ちょうど通りかかった看護師に声をかけた。
「...あ、くるみちゃん。今からちょっと出てくるから、留守頼める?午後は診察ないから待っててもらうの申し訳ないけど...俺が戻るまで居てもらってもいいかな?...さっき言った通りになると思うんだ」
「了解で~す。行ってらっしゃいませ~」
「うん、行ってくるね」
パタン。
如月は心置きなく病院を出て....車を走らせた。
千春の手紙の気になる一文を思い出して、ご機嫌に鼻歌なんて歌いながら。
****
「かーのーちゃん!」
「瑠璃ちゃん?」
「うん!今日も来たよ。...調子どう?」
「うん。大丈夫。ごはんもちゃんと食べてるし、夜も眠れてるよ。遠いのにいつもありがとう」
「良かった!ううん、私が花乃ちゃんに会いたいだけだし」
手紙と薔薇を受け取ったクリスマスから、ちょうど一年が経った。
その間、千春から連絡はない。探すと決意したけれど、どう探せばいいのか、花乃はまだ動けずにいた。
千春の祖父や父に会って話を聞けないかと、何度も看護師や担当医にかけあってみたが、何故か頑として受け入れてもらえず。院内で会うことも、一度たりとなかった。
ならば、まずは体からと、千春のことがあってあまり喉を通っていなかったご飯をしっかり食べるようにしたし、夜は無理やりにでも早く眠った。
孤独感が押し寄せてどうしようもない時は、千春が誕生日にくれたクマの大きなぬいぐるみをギュッと抱きしめていると少し気が紛れた。何だか千春のにおいまでしてくるような気がして、落ち着いた。
それから...千春に紹介された如月にアポをとって、何度か病院まで来てもらったこともある。初めは何か知っているのではと、淡い期待を抱いていたが如月のもとにも連絡は来ていないらしい。
「今日すっごく寒かった。私寒がりだから、上着2枚重ねにしていこうか迷っちゃったよ」
「え~、もこもこになっちゃうね。でもあったかそう。ふふふ」
「でしょ?でもね。結局やめたの。家出る前に鏡見たらね、上半身だけこう...もりっとしてて」
そんな会話をしていた時。
ノックの音がして、ガラリと病室のドアが開いた。
「あら、瑠璃ちゃん。今日も来てくれたの?ありがとうね」
「おばさま。おじさま。お邪魔してます」
「...ええ、瑠璃ちゃんか?大きくなったなぁ」
母と...仕事に行ったはずの父が病室に入ってきた。
父はタイミングが合わず、瑠璃と顔を合わせるのは子供の時以来だった。
久しぶりに見る瑠璃の姿に、驚いた声をあげている。
「ふふ、ありがとうございます。おじさまは、相変わらずダンディで。おばさまとおじさまは、とっても素敵なご夫婦ですね」
「あら、やだわ。お世辞が上手になっちゃって」
「はは、本当だなぁ」
そう言いながら、まんざらでもない様子が弾んだ声にのって伝わってくる。
「本当のことです。花乃ちゃんのご両親、いつも仲良しだったなぁって、私、子供の頃の記憶にずっと残ってますよ?」
「ふふふ、そう?ありがとうね」
「そう言われると嬉しいなぁ」
「...もう、二人とも。ちょっと」
両親のデレデレした声を聞いて、花乃は少し恥ずかしくなってきた。二人を止めようとした時、ふと思った。
「...そういえば、お父さんは今日どうしたの?仕事、お休み?」
「あー...ちょっとな。急遽、休ませてもらったんだ」
歯切れ悪く答える父を疑問に思っていると、再びドアがノックされる。...今日は訪問者が多い。
「...こんにちは」
「...あ。如月、さん?」
それは、聞いたことのある声。
千春と誕生日に出かけた日に紹介され...千春が姿を消してから何度かここまで来てもらったことがある人物。
「うん。あたりだよ。すごいね、本当に耳がいいな。...花乃ちゃん、元気にしてたかい?」
少しずつ近づいてくる足音は、ベッドのすぐそばで止まった。
「はい。元気ですよ」
「そう。...うん、顔色もいいね。これなら、今日で大丈夫そうだ」
「...はい...?」
何が大丈夫なのかわからず、首を傾げながら答える。
「...花乃ちゃんのご両親ですか?初めまして、如月慎也と申します。離れたところで医師をしておりまして...先ほどお話しさせてもらった通りです」
「はい、今日はお世話になります。花乃の父の啓治と...こちらが母の照乃です。遠いところをわざわざお越し頂いて」
そんな会話が聞こえて、花乃はさらに首を傾げた。
“先ほど“とは...“今日はお世話になる“とは...一体なんだろう。
両親は、如月が来ることを知っていたのだろうか。
花乃は、黙って会話に耳を澄ませた。
「いえ、僕こそ突然ご連絡してしまって。ご了承頂けて、本当に良かったです。...久しぶり、瑠璃ちゃん。やっぱり来てたんだね」
相変わらず話が見えてこなかったが、如月は間を置いて、今度は瑠璃に話しかけた。耳のいい花乃でなくても...誰にでもわかるほど、ガラリと変わった声のトーンで。
「...お久しぶりです、如月さん。...“やっぱり“って、なんですか?」
瑠璃は、普段通り。いつもと変わらない調子で答える。
「あ...ううん!何でもないんだ」
「......?」
千春からの手紙の最後。
ーーもしかしたら、瑠璃ちゃんも来てるかもしれないぞ。
頭をその一文が占めていて、思わず漏らした言葉。それにツッコまれ...如月は慌ててコホンと仕切り直した。
「...さて。花乃ちゃん...突然だけど。良ければ僕の病院に来ないかい?」
「...如月さんの病院?」
「うん。...転院して、治療しないかなって思って」
「.......」
「僕の病院は、ここほど設備が揃っているわけではないけど、街に近い自然豊かな場所にあるし...瑠璃ちゃんの住む場所とも近い。それに...試したい薬があるんだ」
「...試したい...薬?」
「ああ。...もちろん、試してみないと効果はわからないけれど。...ご両親には許可は頂いている。花乃ちゃん本人の了承があれば、すぐにでも転院できる用意は整えてあるよ」
さっきまでの会話の意味を、その瞬間、理解した。
(試したい薬...。試してみないとわからない)
花乃がそう聞いて思い出したのは、千春の言葉だった。
ーー如月は、まぁ...ちょっと軽いところがあるけど信用できるから。多分...頼りになる。
千春が、人を信用するのは珍しい。
短い期間だが、花乃自身も、いつも真摯に対応してくれる如月の優しい人柄を感じていた。
そもそも治療法がないのだから、試せるものがあるのなら試してみたい。
「...はい。お願いします」
決意を込めた声で...花乃はハッキリと告げた。
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